何年か前の事。
まだ涼しい朝方に、人気のない公園で二人はブランコを漕いでいた。
特に用事があったわけじゃない。ただ行きたくなったから。
こんなワガママに付き合ってくれるなんて、貴方は優しかった。
二人は特に何か言う訳でも無く、ただブランコを漕いでいたから、
キイィ、キイィと鉄が軋む音だけがして。それがどこか寂しかった。
そして私がなにか話そうとして、口を開こうとした瞬間だった。
貴方がこっちを少し悲しそうな顔で見て
「俺ね、もう海暗と一緒にいるの疲れちゃった。もう別れよう?」
冷たい声だった。だけどいつもの温かさも少し残っていて私はそんな声で言われた突然の発言に
驚愕する。
別れよう、この言葉が私の頭の中で狂ったメリーゴーランドの様ぐるぐる回る。
別れたくない!嫌だ!なんで!
という言葉が頭に浮かぶ。だけどそんな言葉は口に出来ない。
私は貴方と違う気持ちを持つことが嫌だったから。
僅かな沈黙の後私は震えた声で
「…うん、分かったよ。今までありがとう。」
と言う。本当はこんなこと言いたくない。なのにこんなことを言ってしまって
私は溢れる涙を堪えられずにいた。
私の言葉を聞いて、この公園から去っていく『君』。
私はそんな『君』をみて、必死に行かないで、って言おうとした。
だけどそんな言葉、出なかった。
私の口から出るのは、『君』との別れに強い喪失感を抱いたが為の呻き声だけだった。
そして今。
私は相変わらず独りだ
やっぱり『君』が戻ってくることをずっと待っている
あの時から抱いてる喪失感は一向に消えない。あの時のことは今でも忘れられない。
「貴方しかいないの…この想いを、晴らしてくれるのは…」
と、独りの哀しい部屋で呟いていた。
9/10/2023, 2:07:43 PM