『夜の海』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
「夜の海」
私は夜の海に憧れがある
誰かとでも、1人でもいい、黄昏れるために行ってみたい。そうだなあ、誰かと行くなら語り合う系の話や相談系の話をしてみたい。少し涙をぽろっと流してしまうようなことを話してみたい。1人で行くならば精神的に病んでしまったときや風にあたりたいときなどに行ってみたい。
ただ現実的な話をすると、最近は地震が怖い。夜に地震が起こって飲み込まれてしまったらどうしようという想像ばかりしてしまう。
それでも私は夜景を見ながら、風にあたりながら…気持ちを切り替えるために夜の海に行ってみたい。
海って2つの顔を持ってるよね。
人が沢山集まって賑やかな明るい朝の海。
人があまり集まらない静かな夜の海。
どちらも魅力はあると思うけれど、夜の海は怖いと思うことが多い。
少し入ればそこからはライトで照らした一筋の光以外なにも見えない真っ暗な世界。
でも地上から見た夜の海は静かで、何も考えなくてよくなるから好きでもある。
心が凪いでいる。
身から出た錆で何もかもを失ったが、身一つとなり気が楽にもなった。これ以上失うものがあるとすれば、目には見えない、何物にも代え難いものであろう。
家も家財も家族も友も仕事も何もかも手放して、海辺を歩く私を、空を飛ぶ鳥達はどう思うだろう。この人間も、この道を往く同志と同じように儚くなるに違いないと予想しているのであろうか。
そのような勇気もない私だ。
海辺から砂浜へと入り、夜の海へ足を浸したものの、夏の盛りの生温い海風と大して冷たくもない水温にその気を削がれてしまった。立ち止まっているうちに誰かが駆けつけて声をかけてくれるということもなく、あくまでも波打つ海水と海風とに打たれ続けて、結局は砂浜へと戻り腰を下ろしているのである。
私の命がこの世から儚くなったとして、日々は何も変わらず、朝日が昇り、人々の営みは繰り返され、日が落ちる。
居ても居なくても変わらないのであれば、意気地なしが世界の片隅でひっそりと生きながらえたくらいで何も変わらないだろう。
濡れた足が乾き、纏わりついた砂が剥がれていく。
私の中で滞った澱のような暗いものは、砂のように剥がれはしないが、凪いだ心にやわらかく抱いて、もう暫くはこの生にしがみついてみようかと思う。
*夜の海**
夜の海
とある三兄弟のお話。
三男より。
砂に塗れたサンダルを脱いで、打ち寄せる波に足を踏み入れる。ひやりと冷たい水の感覚が足の裏から腰のあたりまで走って、鳥肌が少し立つ。足元に目線を下げて、寄せて帰る波が自分の足で白い泡を立てる様をひたすらに眺めていた。
夜風が潮を含んで、己の背後に聳えるコンクリートや金属でできた手すりやら窓枠やらに吹き付ける。そうして、長年あり続けた人工物達はところどころ錆び、頼りなさを醸し出す。それがなんだか似つかわしい。
今は真夜中。コンクリートで舗装されただけの、ひび割れ段差ができ、舗装の意味を成さない道をわざわざ通って、こんな辺鄙な海辺にまで来る人間は珍しく、己以外に見たものといえば、騒々しくそこそこの人数を連れたバイクの集団と、少々粋な外観をしていた自動車一台であった。
何故己はこんなところに来たのか。
......誰も居ない浜辺に、服が濡れるのも構わず座り込む。はじめに、水に足をつけた場所よりも随分と離れた場所に、どっかりと座り込む。頭上に目線を上げれば、流れる微かな雲と、半月。それに星々。己が愛してやまない空が、真夜中という言葉で彩られ、また違ったら美しい様相を醸し出している。
これだ。これだけが己がここに来た意味である。
海。真夜中。そして空。これだけがここに来た理由なのだ。どうせ寝る事の出来ない夜、月が沈むまでこの時間を、有意義に過ごす為にここまで来た。空は良い。
ズボンも下着もびっしょりになり、もう手遅れだと思いながらも、頭から足先まで充足感が満ち溢れる。立ち上がり、視線を海面へと移す。月が浮かんでいる。波に揺らいだ月が、水面に映し出されている。
今日は良い夜だ。潮風に塗れてベタベタする髪も、しっかり濡らした服も、それすらも良い夜の一部になったのだ。
夜の海
すぶすぶと
ざわざわと
いつもより昏い顔を見せる波音に魅せられて吸い寄せられていく
月が映し出されたその水面はムーンロードというのだとか
それを歩けば月を辿れるのだろうか
では今宵新月の暗闇に道が断たれてしまうのだろうか
すぶすぶと
ざわざわと
耳も目も段々と海の音で満たされて吸い寄せられていく
潮の香りに包まれたか抓まれたか
誘われるがままに打ち寄せ打ち上げ
全てを流す打ち消す波になろう
夜の海
辛かった時よく1人で夜の海を散歩してたな
波の音が心地よくて引き込まれていく
悩みも寂しさも夜の海に包まれて消えていく
海はいつでも私の心を癒して
味方してくれてる気がする
夜の海はやけに静かで
鼓動を感じていないと
底に消えてしまいそうで
夜の海
静かな波の音だけが聞こえる
月の明るい夜は
波に月光が映って
きらきらと瞬く
さあ
悲しみを呑み込んでくれ
明日の朝には
大海原へ
漕ぎ出せるように
夜の海へ行きたい。誰もいない、静かな場所で、波の音を聞聴きながら、星空を眺めたい。お願い。今だけ、1人きりにさせて。
「響子、出ておいで。
迎えに来たよ」
家の外から声がするので出てきてみれば、恋人の幸太郎が家の門の前に立っていた。
彼は普段のラフな格好ではなく、黒を基調とした服装だった。
恐らくスーツのつもりなのだろうが、さすが無理がある。
けれど本人はいたって真剣な表情なので、敢えて指摘しないことにする。
「どうしたの?
そんなに気合を入れて」
「今日は響子の誕生日だからね。
エスコートしようと思って」
私は、幸太郎の言葉に絶句する。
まさか自分の誕生日すら忘れる幸太郎が、私の誕生日を覚えているなんて……
顔がニヤけてしまう。
「そうだ。
響子のために、真っ赤なポルシェを用意したんだ」
「ポルシェ?」
「うん、見てくれ」
幸太郎は、体を横に避ける。
すると彼の後ろから現れたのは『真っ赤ポルシェ』――
ではなく真っ赤なマウンテンバイクだった。
大言壮語にも程がある。
そして、幸太郎はスーツもどきの格好で、この自転車に乗って我が家までやって来たのだ。
真剣な顔で……
面白すぎる。
「ふふっ。
自転車じゃん!」
「残念ながら、中学生の身分ではこれが限界なんだ」
「ふくっ」
笑いすぎてむせてしまう。
前から面白いやつだと思ってたけど、ここまでとは!
「響子、笑いすぎ」
「ごめんなさい……
でも残念。
ポルシェ、乗ってみたかったのに」
「そこは僕の将来に期待しててくれ!」
幸太郎は自信満々で胸を叩く。
はぐらかすと思ったら、当然だと言わんばかりに肯定する幸太郎。
これは本当に期待してもいいかもしれない。
「それでどうする?
一緒に『ポルシェ』に乗るかい?」
「幸太郎、自転車の二人乗りはダメよ。
チョット待ってね」
私は、家に戻って母に出かける事を伝え、よそ行きで動きやすい服に着替える。
そして自転車用のヘルメットを被ってから、自分の自転車に乗る。
これでデートの準備はOKだ!
……これ、どう考えても誕生日デートの服装じゃないよなあ……
気にしないことにしよう。
「幸太郎、準備できたわ。
それでどこに連れて行ってくれるのかしら?」
「海の見えるレストランさ」
「あら素敵。
でも、いつもデートで行くレストランも、海が見えるわよね」
「そこは知らないふりでお願いします」
「仕方ないわねえ」
気合が入っている割には、穴だらけのガバガバなデートプランだ。
らしいと言えばらしい。
これじゃポルシェも怪しいものだ。
「じゃ、行きましょうか」
「うん、僕がエスコートするね」
「よろしくお願いします」
幸太郎が前に出て、私がその後ろを付いていく。
自転車に乗って走り出し、目指すは海の見えるレストラン。
きっと幸太郎のことだから、まだサプライズを用意しているのだろう。
幸太郎は、これからどんなおもてなしを見せてくれるのだろうか。
ポルシェは怪しいけれど、私を楽しませてくれることだけは間違いない。
私は期待に胸を膨らませながら、自転車を走らせるのだった。
・4『夜の海』
時々は海を眺めに来る。自宅から20分ほど歩けば海岸だからだ。特に理由はない。たいていは夜だ。
自販機で飲み物を買おうとすると先客がいた。
自販機の明かりに照らされていたのはあのピアノ弾きの彼だ。
向こうから先に気がつき「あ!?どうもコンバンワ!」
と声をかけられた。咄嗟に「お、おゎ〜」気の抜けた返事をしてしまい「こんばんはー」と言い直した。
「おにーさん、よく来るんですかココ」
「そっすねー」
「夜の海もいいっすよねー」
俺はこのピアノマンの事を知らない。今なら少し聞いてもいいんだろうか?
【続く】
南
国
の
ビ
|
チ
の
調
べ
夏
の
夜
高校の新しい友達と時間を忘れて遊んだ。友達と別れた時にはもう9時過ぎだった。親には7時には帰ると言っていた。ここから家に帰るには自転車を全力で漕いでも30分はかかる。背筋が寒くなったのを振り切るように首を横に振った。そして脚に力を入れる。
真っ暗闇の中に街灯だけがぼんやりと光る。べったりと背中に張り付くシャツが気持ち悪い。家に帰ったらすぐ風呂に入ろう、いや、きっと親に怒られるのが先だ。
ふと、波の音が聞こえた。海?まさか。自転車を静かに降りる。鼓動が急に早くなる。家は海とは逆方向だ。案の定、目の前が開けた。
海だ。
真っ黒だった。
空と海の境目がわからないほど真っ黒な海。
静かな波の音と水面に揺れる月の光で、直感的にそれが海であることがわかった。
ただただ怖かった。巨大な自然の漆黒の中に、自分自身も溶け込んでしまいそうだった。帰らないと。自転車に跨る。早く、早く。涙を手の甲で拭って、一心不乱に自転車を漕ぎ続けた。
家に帰ることができたのは10時前だった。親にも叱られたけど、家のあかりは本当に本当に、温かかった。
夜の海
暗くてさざ波の音しか聞こえない
昼の海とは正反対だね
夏の海は賑やかで花火も綺麗
冬の海は遠くまで見える澄んだ景色
落ち付く海
夜になれば星も綺麗に見えるのかな
夜の海には月が溶けている。
きみが憧れていた太陽は、おれには眩しすぎた。
だからおれはこうして夜の海を眺めている。
ああ、きみはついに太陽を手に入れたらしい。
太陽が溶けた眩い海を。
きみは永遠になった。
きみの手のひらにおれが開けた穴。
おれの手のひらにきみが開けた穴。
そこからまだ、太陽が見える。
暗い夜の海で、おれは月に手をかざす。
きみの笑顔と柔らかな囁き。
昼に溶けた太陽は、夜も海を漂うだろうか。
引き寄せられて
そのまま海に帰ってしまいたい
そう思う。
【夜の海】
✂ーーーーーーーーーーーーーーーーー✂
伯父と祖父が喧嘩をした。
相当な喧嘩だった。
ほんの小さな事の積み重ね
忍耐袋が切れたのだ。
従姉妹たちを避難させた。
きっとここにいてはだめだ。
この子達のトラウマにも繋がる
仲介に入った母に被害が及んで
同じく父が投げ飛ばされた
私の中でなにかが溢れた
「やめてよ!!なんで、?、違うじゃんか!」
昔のトラウマでパニックになった。
従姉妹が抱き締めてくれた
「大丈夫だよ、大丈夫だから、」
年下なのに、この子は私よりもずっと
凄かった、
自分の無力さに腹が立った
筋肉もない細い体、弱虫
【どうしたらよかったのかな】
この日を忘れない
『夜の海』
白鍵と黒鍵、合計八十八の鍵盤に順番に指を載せ、音を出していく。頭の中に花畑の景色を浮かべながら、軽いタッチでメロディを奏でる。
普段は楽器演奏や合唱、ソーシャルスキルトレーニングなどのプログラムが行われているこの防音室で、私は一人、ピアノに向かっていた。
私が通っている精神科病院のデイケアは、ひどく平和な場所だ。だからこそ、時々この平和を壊したくなることがあった。でも、他人の迷惑になる行為は当然、固く禁じられている。結局、私が自由に感情を発散できるのは、防音室が空いている時に限られていた。
ピアノの練習をしたい、と申し出た時、スタッフの神崎さんは喜んで許可してくれた。普段から要求らしい要求をしてこなかった私に対して、神崎さんもどのように接するのがベストなのかわからずにいたのだろう。やっと自分の意志を表明してくれた、とばかりに、喜んでピアノを使わせてくれるようになったのだった。
元々、私の家は音楽一家だ。両親も四つ上の姉も、そして私自身も、幼い頃から何らかの楽器を習わされてきた。だから名曲と言われるようなクラシックの難曲であっても、私はそれなりに弾ける。
でも、ここではクラシックは弾かない。代わりに、両親や祖父母が聴いたら確実に眉をひそめるような、最近のポップスを弾く。
ウォーミングアップを終え、私は深呼吸をした。そして、夜の凪いだ海をイメージしながら、ゆっくりと鍵盤に触れた。
今頃、隣の部屋ではアートのプログラムが行われているはずだった。神崎さんも、アートの担当だ。隣の部屋に聞こえるように、私は少し強めのタッチで曲を弾き始める。短調のメロディが部屋に響き渡り、曲の悲しげな雰囲気に呑まれそうになった。以前ならば、曲の雰囲気に呑まれることなどなかったのに、不思議だ。心を病むということは、悲しみに呑まれやすくなるということなのだろうか。
脳裏に浮かんでいる夜の海が幾分荒れてきた。その拍子に、考えたくもない過去のことがよぎる。
病気になる以前、私は両親と祖父母の人形を演じ続けてきた。ポップスのよい部分を理解していたにもかかわらず、家庭の方針でポップスを遠ざけ、クラシックばかりを聴いてきた。
そして抑圧された思いは、恐ろしいほど歪んだ形で表れた。私は男に狂い、女子大の同級生たちが付き合っていた男たちを次々と奪っていくようになった。飽きれば相手をぼろ屑のように捨て、次の男に狙いを定めた。意に反して捨てられそうになった時には、狂ったように自分の手首を傷つけた。結局、私は自傷をやめられずに入院した。それをきっかけに、付き合っていた男たちも、ほんの僅かな友人も、信頼していた人たちでさえも、皆が私から離れていった。
今でも時々、デイケア内で男漁りをしそうになる自分がいる。そういう時、私は夜の凪いだ海を思い浮かべるようにしている。夜の海は私の中にあるどす黒い感情を鎮めてくれるのだ。
心が少し落ち着いた所で、曲を変える。今はただ、家族という硬い檻を破壊しなければならない。
三年ほど前から流行っているダンスボーカルグループの曲を選び、夜の海をイメージしたままで弾き始める。暗い過去の呪縛から脱却したい時によく弾いている曲だ。夜の凪いだ海に、すっと甘酸っぱい風が吹くような、そんな心地よさがあって気に入っていた。
いつか本当の意味で人を愛せるようになりたい。そして、ここから抜け出したい。まだ今は、誰かを守りたいなんて思ったことはないけれど。
人としてどこか足りない私が奏でる音で、いつか誰かを癒せるだろうか。いや、今はそこまで考えなくていい。夜の暗い海を彷徨っている私でも、いつか視界の開ける時がくるだろう。強い願いを込めて、私はピアノを弾き続ける。
テーマ : 夜の海
憧れてはいるよ?
好きな人と手繋いで散歩してみたいなとは思うよ?
でも、なんだろ…純粋に怖いよねww
いや、僕が怖いもの好きでさ
見てるその影響だと言われたらそれまでなんだけど
……純粋に怖いんですわぁ…(´◦ω◦`)
そんなところより僕は花火大会行きたいね!
夜の花火!
夜の…?あれ、昼に花火する人がいるみたいな言い方になった(・・)
ん、まぁいるかもしれないよね、うん
えー、結論、僕は
夜の海より夜の花火が好き
以上です!!
題名 夜の海
僕は夜の海が好きだ
だって暗くて僕の事を
隠してくれる
深くて暗いそんな
夜の海が僕は
好きだ
夜の海、大切な人に会いに行く話
幼い頃から海が嫌いだった。光を反射して目を焼く青、冷たいような色をしてぬるい青、全てを包み込もうとするくせに何もかもを飲み込んでしまう青。その青が酷く美しくておぞましかった。
「来年の夏は海に行かないか?見せたいものがあるんだ。」
あなたをさらおうとするその青が、この世で1番嫌いだった。
夜の海は昼とは正反対だ。あれほど騒がしくて熱気に満ちていたのに、今はしんと静まり返って少し肌寒い。輝くような青も墨を垂らしたように濁って醜い。みんなを散々惑わせた癖に本性はこんななんだ。と、意思もない海に八つ当たりしてしまう。それだけ海が嫌いなんだ、許して欲しい。
こんなに嫌いな海に来たのは、親友と会う約束があったからだ。ソレがなければこんな所に来てはいない。
彼は私の唯一の親友で、私が唯一の友達だった。常に不機嫌そうな面で見るからに陰気そうな目。口をひらけば文句と理屈が出てくる、そんな人。しっかり付き合えば不器用で素直なだけで、優しく真面目な可愛い人だと分かるが、青春を生き急いでいた彼らは気がつく前に去っていった。私が親友といえる関係になったのも、たまたま相席した喫茶店で議論という名の口喧嘩をし意気投合したからであり、マウントを取れるような話では無いけれど。
彼は海が好きだった。その病的なまでに青白い肌と陰気な様子には似合わないが、常に海をモチーフにした何かを身につけている程には魅入られていた。
その海は、病室にもあった。
なんでも講義中に突然倒れたらしい。元から日陰で暮らしてきたような貧弱で体力のないやつではあったけれど、まさか倒れるほどだなんて思いもしなかった。
少し入院はするらしいが、まぁ揶揄してやるかぐらいの気分でお見舞いに行った。
青い花、青い鳥のキーホルダー、海の名前がついた本、他にも色んな海と青があった。中には見覚えのあるものや私があげたものもあった。そんな海にかこまれて、あいつはいつもどおり不機嫌そうな面をしていた。
「どうにも海に行きたくてしょうがないから、海を飾ることにした。」
「すごい、プリキュアにどハマりしたけどプリキュアにはなれない幼稚園児みたいな思考回路と部屋してる。」
と返したら近くにあったプラスチックのコップを投げられた。10センチも飛ばずに地面に落ちた。
「来年は海に行かないか?見せたいものがあるんだ。」
「泳げるようにプールに行っといてくれ。」
「別に海は怖くないんだろう?ならちょうどいい。」
「次こそ海に行ってみせるから、待っててくれ。」
彼は海に行くことなくその病室の偽りの海で生涯を終えた。
必死こいて習得したクロールも、海に行くついでに立てた旅行の予定も、何も見ずに死んで行った。
骨はあいつの家族の希望で海に撒くことになった。親しい友人として話していたようで、私も参加させて貰えた。
あいつは背が高い方で、ヒョロヒョロしていたけど場所をとって、邪魔だったのに最後には小さな壺ひとつになって、分けられて手のひらの上の粉になった。
そうして彼は海になった。
私にとって、彼は自覚している以上に重い存在だったようで、食事は味がしないし講義は頭に入らない。
彼が居ない世界はどうにも居心地が悪くてつまらない。
なので後追いすることにした。
彼はおそらくブチギレるだろうがその時はその時は共に逝くリュックに詰め込んだコーヒーで許してもらおう。
波を踏み潰して膝まで沈む。波は冷たく、死の気配がした。
波をかき分けて胸元まで沈む。磯の香りが鼻にこびりつく。あとどれくらいで私が死んで沈むのか考えた時、突然私より何メートルも高い波が視界を覆った。
濁流が流れ込む。冷たい水が体を押す。