『喪失感』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
私が初めて惚れた人は、高級妓楼の妓女だった。
彼女は、色では無く、芸を売る妓女だった。
将棋や囲碁などの盤上遊戯と、二胡の演奏が評判の妓女だった。
容姿は整い、美人の部類だが、此れと言った特徴は無い、
どの街にも一人は居そうな普通の娘だった。
どこか儚げで、優しく、柔順な彼女は、瞬く間に値は吊り上がっていった。
武官の私でさえ、三カ月に一回通うことが限界な程だった。
彼女に身請け話をした、そんな矢先の事だった。
父が、亡くなったのだ。
亡き母は、父から最も愛された妾だった。
其の子たる私は、本妻から真っ先に家を追い出されたのである。
まさか、この時は……家督を取り戻すのに四年もの月日が掛かるとは、
思わなかった。
やっとの思いで、早馬を走らせ、彼女に逢いに行った。
すると、彼女は私の顔を見て……、涙を流したのである。
私は思わず、彼女に駆け寄り、抱きしめる。
そして、絹のハンカチを差し出した。
「あゝ、良かった。貴方を信じて……。」と、彼女は泣き崩れる。
「翡翠」私は、彼女の名を呼ぶ。
「はい。」彼女は、俯く顔をそっと上げる。
其の顔は、涙が溢れながらも喜びに満ちていた。
「ごめんね。迎えに来るのが、遅くなって。」と、私は穏やかな声色を保つ。
見栄を張り、溢れる感情の涙をぐっと堪えながら…。
「あなた、」
Jはそう言いかけて、止めた。
こんなことを他人に対して言うのはどうかと思ったからだ。
金の砂粒一つ一つにひどく熱がこもるこの真昼に、JはVのその日の話を聞いていた。
「それで、お前はなにか面白い話はないのか?」
耳にタコができるほどされてきた質問。
毎回毎回、面白い話とやらを考えて来ているつもりだが、いつも本当になにも浮かばない。
「ないわ」
そう言うとまたかとでも言うように目をぐるりと一周させてつまらん、とはっきり言う。
「お前も旅にでも出て色々知るべきだ」
これもやはりうんざりするほど言われてきた。
「私はここの薬師よ?」
辟易として前も言ったような言葉を返す。同じ毎日を繰り返しているかのような感覚。
変わらぬ日々を綴るような時間を過ごし、Vは家を去っていった。
暗く、広くなった部屋は少し涼しい。
いつもと変わらない一日は、まだ終わっていない。
真昼の日差しの刺激の記憶だけを残して夜を迎えた素肌のように、Jの感覚にはまだVが生きていた。
肺、いや、心臓か、そのあたりを風が吹き抜けていったような寂しさを覚え、Jはぼんやりと椅子に座る。
「やっぱり、」
「あなた、砂漠の真昼みたい」
誰もいない夜の空白に向かってJは言葉をこぼした。
こんなことを他人に対して言うのはどうかと思ったからだ。
喪失
喪失した
何を?
それが解らない
ただ胸のあった所に
摺鉢状の穴が
爆撃されたのだ、と気付いた
昨夜の空襲警報の耳鳴り
ただただ流れ落つ涙
胸の穴に溜まる
どんどんと溜まる
ああ ほら 月が映るよ
哀しみの凝(こご)った 月が映る
私は月を涙ごと飲み干す
そうしたら喪失した何かが解るかもしれない
そして 哀しい と思ったが
それでもなお
喪失した何かが解らない
不意に
感情の記憶 だ
感じる という記憶
そのものを喪失したのだ
喜怒哀楽のうち 哀しみ一つだけ残っている
月がそんな僕を哀れんで
笑った
思い出は思い出さなきゃ意味がないように
喪失感は何かを失ってはじめて"気づく"ことに意味がある
何のために生きているのか?親が私を生んだから。
生きている理由なんてただそれだけだし、それでいいと思っている。
何も失っていない、必要な物は大体目の前にある。日常生活でこれといった不満もない。
ならこの喪失感は何なのだろう。昔からこうだっただろうか? いつから私の手は、心は、こんなに冷たく熱を通さなくなってしまったのだろう。
知っているなら誰か教えてほしい
この隙間を埋めるにはどうしたらいい?
愛は金では買えないだなんてよく言ったものだ。
君に振られて3日が経ったよ
君は何してるかな
私はね、君に振られて空いた穴が塞がらなくて困ってるよ
おかしいよね、浮気されたのにまだ君のことが好きって
ごめんね、だから嫌いになったんだよね
まあそんなことはもうどうだっていいや
今日もまたアニメ見て喪失感を埋めようとがんばるね
#喪失感
#81【喪失感】
大好きなバンドが解散すると知った日は
大好きな人に振られた時より辛かった。
解散理由もわからないまま
彼らはいなくなった。
ラストライブは天井席。
どれだけ叫んでも私の声なんて届かないと
わかる距離だったから
しっかり目に焼き付けなくちゃと思いながら
流れる涙を止めることもしなかった。
視界が滲まないように
シャッターを切るように瞬きをしていたと思う。
心にポッカリ穴があいた、なんて言葉じゃ
足りないくらいの喪失感。
何を糧に生きていけばいいの…?と
真剣に思っていたと思う。
若かったのだ。悲しくて痩せちゃうくらいには。
失恋には新しい恋。
推しの解散には新しい推し。
まぁ、私の喪失感なんて
所詮その程度のもの。
時間が経てば、他で埋められる。
多分、本当の悲しみと言うものを
有り難いことに私はまだ知らないのだ。
本当の喪失感を知ったとき
私は立っていられるのだろうか。
バイバイ
僕は、母を殺した。
理由は単純にただ殺したかっただけ
ねぇ母さんあの日を覚えてる?
僕を殴って「死ね」って言ったこと。
あれ、すごく痛かったんだよ?
お母さんはのうのうと生きて、自分はこんなに苦しむって少し不公平なんじゃないかな?
僕はその日までどんなことにも耐えた。蹴りも、殴りも、痛々しい暴言も
「あんたなんか生まなきゃよかった」
この言葉を聞いたとき僕はどう思ったか考えたことがある?
僕は、おもいっきり母の中核に向かって刃を向けた。
そうすると母が苦しそうにあがきもがいた。
刃先がどんどん真っ赤に染まっていく。
「ハハッ」そう呟くと同時に
母が蚊が泣くような声で言った
「ごめんね、正ちゃん、ええおかんになれんくて、ちゃんと愛してあげれんくて、ほんまにごめんなぁ、うちの分までちゃんと幸せになるんやで」母はそうやって安らかに息を引き取った。
その時にはもう涙が流れ始めていた。
真っ赤に染まった刃物が涙によって薄れていく。
「正ちゃんはうちの一生の宝物や」
あぁ、あの頃の母ちゃんや
お題「喪失感?」
左目、君の左目。
お水をあのグラスで一杯飲んでまた寝て。
平気だって言いながら仕事へ出かける君の目。
誰にも話さない
くだらない話は全部私だけにしてよ。
猫を愛でるみたいに。
左目、君の可愛い右目が恋しがってるよ。
早く会ってあげて
っていっても君のその高いお鼻は
彼らを会わせてあげもしない。
苦しいよ、君に会えなくって。
寂しいよこの真っ暗の心にも、君のスペースがあったって
知ったよいつまでも、そこにいてほしい。
つたない私の言葉を信じてほしいの。
だって、泣き虫の、
だって、泣き虫の、
暗い雲の下で、倒れてる私、
君しかいない私。
君から話しかけられて何度も君と屋上へ行って
君のつま先の上で踊って。
何度も、何度も。頭の中を超えて壮大な夢の中で。
君の君の君の君の声。
早く早く早く聞かせて。
この心の深いここには、まだ
君の形が残ってるんだからね。
だって泣き虫の、私。
誰も話しかけないよ、静けさが耳をだめにして、
心から電気を奪って、君の形しか分からないんだもん。
君も平気じゃないんだから、私と二人で一つになろう、
左目と右目。
後悔する必要はない
だってもうなっちゃってんだもん
これからどうするか が大事
そして案外同じ悩みを持った仲間は多い
喪失感
失ったものは2度と戻らない。
亡くしてからその大切さに気づいても、もう遅い。
溢れる涙も、締め付けられる胸も、息もできなるほどの苦しみも、
どれだけそれが大切だったか、
その全てが語っているというのに。
もう一度元に戻れるのなら…
いや戻れなくても、また一からやり直せるのなら…
今度こそ大事に大事にするのに。
そう、君がいない部屋のベッドで
君が好きだった月夜に誓う。
ぽっかり穴があいたみたい
いつからだっけ
そうだったっけ
たくさんたくさんここに詰め込んで
なにか だれか
なんでもいいからって
けれどなくしてみて思うのは
このままでいいかもしれないってこと
夜空を見上げたら
月明かりが、ほら
喪失感
あなたの心へ
直接問いかけてます
あなたの目の前に
あるいは手の中に
届けることば
あなたの心との
向かい合わせに
ことばとおもいの
交わりの可能性を探す
すべての終わりが
すべての始まりという
あなたの無言の問いかけに
私は沈黙を持って反対した
今ここにある事実は
まだ終わりを迎えていない
今ここにある現象は
まだしっかり動いていた
それでも
あっという間に
引き離され
逃げ出せない束縛
気づけば砂時計の流れ
時は待ってくれない
距離だけが離れていく
もう元へ戻せない
アラームの危険な赤
感情が追いつけない
今の思いが大事でも
願いは遠ざかり
やがて消えていく
頬をつたって消える
明けることのない夜の涙
喪失感
全てを無くした気になった。
今まで信じていたものが、生き抜く為にしてきたことが、
今の自分を追い詰めていたのだと、気付いた。
こころが、心臓を鷲掴みにされるように、胸が痛くて、悲しくて、寂しくて、絶望して、毎日涙がこぼれた。
心細くて仕方がなかった。
それは今もかもしれない。
・喪失感
兵士たちが、目を抑えて呻いている。
老夫婦が、泣き喚いている。
せかされて、彼女は彼らに踵を返した。不意に、誰かが彼女の着物を掴む。
シワシワの手だった。彼女は無造作にそれを振り払う。
行かないでくれ、かぐや姫。
その言葉は、届かない。
***
「おかえり、カグヤヒメ01」
彼女が目覚めたとき、目の前には柔和な笑顔があった。最新型AIである彼女を開発した、若き天才エンジニアである。
人の心をもつロボットをつくること。それが彼の目的だった。そのためにもう何度も、架空の世界でシュミレーションしている。
さて、今回の収穫はどんなものか。彼は一歩、彼女に近づいた。
「気分はどうだい?」
「異常ありません」
ふうむ、と、彼はまじまじと彼女を見つめる。その口元は、みるみるうちに緩んでいった。
彼女はあの世界で、感情を手に入れていた。そう確信するに足る証拠を見つけたのだ。
「異常がない?じゃあこれは何かな?」
そう言いながら、彼は彼女の瞳に触れる。瞬き一つしないで、彼女はその手を受け止めた。
するり。その手が瞳から離れたとき、彼の指は、わずかに濡れていた。カグヤヒメ01のボディは、人間と全く同じ機能を搭載している。
そう。悲しければ涙を流す、というように。
「ねえ。君は、悲しかったんだよ。あの世界で、愛した人たちと別れることが」
歓喜の声が溢れそうになるのを必死に押し殺して、彼は彼女にそう言い聞かせる。ちょうど、幼子をあやすように。
彼女の目から、涙が溢れた。
混乱する意識の中で、彼女はお爺さんを思った。お婆さんを思った。帝を思った。もう二度と戻れない、失われた日々を思った。
その気持ちの名を、彼女はまだ知らない。
題:喪失感
喪失感しかない人生なら
私はこの世からとっくに
いなくなっていたと思う。
私が今ここにいるのは
立ち直れた訳では無いし、
喪失感から抜け出せた訳でもない。
ただ、大切だと思う人が増えただけ。
一番、喪失感を感じたのは
おばあちゃんが家からいなくなった時
施設に入ることになって
おじいちゃんに差し入れしに行った時
「おー! 来たか」
って声も
そこにおばあちゃんがいない
そんな事実を毎回感じた
来る日も来る日も……
ちゃんと、生きているのに
いつもいる家にいないってことが
とてつもなく……辛かったのを
今でも覚えてる──
(2023.09.10/喪失感)
喪失感
12月
何ともないことだ
と自分に言い聞かせても
どこか寂しくて
未だに君を想ってしまう
ふと気が付いた時に
浮かんでくるのはいつも君の笑顔
色んな顔を知っている筈なのに
いつも思い出すのはやっぱり笑顔
その笑顔を僕がずっと守って行きたかった
叶わなかった
僕は君と出会ってから冬が大好きになった
君の誕生日やクリスマス
幸せだった
あの時は世界が輝いて見えた
今は笑顔の君はもういない
大好きな冬が大嫌いにもなれない
ただ虚しさで溢れる季節となった
君はもう僕のことなんか忘れて
きっと違う人と笑いあってるんだろう
僕はまだひとり
君しか見えなくて
何年か前の事。
まだ涼しい朝方に、人気のない公園で二人はブランコを漕いでいた。
特に用事があったわけじゃない。ただ行きたくなったから。
こんなワガママに付き合ってくれるなんて、貴方は優しかった。
二人は特に何か言う訳でも無く、ただブランコを漕いでいたから、
キイィ、キイィと鉄が軋む音だけがして。それがどこか寂しかった。
そして私がなにか話そうとして、口を開こうとした瞬間だった。
貴方がこっちを少し悲しそうな顔で見て
「俺ね、もう海暗と一緒にいるの疲れちゃった。もう別れよう?」
冷たい声だった。だけどいつもの温かさも少し残っていて私はそんな声で言われた突然の発言に
驚愕する。
別れよう、この言葉が私の頭の中で狂ったメリーゴーランドの様ぐるぐる回る。
別れたくない!嫌だ!なんで!
という言葉が頭に浮かぶ。だけどそんな言葉は口に出来ない。
私は貴方と違う気持ちを持つことが嫌だったから。
僅かな沈黙の後私は震えた声で
「…うん、分かったよ。今までありがとう。」
と言う。本当はこんなこと言いたくない。なのにこんなことを言ってしまって
私は溢れる涙を堪えられずにいた。
私の言葉を聞いて、この公園から去っていく『君』。
私はそんな『君』をみて、必死に行かないで、って言おうとした。
だけどそんな言葉、出なかった。
私の口から出るのは、『君』との別れに強い喪失感を抱いたが為の呻き声だけだった。
そして今。
私は相変わらず独りだ
やっぱり『君』が戻ってくることをずっと待っている
あの時から抱いてる喪失感は一向に消えない。あの時のことは今でも忘れられない。
「貴方しかいないの…この想いを、晴らしてくれるのは…」
と、独りの哀しい部屋で呟いていた。
喪失感
何かを失った感じ
おおよそは錯覚
実は始めからない
あるのが錯覚だったんだよ
自分のものではなかったんじゃない
なくはないけどさ
それは問題が知らずに解決した
その時に味わう一瞬の喪失
物体からの解放感
なくなってはいない
ただ解けてしまった感じ
何だったかすら危ういそんな存在
ふと必要になると現れて告げることに
たまに誰かの役に立つくらいの問題
喪失感って別に悪くはない
もし悪く捉えてるとしたら
その存在に依存してたってこと
きっと生きやすくなると思う