『同情』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
ーわがままな僕の願い事ー
君のことが好きだ
君を見ていると心が穏やかになる
自分で言うのも恥ずかしいけれど
君のことを考えている僕の表情はきっと優しい
それくらい、「君が好きだ」という感情は
僕に幸せをくれる
もし君に愛おしく思える人ができたら、
もし君に守りたいと思える人ができたら、
僕は耐えられないかもしれない
君の幸せを常に願っている
君の幸福を何よりも、誰よりも祈っている
でも君が、僕以外の他の誰かと幸せになるのは…
言葉が出ないんだ
ごめん、自分勝手だけど
君の心の中にまだ誰もいないでくれと願ってしまう
まだ、君を好きでいたいんだ…
君を好きでいたい
お題:同情
雨の中、立ち尽くす君がいた
寒そうに肩を震わせている
傘を持って隣を歩く
雨宿りに入った喫茶店
黙って口をつけたココア
ぽつり、ぽつり
君が溢した不安
それでいい、それでいいんだ
じくり、じくり
露わになった友の傷
私にも背負わせておくれ
テーブル越しの君の独白
ぬるくなったココア
じわり、じわり
きつく締め付けられた胸
痛いね、苦しいね
じくり、じくり
君の傷は治せないけれども
痛みが軽くなるまで一緒にいるよ
君を癒す言葉を、望むままに贈ろう
君が望むなら何度でも寄り添おう
雲間から光が降り注いでいる
君の顔は幾分か晴れやかだ
ココアはもう飲み干してしまったようだ
躊躇う君の背中を押す
君は「またね」と告げて外へ駆け出した
君を見送りながら、冷めたココアに口をつける
いつか君も大人になって、独り立ちするのだろう
その時には私の事など、覚えてもいないのだろうね
それまでは君の拠り所となろう
少しでも長く友達でいたい
少しでも長く一緒にいたい
そんな身勝手な願いを込めた優しさに
どうか気づかないで
あなたの憐れみが私を殺すの
長い付き合いになるけれど
私たちは分かり会えているようで
いつもすれ違ってばかりだ
できない私を見るあなたの視線は
とても優しくって とても恐ろしかった
あなたの手助けは 私にとっては毒だった
純粋無垢なあなたの友ではなくなっても
こんな気持ちあなたに直接伝えられないから
この手紙をしたためました
穢い私でごめんなさい
どうかしあわせに
同情しているわけではない
同情してもらいたいわけでもない
自分を大切にして生きている
《枯葉》&《同情》
かつて、枯葉、と呼ばれた探偵がいた。
*
街の外れにある、殆ど廃屋と言っていいだろう和風な屋敷の前に月彦はいた。
「ここであってるのか……?」
噂に聞いた住所はここだが、まるで人の気配がしない。
恐る恐る戸を叩こうと手を伸ばしたとき、肩を叩かれた。
月彦は弾かれたように振り返る。
「やぁ、僕になにか用ですかい」
そこには、乾いた瞳でこちらを見つめる男がいた。
着物を着崩し無造作に伸ばされた髪には潤いがない。だが、不自然に不潔さは感じられない男だった。
口振りからするに、この屋敷の主だろうか。
「貴方が『枯葉』さんですか?」
「渾名にさん付けたァ可笑しなことをするもんで」
そう言って男は——枯葉は笑って答えた。
取り敢えず中で茶でも飲みながら、と月彦が案内されたのは屋敷の応接間だった。
外見に反し中は綺麗で、庭の荒れようには目を覆うほどだったことが寧ろ異質だ。
彼の他には誰もいないのか、枯葉は月彦に座って待つように言うと部屋を出て、茶を片手に戻って来た。
「で、なにか用かな」
「いきなり押しかけてすみません。枯葉さんのお力を貸して頂けませんか」
「もうさん付けでいいけどねェ、まずは名乗るのが通りってもんだろう、月彦君や」
「……!! どうして、私の名前を」
当然、枯葉とは初対面の筈である。
「なァに細かいことは置いておいて、本題に入ろうじゃないか」
「あ、ええっと、はい。……枯葉さんにお願いがありまして、」
「君の主たる、西園寺優華についてだね。どんな依頼か話してご覧?」
どこまでもわかっているのだろうか、枯葉という男は。
驚愕に目を見開く月彦に、彼は簡単な種明かしをする。
「西園寺家の所有する呉服屋の服なんざ、あの家の使用人でもなけりゃおいそれと着れんよ。護衛もないし、所作から見ても立場のある人って訳でもなさそうだからなァ」
ならば何故名前までわかったのか、と聞きたい気持ちもあるが、それどころではない。
「実は、十日後のお嬢様の誕生日にパーティが開かれるのですが、そこでお嬢様の命を狙われると……今朝手紙が来たんです」
「わざわざ犯行予告を送ったのか、悠長なことだね。抵抗してほしいのか、或いは」
ふぅーむ、と口に手を当てて考え込む枯葉に、月彦は続ける。
「誰が送ったのかはわからず、手紙の文字も活版印刷されたものでしたから……。そこで、犯人を見つけ付け出してくれませんか」
「報酬を弾んでくれるのなら……と言いたいところだが、特別に通常料金で受けますよ」
「本当ですか!! ありがとうございます!」
月彦は漸く不安な表情を和らげて、立ち上がってお辞儀をした。
使用人という職業柄からか、全くもって綺麗なものである。
「ほら顔上げて、今から西園寺邸に案内してもらえますかねェ」
「も、もちろんです!」
慌てて顔を上げた月彦は、枯葉を連れて西園寺邸へ戻った。
西園寺邸、使用人部屋にて。
「言われた通り使用人を集めましたが……なにをするんですか?」
「まァ見てなさいな、月彦君、焦らずに」
使用人達も月彦が知らないことは知らないのだ、不思議そうな顔をしている。
「お集まり頂いたのは他でもない、優華お嬢様についてですよ」
枯葉のそれを聞いても、反応は薄かった。
つまり、使用人達には犯行予告は知らされていないのだろう。
今更だが秘された事実の発覚に焦ったのか月彦に腕を引かれ、枯葉は面倒そうに払う。
「優華お嬢様の——お話を聞かせて貰えますかねェ? 例えば、最近あった可愛らしい話とか、自慢出来るところとか」
月彦の予想していた言葉とは違ったようで、横で安堵の息を吐く。
そんな彼を置いて枯葉は使用人達の話に耳を傾けた。
意気揚々と主の素晴らしさについて語り始めたのは、ご婦人達だ。
「お嬢様は大変可愛らしいお方ですよ、ええ」
「この間も、お酒を一口飲まれただけでお顔が真っ赤になって……」
「庭に綺麗に薔薇が咲いていたからと、そこで昼食を取られたりしていましたし」
「新しいお洋服を旦那様が贈られた時は、それを来て外出されて!」
「あたくし達使用人にも良くして下さいますからね」
最早、言い出したら止まらない。
枯葉の「ヘェ」「ほォ」「はァ」という適当な相打ちも、聞こえていないのだろうか。
結局代わる代わる話を聞いて、昼過ぎから日が暮れるまで聞き尽くす羽目になった。
枯葉に付き合って聞き続けた月彦の真面目さには、尊敬まである。
「……すみません、話長くって」
「いや、十分。一回で済んだのは僥倖だからなァ。お疲れ様、月彦君」
「本当にすみません、お疲れ様です」
このままではどこまでも謝り続ける気がした枯葉は、早々に西園寺邸を後にした。
*
三日空いて、また枯葉は西園寺邸を訪れた。
月彦の案内で邸内を進むと、声を掛けられる。
話を聞きに来たのかとご婦人達に囲まれたが、今日はそれが理由ではなかった。
「お嬢様の誕生日が近いと聞いて。当日にお邪魔する資格はありませんがねェ、知ってしまったもんはなにか贈り物をと思いまして」
婚約者候補の五家の者のみが集められるパーティというから、枯葉はそこにいることが出来ない。
手にした花束は、優華の好みに合わせたのか薔薇が主役の花束だった。
「まぁ、そうだったのですね!」
「お嬢様もきっと、喜ばれることでしょう」
嬉しそうに語る月彦に連れられて、枯葉は優華の部屋の前まで来た。
護衛対象の本人に一度合わせてほしい、そう頼んだのである。
「お嬢様、客人をお連れしました」
「ええ、いいわよ。入って頂戴」
先に打診していたのが良かったのか、すんなりと通してくれた。
枯葉が一言断って入ると、中は白を基調とした空間だった。
矢張り薔薇が好きなのだろう、所々に赤が彩っている。壁紙やカーテンには、白で薔薇の模様が描かれていてお洒落なものだ。
部屋の奥には大きな天蓋付きのベッドが置かれており、その裕福さが伺える。
中央に置かれたテーブルの右側にあるソファに彼女はいた。
「お初にお目に掛かります、西園寺優華様」
「……初めまして。どうぞ掛けて下さい」
勧められるまま枯葉は優華の対面に座り、月彦の淹れてくれた紅茶を飲んだ。
「月彦君って紅茶淹れるの慣れてるね」
「……ええまぁ、それが役割ですから」
「そうかい、不思議なもんだねェ」
その言葉が不思議なのだろう、月彦は首を傾げる。
「普通紅茶は客人に出すときもそうだが、主に注ぐ回数の方が多いだろう? 見たところご婦人方が得意そうでねェ、月彦君がお嬢様に紅茶を淹れてるのが不思議で」
「……お嬢様が、練習として私に紅茶を淹れさせて下さるんです。あの人達は……今更練習するまでもなく、慣れてますから」
主人の目を気にしながらそう答えた月彦は、はは、と少し笑った。
そこで漸く枯葉は優華の方を向く。
「さて、お嬢様。贈り物として薔薇の花束を持って来たのですが、お気に召されますかな」
「……薔薇は好きです。ありがたく飾らせてもらいますわ。けれど、わたしを無視して先に月彦と話すというのは如何なものでしょうね」
「そりゃ失敬。……お嬢様とお呼びしても?」
「好きに呼んでもらって構いませんわ」
本気で怒っている訳ではないらしく、寧ろ枯葉のその反応を楽しんでいるようだ。
「ではそんなお嬢様に伺いたいことがありまして、パーティについてなんですが」
「丁度一週間後に開かれる、わたしの誕生日パーティですね。犯行予告については知っています。わたしを殺してお父様の代で西園寺を潰すつもりでしょうね」
西園寺は、血筋を重んじる。
それだけの歴史があったのだ、今更養子をとって当主の座に据えることはないだろう。
「ええ、同じ見立てですんで間違いないかと。護衛は付けられるんです?」
「はい。けれど客人を招いている以上、主役であるわたしが不安を見せるつもりはないです。護衛はお父様が選ぶと聞いているから、心配いらないでしょうし」
「一人ですか?」
「そうです。多くては不安を煽るだけですから」
「そりゃァ確かにそうですねェ」
何が楽しいのか、枯葉はそう笑うと席を立った。
「もう行かれるのですか?」
思わず、といった風に月彦が呼び止めるが、枯葉はそのまま優華の部屋を出ていく。
「これで十分です、お嬢様。ご協力感謝致します」
最後にお辞儀をすると、枯葉は去ってしまった。
月彦は唖然とするが、彼らしいのかも知れない。
「あの人、あれでも頼れるんですよ! ……多分」
「月彦、それは頼れる人とは呼べないわ」
残された主従には、不信感しか抱けなかった。
*
そしてあれやこれやと準備をする内に、その日はやって来た。
緊張する月彦を嘲笑うかのように、パーティは滞りなく進んでいく。
給仕をしながら月彦は展開される様を見ていた。
優華の父であり現当主たる、源蔵の挨拶から始まり各方への挨拶。
定型文と化したそれらが終わって漸く、主役の登場である。
スーツ姿の護衛を一人連れて、優華が現れたのだ。
「……美しい」
誰がそう言ったのか、わざわざ辿る必要もない。皆同じ感想を抱いていたからだ。
身に纏うは真紅のドレスで、所々にあしらわれたフリルが大人びたそれに幼さを残す。結い上げられた艶のある黒髪を彩るのは、庭で育てられた薔薇の生花だ。
立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花。
全身に薔薇を纏った彼女に贈る言葉として相応しいかはわからないが、月彦はその言葉以上に今の優華を示す言葉など知らなかった。
一瞬にして場の空気を自分のものにした優華は、護衛の手からグラスを受け取る。
「お集まり頂きました皆様、本日はどうぞよろしくお願い致しますわ」
受け取ったグラスを一口含んで、嚥下した途端——優華は倒れた。
護衛がそれを危なげなく支える。ご丁寧に、グラスまでもワインを一滴も零すことなく、だ。
「なっ……お嬢様!?」
慌てて彼女に駆け寄ろうとした月彦を制するように、護衛の声が響く。
「皆さん絶対に動きませんように!!」
この状況で何を言っているのか、と月彦が表情を曇らせると、
「これから愉しい時間の始まりなんでねェ、邪魔してくれるなよ、月彦君」
その言葉遣いにを、知っていた。
「枯葉さんだったんですか!? どうして護衛に、というかどうやって!!」
どう見ても今の彼は、別人にしか見えない。
濡れ羽色の髪を短く切って、着物からスーツに変えただけではこれほどまでの変化はない。
先程声を出したとて気が付かなかったのだ、声も仕草も、まるで違っていた。
「探偵が変装の一つも出来ないようじゃァ、半人前も半人前よ」
カラカラと笑う枯葉に、月彦は詰め寄る。
「どういうつもりですか、枯葉さん!! これでは、貴方に頼んだ意味がない!」
「まァ、そう怒らずに」
月彦を適当に宥めたかと思うと、枯葉は大広間内に目を走らせた。
「皆さんこの場で少々お待ちを。お嬢様を寝かしてくるんでねェ。あぁ、生きてますからご心配なく」
未だ何一つ飲み込めていない彼らを前にして、護衛の男は——枯葉はそう言った。
いつもの容姿に戻った枯葉は、大広間で待つ彼らの元へ戻って来た。
そのまま壁側に置かれた椅子に座る。
「枯葉さん、どうしてお嬢様が倒れてしまったのか説明して下さい!」
混乱の中、月彦がそう切り出すと枯葉は笑った。
手首に巻いていたらしい紅い紐を解き、無造作に髪を束ねる。
乾いた瞳に、光が映り、輝く。
「——さァさァ、皆様お揃いで。今日の幕引きと行きましょうや」
*
「この事件の始まりは、これより二ヶ月前のこと。旦那様が娘さんの誕生日に、婚約者を決めると宣言したことですよ」
会場は静まり返り、使用人を含め二十人程度の呼吸が唯一の音だ。
そこを枯葉の声が響く。
「そっから皆さん僕のところに来ましてねェ、やれ口説き落とすにはどうすればいいか、取り入るにはどうすればいいかと、色々相談やら依頼やらされました」
「……それは、別に悪いことではないだろう!?」
「好みを調べてくれと言っただけだ!」
「ええ、そうですよ。三家はね」
初めの三人は過激ではなかったと、彼は言う。
「一際おっかないのは岡崎さんと倉下さんでさァ、お二人さんともお嬢様を殺しちまって外から喰っちまう依頼をしてきましたんで」
「なんだと!?」
言葉の示すまま両家を見ると、顔が蒼醒めている。
「だから岡崎さんにゃァ、毒の入った瓶を渡しまして。倉下さんにゃァ、お嬢様の護衛を僕に替えてもらったんですわ」
「で、デタラメを言うな!!」
「そうだ、証拠もないのに我々を犯人と言うなど!」
不敬だなんだと叫ぶ彼らに、枯葉は、
「いんやばっちり、わざわざ書面にした甲斐が有るってもんで。皆さんの分持って来てますよ」
ほら、と見せた五枚の紙には、依頼内容と署名がされていた。
「それだけじゃない、あんたらから金を貰って西園寺に手紙を届けたって奴も見付けました。今頃ご婦人方の話し相手にでもなってるでしょうねェ」
二日前に探し出し、使用人だと説明してご婦人達の前に置いて来たのだ。若い女だったから、恐らく良い話し相手だろう。
「という訳で先に、岡崎さんと倉下さんを捕らえることをお勧めしますよ旦那ァ」
枯葉の言葉に従って、当主の命により西園寺の私兵が彼らを捕らえる。
「あー、連れて行くのはお待ちを。こっからも面白いんでさァ」
枯葉は、ふと、彼らに背を向けたかと思うと扉を見据えた。
「そこにいるんでしょう、お嬢様」
「……よくわかったわね。『枯葉さん』?」
枯葉以外が驚く中、優華は扉を開けて部屋へ入り父親の隣に立つ。
「渾名にさん付けたァ、三人目ともなると諦めが着くもんだ。そう警戒しなさんな、お嬢様。なにもしませんよ、今の僕は」
それで警戒心の解ける人はいるのか、優華は枯葉に懐疑的な視線を向けた。
「何も聞かされないで、驚いたことでしょうなァ。僕が安全を保障してたんでご心配なく」
「私に何を飲ませたんですか!」
「そうだ、今毒の入った瓶を渡したって……」
まさかの月彦の表情まで懐疑的である。
余程信頼がないのか、と枯葉は呆れる。
「毒とは言っても、強めの酒を渡したんです。酒も多けりゃ毒なんで、嘘は言っちゃいねェ。まぁ、お嬢様はどうも一口で酔っちまいましたがね」
話を聞いて酒に弱いのは知っていたが、あそこまでとは枯葉も思わなかった。
「とまァこんなものが真相です。これ以上新事実ってのはないんで客人も帰られて結構ですよ」
「……依頼内容をばらさないと言っただろう! こよ裏切り者め!」
「最初から犯人も犯行も知ってやしたがねェ、探偵として個人情報を明かすのは頂けない。だから口でばらしはしなかったんでさァ」
探偵としての信念はあると、彼は言う。
「ただ偶然、最短時間で答えに辿り着いただけで。こりゃあ僕の所為でない」
一人納得したようにそう言うと、枯葉は護衛に連れて行かれる彼らを見送った。
金に目が眩んだ結果だ、自業自得である。
それでも、少し。
月彦は、彼らに同情してしまう部分もあった。
「……殺すなんて考えずに、お嬢様を愛せば、愛されれば良かったのに」
「そりゃァ無理だろうな、お坊ちゃんには」
独り言を聞かれていたことを恥じる月彦だが、枯葉の言葉に疑問を持つ。
「利用価値の重みが今まで人を判断する基準だったんだ、仕方ないさ。それにあのお嬢様は風変わりときた、落とすのも容易じゃねェ」
それに先んじて枯葉は言う。
「そうやって月彦君が同情できるのは、なにかを持っていない状況を知ってるからさ。失ったことではなく、得る前のことを」
価値観の違いだと、枯葉は笑う。
「ただ、どんな相手であっても、『思う』ことは大切だからなァ……その心掛けは嫌いじゃない」
そうか、と月彦は思う。
「思うことは、悪いとこではない、か……」
*
「色々と思うところはありましたが、お嬢様を助けて下さってありがとうございました!」
「私からも、不本意ですが礼を言います。ありがとうございました」
正直で、お辞儀の綺麗な主従に枯葉は笑みを零す。
「そうだ、月彦君や。もう依頼料は貰っといたよ」
「え? まだなにも」
「わたしの方から渡しておきました。主に黙って個人的に探偵を雇おうとするからよ、月彦」
「え、いや、あれは旦那様の計らいでっ」
「お父様はそんなに演技派ではないの。お母様の方が上手よ。だから枯葉さんの登場をすんなり受け入れられていなかったでしょう」
「あっ……」
「漸く気付いたのね? いいこと、わたしのことを考えてくれたのは嬉しかったわ。でも、貴方のお金がなくなるでしょ!」
「そんなことない……筈ですよ、多分、きっと」
「だからその言葉のどこを信じろって言うのよ!」
どこまでも鈍感な、彼らの掛け合いはまだまだ続きそうだ。
邪魔者は退散するか、と枯葉が背を向けると、
「あっ、枯葉さん! 聞きたいことが!」
「なんだい、月彦君や。これで最後だよ?」
振り返って聞く。
「あの、どうして渾名が、枯葉、なんですか?」
今聞くのか、と枯葉は思ったが、最後なのだから答えてやろうと思う。
「枯葉ってのは、木にぶら下がってりゃ邪魔になる。地面に落ちても邪魔になる」
月彦らに背を向けた。
「けど、踏んだ音が気に入る奴もいる。柔らかい地面に助かる奴もいる」
一歩歩き出した。
「ある奴にとっては邪魔者で、ある奴にとっては必要なのさ。それが僕の渾名の意味よ」
彼はそのまま歩みを止めず去った。
*
かつて、枯葉、と呼ばれた探偵がいた。
ここは『同情道場』。
他人の気持ちを推し量るための訓練を行うところ。
そして俺はこの『同情道場』の師範として働いている。
もちろん仕事は、門下生の『他人の気持ちを推し量る能力』を引き上げることである。
政府が『他人の気持ちが分からない人が増えている』と言って、こういった道場を建てることを推進した。
ネーミングセンスこそ酷いが、そこそこニーズはあったりする。
というのもここに来るのは大半が子供で、『この子は他人の気持ちも考えずにひどい事ばかり言う』と言って親に連れてこられる
だが俺に言わせれば、それも仕方のない事。
いわゆる思春期と言うやつで、他人の気持ちが分かりすぎて処理しきれないのが原因だ。
だから、こんなところに来ずにしっかりと話し合うことが必要だと思っている。
だが俺には口が裂けても言えない。
俺だって生活が懸かっている。
子供は気づいているが、親は気づく気配がない。
逆に親のほうが、ここで訓練に励むべきではないのか。
絶対認めないだろうけど。
そう言った経緯があるので、門下生もそこまで真面目に訓練しているわけではない。
俺の方も特に何も言っていない。
する必要のない訓練を無理矢理させられている子供たちに同情しているからである。
門下生も親がいない所でノビノビして、俺も金がもらえる。
Win-Winの関係である。
だがそんな中でも数人だが真面目に訓練に取り組む子供がいる。
気になるあの子の気持ちが知りたいというヤツだ。
そんなに便利なものではないけれど、やる気がある事自体はいい事なので黙っている。
他がスマホを触っている中で、真面目に訓練しているのは二人。
一人は男の子で、もう一人は女の子、幼馴染と言うやつだ。
この子たちに関しては、男のほうにだけは訓練が必要だと思っている。
この男の子はほかに漏れず親に連れてこられたクチだ。
もう一人の女の子の方は、男の子がこの道場にきたと聞いてやってきた珍しい子供である。
言わなくても分かると思うが、女の子の片思いと言うやつだ。
けっこうハッキリとしたアピールをしているのだが、男の子のほうは気づかない。
お前はいつの時代の鈍感系主人公なのか。
好意を寄せられていることに気づかないなんて、もはや悪ですらある。
俺は女の子の気持ちに気づかせるため、男の子の訓練を熱心に行っているが、全く成果がない。
ここまで他人の気持ちに気付けないなんて、師範をやって数年経つが、ここまで鈍いのは初めてだ。
すでに半ば諦めているが、女の子のほうは諦めるつもりは毛頭ないらしい。
この子の気持ちが伝わるのはいつになるのか……
本当に同情するよ。
同情なんていらない。
私がそう思うようになった、、高一の時
大丈夫あなたは頑張ってるよ、、
そう言ってくれたクラスメイトだったひとに
ただ同情が欲しいだけなんでしょ?と言われた。
辛かった。同情を求めて言ってるんじゃない。
不安だから怖いから、そう言って、、
もうどうでもいい。同情なんていらない。必要ない
私は私のままで生きる
同情してほしい。
2キロ太った。顔がでかい。足が太い。
多分現実じゃないよネ☆
多分受験のストレスかな、?
いやバレンタインで食べすぎたせいかな、?
うん。受験のストレスってことにしておこう!
二次創作です。苦手な方は飛ばしてください。
一人で部屋にこもっているあの人の所に行く
コンコン
扉をノックすると中からの返事は来ない。
「タクミ様。名前です。今いいですか?」
そう声をかけると声が返ってくる……
「なんか用……。」
その声にいつもの優しさはない……
「もしかして兄さんに僕の様子を
見てこいとでも言われたの(笑)」
「そんなことはないです。
カムイ様。タクミ様のこと
気にしていましたよ。」
そう言うとタクミ様は言った。
「何?あいつ同情なんかされても
僕は兄さん達みたいに一緒には戦わない。」
「そうですか……」
私はドアの前で座りながら言った。
「きっと。カムイ様は同情なんて
されてないですよ。きっと貴方と仲良くしたい
だけですよ。」
そう言うと
「そんなの誰だって言えるだろう。
同情してなくても人は嘘をつけるんだから
お前も僕に同情してるんだろ。かわいそうな
やつだって……」
その言葉に私は言った。
「さぁ、ここで私が同情なんてしてませんって
言ってもきっと今の貴方でしたら
嘘だといいそうなので言わないでおきますね。」
そう言ってドアの前から離れる前に言った
『私は同情する為だけに貴方にわざわざ
会いになんて来ませんよ……』
「同情なんていらないわ」
とシンディーは言った。
安っぽい言葉だったが、酒場のシンガーをしていた女だった。
ぐずぐずと酒に溺れ、男に溺れた。
ピンヒールの高いエナメルの靴を履いていた。
それで踏まれた男肌数知れず。
友人は言った
「シンディーの言うことは当てにならないよ。あのクソ女、いいシンガーだからって、たかを括ってる」
ある日、シンディーが僕に電話で相談をしてきたことがあった。
「あの、フレッド? 私。どうかしてるのかしら。ただ、涙が溢れて止まらないの。酒場から追放されて、歌えなくなったあの日から」
シンディーは、もともとアルコール中毒だったが、それは酷く悪くなるばかりだった。
僕はこう返した。
「一週間でも、旅行に出るといい。気晴らしに、どこか……、美味しく酒が飲める場所に。そう、フランスなんかどうだろう?」
フランスは旅立つにはいい場所だ。
ブルゴーニュの、ワインで乾杯をしよう。ハムとチーズを肴に。
泣いてない。
同情なんて
いらないわ。
私負けない。
何がなんでも!
わたしは
あまり
祖母のことが
好きではない。
絶縁
までは
行かない。
ただ、
昔から
口を開けば
勉強は?
〇〇ちゃんはね、
100点なんだって。
成績表
どうだった?
部活ばかり
してないで
もっと
遊びに来てよ。
受験は?
勉強してるの?
△△大はどう?
仕事もいいけど
結婚は?
お見合いする?
そんなことばかり。
顔を見せに行く時は
寝込みたくなるくらい
憂鬱だし
着いたら着いたで
愛想笑いのし過ぎで
クタクタに
疲れてしまう。
その祖母は
とっくに高齢で
多分
誰かと
同居したがっている。
でも
みんな
それを見えない
フリをしてる。
わたしたちは
冷たいのかな。
#同情
同情
魔導兵器ウィンガイナー。古代超科学王国が作り出した人型殺戮兵器だ。しかし小国ナーザレが周辺の大国から身を守るためには、この死神に頼るしかなかった。
ウィンガイナーを動かすには、二人の搭乗者を必要としていた。そして私たちは小さい頃より乗り手としての教育を施されて来た。
「アンナとウリス、よく聞きなさい。ウィンガイナーは意思のある兵器、お前たち二人が心を通い合わせ協力しなければ、精神を侵され暴走を始める。かつてウィンガイナーの暴走を止められず国が三つ滅んだと言うぞ。」
私と同乗者のウリナは血こそ繋がっていないが、身長、体重、年齢、全部同じ、見た目もそっくりだ。だけど一番肝心なのは、私たち二人の魔力量が同じであると言うこと。ウィンガイナーの動力には搭乗者の魔力が使われるため、私達が選ばれた理由はその魔力量の高さによるのでした。
私たちは精神を最高に同調させることに成功した時、感情を共有することができる。それを私たちは〝同情〟と呼んだ。
「わー、美味しそうなケーキ!」
「わー、美味しそうなケーキ!」
「チョコレートが口の中でとろけちゃう。」
「チョコレートが口の中でとろけちゃう。」
「また来ようね。」
「また来ようね。」
私たちに秘密はなかった。秘密を持てようはずもなかった。
だから、秘密を持とうとした私が悪かったのだ。
私とウリスはできるだけ一緒に行動するよう言われているがプライベートな時間もある。私は時間が空くと大好きな木彫り人形を見に、木工屋さんに行く。特に、木彫り人形の中にひと回り小さな木彫り人形が入っていて、その木彫り人形の中にもひと回り小さな木彫り人形が入っていて、最終的に人差し指を立てた右手だけが入っているマボローシカというオモチャが好きだ。
「マボローシカお好きなんですか?」
初めてクロノから声をかけられた時、背が高くて堀が深くて大人っぽい人だなと思った。なので、私と同じ十八歳だと聞いた時は二重に驚いた。
「はい、大きさが違うだけの木彫りの人形なんですけど、色んな想像を掻き立ててくれると言うか。」
「分かるよ。これとこれは親子なのかな?とか、魂が分裂したもう一人の自分なのかなとか。」
「そ、そうなんです。」
「僕はよく旅をするので、お土産にその土地の変わったマボローシカを買ったりするんだけど、興味ある?」
「はい、私、この国から一歩も出たことがないので、よその国のマボローシカを見てみたいです。」
「じゃあ、明日この場所にこの時間で再会しよう。ぼくの名前はクロノ。君は?」
「私はアンナ。よろしくね。」
クロノにあった瞬間から私の心は騒ぎだした。寝ても覚めてもクロノのことばかり、そしてなんとかウリスにバレないように出来ないかと思い悩んだ。
私とウリスは好きな食べ物も一緒、好きな音楽も一緒、好きな洋服の趣味も一緒。もしクロノの存在を知ったらきっと恋のライバルになる。
絶対に気取られてはならない。心にさざなみを立てることも許されない。そうした中でウリスとの同調感は下がってしまう。
「アンナどうしたの?心ここに在らずじゃない。」
「ちょっと風邪を引いて体調が悪いだけ。」
明日はクロノに会う日だ。溢れ出る思いを抑え付けなくてはならない。気分が悪いからと言って家路につくと、眠れない夜を過ごした。待ち合わせの時間よりかなり早く家を出たので、木工屋さんに向かう。偶然にも木工屋の前にウリスがいたので声をかけようと思って、「ウリス。」と口から漏れる瞬間、私は身を翻し建物の陰に隠れた。
クロノ。ああ、やっぱり辿り着いてしまったか。
クロノが顔を赤らめて東洋風のマボローシカを渡している。
酷いよ。私にくれるって言ってたのに。私の初恋はこうして終わった。
次の日、ウリスを問いただす。
「昨日、男の人にマボローシカを貰ってたでしょ?」
「ああ、クロノ?いい男でしょ?私、あの人に首っ丈。」
「なんであの人なの?」
「んー、アンナちゃんが好きな人がどんな人か気になって後を付けたのよね。」
やっぱり気づいていたのだ。
「そしたら、凄い良い男じゃない?声をかけたら意気投合しちゃって。」
どんなふうに意気投合したか目に浮かぶ。マボローシカ人形の話でもしたのだろう。
「あの人、私の事が好きだって。アンナちゃんごめんね。だけどアンナちゃんが悪いんだよ。私に内緒で男を作ろうとするなんて、私とねアンナちゃんは一心同体なの。離れちゃいけないの。だからね、私あの人の事を誘惑したの。」
「え?クロノのこと好きじゃないの?」
「もちろん好きよ。だけどアンナちゃんとは比べものにならない。だってソウルメイトだよ。お互いのことを極限まで分かり合えるなんてそんな人間他にない。」
ウリスはクロノの事を振ったらしい。クロノはもう一度やり直そうと懇願して来たけど、私の気持ちは冷めてしまっていた。
それから暫くして、
クロノが逮捕された。
ウィンガイナーの秘密を探るために敵国から送り込まれたスパイだったのだ。この国ではウィンガイナーの秘密はトップシークレットだ。秘密を暴こうとしたものには厳罰が下る。
クロノが処刑されてしまう。その話を聞いた時、私の心は崩れ落ちそうになった。私はまだクロノの事を愛しているのだ
涙が溢れてくる。悲しみに押しつぶされて立つ事ができない。その時だ、ウリスの心が流れ込んできた。
笑っていた。私が悲しみに暮れていると言うのに、あの女は笑っていた。
何が〝同情〟だ。気持ちが通じたって思いは全然別のところにあるのに。
私はウィンガイナーに乗り込むことにした。そう、一人で。
暴走なんかクソ喰らえだ。私はクロノを助ける。例え結ばれことはなくても。
ウィンガイナーを動かすと人々は逃げ回った。
そして流入してくるウィンガイナーの意識。
なんと言う人間への憎悪。私は身を固くし必死に意識の壁を作る。クロノが囚われている牢へと向かわねば。
私は城の壁を破壊すると鉄格子をこじ開けた。
「今のうちに逃げて。」
「その声はアンナか?すまなかった。人質を取られて仕方なくやったことなんだ。」
「同情はしないよ。そんな余裕はこっちにはないんだから。」
「ありがとう、君のこと忘れないよ。」
ウィンガイナー、何でそんなに人間を憎むの?そう言う風に作られたから?だったら私が解放してあげる。
同情
彼は作品が特徴的すぎると有名な彫刻家
あまりにも独特すぎるが故に、商品が売れていない
普通のものを作ればいいものを
断固として、自分の世界の作品を作り続けている
逆に欲しい、とも一時期言われていたが
それも一時の風
薄い壁で取り付けられた興味はすぐどこかへ飛んで行った
「…またそんな服ばっかり着て、少しはオシャレしたら?」
君は、人の気も知らずにズカズカとドアを開けると呆れ気味にため息を吐いた
「作務衣の何が悪いのさ」
「悪いも何も、貴方は私の幼馴染なんだから一応人目は気にしてほしいんだよ」
「周りから職人って言われてるの知らない?」
職人、という言葉は聞いてて心地が悪い
売れていない自分に対しての皮肉なんだろう、そう気付くのには時間はかからなかった
「さっきから疑問文で話すのやめてくれないか、頭が痛くなる」
「はぁ……」
彼女は何度吐いたか分からないため息で部屋を見渡す
部屋はぐちゃぐちゃで、そこらに道具が落ちている
大学の空き部屋を使っているせいか日当たりも悪い
その目には、趣味の悪そうな彫物が置かれているように見えているのだろう
彼女は部屋の中心にある彫刻を見つめた
形が歪な、長身の女性
目は作成途中なのか顔はのっぺらとしてして、口は笑っている
下半身には女性らしいふっくらとした体の丸みが垣間見えた
「綺麗ね」
「行き過ぎた芸術は理解されない、とでも言うのか」
僕の言葉を無視して、彼女は濁りの無い眼で見つめる
モデルは君だ
そう言ったら君はどんな表情をするだろうか
きっと、御籤で凶を引いた、そんな顔をするに違いない
コツコツ、とヒールの音を鳴らしながら耳に髪をかけるアイツが少し色っぽく見えて、思わず顔を逸らした
「……なに?」
「べつに」
彼女は怒って、それか呆れて部屋を出ていってしまった
視界に写ったその瞳には、
僕がどんな色で見えていたんだろうか
「気の毒に。同情するよ」
そんなふうに言うくせに、アイツは昔からオレの悪口をみんなに流していた。何倍も誇張した悪い噂がクラス中に広められてしまったお陰でオレの居場所は無くなった。それが理由のすべてではないけれど、今日付けでオレは別の学校に転校する。
そして、教室の自分の荷物をまとめていたらさっきの言葉を言われた。吐き捨てるような言い方はちっとも同情しているようになんて感じられなかった。
「お前がいなくなると寂しくなるよ」
よくもこんな、思ってもないことを笑顔で言えるもんだな。コイツに尊敬するところなんてひとつも見当たらないが、演技力だけは人並み外れたレベルだなと少しだけ感心した。
「新しい学校ではうまくやれそうかい?寂しくなったらいつでも連絡してくれ」
ニヤニヤしながらそんなことを言うから、思わず聞いていて噴き出しそうになった。ちなみにさっきからしつこく話しかけられているけど、オレは一切相手をしてなかった。心の中では反応しているけど顔は無表情のままだ。コイツの存在を視界にすら入れてない。じゃあオレのほうが演技力は上なのかな?だがそうしたらもう、コイツは何の分野でもオレには勝てない。こんなにオレを真正面から敵対視してるっていうのに。そもそもオレは相手にすらしていないから、勝敗もクソもないわけだが。
それにしても荷物が思ったより多いな。さすがにこれ抱えながら帰るのはしんどいかもしれない。母さんに連絡して迎えに来てもらおうかな。
「っ、おい!いつまで無視してる気だ!いい加減オレの話を聞けよ!」
いきなり胸ぐらをつかまれた。顔を怒りで真っ赤に染めたソイツがオレに掴みかかってきた。相手にされなくて業を煮やしたらしい。
「おい、なんとか言えよ」
「ナントカ」
「あぁ?」
「ナントカ言えって言うから」
「てんめぇ……」
握り拳を振りかざすのを確認して、すかさずオレはヤツの足をかけ転倒させた。正当防衛だから文句言われる筋合いはない……って言っても、この低レベルはどうせ納得しないんだろうな。
「いきなり何しやがる!」
思った通り、尻もちをついたままでオレに喚き散らしてきた。惨めだなあ、と冷めた気持ちで見下ろした後、オレは荷物を抱えて教室を出た。後ろから待てこらとか聞こえてくるけどこれも無視した。
新しい学校はどんな感じだろうな。転校理由はクラスからのイジメにしたけど、実際のところは違った。もう、こんな低レベルな連中が集まった所にいるのはウンザリだ。それこそが、オレが転校を希望した理由だった。寄って集ってひとりの人間のあら探しをしてコソコソ笑ってる奴ら。こっちが相手にしなきゃ、さっきの馬鹿みたいにムキになってかかってくる。なんなんだか。
にしてもさっきのアイツのセリフ。同情するだなんて、言葉の意味を知りもしないで使うから決定的馬鹿だなと思った。憐れみも思いやりも持ってない人間が二度と口に出すなと思う。ただオレを見下したかっただけだろう。でもオレは最初から相手にしなかったから。それが叶わなくて結果、さっきみたいに暴力に頼ろうとする。低能すぎて呆れが止まらないよ。
そんなヤツは相手になんかしないで、オレは自分に相応しいところへ行くよ。さようなら、愚かなクラスメイト。いつまでもガキごっこしてるお前らに心から“同情”するよ。最高級の、憐れみを。
第二十三話 その妃、深淵を覗く
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現代からかけ離れた建築物に服装、武器に言葉遣い。平安時代を彷彿とさせる世界観に、思わずタイムスリップでもしてしまったのかと、頭がどうにかなりそうになる。
変わることをしなかったか、それともどこかのやんごとなき男が変わることをやめさせたのか、はたまた古き良きを求めてここまで遡ったのか、それはどうだって構わない。
ただ一つ言えるのは、昭和の日本にこのような場所が今でも残されているということ。
推測の域を出ないが、“この国”は誰にも認知されていない……謂わば、俗世からは切り離された場所だ。そうとしか、考えられなかった。
だから、余計に理解できない。
唇の動きだけだったとは言え、この男が何故そう言ったのか。
『……ねえ、あんた――』
『そなたには同情するぞ。予言の巫女よ』
一体誰なわけ――?
そう言いかけた言葉は、枯葉色の言葉に被されて消えた。
(……同情、ねえ……)
それから、幾度となく枯葉色の世界を渡り歩いた。
ある時は己の記憶を、ある時は誰かの記憶を、またある時は、誰かの夢の中を。
自我が芽生えた頃には、勝手に見えるようになっていた。制御も何も効かないまま、ただひたすらに、夢と誰かが繋がってくる。
辛うじてわかったことと言えば、対象が眼を合わせた相手だというくらいだ。人間や動物、勿論昆虫もそれの例外ではない。
『……ねえ、聞きまして? “ホトトギス”のお話』
慣れというのは恐ろしいものだ。
初めこそ、他人の記憶や感情を覗き見るみたいで罪悪感を抱き、眠るのでさえ恐ろしかった。けれどそのうち、悪用さえしなければいいだろう、好きでこんな力を手に入れたわけではないしと、夢を見ることに何も感じなくなっていた。
『聞きましたわよ。まさか、あの噂は本当に……?』
(……いい加減飽きたわね……)
だから、人生で初と言っていいほどの人数と対峙した所で、その程度にしか思わないわけだが。
『噂はさておき、大変厚かましい方だとか』
『冥土から蘇るような方ですもの。恐ろしいものなどないのでしょう』
(冥土に、ホトトギス……ね)
ただ一つ、これだけは確かだと、現時点だけで断言できることがある。
(悪いけど、やられっぱなしは性に合わないのよ)
あのやんごとなき男は、“私”という人物を徹底的に調べ上げているということだ。
それこそ、一握りも知らないはずの極秘情報まで。
#同情/和風ファンタジー/気まぐれ更新
「同情するなら…という言葉があるが、自分が満たされていないならするべきではない。」私が学んだ考え方の一つ
あの子嫌い。あの子ウザイ。あの子キモイ。
みんなと一緒に陰口。思ってもないことを…。
同情するあたしが嫌いだ。
ぶらさげた僕の傘の先から、君の靴の先まで。
残り雨の線が、ふたりを繋いでいる。
いつか消えるとしても、僕らには光って見えた。
同情
間違ったことした
女の子がいて 先生のアドバイスで 自分の席から離れて
被害者が えらくなって
女の子は ひとりで 教室のすみにいる
そんな その子が かわいそうで そばに私が行ったらいけない? わたしが被害者より強い場合