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『声が聞こえる』

 部活に好きな先輩がいた。

 優しくて、明るくて、いつも楽しそうで。
 絵を描くのが上手くて、トランペットの音が綺麗で。
 自分の中に、決して揺るがない「何か」を持っている人だった。

 私の隣で、先輩がトランペットを吹く。
 チューニングの時、全く音程が全く合わなくて、「気持ちわるー」って言って笑った。
 トランペットに名前をつけ、メトロノームに名前をつけて笑った。
 先輩のバイト先の話とか、家族の話とか、私は横で聞いているだけだったけど、十分楽しかった。
 基礎練習でも、個人練習でも、合奏でも、自分の音に先輩の音が重なると、途端に厚みが増すのが楽しかった。

 先輩が笑っているのが嬉しくて、
 自分もその隣で笑えているのが嬉しくて、だから、寂しかったのかもしれない。

 先輩が卒業した途端、何も感じなくなった。
 ほんの数ヶ月前まで先輩が使っていた教室を、今度は私が使っている。教室移動の時、気がつくと先輩を探している。
 
 自分が歩いてきた廊下を振り返る。
 先輩の後ろ姿が見えた気がして、声が、聞こえた気がして。

9/23/2023, 7:24:19 AM