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「あなた、」
Jはそう言いかけて、止めた。
こんなことを他人に対して言うのはどうかと思ったからだ。
金の砂粒一つ一つにひどく熱がこもるこの真昼に、JはVのその日の話を聞いていた。
「それで、お前はなにか面白い話はないのか?」
耳にタコができるほどされてきた質問。
毎回毎回、面白い話とやらを考えて来ているつもりだが、いつも本当になにも浮かばない。
「ないわ」
そう言うとまたかとでも言うように目をぐるりと一周させてつまらん、とはっきり言う。
「お前も旅にでも出て色々知るべきだ」
これもやはりうんざりするほど言われてきた。
「私はここの薬師よ?」
辟易として前も言ったような言葉を返す。同じ毎日を繰り返しているかのような感覚。
変わらぬ日々を綴るような時間を過ごし、Vは家を去っていった。
暗く、広くなった部屋は少し涼しい。
いつもと変わらない一日は、まだ終わっていない。
真昼の日差しの刺激の記憶だけを残して夜を迎えた素肌のように、Jの感覚にはまだVが生きていた。
肺、いや、心臓か、そのあたりを風が吹き抜けていったような寂しさを覚え、Jはぼんやりと椅子に座る。
「やっぱり、」

「あなた、砂漠の真昼みたい」
誰もいない夜の空白に向かってJは言葉をこぼした。
こんなことを他人に対して言うのはどうかと思ったからだ。

9/10/2023, 2:48:25 PM