「やめ」
終わりの時を告げる先生の声。また、できなかった。わたしのテスト用紙のいくつもの空欄。
みんなのテスト用紙を回収する。よくないと思いつつもみんなのテスト用紙を確認してしまう。割と空欄がない人が多くて気分が悪くなる。
わたしたちに与えられているのは同じ時間なのに。
そうやってわたしだけなんにもできないまま、平等に終わりの時が告げられる。
些細なことでも
私に教えてね
と言ってくれたあの人
その言葉通りわたしは
あの人にたくさん報告した
あの人がわたしの話を聞いてくれるとき
守られていると感じた
今も
なるべくたくさんのことを
あの人のお墓のまえで話す
もう守ってくれることはないのに
不完全な僕。
決して100に辿り着くことができない。
あと2、3、が、足りない。
あとたったそれだけなのに、手を伸ばせば指先がかすかに触れるのに、決して掴めない。
僕が100を欲する理由。
一切欠けたところがなく晴れ渡った頂上。
さぞかし気持ちが良いのだろう。強烈な憧れを抱く。
だから、99の輝かしさにわずかに存在する曇りが全てのように思えてしまう。
ほとんどができてもそのかすかな曇りがあれば、それは不完全な僕だ。
その先に、僕は望みつづけている……
完全な僕を。
突然の君の訪問。
とか、ないかなぁーーー
って、毎日思ってる。
会いたい人。
お前が会いに行けばいいじゃないかだって?
僕は行動的じゃないから無理です。
憧れの人。
僕の何百倍も行動的で明るくて、魅力的な人。
当然友達が多い。
僕にとっては、大切な記憶の中の人。
僕はその人の友達の中の一人だけど
その人から必要とされたことはない。
でも僕は
その人の気遣いに救われてきた。
僕のことは
もう忘れちゃったかもね。
それでもやっぱり僕は
突然の君の訪問を望んでいる。
雨に佇む
折り畳み傘を差して、バスを待っていた。
土砂降りの轟々という音に聴覚が支配される。こんなに酷くなるとは思わなかった。折り畳み傘では小さく、私のカバンはあっという間に濡れて重くなった。中身は仕事の資料だ。ますます憂鬱な気分になる。
小学校低学年くらいの小さな女の子が私の隣に並んできた。激しい雨でぼやけてよく見えないが、隣といっても少し距離を空けている。ふとその子が近づいた気配がし、声が聞こえた。
「このバスで茶池に行けますか?」
「え?あ、すみません、分からないです。」
「ありがとうございます。」
しっかりした話し方に驚いた。はっとした。そういえば、なんでこんなにはっきりとお互い声が聞こえたのだろう、雨の凄まじい音の中で……。それに、あの子傘を差していただろうか?差していなかったように見えた。それなら合羽を着ていたのだろう。あの子は雨の中で平然と佇んでいたように見えたから。なんとなく意識してしまってあの子の方を向けなかった。バスがなかなか来ない。
「土砂降りですね。」
「ええ。」
また、あの子が話しかけてきた。答える時に何気なくあの子の方をちらりと見た。目を疑った。本当に合羽を着ていなかった。質問が口をついて出た。
「雨、好きですか?」
「はい。雨の日しか、お出かけできないので。」
「そう…ですか。」
雨の日しかお出かけできない?ますます謎が深まる。不気味さより好奇心が勝り何か会話したいと思ったその時。雨の中に、ぼんやりとバスの姿が浮かび上がった。輪郭のぼやけた2本の光を発しながらこちらに近づく。私はバスに乗ったが、あの子は行き先を確認して違ったのか乗らなかった。
座席に座って暗いバス停にあの子の姿を探したが、もう見当たらなかった。ふと、魚なんじゃないか。なんて思った。魚が水の中で会話できるという話を聞いたことがある。だとしたらバスに乗るというのは自殺行為だ。水がないから。水を一定時間溜めておける生物……河童?いやまさか、でも…。我にかえった。そんなことを考える自分が滑稽だった。
まだあの子の正体が気になっていた。確か目的地は茶池と言っていた。今度出かけてみようか、雨の日に。