きづめ

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高校の新しい友達と時間を忘れて遊んだ。友達と別れた時にはもう9時過ぎだった。親には7時には帰ると言っていた。ここから家に帰るには自転車を全力で漕いでも30分はかかる。背筋が寒くなったのを振り切るように首を横に振った。そして脚に力を入れる。
真っ暗闇の中に街灯だけがぼんやりと光る。べったりと背中に張り付くシャツが気持ち悪い。家に帰ったらすぐ風呂に入ろう、いや、きっと親に怒られるのが先だ。
ふと、波の音が聞こえた。海?まさか。自転車を静かに降りる。鼓動が急に早くなる。家は海とは逆方向だ。案の定、目の前が開けた。
海だ。
真っ黒だった。
空と海の境目がわからないほど真っ黒な海。
静かな波の音と水面に揺れる月の光で、直感的にそれが海であることがわかった。
ただただ怖かった。巨大な自然の漆黒の中に、自分自身も溶け込んでしまいそうだった。帰らないと。自転車に跨る。早く、早く。涙を手の甲で拭って、一心不乱に自転車を漕ぎ続けた。
家に帰ることができたのは10時前だった。親にも叱られたけど、家のあかりは本当に本当に、温かかった。

8/15/2024, 12:45:09 PM