『君に会いたくて』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
《君に会いたくて》
書きたいなー
2026.1.19《君に会いたくて》
会いたい。
込み上げる衝動に、気づけば走り出していた。
会えないことは分かっている。伸ばした手が届かないことなど、最初から気づいていた。
それでも走らずにはいられない。自分の気持ちを隠して何もない振りができるほど、器用ではなかった。
息が切れて、足がふらつく。苦しさに視界が歪むが、それでも足を止めようとは思わない。
いっそ風になれたのなら。こうして走るよりも早く会いに行けるのに。姿が見えなければ、形がなければ、側にいることも許されるような気がした。
所詮は夢。それでも考えてしまうのは、きっと自分が弱いからだ。
疲れを誤魔化すように、力強く地面を蹴り上げる。俯きそうになる顔を上げて、前だけを見つめた。
会えないことは分かっている。手を伸ばしても、棘のようなギザギザした葉が触られるのを拒むのだろう。
でも、会いたい。幼い頃に見た、怖いモノから守ってくれた大きな背に触れてみたい。
夕暮れから逃げ出すように、傾く陽を背に只管に走る。
息が苦しい。体が痛い。目が眩んで、前が見えない。
それでも、もう一度だけ。
不意に、風向きが変わった。背を押されて、速度を上げる。
会いたい。ただそれだけを願い。
残る力を振り絞り、地面を蹴って飛び上がった。
風が葉を揺する。
今の時期には珍しく、控えな風が吹いていた。服の裾や髪に触れるかのような弱い風に、男は僅かに目を細めた。
「――帰ってきたのね」
いつの間にか、男の背後には女の姿があった。赤い着物を身に纏い、辺りで漂う風に手を伸ばす。
「おかえりなさい。皆、あなたを待っていたわ」
柔らかく微笑む女の裾が、ふわりと揺れる。まるで戯れるように女の周りを風がぐるりと回っているのを、男は表情を変えずただ見つめていた。
ざわりと、周囲の木々が騒めいた。風に揺すられたのではない。女の元に在る風以外には、そよ風ひとつ起こってはいない。
ざわざわと、草木が音を立てる。まるで風の戻りを喜ぶかのように。
「南天」
「なぁに?柊」
女に呼びかけながら、男はそれ以上何も言わなかった。
目を逸らし、咲かせた白の花を見る。ただ一人のために咲かせた花は、今年もまた愛でられることなく散っていくのだろう。
「ようやく帰ってきてくれたのに、相変わらずね」
「あいつは人間だ。風ではない」
「そうね。人間だったから、隠されて帰れなくなった……人間ではなくなったから、こうして帰ってこられたのよ」
穏やかでありながらも、無慈悲な言葉。強く握りしめた手を不安がるように、風が男の周りをくるりと周り離れていく。
「このお庭から出ては駄目よ。いい子だから、これからはお庭とお屋敷の中で遊びなさいね」
過ぎていく風に、女が微笑み声をかけた。
了承するように、風が枯草を舞い上げる。庭の木々と遊ぶ風を見つめ、女はふっと吐息を溢した。
「あの子は戻ってきたの。どんな形であれ戻ってきたのだから、それを喜ばなくては」
男を見つめる赤い目は、静かな悲しみに染まっている。
男は何も言わない。女の目を見返しながら、在りし日の賑やかであった庭を思う。
風がただの娘であった頃。庭も屋敷も、とても賑やかだった。
毎日のように、娘の笑い声が響いていた。両親を愛し、庭の草木を愛した娘。その笑顔を、誰もが愛していた。
一度だけ、男の姿を娘は見た。あれは山から吹いた邪気が庭に入り込もうとした時だったか。
驚いたような丸い目と綻ぶ笑顔を、男が忘れたことはない。
「ここにいる限り守ってあげられる。そうでしょう?」
「――あぁ」
どこか願うような女の言葉に、男は無感情に呟いた。
柊と南天。鬼門、裏鬼門にそれぞれ植えられた木は魔を払う。この庭にいる限りは、確かに守られはするのだろう。
だが、今更守った所で何になるというのか。
胸の内で呟く。娘の笑顔も、弾む声も戻りはしない。長く無人の屋敷はひっそりと朽ちかけ、人の手の入らない庭は荒れ果てている。
元には戻らない。なくなってしまったものが帰るなど、決してありはしないのだ。
沈黙する男と女の間を、風が吹き抜けていく。泣くのを堪えて俯いた女は、慰めのように髪を揺する風に顔を上げ微笑む。
その頬を濡らす滴を、風が拭い去っていく。風となっても、娘の優しさは変わらないらしい。短く息を吐き、男は咲いた白い花に指先を触れさせた。
「今年もまた花が咲いた。南天の実も、赤く色づいているだろう……お前が愛したものはお前を待ち続け、残っていた。ここはお前のための場所だ」
花が揺れる。男の指を掠めて、風が過ぎる。
花の香りの混じり、微かに懐かしい匂いが鼻腔をくすぐる。娘の匂い。見えないけれど、ここに娘はいるのだ。
だが風に娘を感じるほど、男は娘に会いたい気持ちが募っていく。ここにいるのに触れられない。姿も声もないことが、苦しかった。
おかえり、とは言えない。
女のように、すべて受け入れることが男にはできない。
過ぎる風を追いかけ、手が彷徨う。かつては痛みを与えるからと触れるのを拒んでいたはずの男が、今は娘に触れたいと求めている。その滑稽さに男の口元が歪んだ。
会いたい。
会いたくて、寂しくて、苦しくて。
ただ感じる娘の気配が、愛おしくて堪らなかった。
20260119 『君に会いたくて』
「椿が落ちた。」
椿が雪の上に落ちた。
ぽとっと呆気なく落ちた。
美しく力強く咲き誇る椿。
私の誇りで大好きな椿。
力無く雪の上に落ちた。
花弁が散った。雪に少しずつ染み込むように。
時は今より遥か昔。
幕府が滅び江戸が終わり新たな時代へと移り変わる
誰にも知られていない静かな時代。
そんな時代にも確かに人々は暮らしていた。
「貴方。またお弁当忘れてるわよ。」
下駄の音を荒々しく響かせ走ったのは私。
「あぁ。すまん忘れていたよ。」
私よりも頭2個分ほど大きな背丈は貴方。
「ありがとう」貴方は言った。私の頭を撫でながら笑う。
貴方はまだ私を幼く思っているみたい。
「いってらっしゃい。」
私は寂しい想いを押し殺して貴方に手を振る。
家庭を背負った貴方の背は大きく見えた。
冬が訪れた。
寒く冷える朝は辛い。
けれど私には貴方がいる。
貴方の大きな胸に抱きついた。こうしておけばいくぶんか暖かい。
雪は降り止むようには見えない。
雪は足の先を埋め込むほどには積もった。
我が家の庭には椿が植わっている。
凍えるなか咲き誇っている。
この椿は私にとって大切で誇りだ。
彼が仕事に行く。
凍えるなか首に布を巻き、帽子を深く被っている。
「気を付けて。いってらっしゃい。」
そう言って見送った。
そういえば最近は人斬りが増えているらしい。
物騒なものだ。昔とたいして変わらないが昔は対抗する手段があった。けれど今は刀を所持することは許されていない。襲われても自らを守る手段は限りなく少ないのだ。
この時代になり少しずつ電報というものが普及されている。遠くはなれていても素早く事を伝えることが出来る。
彼が仕事から帰ってこない。
もう11時を回りそうだ。
心配な気持ちもある。最近は人斬りも増えているのだ。大丈夫なのだろうか。
誰かが家の扉を叩いた。
「貴方?」
「電報であります。」
電報だ。誰が送ってきたのだろうか。
なんだか嫌な予感がするのだ。
「電報。10時47分頃 人斬りが今井橋周辺に出没。
人斬りにより─」
椿が落ちた。
雪の上に。
ぽとっと呆気なく落ちた。
椿が落ちた。
誇りで大切な椿が儚く散った。
花弁が散った。雪に染み込んでいく血液のように。
椿が落ちた。
あと一時間で仕事が終わる。
すぐに帰れる様に仕事を片付けていく。
何も問題が起こらない事を願いながら。
留守番中の犬を見守りカメラで見る。
へそ天して寝ている。
こんなにリラックスしてる姿を見ると、
早く会いたいと思っているのは
私だけではないかと心配になる。
きっと帰ったら跳んで喜んでくれると信じて、
私は今日も早足で帰る。
春がまだ芽吹かない。そんな冬の明け前に僕は未だに胸につっかえた何かを抱えて生きている。
窓の外からは夜明けも夕暮れも見分けのつかない色が滲んでいて、意味もなくため息が出た。
不安なのか緊張なのか、シャーペンを握る僕の手は不思議と強かったり弱かったりを繰り返す。
大人になるたびに思うんだ。
単純であれなくなる、その度に諦める理由が出来ていく。周りのせいにしたって、心で負けたのは自分だって自己嫌悪してしまうんだ。
消しゴムが黒くなっていくのを見ながら、
紙がしわくちゃになっていくのを見ながら、
僕は、また無心を拒んだ。
素直に生きれなくなってしまって、
優しさより先に都合が出るようになった。
手に力が抜けると、シャーペンがノートに転がる。
「努力」なんて言葉が頭を過ぎっても疲れたようなため息しか出なくて、更に自分が単純で生きれなくなったと実感して諦めが出た。
素直に言えなくなった。素直に泣けなくなった。
都合でしか生きれなくなった事がこんなに強張った世界を作ったんだ。
考えなければ恋しいだとか後悔なんてこと、気付かなくて済んだだろうに。
言わないよ。言えないよ。
言ってしまえば、言ったら、どう謝ればいいとか考えてしまうから。
喉が強張っり、目頭が熱くなる。
都合でしか生きれなくなった事を、
どう君に許してもらおうか。どう許せば良かったのか。
僕はペンを再び握ることもなく朝を待つことにした。それが諦めでも「疲れた」と思ったんだ。
題名『僕のせいで君のせいだった』
君に会いたくて
僕は君を書く
君に会えるのは午後七時
僕はどんな君に会えるだろう
『君に会いたくて』
会いたくて会いたくて震えると唄う曲があったっけ。
私はいま、寒波に震えてる。
駅から足早に駐輪場へと向かう。LINEはさっき既読になったばかり。待ち焦がれた君の後ろ姿を視界にとらえると、自然と頬が緩んだ。マフラーをしてはいるものの、薄着で僕の自転車のすぐそばで佇む君は、寒さに震えていた。吐息が雪と溶け合う。雪が世界を君だけに切り取ったみたいだ。
表通りに出ると、目の前を黒い影が横切った。強い風のなか、ムクドリの群れが次々と植え込みに集まり一斉に飛び立つ。
右手にポケットに突っ込みかけて、親指に
チリリと痛みを感じる。治りかけたひび割れが、いつの間にかまたパックリ口を開けている。
ホバリングして地面に一旦降りた一羽が、仲間の動きを真似て電線に飛んでいった。後から来た一群が次々とそれに続く。歩道橋をのぼって、幹線道路を見下ろして僕はひとり風によろけた。
いま会ったばかりなのに。
『君に会いたくて』
「君に会いたくて」
ぎこちないくらい早歩きになる。
見てる人に笑われてるかもしれない。
でもそんなことは関係ないんだ。
待ってる人がいるから。
会いたい人がいるから。
会わなきゃいけない人がいるから。
そのぎこちない歩き方で今日も最前列を目指し歩く。
君に会いたくて
下校時刻。靴を履いて外に出る。
君が降りてくるのを待つため、
校舎前のベンチに座った。
部活が今日はないため
靴箱にはどんどん人が集まるが、
未だ君の姿はどこにもない。
人の数が少なくなっていく。
今日は学校に来ていなかったのかもしれない。
諦めて校門の方へ歩みを進めた。
校門の前に着いた頃、後ろから声が聞こえてきた。
「待ってー!」
歩みを止めると背中に衝撃が走った。
後ろを向くと鼻を抑える君の姿。
私の姿を見つけて走ってきてくれたようだ。
「ちょうど良かった!一緒に帰ろ!」
君はいつもの調子で笑った。
君が来るのを20分ほど待っていたことは内緒にしよう。君に縋る醜い私の姿を
君の眩しい笑顔の前では晒したくなかった。
「これからの世界を動かすんだよ」
レアアースという言葉を、僕は彼女から教わった。
キャンパスの図書館前、
春の光が白く反射するベンチで、
彼女はそう言って笑った。
十七歳。
高校の制服のまま、未来の話をするのが似合いすぎる少女だった。
僕は二十歳の大学生だ。
年齢の差は、ほんの三年。
それでも、彼女はいつも少し遠くにいた。
大学では資源工学を学んでいる。
レアアースの研究は、環境と経済を両立させる鍵だと言われていた。
未来を支える技術。
希望という言葉を、学問として扱える世界に、僕は少し酔っていた。
アルバイトも順調だった。
株の勉強を始め、小さな成功を重ね、生活は驚くほど軽やかになった。
お金に追われない日々は、心まで自由にしてくれる。
お気に入りのカフェでコーヒーを飲み、夜はゆっくり本を読む。
「豊かさって、こういうことかもしれない」と思えるくらいには。
それでも――
ふとした瞬間、彼女のことを思い出す。
進路の相談をされた日。
「私、未来に行きたいんだ」
そう言って、目を輝かせていた横顔。
彼女は今も、どこかで未来を信じているだろうか。
年齢を理由に、連絡を取るのをやめたのは僕だった。
大人ぶったつもりで、ただ臆病だっただけかもしれない。
彼女のまっすぐな視線を、受け止める自信がなかった。
研究室の窓から、夕焼けを見る。
空はレアアースの元素図鑑みたいに、複雑で、美しい色をしていた。
僕は思う。
未来は、技術やお金だけでできているんじゃない。
誰かに「会いたい」と願う気持ちが、きっと原動力なんだ。
もう一度、彼女に会いたい。
十七歳のままの憧れとしてではなく、
それぞれの時間を歩いたあとで。
豊かに生きるって、
ただ気分良く暮らすことじゃない。
大切な誰かを思い出せる心を、失わないことだ。
君に会いたくて。
その想いが、今日も僕を未来へ進ませている。
君に会
い
たくて 完
『君に会いたくて』
おはよう
おやすみ
君と交わす言葉に
癒される
心暖まる
画面の向こうの
君に会いたくて
君に会いたくて。
僕は長時間のフライトを終えて、横浜空港に降り立った。
やがてロビーにたどり着き、大勢の観客の中から一人の女性を探し出した。
「淑恵さん!」
僕は声をかけた。
「あ、風雪さん!!」
女性は喜びの声を上げた。
二人は歓迎のあまり力強く互いの手を握った。
本当は抱きしめたかったが、周囲の目を考慮して遠慮した。
「宮崎県からようこそ、遠い所からわざわざありがとう」
淑恵さんは感謝を述べた。
「淑恵さんのような優しくて美人ならお安い御用だよ」
僕は言った。
「相変わらずお上手ね…。とりあえず、創作料理の美味しいお店で乾杯しましょう」
「うん、僕は幸せだな…」
二人は楽しい時間を過ごした。
なんて…。
こんな素敵な方がいたら労力は惜しまないんだけどね…。
おっとぉ? 門のとこにいるの、ケータ先輩だ!
サークル外で会えるなんて、ラッキーすぎるー!
って──先輩ってば、私に向かって手なんか振っちゃって、しかもなんか、うれしそうなカンジ?
いやまさかね、そんなはずは……。
「ノムラさん!」
「ケータ先輩、えっと、ぐ、偶然ですね〜!」
「や、偶然じゃないよ? 俺『君に会いたくて』待ってたから」
「……えっ」
私に?!
私に会いたくて、って言った?!
「ほら、これ。サークルの部室に忘れてたから、渡そうと思って」
「……あ、私のペンケース。ありがとう、ございます」
なーんだ。
忘れ物、かぁ……。
「や、本当は、その。忘れ物ってのは君に会う口実で、えーと……」
っ、私に会う口実って、どゆこと?
いや、まさか……?
「今日は帰り、一緒だったりする? その、彼女……ハタノさんと」
あーはい。
ハタノちゃん狙いってコトですか……納得。
「いえ、今日は一人なんです、スミマセ……」
「よかった! ノムラさんこの後、時間あるかな?」
よかった? ハタノちゃんがいなくて?
で、この後、って……。
まさかの、まさか?
「え、あ、はい。ヒマです」
「じゃあちょっと付き合ってくれるかな、夕飯奢るからさ?」
夕ごはんのお誘いぃいっ!
ヒャッホウ!
「ははは、はいっ、私などで、よろしければっ!」
「ありがとう! じゃ、行こうか。実は、相談に乗って欲しいことがあって、えーと……プレゼントを、その、」
あっ、嫌な予感〜。
「女の子に……なにをあげたら喜んでくれるのか、知りたい、っていうか……だから、協力してほしい、そんな感じ?」
「あー……了解、しました……」
女の子=ハタノちゃん。
なるほど、察しました……。
ってか、さっきから……上げられたり、落とされたりがね、もうキツかったし、うん。
いや、でもね!
これでもう、地の底まで落とされましたから!
なんなら地面に叩きつけられて、内臓飛び散ってますけど……ある意味、やっと落ち着いた!
泣泣泣〜〜〜!!
☆☆☆ バレンタインデー当日 ☆☆☆
「ノムラさん、これ。もらってくれるかな?」
「……へっ? え、だってあのとき、女の子にあげる、ってハナシで、」
「あれは! そういうことにしておけば、バレないかな〜って。つまり……よかったら、付き合ってください」
「……付き合う。ええと、買い物の相談とかに、」
「じゃなくて! 俺がノムラさんを好き、ってこと!」
「………………っ、〜〜〜、えええええっ?!」
ちょっ……待って待って待って。
現在位置:雲の上、って……どゆことデスカ?
無理ムリ無理、こんな上昇負荷にニンゲンが、なんならまだすっかり内臓散らばってたってのに、耐えられるわけ、ないよね?
こうなったらもう、肉体捨てて昇天するしか……。
ああもう、意識が飛びそうです! ヘルプミー!
「団長、旦那さま帰って来られましたよ」
そう声を掛けられて急いで玄関に向かう。
彼は仕事の関係で遠方に出掛けてた。
毎日通ってた訪問がないのはやっぱり物足りなさがある。
急いだその先に見慣れたその笑顔。
玄関先で彼はいつものようにそこに居て。
「なんだそんなに急いで出迎えてくれて。そんなに俺に会いたかったのか?」
にやりと笑いかけてくる。
そんな彼の脇をすり抜けて彼の乗って来た車の荷台の周りをくるくる見て回る。
「何かお土産ないですか?」
「このヤロ!久しぶりに会った友よりお土産とはひどい奴だ」
怒った調子で腕を振り上げて殴る真似をする。
それをひょいと避けて荷台を覗き込む。
「ちゃんと買って来たから落ち着け」
「君の好きな塊肉もあるぞ」
旦那の方を見ると穏やかにこちらを見て笑っていた。
久しぶりだなこの笑顔。
やはりこの顔を見ないと落ち着かない。
「旦那。無事に帰って来れて何よりです」
手を差し出して笑顔でそう返すと
「憎たらしいな。俺より土産の方が魅力的なのか君は!」
ひょいと肉をわたしの方から遠ざける。
笑ってはいるけど少し拗ねた様子にも見えた。
「そんな事ないけど肉は美味しい」
にこりと笑い返す。
旦那は苦笑いをして見つめ返して来た。
「まぁいいさ。たくさん食べてくれ。みんなの分も買って来たぞ。運び込んでくれ」
荷台にはたくさんの食べ物や雑貨が載っていた。
その声を合図に団員が次々と家の中に運び込み出した。
それを避けて旦那と見守ってると、思い出したように旦那は車の中から何かを取り出した。
「これを君に」
目の前に差し出されたのは豪奢なかんざし。
「これは…?」
「露店で見かけたんだがお前に似合うと思ってな。機会があったら舞台でも付けてくれ」
そっとそれを受け取るとキラキラと光るそれをまじまじと見つめる。
「気に入らなかったか?」
心配そうに顔を覗かれる。
「いや…大事に使わせてもらうよ。ありがとう」
ぎゅっと手のひらの中に包み込む。
「それはそうと…中に入れてもらえないのかな?出先から急いでどこにも寄らずにここに来たのだが」
「あぁそうだな。我らが財神を招き入れてもてなさなくては!!」
「君は俺の懐しか興味ないのかい」
やんわり笑われる。
「俺の居ない間君は何してたんだ?聞かせてくれよ」
「俺が居なくてもちゃんとやってたか?」
やっぱり旦那の笑った顔は落ち着くな。
「旦那なんか居なくてもわたしの演技は完璧です」
この数日旦那に会えなくて寂しかったよ。
顔が見れて嬉しいよ。
言葉には出さないけど。
すごく会いたかったよ。
🍁(君に会いたくて)
揮発性の私が空間に溶ける
散らかった立方体を私で満たす
それは際限なく
私が世界を満たす
それでも君はいない
死が世界の外にあるならば
君は外側から世界を覗いているのだろうか
私を見ているのだろうか
薄明光線のように
私の世界を照らす
ただ君に会いたくて、今日も鉄塔に登る
君に会いたくて
君に会いたくて
ボウルの中でバターを混ぜる。やわらかくなっていく感触だけに意識を向けていた。
お菓子を作っていると胸が落ち着く。
手順はもう身体が覚えているし、余計なことを考えずに済むから。
することもなくなり、オーブンをぼんやりと眺めていると、程なくして焼き上がりを知らせる音がした。
扉を開けると、甘い匂いが一気に広がる。
綺麗に色付いたクッキーを取り出して粗熱をとり、作っておいたクリームを挟んだ。
出来上がったそれを崩れないようにそっと箱に詰める。
変わらないな、と頭のどこかで思う。
それ以上考えないようにして、箱を閉じた。
バターサンドクッキー。
それは彼の好物だった。
会いたい、という気持ちをそのまま差し出す勇気がない。だから甘い匂いに包んで、理由を作る。
恋人なのに、と自分でも思う。彼が自分を拒むことなんてない。そんなことは、ちゃんとわかっている。
それでも、手は自然と逃げ道を用意してしまう。
何も持たずに行くより、何かを差し出す方が安心できるから。
染みついてしまった逃げ癖は簡単には治りそうにない。
玄関で靴を履きながら、紙袋を持った手を見下ろす。
紙袋の持ち手から、指に伝わる感触がはっきりしていた。
落とさないようにしているのか、早く手放したいのか、自分でもわからない。
これがなかったら、自分はどんな顔で彼の前に立つのだろう。
彼の家は然程遠くない。
少し考えごとをしていれば、すぐに着いてしまう。
歩き慣れた道を進んでいると、いつの間にか扉の前まで来ていた。
これまで何度も来ているはずなのに、来るたびに少しだけ落ち着かない。
そのまま扉の前で立ち尽くしてしまう。
ここまで来て今さら何を迷っているのか。
気持ちを振り払うように伸ばした指はインターホンに届く前に、一瞬、動きを止める。それでも構うことなく、そのままボタンを押した。
チャイムが鳴ってすぐ扉が開く。
「今日はいつもより早かったな」
「…そうですか?」
これで彼を誤魔化せるとは思っていない。
それでも彼は、すぐには何も言わなかった。扉に手をかけたまま、少しだけ目を細めてこちらを見る。
見透かすようでも、責めるようでもない視線だった。
きっと彼は、いつも扉の前で立ち止まってしまうことを知っている。
インターホンを押す前のほんの一瞬、時間を無駄にしていることも。
それを指摘しないまま、今日もこうして迎え入れてくれる。
そんな彼の優しさに今日も甘えてしまう。
促されるまま玄関に足を踏み入れると、後ろで扉が閉まる音がした。外の空気が遮られ、いつもと変わらない匂いが鼻に届く。それを確かめるように小さく息を吸った。
紙袋を持ち直して、クッキーを差し出す。
彼は呆れたような顔をしながらも口元を緩ませる。叱るでも、喜ぶでもない。ただ愛おしむみたいな表情が、何だか恥ずかしかった。
お菓子作りそのものは嫌いじゃない。
むしろ好きだと思う。
誰かに食べてもらえるのも嬉しい。
ただ、このクッキーだけは少し違う。
彼に渡すために作ったそれは、贈り物であると同時に、自分を守るためのものでもあった。
彼はこのクッキーが保身であると、きっとわかっている。
それでも何も言わず、拒まず、受け取ってくれる。
ありがたいと思う。
こんな自分を、そのまま受け入れてくれることが。
そんな彼にずっと甘えている。
いつまで、こんな風に理由を手にしてここへ来るんだろう。
その問いに答えを出さないまま、今日まで来てしまった。
もし明日、何も持たずに訪れたら彼は驚くだろうか。
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1/21 04:52 加筆修正しました。
君に会いたくて
あの人に言われた
「あんたの人生そんななのは、あんたの名前が悪いんじゃ。あの人の言う通りじゃ。」
色々な悲しみと色々な怒りと、
諦めに近い肯定。
だから、私の場合は、死神に会いたい。
きっと救いをくれるから。
できればイケメンで。
(後書き。)
できれば和装で^^
検索してみて。
神様の救い方は、色々で、自分に合わない思想も有ったり。
君に会いたくて
君に会いに行くよ
スマホだけじゃなくて
電話だけじゃなくて
手紙だけじゃなくて
君に会いたくて
君に会いに行くよ
自転車に乗って
車に乗って
電車に乗って
時代は変わっても
その行動力は変わらないよ
君に会いたいから
君に会いに行くよ
THE BOOMの星のラブレターを思い出したので。