『声が聞こえる』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
声が聞こえる
私は一人暮らしで、オスのシュナウザー犬を飼っている。
夜中、何か声が聞こえる。まさか、愛犬のシュナウザーが喋っているのでは?横を見ると、たるんだお腹を出して仰向けに寝ている愛犬。喋っていたら、この話はホラーかおとぎ話になる。それともSF?
でも、声が聞こえる。誰もいない。
「私だって結婚したいわよ!あー彼?あんなダサい男、無理無理。
足の裏、くさっ!お腹いっぱいで吐きそう、、、。ハッハッハッハー!そんなに触らないでよー!、、、」
女の声だ。酔っているのかな〜?
耳元で声がするけど、不思議な事に怖くない。
なんか、寂しい女だな〜。
はっ!目が覚めた!
声はしない。夢見てた?
そうか夢見てたのか。誰かの声が聞こえる夢なんて不思議な夢だ。
スマホの寝言アプリが光ってる。
開いて聞いてみる。
「、、、結婚したい、、、。、、ダサい男、、、。、、くさっ!、、。ハッハッハッハー、、。」
夢の声だ。
え〜!私が寝言言ってただけ〜!
寂しい女は自分だったのか〜涙
目を開けると天井だった。ここどこだ?なんか頭がじーんとする。しかもなんか嗅いだことある匂いもするし。
「良かったああ!」
「ぐえ」
いきなりの叫び声と同時に力が加わる。いつもの、幼なじみが思いっきり抱きついてきた。わりと強い。つーか、首が締まって、
「ぐ、るじ……」
「タケちゃん?ねぇ、大丈夫?しっかりしてっ」
離れたと思ったら今度はオレの頭をバシバシ叩きやがった。コイツはオレを殺す気か。
「大丈夫?どっか痛む?」
「……あぁ、大丈夫」
本当は叩かれまくったから頭が痛いけど言葉を呑み込んだ。半べそかいてオレの顔を覗き込んでるコイツを見たら言う気がなくなった。
「タケちゃん覚えてる?なんでここにいるのか分かる?」
「いや、あんまよく覚えてねーんだわ」
ようやく落ち着いて周りを見たらオレは保健室のベッドの上だった。
「ほんとに?覚えてないの?階段4段飛ばしでかっこつけて降りたら最後の最後に踏み外して転んだ上に受け身を取ろうとしたけどそれが失敗して顔面からいったんだよ」
「あ、そう……」
だっさ。目撃者があんまり居なかったことを願う。どうりで腕とかデコが痛いわけだ。よくよく見ると頬や指には絆創膏が貼られていた。
「つーかお前、さっきまで呼んでた?」
「え、呼んでないよ。タケちゃんさっきまで寝てたんだから。でもずっとここにいたよ」
「そーなんか」
「どしたの?……やっぱり、頭の打ち所悪い?」
「いや、そんなんじゃねーよ。でもずっとお前がオレを呼びまくってた気がしたんだよ。それで目が覚めたようなもんだからな」
「……もしかして、渡る寸前だったのかも」
「何を?」
「川」
「は?」
「だから、三途の川を渡るとこだったんだよタケちゃん。それで、私の声が聞こえた気がして引き返してきたんだよ!」
「おいおい……オレを殺そうとするなよ」
「だから死んでないでしょ。無事に戻ってこられたってこと。はぁー、良かった」
と言って、オレの目の前で胸を撫で下ろす。確かに聞こえた気がしたんだけどな。けど、万にひとつそうだったとしたら、オレはコイツに助けられたってことになるな。コイツのお陰で命拾いしたってことだ。
「タケちゃん?なに?まだどっか変なの?ここは保健室だよ。無事なんだよ、私の言ってることわかる?」
「分かるよ、へーき。サンキュ」
「……」
「なんだよ」
「なんか、タケちゃんがお礼言うとか珍しい。やっぱり頭のお医者さん行っとこうか」
「なんでだよっ」
そこは素直に喜べよな。本当に感謝してるんだからよ。
毎日、意識が浮上すると、あなたは真っ先に少し暗い部屋が見えるのだと言う。次に聞こえるのは朝鳥の声で、薄明りの射し込む窓からにぎやかな朝の気配を感じるのだとか。
わたくしはあなたとは違う。
意識が浮上してもまだ夜か朝か分からなくて、枕と布団の音がもぞもぞと耳を通る。
ふとかおる朝露のにおいとか、雨のにおいとか、それこそ、朝の生活のにおいとかが、ああ朝なんだと認識させてくれる。
……認識させてくれるだけで、回らない頭はまだ眠れるだろうと身体をベッドから離してくれない。わたくしもそうしていたいから本当に、抵抗なく。
あまりにもうだうだしていると、ゆらの声が。
玉と玉を弾かせて動かせる音。何かいいことが起こるのではないかと思わせてくれるような、そんなあなたの声。
「ねーえ、そろそろ起きたぁ?」
「……ふあい、ただいまぁー」
それから生活の音。
トントン
バタバタ、パタパタ
ジュー…ジュ―…
コトコト
聴き入りたくなるような手際のいい音。
まだ抜け出せない布団の中からこれを聞くのは朝を感じられるとても好きな時間だ。
「もう起きなよー」
「はあい、起きましたー」
もそもそと名残惜しくベッドを離れる。
まだぼんやりとしていても、手櫛でひどい寝癖がないか確認はする。ひどければ急ぎ洗面所へ。
まだ冷たくない板張りと壁を伝って、ドアを開ける。そうすれば、またゆらの声。
「お早う、今日は青天。せっかくのお休みだから、どこか行こうか」
一言二言返せばその倍になって声が返ってくる。
あなたの声は縁起のいいゆらの声。それが聞こえるわたくしでよかった。
#声が聞こえる
後ろから「おーい」と呼ぶ声が聞こえる。
あんまり何回も呼ぶから仕方なく振り替える。
案の定、こいつ誰。
私の更に前方の人がやっと気づいて
「うるせー」と答える。
間に他者を挟んでたら
名前で呼んでね。
しくしくと誰かが泣いている。
地面に座り込み、背中を丸め、顔を俯けている誰かが見えた。
その人の姿を見ていたら、いてもたってもいられなくなって、私は駆け寄る。
丸まった背中に柔らかく手を置いて、私もその人の隣にしゃがみ込んだ。
「どうしたの?」
私がそう尋ねても相手は顔を上げない。しゃくり上げ、嗚咽を漏らし、涙に濡れ続けている。
そのうち吐息のような小さな声がこぼれた。
私はそっとその声に耳を澄ます。
「怖いの」
詰まるような声音で、ただそれだけが聞こえた。
私は泣き続ける背中を何度も摩る。
「大丈夫だよ」
私の声に相手が反応して顔を上げた。目を赤く腫らしたその表情を見て、私はああと納得する。
「でも、怖いのが止まらないの」
「なら、そのままの貴方でいいよ。大丈夫、絶対に大丈夫だから」
私はニコリと微笑みかける。相手は驚いたのか目を丸くさせていた。
「どうしてそんなことが分かるの?」
「だって貴方は私だから」
私は彼女を抱き締める。包み込むようにぎゅっと、その震える肩を守るように。
「貴方の怖さも寂しさも、全部私のものだから」
だから帰って来て。
「もう私は大丈夫だから」
【声が聞こえる】
お題「胸の鼓動」
響き渡る歓声。鳴り止むことのない拍手の音。
スポットライトの光を浴びて立つ、輝かしいこの舞台で、ずっと歌い続けたい。この先何年、何十年、何百年だって。
その思いを叶えるために作成されたのが、本人を模した3Dモデル。
姿形だけではない。声も、性格も、趣味嗜好も何もかも、全てをオリジナルに寄せて作られている。
「今日のライブも凄く良かったよ!」
「ありがとうございます!」
オリジナルがいなくなり、その思いを叶え続けている当人だけが、未だに自分自身の出自を知らずにいる。
知らないままで、その人が立っていたのと同じステージで、輝き続ける。
真実を知る人たちは、そのままでいいと考えていた。世の中には、知らなくていいこともある。知らないままで、輝けるのなら、わざわざ教える必要はない。
けれど、情報が溢れ返るこの時代に、いつまでも隠し事を続けるのは難しい。
「死者の歌声って、どういう意味ですか」
今はネットで、どこの誰とも知れない人たちが嘘か本当かも分からない噂話を、あたかも真実であるかのように語る。
そんなものは嘘だと笑い飛ばせるものから、本当かもしれない、と思わせるものまで、様々な話が飛び交うなかに、そんな書き込みを見つけたらしい。
あの人の歌声は、もういない人のものだ。あれは死んだ本物を模した3Dモデルだ。自分たちは、死者の歌声を聴かされている、と。
その話に肯定的な声もあれば、否定的な声もある。
死者の声を使い続けるなんて、という人もいる。死者の声など、知らないうちに聞いていることもあるだろう。だからそんなことは関係なく、あの歌声が好きだという人もいる。
とにもかくにも、知ってしまったのだ。死者の歌声という、知らなくても良かった言葉を。
「そのままの、意味だよ」
だからもう、隠すことは無理だと思った。
隠せないなら、変に誤魔化すよりも全てを話してしまおう。知ったところで、何も変わりはしないのだから。
「君はね、歌い続けたいと願った人の3Dモデル。姿形も、歌声も、性格も、趣味嗜好も。全部オリジナルから貰ったものだよ。君は死者の写身みたいなものなんだ」
「そう。全部……」
俯くその姿に、掛けられる言葉は浮かばなかった。
自分のものだと信じていた、全て、何もかも。本物の誰かから貰ったものだと、初めから自分だけのものなど何もないのだと。知ったところで、どうしようもない。
だってあの子は、歌い続けたいのだから。
「でも!でも、この心臓は、この音だけは、本物でしょう。作り物に、鼓動なんてないんだから」
姿形は、オリジナルに似せたもの。歌声も、オリジナルと同じもの。性格だって似ているどころか全く一緒で、趣味嗜好だってその通り。全てが本物から貰ったものばかりで、自分のものなど何もない。
分かっていても、何か一つ、自分だけのものを探したくて。
思い至ったのが、トクン、トクン、と今でも一定に心地好く動く、その胸の鼓動だった。
「君のその、胸の鼓動はずっと一定に動いているよね?」
「当たり前です!生きてるんですから」
生きている限り、鼓動は一定の速度で動き続ける。
だからこれだけは、本物だ。
「鼓動はね、感情で速度が変わるものなんだよ。でも君の鼓動は、舞台に立っても、今こんなに動揺しても、ずっと変わらない」
そう言われて、初めて知った。
鼓動の音は、どんな時でもずっと一定なんだと疑わなかった。だって一番身近な自分の音が、そうなのだから。
トクン、トクン、と。今も変わらず、この胸の鼓動は一定の速度で動き続ける。
こういう時、本物の胸の鼓動はどんな速度で動くのだろう?
「その鼓動は、君だけの、偽物なんだ」
本物の胸の鼓動は、こんな風に一定ではないのだろう。だからこれは、本物から貰ったものではない。
トクン、トクン。一定の鼓動こそが、自分が本物ではないことの証明。
けれどこれこそが。この一定に動く胸の鼓動が、自分だけの、唯一だ。
―END―
9/22「声が聞こえる」
ある日、机の引き出しを開けたら声がした。
四次元とか未来へ繋がったかと思ったら、そういうわけでもないらしい。引き出しの中は引き出しの中、そのままだ。
引き出しに顔を突っ込み、耳を澄ましてみる。遠い残響のようなその声は、はしゃぐ子どもの声のようだった。
「やったー! ママありがとう!」
「もうやだ! 何で勉強しないといけないの!?」
「何であいつ彼氏いるんだよ…ちくしょー…」
15年間苦楽をともにした戦友である勉強机は、来週リサイクルに出される。
(所要時間:9分)
肌をゆるやかに撫でる感触とともに
懐かしい風の声が聞こえる
あのときの僕とはこんなに違っているのに、迎えるこの地は暖かい
ああ、帰ってきたんだ
同じ場所に立って、変わっているはずの変わらない景色を見る
もっと近くで感じるために、僕は一歩踏み出した
(声が聞こえる)
声が聞こえる
1日中ベッドで過ごすのに
そろそろ飽きてきた
ふと聞き覚えのある声
懐しい
私をよんでいる
話をしたい
もう十分頑張ったよ
迎えに来てくれてありがとう
おかげで迷子にならないよ
声が聞こえる
暗闇の中、耳を澄ませばやっと聞こえてきた声
今にも消えそうで、必死に叫んでいる声
誰の声かは最初からわかってる
ずっと気付かないふりをし続けた
声が聞こえる
小さくて、幼くて、震えている
私の声
今、抱きしめに行くよ
『声が聞こえる』
部活に好きな先輩がいた。
優しくて、明るくて、いつも楽しそうで。
絵を描くのが上手くて、トランペットの音が綺麗で。
自分の中に、決して揺るがない「何か」を持っている人だった。
私の隣で、先輩がトランペットを吹く。
チューニングの時、全く音程が全く合わなくて、「気持ちわるー」って言って笑った。
トランペットに名前をつけ、メトロノームに名前をつけて笑った。
先輩のバイト先の話とか、家族の話とか、私は横で聞いているだけだったけど、十分楽しかった。
基礎練習でも、個人練習でも、合奏でも、自分の音に先輩の音が重なると、途端に厚みが増すのが楽しかった。
先輩が笑っているのが嬉しくて、
自分もその隣で笑えているのが嬉しくて、だから、寂しかったのかもしれない。
先輩が卒業した途端、何も感じなくなった。
ほんの数ヶ月前まで先輩が使っていた教室を、今度は私が使っている。教室移動の時、気がつくと先輩を探している。
自分が歩いてきた廊下を振り返る。
先輩の後ろ姿が見えた気がして、声が、聞こえた気がして。
過去にとこにも行かずあまり色々経験してこなかったので、この年になって「もっと若いときに色々しておけばよかった!死ぬまでにあそこ、ここ行きたい」と思って後悔。
ハゲは家におりたいタイプでほっていくにしてもいちいち鑑賞されてうざい。
早く死んでくれたら、もっと好き勝手できるのに
向こうから声が聞こえる
自分で言うのもなんだが、私は幽霊だ
もう何年もここから出ていないし、誰にも会っていない
「ーーーー」
声をはっきり聞くと12~17位の女性の声だった
そう考えていると、久しぶりに視界が明るくなっており、声の主がこう言った
「僕と“友達”になってくださいっ!!!」
「………え?」
こう声が出たのも致し方ない
は?我幽霊ぞ?
そう思った
その後最高の友達になったのは言うまでもない
(5つ目)
何も期待するな
自分が辛い思いをするだけ
期待するともう戻れない
裏切られてやっと気づく
どれだけ馬鹿なことをしていたのか
どれだけ周りを見れていなかったのか
気づいた時にはもう遅い
手遅れだ
少し肌寒い風が吹く時、、、私は何もできなかった
私は昔から自分の話をされるのが嫌だった
悪口を言われているんじゃないか、
自分を仲間はずれにするのでは無いか、
怖くて怖くて本当にこれでいいのか心配だった
それでも周りからは強く見えるように振舞った
週末の駅前
政治家が がなっている
「安保法がー」
「社会保障がー」
「我々は闘うー」
だから清き一票を 清き?
僕はそれを聞くともなく聞いている
通勤電車の定期を買いに
そして早く家に帰るために
その時
顔に包帯を巻いた女性と目が合った
彼女ははっと顔を背(そむ)けて
歩き去った
言っていただろうか 僕の口が
可哀想にと
語っていただろうか 僕の目が
同情を
僕は不意に物悲しくなった
でも僕は強くあらねば
他人に薄っぺらい同情を
している場合じゃない
妻のため 娘のため 僕は強くあるんだ
だから家に 早く早く 帰るんだ 帰るんだ
声が聞こえる
今夜、あなたの声が聞こえる場所へ
B'z LIVE-GYM 2023
#35
君の声が聞こえる
活発で溌溂な声が
オルゴールのような声が
でも、そんなオルゴールのように段々途切れ途切れになって
消えていく
世界が音を失ってはや5年。
耳は正常。ただ、音が生まれなくなっただけだった。
ある日、ひとりの男が訪ねてきた。
男は筆談で会話する。口が聞けないわけではないのに。
皮肉っているのだろうか。
こんな世界を。
男と共に旅をした。
男は多くの曲をつくった。
世界はそれを拒絶した。
ある日、男が血を吐いた。
男は世界に一時の別れをつげた。
世界は動揺した。
あとわずか。
世界は白衣の者にそう告げられた。
男は笑っていた。
世界は初めて誰かのために音を奏でた
男が息を引き取るその時も
最後のさいご、男は世界につぶやいた
「ずっとあんたのファンだった。」
世界という名の青年の目から、
一筋の涙が溢れた。
【声が聞こえる】
「をぉ~ぃっ…クショボ~~ジュ~ぅ」
…声が聞こえますね。
下校時刻、無部活、帰宅組の私。
モンスター姉弟、麗しの末っ子です。
とりあえず高訛り声を聞こえないフリして校門へ小走りしてみたら、声の主がモンスターらしく上から降って来た。
それを初めて目撃した数人が、「どっから現れた?」とキョロキョロしているのをお構い無しに、モンスター姉さんは口を尖らせ、
「オラぬ美しぇ~さ無すするちゃぁ、えぇ度胸じゃすけぃっクショボ~ズ」
「いゃぁ~春に飽きた真夏のウグイスかと」
「褒みらりた♪︎」
姉さんは、漢字を適当に並べた文言は褒め言葉だと解釈します。
「姉さん…露出が…」
姉さんは、山村から出る時、チャラピラな自分の服でなく、弟(兄)の服を着るのだが、身長190cmの兄のTシャツが150cmの姉さんに合う訳もなく、肩やら胸やらがはだけてしまっている。
男子生徒の注目の的に、薄手のジャージをかぶせたジェントル・オレ。
「ゆ…油断すたぬだ…」
「今度からオレの服着たら?」
「おみゃぁのば、つつがパツパツでのぉ…」
オレのは乳の所がパツパツだそうです。
「ちょっと位、大丈夫じゃない?」
「ダミだダミだぁ、オラ、テイちゃん(弟)だけぬ、可愛いさ思てもらぇてぇだおっ」
「テイちゃん一筋だね、姉さんは」
「うむ!オラぬは聴こえるんだば、
『ネイぬエロカワシェクスィボデーは、オラじゃけぬもんじゃけ、ちょころきゃまわじゅペロペロしゅる権利ばオラぬば有るけ、しゃいこう!』
…ちょゆう、テイちゃんぬ心ぬ声が♡」
「んな訳あるか。」
「何の『声』が聞こえるか、ってハナシよな」
久しぶりに書きやすそうなお題が来た。某所在住物書きは題目の通知画面を見ながら、安堵のため息を吐いた。
「鳴き声、泣き声、怒鳴り声、猫撫で声、声なき声に勝どきの声。『話し声が聞こえる』がこの場合、比較的書きやすい、のか?」
まぁ、時間はたっぷりある。前回書きづらかった分、今回はゆっくりじっくり物語を組めば良い。
物書きは余裕綽々としてポテチを食い、スマホのゲームで気分転換をして、
「……あれ。意外と、パッとネタが降りてこねぇ」
結局、いつの間にか次回の題目配信まで4時間プラス数分となった。
――――――
今年はなかなか、秋の近づく声が、聞こえづらいような気がしますが、皆様如何お過ごしでしょう。
最近最近の都内某所は、ようやく少しだけ気温が下がって、ほんの少しだけ夏の終わる気配。
とはいえ月末にまた30℃超の真夏日が来るらしく、一進一退の残暑と晩夏が続きます。
このおはなしの主人公、雪国出身の藤森といいますが、暑さ涼しさの乱高下と、諸所のトラブル事情で、少々お疲れ気味の様子。
どんより暗い雲の下、自分のアパートの近くにある、森深き稲荷神社にやって来ました。
「はぁ」
坂を登って、鳥居をくぐって、阿吽(あうん)な狐の石像を通り過ぎ、賽銭箱に小銭をチャリン。
大きなため息ひとつ、階段に座り、神職さんが手入れをしているのであろう花畑を見つめました。
「東京だろうと田舎だろうと、花はキレイだな」
丁度、ヒガンバナの咲き始めるシーズンでした。
満開にはちょっとだけ遠いものの、ポツポツ、狐の神社に赤い花が少しずつ顔を出して、フォトジェニックスポットを絶賛形成中。
ひとり、ふたり、狐の石像とヒガンバナを同時に写真に収めては、満足そうに去ってゆきました。
「ここのヒガンバナも、見納めか」
藤森は来月末、東京を離れて、田舎に帰る予定でおりました。
理由はカクカクシカジカ、まるまるチョメチョメ。
要するに、過去の恋愛トラブルが尾を引いて、今になって藤森の周囲に、藤森が都内に居るせいで、小さな迷惑の火の粉が降りかかったのです。
藤森はそれが悲しくて、悔しくて、色々疲れてしまって、神社の花に癒やしを求めに来たのです。
「……キレイだな」
ポツリ。藤森が再度呟きます。
パトカーのサイレン、ドクターヘリのローター音、電車の通過音に何かのデモ活動の合唱。
それらはすべて神社の森によって少し低減され、
藤森の周囲には、ただ、大型ビオトープたる泉と小川のせせらぎと、風に戯れる枝葉のささやきだけがありました。
「さて。……いい加減、レンタルロッカーの整理を終わらせないと」
そろそろ、作業に戻ろう。現実に帰ろう。
藤森が階段から腰を上げて、もの哀しげに背伸びをした、その時でした。
ギャン!ギャン!
ここでようやく今回のお題回収、神社の拝殿の下から、狐の吠える声がしたかと思うと、
稲荷神社在住のコンコン子狐が跳び出して、藤森のズボンの裾をかじり、ぐいぐい一生懸命引き留めにかかったのです!
行っちゃダメ、行っちゃダメ!
不思議な不思議な子狐の声は、必死に藤森に叫んでいるようです。
何事だろう。
首を傾けた藤森に、まさしく丁度のタイミングで、
ポツリ、ポツリ、大粒の雨が落ちてきました。
「雨か」
藤森はなんとなく、理解しました。
「しまった。傘を持ってきていない」
ヒガンバナ咲き、狐の石像が見守る稲荷神社を、バラリバラリ、秋雨が濡らします。
雨降って、気温が下がり、木の葉が色付き始める。
東京もそろそろ、秋、……の筈です。