G14

Open App

「響子、出ておいで。
 迎えに来たよ」

 家の外から声がするので出てきてみれば、恋人の幸太郎が家の門の前に立っていた。
 彼は普段のラフな格好ではなく、黒を基調とした服装だった。
 恐らくスーツのつもりなのだろうが、さすが無理がある。
 けれど本人はいたって真剣な表情なので、敢えて指摘しないことにする。

「どうしたの?
 そんなに気合を入れて」
「今日は響子の誕生日だからね。
 エスコートしようと思って」
 
 私は、幸太郎の言葉に絶句する。
 まさか自分の誕生日すら忘れる幸太郎が、私の誕生日を覚えているなんて……
 顔がニヤけてしまう。

「そうだ。
 響子のために、真っ赤なポルシェを用意したんだ」
「ポルシェ?」
「うん、見てくれ」
 幸太郎は、体を横に避ける。
 すると彼の後ろから現れたのは『真っ赤ポルシェ』――

 ではなく真っ赤なマウンテンバイクだった。
 大言壮語にも程がある。
 そして、幸太郎はスーツもどきの格好で、この自転車に乗って我が家までやって来たのだ。
 真剣な顔で……

 面白すぎる。

「ふふっ。
 自転車じゃん!」
「残念ながら、中学生の身分ではこれが限界なんだ」
「ふくっ」
 笑いすぎてむせてしまう。
 前から面白いやつだと思ってたけど、ここまでとは!

「響子、笑いすぎ」
「ごめんなさい……
 でも残念。
 ポルシェ、乗ってみたかったのに」
「そこは僕の将来に期待しててくれ!」

 幸太郎は自信満々で胸を叩く。
 はぐらかすと思ったら、当然だと言わんばかりに肯定する幸太郎。
 これは本当に期待してもいいかもしれない。

「それでどうする?
 一緒に『ポルシェ』に乗るかい?」
「幸太郎、自転車の二人乗りはダメよ。
 チョット待ってね」

 私は、家に戻って母に出かける事を伝え、よそ行きで動きやすい服に着替える。
 そして自転車用のヘルメットを被ってから、自分の自転車に乗る。
 これでデートの準備はOKだ!


 ……これ、どう考えても誕生日デートの服装じゃないよなあ……
 気にしないことにしよう。

「幸太郎、準備できたわ。
 それでどこに連れて行ってくれるのかしら?」
「海の見えるレストランさ」
「あら素敵。
 でも、いつもデートで行くレストランも、海が見えるわよね」
「そこは知らないふりでお願いします」
「仕方ないわねえ」

 気合が入っている割には、穴だらけのガバガバなデートプランだ。
 らしいと言えばらしい。
 これじゃポルシェも怪しいものだ。

「じゃ、行きましょうか」
「うん、僕がエスコートするね」
「よろしくお願いします」

 幸太郎が前に出て、私がその後ろを付いていく。
 自転車に乗って走り出し、目指すは海の見えるレストラン。
 きっと幸太郎のことだから、まだサプライズを用意しているのだろう。

 幸太郎は、これからどんなおもてなしを見せてくれるのだろうか。
 ポルシェは怪しいけれど、私を楽しませてくれることだけは間違いない。

 私は期待に胸を膨らませながら、自転車を走らせるのだった。

8/15/2024, 12:49:47 PM