Yushiki

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 しくしくと誰かが泣いている。
 地面に座り込み、背中を丸め、顔を俯けている誰かが見えた。
 その人の姿を見ていたら、いてもたってもいられなくなって、私は駆け寄る。

 丸まった背中に柔らかく手を置いて、私もその人の隣にしゃがみ込んだ。

「どうしたの?」

 私がそう尋ねても相手は顔を上げない。しゃくり上げ、嗚咽を漏らし、涙に濡れ続けている。

 そのうち吐息のような小さな声がこぼれた。
 私はそっとその声に耳を澄ます。

「怖いの」

 詰まるような声音で、ただそれだけが聞こえた。

 私は泣き続ける背中を何度も摩る。

「大丈夫だよ」

 私の声に相手が反応して顔を上げた。目を赤く腫らしたその表情を見て、私はああと納得する。

「でも、怖いのが止まらないの」
「なら、そのままの貴方でいいよ。大丈夫、絶対に大丈夫だから」

 私はニコリと微笑みかける。相手は驚いたのか目を丸くさせていた。

「どうしてそんなことが分かるの?」
「だって貴方は私だから」

 私は彼女を抱き締める。包み込むようにぎゅっと、その震える肩を守るように。

「貴方の怖さも寂しさも、全部私のものだから」

 だから帰って来て。

「もう私は大丈夫だから」



【声が聞こえる】

9/23/2023, 8:09:59 AM