『喪失感』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
縋りついて咽び泣きたい衝動があったはずだった。
自分の真ん中を通る芯に穴が空いている感覚。地に足をつけて生きているはずなのに、今にも膝から崩れ落ちそうな瞬間が絶え間なく繰り返される。
前へ進むことも、立ち止まることも、振り返ることも怖かった。立つことも、座ることも、横たわることも。目を開いて、耳を澄ませて、息を吸って吐いているこの状況が許せなかった。
大きな悲しみに明け暮れていたはずだった。
何もかもがどうでもよくなった。
聞こえてくるニュースも、SNSの文字の羅列も何の情報も頭に入ってこなくなった。
自分が失ったのは、かけがえのない大切なものだけだった。
それなのに、今の自分には何もなかった。感情も感覚も感性も。何もかも抜け落ちて、中身空っぽの人を模った物体だった。ふとした瞬間、君の影を追っては無意味だと後から気づいて、涙が頬を伝うだけの怪しい物体でしかなかった。
もう人間に戻れる気がしなかった。
『喪失感』
私は今、どこにいるのだろうか?大好きだった祖父も推しも居なくなってしまった…私の心はずっと喪失感で溢れてます。
#喪失感
隣の席に座っていた女子生徒のことを、私はよく見ていました。
意図して見ている訳でも、その生徒に何か変な特長があった訳でもないのですが、気付いたら、その生徒が視界に入っているのが、私の日常でした。
艶のある黒髪をおさげにし、眼鏡をかけた彼女は地味と言えば地味でしたが、飾り気のないその姿には、野暮ったさより雪の中に咲く一輪の花のような、そんな美しさがありました。
文学少女というあだ名が付いていた彼女は、誰とも言葉を交わすこともなく、笑顔を見せることもなく、休み時間はいつも本を読んでいました。
いつも人に興味が無さそうに、冷めた目で教室を俯瞰しているような、そんな印象を受けました。
彼女を冷淡でお高く止まっていると表現する者も居ましたが、私は、彼女のことを誰にも汚されることのない高嶺の花だと思いました。
彼女とは高校の三年間同じ教室で過ごしましたが、席が隣になったことも、話したことも、三年生の夏頃になるまで、一度もありませんでした。
彼女が積極的に人と関わろうとしなかっただけでなく、私が、眺めるだけで彼女に手を伸ばすことを躊躇っていたのもあります。
転機が訪れたのは、夏休みに入った頃でした。
たまたま近所の本屋を訪れて、興味を持った本を取ろうと手を伸ばした時、偶然、彼女の手に触れてしまったのです。
少女漫画のテンプレートをそのまま流用したような展開に、しかし私はしっかりと動揺してしまって。
別に、何かおかしなことをした訳ではないのに、彼女の手に触れてしまったことが何故か重罪のように感じて、私は慌てて言い訳をつらつらと吐きました。
明らかに挙動不審になった私を前に。
彼女はくすくすと笑いました。
今まで冬のような雰囲気を纏っていた彼女は、笑うと存外幼くて。
そこには春のような温かさがありました。それに私は、また見惚れてしまったのです。
その日から、彼女と私の交流が始まりました。
時折その本屋で会えばお互いにオススメの本を紹介し合い、学校で顔を合わせれば挨拶をするような。
連絡先を交換なんてことはなかったし、友達なんて名前の付いた関係でもありませんでしたが、それでも、私は楽しかった。
触れることはなくても、近くに寄ることは出来た。
そのことに、私は満足感を抱いていたのです。
卒業するまで、その充実した日々は続きました。
次に、会ったのは。
「新郎新婦の入場です」
マイクを通して聞こえた女性の声で、私はハッと意識を現実に戻しました。
辺りに響く拍手の音を、まだぼんやりとした頭のまま聞いて、流されるままに自らも手を叩きました。
私の拍手の音は随分と弱々しくて、きっと、周りの人間に全く聞かれていなかったでしょう。
そう、彼女から、手紙が届いたのは、二ヶ月程前のことです。
それは、結婚式の招待状でした。
誰から住所を聞いたのか。
卒業後、全く関わることのなかった彼女は、私に手紙を送ってくれたようでした。
式場には、ちらほらと学生時代に見たことのある顔が揃っていて、彼女の交遊関係は、私が思っていたより広いことを、初めて知りました。
扉が開いて。
見慣れたおさげの少女は、どこにも居ませんでした。
眼鏡を外した顔も、化粧が施されていて、まるで別人のようでした。
しかし、かつて見た時と変わらなかったのは。
あの春のような笑顔を目にして、私は。
純白のドレスに身を包んだ初恋の彼女は、とても、幸せそうでした。
『喪失感』
鏡面に手をあて
冷えていく体温を感じている
僕だけを見ている君
君だけ見つめる僕
「erase」
あなたに近づけない
あなたが見えない
あなたは…
そっと抱きしめる空間は
喪失感を与えるだけの白い地獄に変わり果てた
夏の終わりの父の郷
山々深く 田は広く
一本道は変わりなし
さみしく車はひた走る
秋の初めの父の郷
家々朽ちて 店も無く
要らぬ要らぬと哀しくも
風車ばかりが増えていた
喪失感
私(悠)は喪失感に見舞われている。何もかも心から楽しめない。
事の発端は3ヶ月前の恋人(蒼依)との破局である。当時付き合っていた蒼依とは高校1年生の7月から1年ほど付き合っていた。
蒼依と別れて2日間くらいは落ち込んでいたが、友人(千尋)が励ましてくれて何とか気持ちを立ち直すことが出来た。
しかし、ここからが始まりだった。
励ましてくれた千尋は私の幼稚園からの幼なじみで、1番気を許している相手だった。千尋は私と蒼依の橋がけをしてくれた。千尋のおかげであんなにスムーズに付き合えたのだと思っていた。
だが、私は聞いてしまった。
蒼依「全然好きになれなかったよ笑 まあ何でも買ってくれて最高だったけど笑」
千尋「そう!悠って顔良くないからねー何でも買ってって言えば買ってくれるよね笑笑」
蒼依「友達にもそうなんだ」
千尋「うんまあ友達じゃないけど」
蒼依「え幼なじみじゃないの?」
千尋「親同士が仲良いからいやいやね」
蒼依「クズー笑笑」
千尋「お前も言えないわ笑」
この一瞬の会話で私の心はズタズタにされた。その場から離れたくても足が動かなくてずっと会話を聞き続けてしまった。
千尋「てかなんで急に別れたの?もっと色々貰っとけばよかったじゃん」
蒼依「普通に好きな人出来たから」
千尋「へーだれ?」
蒼依「千尋」
...
千尋「えーいきなりいつから?」
蒼依「んー2年になってからかな」
千尋「付き合う?」
蒼依「いいの?」
千尋「うん笑ちゃんと言って欲しい」
蒼依「そっか笑」
...
蒼依「好きです付き合ってください」
千尋「はいお願いします」
笑
私は5時間目には出ないで早退した。
その日はずっと泣いていた。あんなに心を許していた千尋の本当の気持ちを聞いて裏切られたようだった。蒼依は私を好きではなかったことに傷ついた。そして、欲しいものを何でも買ってくれる人と思われていたのが悔しかった。私はあの一瞬で心がなくなってしまった。人を信じる心を見失ってしまった。
喪失感
心に隙間風が吹いた気がするのは何故だろうか
喪う 失う それは人が生きているから来る
必ず起こり得る終わり
人の心は硝子の器に入った水のようだから
だから失う怖さ 喪う嘆き 一雫の雨
例えそれがどんな些細な出来事
何気ないことであったとしても
喪失感があるから人は人であるということを
忘れないのであれば、それは鏡に映る自分の姿を
そして心を認識できるのではないだろうか
嘆きも痛みも苦しもないのであれば
【映らないでもがく自分を】喪失するのだから
僕が大学生
京都から山陰道沿いに
大きな藁屋根の集落があった
それはとても異様な風景で
心に深く刻まれた
僕が子供の頃
自転車で坂道を下りていった先に
いつも水が溜まっている場所があって
覗き込むとミズスマシやタイコウチなんかが
たくさんいた
僕が小学校の
校庭で
逆上がりの練習をしていると
青と茶色の客車列車がディーゼル機関車に引かれて
通り過ぎていった
友達とプールの帰り道
駄菓子屋の店先で
かんとだきを買って食べながら歩いた
僕はとても日焼けして
クロンボ大会にクラス代表で出た
商店街の魚屋の
店先にドジョウが
泳いでいた
食べてみたかったけど
うちの親はそのドジョウを水槽に入れた
喪失感
そんなものはないけれど
色々な思い出がまだまだ眠っていると思う
父が亡くなり母が亡くなり、日に日に喪失感が増している。もっとああしてあげたかった、こうしてあげたかった、と自責の念というのかな、こころが一杯になる。
半年ぶりの散歩
高架下に漂う煙と煙草の匂い
あいつから貰うセッタ
ライターはガス切れ
仕方なく口元から奪う火種
クラクラする14ミリのタール
少し肌寒い帰り道
拭えない喪失感
とほんの少しの寂寞
夏が終わる
「それでも私たちは幸せな方だった」
推しているバンドが解散した。
それでも私たちは幸せな方だった。
解散宣言はライブでだったし、その数ヶ月後に解散ライブ開催。
ラストアルバムのベストアルバムには新曲収録。
「ほら、私たちは恵まれている方だよ」
「公式サイトで解散を告知するだけのバンドやアイドルグループがどれだけいると思っているの?」
「そうだよね……私ら幸せな方だ」
他のバンドやアイドルグループと比べたって仕方ないのに。それに、そんなの、そのバンドやアイドルグループの人たちやそのファンに失礼だ。
それでも、そうでもしなければ、耐えられない気がした。どうか許してほしい。
ぽっかりと心に穴が空いたようだ──という表現がまさにぴったりだ。
その穴を埋めるために、私も彼女たちも、色々なことに手を出したり、思い出したかのように婚活を始めたり、仕事に打ち込んだり……
それぞれの道を歩みつつ、時々会って思い出話に花を咲かせ、再結成を待ち望む日々が続いた。
「もうさ……このまま再結成しなくても良いんじゃないかって思えてきた」
そんなあるときのお茶会で、ぽつりと呟いた子がいた。
私も心の何処かで思っていたこと。
「伝説は伝説のまま。思い出はこのまま綺麗なままでいいんじゃないかって」
解散して何年経っただろう。
新たな推しを見つけた子、二次元を覗き込む子もいたし、結婚したり、子供を産んだり、音信不通になった子もいる。
「今、再結成しても、昔みたいに追いかけられないし」
そう言う彼女は五年前に子供を産んだ、いわゆるシングルマザー。
「そうだね……」
私の他にも同じことを思っている子がいることに安堵する。
「私も」
そう言う私も結婚が決まっている。しかも結婚後は海外赴任する彼についていくのだ。少なくとも五年は向こうにいることになるだろう。
自然と窓の外を眺める。
あの頃、みんなでよく集まっていた店は、どんどん無くなっていった。
最後に残ったこの店も、いつまであるかわからない。
形あるものは、すべていつか無くなる。
永遠とか、絶対とか、そういうものを信じることができなくなるのが大人になることだと、彼らは言っていた。
推しのその言葉なんて、実感したくなかったよ。
────喪失感
虹の橋を渡った愛犬、愛猫たち。何度経験しても慣れない別れ。悲しくて辛いからもう2度と動物は飼わない。激しい喪失感を味わうたびにそう思う。けれど動物と過ごす楽しくて幸せで、ちょっと騒がしい、けれど癒しの日常のない生活のつまらなさに耐えきれず、新しい家族を迎えることをやめられない。だから、人よりずっと早く尽きる命と過ごす尊い時間を大切にしながら、目一杯愛を伝えて最期の時まで側にいよう、守り抜こうと決めている。
私の欠片
じゃあね
さよなら
ここには戻れないけれど
このアカウントでの投稿は終了します。
読んでくれてありがとう!
また新たにアカウントを作って投稿するつもりなんで、また読んでいってください。
喪失感
作品No.163【2024/09/10 テーマ:喪失感】
母方の曾祖母が亡くなったとき。
母方の祖父が亡くなったとき。
父方の祖父が亡くなったとき。
父方の祖母が亡くなったとき。
そして、昨年の十一月と今年の五月、約半年の間に相次いで、父方の伯父が亡くなったとき。
この約三十年間。近しい親戚との別れを、いくつも経験してきた。
不思議なことに、〝近しい親戚との別れ〟と一口で形容しても、私の中でその喪失感には差があった。
特に、私達姉妹の面倒を幼い頃から見てくれた母方の曾祖母と、年に数回顔を合わせる程度の父方の親戚とでは、私の中で明らかな喪失感の差があった。父方の親戚の命日は憶えていないくせに、母方の曾祖母と祖父の命日はしっかり憶えているところも、その差が読み取れるだろう(もっとも、母方の祖父の命日を憶えているのは、自身の誕生日の二日前という、なんとも憶えやすい日であることも理由の一つなのだが)。先日の母方の曾祖母の命日に、花束を持って線香をあげに行ったのだって、母の実家の方が自宅から近いから、という理由だけではないはずである。なんなら、ここ数年、私は曾祖母の命日に線香を欠かさずあげにいっているくらいだ。父方の親戚に、そこまでしようとは思えない。
こんな自分が薄情だ——とも思う。でも、それも致し方ないとも思う。
かかわりがあればあるだけ、思い出があればあるだけ、その人との別れはいつまでも残り続けるのだから。
なんでもない日にふと感じる喪失感
目から全てを吸い取られたように一点を見つめ起き上がることすらできない感覚。それでも時間は進み現実を生きている。
『喪失感』
--有ることが難しいから
ありがとうと言うんだよ--
中学時代の職場体験
薬局のおじさんが言ってたっけ
喪失感を感じたあと
この言葉が身に沁みる
喪失感
朝目覚めると、泣いていた。
哀しい夢を見た。
夢の中で叫んでいた。
幼子のように
地団駄を踏むように、泣いていた。
何かを失う夢だった。
喪失感と共に目覚めた今朝。
失ったものを埋めるように
現実を生きた今日だった。
貴女に言い付かった五年の旅を終え、貴女のところへ戻った俺が目の当たりにしたのは、貴女の庵のあった場所に建てられたひとつの小さな碑だけでした。
村の者に貴女が二年も前に亡くなっていたと聞かされた時の、体中から力が抜けるような底無しの喪失感を、今でも鮮明に覚えています。
ですから、こうして貴女が何度も何度も生を受けること、そしてそれを間近で見守れることは、俺の心を何より慰め、幸福で満たしてくれるのです。
あの恐ろしい喪失感を、俺が感じることはもうないでしょう。
貴女の魂があの大きな廻り続けるものに回収されるまで、俺は貴女にお供します。そして貴女の魂が回収される時、俺たちも共に回収され、あの大きな廻り続けるものの一部に戻ります。つまり、貴女と本当にひとつになれるのです。
ああ。俺は貴女を失うことが二度となく、あんな喪失感や息のできないほどの悲しみにも金輪際浸らなくていい。
そんな無上の幸福を与えられていることに、俺は心から感謝しているのです。
【喪失感】
固く閉じていた目を開く
窓の外はとっくにあさを迎えて
容赦なく僕に現実を突きつける
それから逃れる様に寝返りを打って
ユメで出会えたきみとの記憶を反芻する
最後にきみに触れられたような気がするのに
その感覚もぼやけてユメの境界線と共にふやけていく
確かにきみの手の温度が感じられたはずなのに
エアコンで冷えたシーツに取られていく
少しばかりユメの中へ戻れないか
身を捩って抗っていたが
今日もきみはユメの中へ消えていってしまった
2024-09-10
「ただいま」
何も返ってこない暗闇にそう呟く。
部屋を見渡すと、自分好みではない小物が並ぶ棚。
サイズの合わない服。
使われない家電。
残ったのは喪失感だけ