毎日、意識が浮上すると、あなたは真っ先に少し暗い部屋が見えるのだと言う。次に聞こえるのは朝鳥の声で、薄明りの射し込む窓からにぎやかな朝の気配を感じるのだとか。
わたくしはあなたとは違う。
意識が浮上してもまだ夜か朝か分からなくて、枕と布団の音がもぞもぞと耳を通る。
ふとかおる朝露のにおいとか、雨のにおいとか、それこそ、朝の生活のにおいとかが、ああ朝なんだと認識させてくれる。
……認識させてくれるだけで、回らない頭はまだ眠れるだろうと身体をベッドから離してくれない。わたくしもそうしていたいから本当に、抵抗なく。
あまりにもうだうだしていると、ゆらの声が。
玉と玉を弾かせて動かせる音。何かいいことが起こるのではないかと思わせてくれるような、そんなあなたの声。
「ねーえ、そろそろ起きたぁ?」
「……ふあい、ただいまぁー」
それから生活の音。
トントン
バタバタ、パタパタ
ジュー…ジュ―…
コトコト
聴き入りたくなるような手際のいい音。
まだ抜け出せない布団の中からこれを聞くのは朝を感じられるとても好きな時間だ。
「もう起きなよー」
「はあい、起きましたー」
もそもそと名残惜しくベッドを離れる。
まだぼんやりとしていても、手櫛でひどい寝癖がないか確認はする。ひどければ急ぎ洗面所へ。
まだ冷たくない板張りと壁を伝って、ドアを開ける。そうすれば、またゆらの声。
「お早う、今日は青天。せっかくのお休みだから、どこか行こうか」
一言二言返せばその倍になって声が返ってくる。
あなたの声は縁起のいいゆらの声。それが聞こえるわたくしでよかった。
#声が聞こえる
9/23/2023, 8:12:15 AM