『向かい合わせ』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
まひろと十里君って兄弟みたい。
目は口ほどに、というよりは頬は口ほどに。顔が赤らんでいくのが自分でもわかる。
うれしい。
えー、やめてよ。ウー気持ちわり。
俺だって嫌だよー。
嘘だ。そんなわけない。
ただ、相手からのそういう嫌悪感があることが、僕は知りたくなかった。
僕はゲイか?いや、ストレートだ。
いや、ゲイを嫌っているわけではないし、僕は自分を腐男子だと認めている。世間はメディアが盛んに布教しているように、セクシュアリティの多様性、を狂ったように叫びまくっているが。それでも、そんなのは上辺談話。好き、それだけで通じる世の中ではないのだ。
ある意味、腐男子、というのは逃げなのかもしれない。
この子かわいい、
最初にまひろにあったときに後ろに自然について行ったのも、僕の性的嗜好なのかもしれない。
最初話し時は彼と気が合うのがうれしくて、そして、彼から、僕らは似た者同士だ、と言われたときには無性に嬉しかった記憶がある。
だから、当然のように、喜んでくれるものと、ある意味わかった気になって期待していたのかもしれない。
兄弟みたいな仲で。恋人でなくてもいいから。
兄弟コーデを嫌われた日、向かい合わせの僕と君、その間にあったはずの鏡は、突如として透明な板に様変わりしていた。
あめのみ
そういうんじゃないんだよなぁ、と彼は思った。目の前にはどう言ったらいいのか、とテーブルに肘をつき、両手の指を組んでそこに額をつけている旅団長。
「あなたがどんな風に捉えているのか分かりませんけど、ともかくあまりおおっぴらには喋らないでください。さっき言ったように、そういうものでは――ないので」
言っている旅団長のほうが困惑している。最後のひとり、彼を「散々な目」に何度も遭わせている張本人は涼しい顔をしている。言っていいことと悪いことは言い聞かせてある、と。口止めする部分がずれている、と旅団長は頭を抱えていたが、彼には話がよく分からなかった。
彼の故郷ではそれを語ることはタブーではなかったし、少なくとも男性がそれを語るときに、こと相手のことを慮っていたかというとそうでもなかった気がする。いずれにせよ自分には早いか、縁の薄いことだと思っていたから真面目には聞いていなかったし、聞かされて興をもよおすこともあまりなかった。オルステラも同じかどうかは知らなかったし、だから秘するべきことだというならあえて逆らいたいと思っているわけではない。ただ、彼の見聞きしてきた範囲で考えるに、どうにも一貫しないものを感じさせていたため、結局それらの情報をどう扱えばいいのか量りかねていたというのが正直なところだ。片方でひどく関心をもっているかと思えば、もう片方ではタブー視するし、それに対して率直であるほうがいいということもあれば、控えめなのがいいということもある。だから分からなかったのだ。当事者である彼女から伏せるように言われたことは守っているつもりだったから、旅団長にこうして叱られるのは意外だったし、言うことにも彼の思っていることとははっきりとしたずれがあったから、言われたことに諾々と従うのにも違和感があったのだ。もっとも旅団長の口ぶりから推し量るに、彼女自身もどこかすっきりとしないものを抱えているのはなんとなく分かったので、いい加減に聞き流すこともできずにいた。
そして彼は自身がそれをどう捉えているのかを考える。彼の故郷の文化に照らすと、彼のスタンスは異常である。が、彼自身はそれについてはなはだ懐疑的だったし、そのたびにああいう目に遭うことには却って充足を感じている。安心というか、再認識というか、いかにも自分らしい気がするのだ。いや、「彼女に」そういう目に遭わされることに強い納得を覚えていた。たぶん相手が彼女でなければ彼も抵抗したはずだし、怒ってすらいただろうと思う。そして彼女にとってそれは遊びというのか、気晴らし程度というのか、おそらくそういう感覚でいるらしいことにも彼は納得している。それもどうやら異常らしいのだが、それでもそれがしっくりくるのだ。ひと言でいえば惚れているのだ。それはもう熱烈に。
「ともかく、それそのものを止めるつもりはないのですが、中身はなるべく喋らないでください。その、真似する人が出るとは思えませんが、余計な好奇心にさらすこともないでしょう?」
「余計な、好奇心…」
彼は彼女に視線を送ると、彼女は口の前で指を立ててみせた。
向かい合わせ
日常に生まれる、ひとときの邂逅。
その人が私の向かいに座ったのはまったくの偶然だった。
一目見た瞬間、一気に視線を奪われた。
切れ長の瞳にすっきり整えられた髪。
体のラインにぴったり沿ったスーツはスタイルの良さが際立っていた。
向かい合っているけど視線は合わない。
私と彼の間では出たり入ったりと人々が行き交ってばかりだし、そもそも彼の視線はスマホの画面に注がれたままだ。
でもそれでよかったのかもしれない。
目が合ってしまったら、きっと私は耐えられない。
『次は◯◯駅〜、◯◯駅〜』
すいっと彼が立ち上がる。
油断していた。
自分が降りる駅がもう少し先だから、タイミングを逃してしまった。
言いたい。言わなきゃ。
今言わないと、絶対後悔するーーー。
「あの!」
振り返る彼。
「チャック、開いてますよ!」
言い終わった瞬間、プシューっとドアが閉まったのだった。
ちょっとショートカットしようと思って入った路地で、妙なヤツと出くわした。上から下までグレーの服。銜えタバコで小脇にカバンを抱えてる。さながら、そう『モモ』に出てきた『灰色の男たち』みたいな。
嫌な空気を感じた俺は、さっさと通り過ぎようと歩を速めた。すれ違いざまに、好奇心に勝てず顔をチラリと見たのが良くなかった。目が合ってしまった。
灰色の男が付いてくる。俺が速く歩くとヤツも速く、俺が遅く歩くとヤツも遅く。怖くなった俺は、あの曲がり角を曲がったら大通りまで一気に走ろう!そう思って角を曲がった瞬間、人とぶつかってしまった。
スミマセン!と謝り見ると目の前に灰色の男。ヒッ!と声にならない声を上げて、逃げようとしたが、どうしたことか体が動かない。どんなに身を捩っても、手も足も動かない。
灰色の男がこちらに手をのばす。両肩を掴まれ、後ろに押される。ぐいぐい押され、ついには壁にドンッと押し付けられた。汗が吹き出る。最後の力を振り絞って助けを呼ぶ為叫んだ。
その瞬間、シャーッという声と同時に頬に痛みが走った。
目を開くとこちらを覗き込んでいる愛猫と目が合った。辺りを見回すと、自室の床の上だった。あれがただの夢だと解り、安堵のため息をついた。
寝返りを打っている間に毛布でぐるぐる巻きになったのが原因のようだ。そのままベッドから落ちたらしい。
情けない話だと落胆しながら、多少痛む腰を擦りながら洗面台へ行く。鏡を見ると、頬に一筋の引っ掻き傷。
振り返って愛猫を見ると、涼しい顔をして毛繕いをしている。「悪夢から呼び戻してくれてありがとな」と言うと、愛猫がニャアとひと鳴きした。
―――よるのゆめこそ [ひと仕事]
#53【向かい合わせ】
向かい合わせに立つと少し緊張してしまうから。
お話するときは背中合わせになりましょう。
照れたように笑う君の体温を感じながら、
他愛ない話を繰り返す。
君の笑い声はひそやかで、
深く耳奥に染み込んで離れやしない。
幸せだね。
幸せだわ。
明日何をしようか。
明日何をしようね。
今日の夕飯はシチューにしましょう。
ご飯にかけてもいいかな。
子供みたいだわ。
子供みたいかな。
たくさんの話をした。
たくさんの日々を過ごした。
けれど一度だって。
君の顔を見たことがなかったね。
声を憶えている。
体温を憶えている。
けれど顔を知らないから、どこかで君とすれ違っても君だとわからない。
それが少しだけ物悲しくて。
君はどんな顔で笑うんだろう。
今更、向かい合わせを恥ずかしがった君ときちんと話し合えば良かったと思うんだ。
お題「向かい合わせ」
「夜中に鏡を向かい合わせ――
つまり合わせ鏡をすると悪魔が現れるって話。
聞いたことあるだろ?」
「都市伝説というか怪談であるよね。
聖書で尻尾を挟んだり、瓶に閉じ込めたり、色々パターンがあるみたいだけど」
「というわけで鏡を2枚用意してみました」
「……え、やるの? 作り話だぜ?」
「悪魔に渡す供物してリンゴも用意してみました」
「……やるのね。
でも夜中まで待つの面倒くさすぎるんだけど」
「酒とツマミと、暇つぶし用に新作ゲームも用意してみました」
「はいはい、用意の良いようで……」
……
「ところで何で悪魔への供物がリンゴなの?」
「L知ってるか――」
「それは死神じゃねーか」
……
「さて23時50分だね」
「そうだな。ながかった。もぅ眠い。
ていうか寝よう」
「いやいや待て待て。
せっかくここまで頑張ったんだから、あと10分ほど頑張ろうよ」
「いいけどさー。どうせ何も起こらないぜ?」
「いや、色々起こるね。
こぅ……びゃー?って感じで」
「ふーん。まぁ何でも良いけど」
……
「あと残り3分弱。ここらでネタバラシをしようか」
「?」
「深夜0時に合わせ鏡をすると悪魔が現れるという話。実はあれは――ウソなんだっ!」
「うん。知ってた」
「実は夜中に合わせ鏡をすると現れるのはーー
『異界への道』なんだ!」
「……わー、そうなんだー。すごーい」
「その異界への道から異界人が時々迷い込んできたり、逆に異界へ迷い込む人もいるわけだ」
「それは何というか、運がない間抜けな人達だな」
「そう、そんな運がない間抜けな君のために帰り道を用意してみた」
「は?」
「鏡、見てみ」
「いや異界人? え? って、ちょ、ちょっ、鏡がっ、なんか、こぉ、びゃー?ってなってる!?」
「さぁ森へお帰り」
「それはΩっ!」
……
「帰れったって、そもそも俺は異界人じゃないぞ! あとなんだ、このびゃーってのは!」
「普通の人類にはツノも羽も尻尾も生えてないんだよなぁ」
「いや、これは人類として当然の……お前は生えてないな?」
「そうだね。あと、僕たち友達でも何でもないって、覚えてる?」
「え、いや……そういえば、お前は誰だ? あとなんかここに来るまでの記憶がない! ツノなし人間に誘拐された!?」
「落ち着け。落ち着いて思い出せ。異界への道を通った者は、時として記憶の一部を失う時があるんだ」
「そ、そうなのか?」
「そして失われた記憶は、その時傍にいた人間の記憶やら常識を元に疑似的に再構築されたりもする。君がツノなしの僕と違和感なく接していたみたいにね」
「ほー」
「しかし安心してくれ。
失った記憶は異界への道を通って元の世界に戻れば元通りに蘇るから」
「なんか詳しいな。オカルト専門家なん?」
「記憶を失う前の君に聞いた。
嘘か本当かは君次第だよ」
「マジか。俺がオカルト専門家だったのか」
「それは知らんけど。
まぁ無事に送り返すことができそうでよかったよ」
「あー。ありがとう?」
「どういたしまして」
「ん~と…………また遊びに来て良い?」
「……リンゴの用意はしておくよ」
// 向かい合わせ
僕は今恋をしている。
海に行った。
僕は悲しかった。
あの子が、好きだ。いつも明るい。
寂しい。あの子が暗そうにしているから。、
海は冷たかった。あの頃のように船が、見える。僕はその中で生きていることが虚しかった。僕は冷たかったことに気づいた。
足早に向かった。山だった。僕は詫びしい。手が届かない。ことより、てがないとうぞふくことがなんて馬鹿なんだろうと、思った。
僕は山と、海の間にいます。今、
眼に見惚れて話がしたい…
誰にも渡したくない…
誰にも譲れない…
キミと向き合いたくて
ふたりになりたくて
ミーチャン……
檸檬の彼女
一目惚れだ。僕は彼女について、檸檬モチーフのピアスをしていること、梶井基次郎の本が好きなことしか知らない。いや、梶井基次郎が好きなのかはただの憶測だ。彼女とは毎日出勤のために使ってる電車で見かける程度の関係だ。電車内はスマホに目を落としている人がほとんどだというのに彼女はいつも本を読んでいた。時々彼女と向かい合わせになるとき、本の背表紙を覗くのだが、決まって梶井基次郎の本だった。僕は全然本を読まないタイプの人間だったが彼女との共通点を作りたいがために最寄り駅の近くの図書館に向かった。
放課後、図書室。
見上げる私、わざとらしく目を逸らす君。
細長いまつ毛、消えてしまいそうなほどに透明な肌。
肺に溜まる、甘い柔軟剤の匂い。
重なる視線、近づく息。
柔い唇、秘密の味。
互いに盲目な、向かい合わせの初恋。
向かい合わせ
〈苦恋〉
「芽衣、待ってよ!」
「あっ、ごめん、ごめんねっ?」
「……そんな顔されたら許すしかないじゃん。 でもそれは芽衣の悪いくせ。だからもうやめてね?」
「うん、うんっ!」
私は首を縦にふった。
あ、紹介を忘れてたね。私、松田 芽衣。それで私と一緒に話していた子が降奈(ふるな) 珠李(しゅい)っていうんだけど、私の幼なじみでクラスの学級委員長。少しクールに見えるけど凄く頼れるし優しいんだ!それで…
「芽衣!何しているの?遅れちゃうよぉ!」
えー、そっかぁ うん…ところで
「何に遅れるの?」
「エッ?知らなかったの?」
珠李があきれた声をだした。
「うん…?そうだけど…」
「数学の授業が始まちゃうよ!」
「あっ、そうだった! 忘れてた…。」
私は、ハッとする。
「まあ、とにかく急ごう。ここは2階だから4階に行かなきゃ!」
「あっ、珠李っ… ちょっと待ってよぉ!」
珠李は足が速いから追いつけない…っ っていうか廊下を走っちゃ駄目でしょ!
廊下の角を曲がろうとしたときに、私は慌てて止まった。それは先生がいたからだ。
「松田さん!廊下を走っちゃ駄目ですよ。」
「すいませんでした…。」
怒られちゃった…。
珠李は、怒られなかったかな?
私は、数学専用教室に入った。すると先生をふくめる22人が私のほうを向いた。
(うう…。私、目立つの嫌なんだよぉ…。)
「松田さん早く席に座ってくださいよ。あなたのせいで皆待っていたんだからね?」
「はい…。すいませんでした…。」
珠李がクスクス笑ってるっ……。ひどいっ!自分だって走ってたりしてたくせにっ。
プラスチックの板を挟んで向かい合わせ。向こう側の君は申し訳なさそうに下を向いたまま。
時間がないから適当に話そう。本当はこんなこと望んでなかったのにと思いながら。
君は大きな罪を侵して、壁の向こうへ消えていった。今はこうしてしか話せない。
君の罪を許せはしないけど、僕は君にとってただ一つの拠り所だから逃げないで向かい合う。
今この時間と同じように。
40.『向かい合わせ』
【向かい合わせ】
席替えなんて、学生にとっては一大イベント。それもクラスに好きな人がいるなら尚更。
席を移動する先には、好きな人がいた。
「よろしく」
前の席は、好きな人よりも後ろだったから、黒板よりも後ろ姿を眺めてた。席が隣になると、近すぎて、見れない。ドキドキする。心臓の音が聞こえてしまうんじゃないかと思うくらいに。
席替えが終わり、授業が始まる。グループ学習をするらしい。隣の机と向かい合わせになる。前を見ると、好きな人の顔が見える。つい数分前まで、後ろ姿しか見えなかったのに。
好きな人の顔が見えるということは、私の顔も相手に見える。そんな当たり前の事実に更にドキドキ。
どうか赤くなった顔があなたに気づかれませんように。
【向かい合わせ】
ホームに着いたら、ちょうど電車が来ていた。
それを無視してベンチに座り、次の電車を待つ。
アナウンスが流れて電車が出発すると遮蔽物がなくなる。
僕の目的は次の電車ではなく、正面にある駅のホーム。
電車なんて、二本後でも三本後でも学校に間に合う。
わざわざ余裕を持って家を出たのは不安からではない。
反対周りのホームには、制服のスカートをなびかせる人。
僕の心も視線も奪う、カッコいい女の子。
彼女を初めて見たのは、ひどく慌ただしい朝だった。
目が覚めて壁時計を見たら、針が示すのは十一時。
遅刻だと思い焦り、必死に走って駅に着く。
時刻表を確認しようとスマホを見ると、まだ六時。
なんだ、と気が抜けてベンチに腰を下ろす。
きっと壁時計は電池切れで昨日の夜に止まったのだろう。
深呼吸して息を整えつつ前を見ると、そこに彼女がいた。
凛と立つ姿に、僕は一瞬で惹きつけられたのだった。
部活終わり。そんな彼女がなぜか対面に座っている。
途中で乗ってきたときは目の錯覚かと疑った。
眠そうにあくびを噛み、時おり目を擦りながら本を読む。
意外な一面を知って、なんだか可愛らしく見える。
まさか同じ電車を利用するとは夢にも思わなかった。
だって、彼女のいたホームは反対周りだから。
環状線ではないので乗る区間が重なることもない。
遠くに見るだけだった彼女は、目の前で眠ってしまった。
もうすぐ最寄り駅に着くけど、彼女は起きない。
周りに人が少ないとはいえ、声をかけるのはどうだろう。
でも困るかもしれないと思い、覚悟を決めて起こす。
おもむろに目を開けた彼女は、わずかに頬を赤らめた。
向かい合わせでお互いの顔を見つめるより、
肩を並べて同じ方向を見て過ごしたい。
一番近くに居る貴方と同じ景色を見ている。
同じことを感じている。
ただそれだけで、幸せ
隣には 浴衣の君と 花火の輪 向かい合わせから卒業の日
向かい合わせで文を作るのは難しい
でも、人と向かい合わせるとも言わないかな?
向かい合わせ
私は死の顔を知っている。
常に死と向かい合わせだからだ、と言えば貴方は笑うだろうか。
私は何も無い空間でただ、目の前にいる死の顔をずぅっと見ているのだ。
死の顔を見たことはあるだろうか。
私はある。いや、厳密には無いのだが、何となくこういうものだ、という確かな考えがあるのだ。
死の顔、というのは人によっては違うものだと思う。そして、その顔というのは、自分の居なくなった大切な人だったり、ペットだったり、そして嫌な事柄だったりと様々なのだが、その全てに一貫して言えるのが、見える顔は全て『美しい』という事だ。
簡単には、手に入れられない美しさがそこにはあるのだ。
ただただこちらを見つめる眼に、そっと手を伸ばしてしまうような、気付いたら崖の1歩手前なんてことは日常茶飯事なのだ。
美しい、楽しそう、とかそういう感情っていうのは、人を引き寄せるのはとても簡単で。
私はその死の顔を常に、見つめていた。
私の見た死の顔は、貴方だった。
とても美しくそして、最期の時と何ら変わらない眼をした貴方だった。
私は、何度も貴方に手を伸ばそうとしたけれど、毎回思い直し貴方と向かい合わせに立つ。
私が貴方と行ってしまえば、もう二度とこの美しさは見られないのだから。だから、私は今日も時々変わるけれど、美しい死の顔を見つめながら息をする。
───────
死というのは、簡単に見えて簡単では無い。禁断の果実のような存在。手を伸ばしても、掴めない。そして、美しいな、と私は思います。
死は救いであり、後悔でもあるんじゃないですかね。分からないですけど。私は死ぬのは怖くないです。死ぬ時は結局決まってる事だろうし、貴方の美しい顔が笑みを浮かべるから。だからこそ、その光景をずっと見ていたいのです。
君の視界を独り占めしたくて、向かい側から姿勢を低くして、そっと君に近寄った。 というか、にじり寄った。
『にゃん(イヤン)』
君は拒否して僕の前から去っていき、相方に熱い視線を送りながら
『にゃ~ん(カマッテ)』
と子猫の頃の愛らしい声で鳴いた。
_| ̄|○
全僕が泣いた。
帰ったばかりでまだ冷房の効いてない部屋、暑い。
君の前に向かい合わせになるように座る。
たまらない熱気に襟元を緩める。
うつむき勝ちに首を横に振る君。
後頭部に手をやり、強引に動きを止めさせ
顎クイして真正面を向かせる。
顔をおもむろに近付け…
「あ゛~~~~~!」
やっぱり扇風機を前にすると、やらずにはいられない。