同情
魔導兵器ウィンガイナー。古代超科学王国が作り出した人型殺戮兵器だ。しかし小国ナーザレが周辺の大国から身を守るためには、この死神に頼るしかなかった。
ウィンガイナーを動かすには、二人の搭乗者を必要としていた。そして私たちは小さい頃より乗り手としての教育を施されて来た。
「アンナとウリス、よく聞きなさい。ウィンガイナーは意思のある兵器、お前たち二人が心を通い合わせ協力しなければ、精神を侵され暴走を始める。かつてウィンガイナーの暴走を止められず国が三つ滅んだと言うぞ。」
私と同乗者のウリナは血こそ繋がっていないが、身長、体重、年齢、全部同じ、見た目もそっくりだ。だけど一番肝心なのは、私たち二人の魔力量が同じであると言うこと。ウィンガイナーの動力には搭乗者の魔力が使われるため、私達が選ばれた理由はその魔力量の高さによるのでした。
私たちは精神を最高に同調させることに成功した時、感情を共有することができる。それを私たちは〝同情〟と呼んだ。
「わー、美味しそうなケーキ!」
「わー、美味しそうなケーキ!」
「チョコレートが口の中でとろけちゃう。」
「チョコレートが口の中でとろけちゃう。」
「また来ようね。」
「また来ようね。」
私たちに秘密はなかった。秘密を持てようはずもなかった。
だから、秘密を持とうとした私が悪かったのだ。
私とウリスはできるだけ一緒に行動するよう言われているがプライベートな時間もある。私は時間が空くと大好きな木彫り人形を見に、木工屋さんに行く。特に、木彫り人形の中にひと回り小さな木彫り人形が入っていて、その木彫り人形の中にもひと回り小さな木彫り人形が入っていて、最終的に人差し指を立てた右手だけが入っているマボローシカというオモチャが好きだ。
「マボローシカお好きなんですか?」
初めてクロノから声をかけられた時、背が高くて堀が深くて大人っぽい人だなと思った。なので、私と同じ十八歳だと聞いた時は二重に驚いた。
「はい、大きさが違うだけの木彫りの人形なんですけど、色んな想像を掻き立ててくれると言うか。」
「分かるよ。これとこれは親子なのかな?とか、魂が分裂したもう一人の自分なのかなとか。」
「そ、そうなんです。」
「僕はよく旅をするので、お土産にその土地の変わったマボローシカを買ったりするんだけど、興味ある?」
「はい、私、この国から一歩も出たことがないので、よその国のマボローシカを見てみたいです。」
「じゃあ、明日この場所にこの時間で再会しよう。ぼくの名前はクロノ。君は?」
「私はアンナ。よろしくね。」
クロノにあった瞬間から私の心は騒ぎだした。寝ても覚めてもクロノのことばかり、そしてなんとかウリスにバレないように出来ないかと思い悩んだ。
私とウリスは好きな食べ物も一緒、好きな音楽も一緒、好きな洋服の趣味も一緒。もしクロノの存在を知ったらきっと恋のライバルになる。
絶対に気取られてはならない。心にさざなみを立てることも許されない。そうした中でウリスとの同調感は下がってしまう。
「アンナどうしたの?心ここに在らずじゃない。」
「ちょっと風邪を引いて体調が悪いだけ。」
明日はクロノに会う日だ。溢れ出る思いを抑え付けなくてはならない。気分が悪いからと言って家路につくと、眠れない夜を過ごした。待ち合わせの時間よりかなり早く家を出たので、木工屋さんに向かう。偶然にも木工屋の前にウリスがいたので声をかけようと思って、「ウリス。」と口から漏れる瞬間、私は身を翻し建物の陰に隠れた。
クロノ。ああ、やっぱり辿り着いてしまったか。
クロノが顔を赤らめて東洋風のマボローシカを渡している。
酷いよ。私にくれるって言ってたのに。私の初恋はこうして終わった。
次の日、ウリスを問いただす。
「昨日、男の人にマボローシカを貰ってたでしょ?」
「ああ、クロノ?いい男でしょ?私、あの人に首っ丈。」
「なんであの人なの?」
「んー、アンナちゃんが好きな人がどんな人か気になって後を付けたのよね。」
やっぱり気づいていたのだ。
「そしたら、凄い良い男じゃない?声をかけたら意気投合しちゃって。」
どんなふうに意気投合したか目に浮かぶ。マボローシカ人形の話でもしたのだろう。
「あの人、私の事が好きだって。アンナちゃんごめんね。だけどアンナちゃんが悪いんだよ。私に内緒で男を作ろうとするなんて、私とねアンナちゃんは一心同体なの。離れちゃいけないの。だからね、私あの人の事を誘惑したの。」
「え?クロノのこと好きじゃないの?」
「もちろん好きよ。だけどアンナちゃんとは比べものにならない。だってソウルメイトだよ。お互いのことを極限まで分かり合えるなんてそんな人間他にない。」
ウリスはクロノの事を振ったらしい。クロノはもう一度やり直そうと懇願して来たけど、私の気持ちは冷めてしまっていた。
それから暫くして、
クロノが逮捕された。
ウィンガイナーの秘密を探るために敵国から送り込まれたスパイだったのだ。この国ではウィンガイナーの秘密はトップシークレットだ。秘密を暴こうとしたものには厳罰が下る。
クロノが処刑されてしまう。その話を聞いた時、私の心は崩れ落ちそうになった。私はまだクロノの事を愛しているのだ
涙が溢れてくる。悲しみに押しつぶされて立つ事ができない。その時だ、ウリスの心が流れ込んできた。
笑っていた。私が悲しみに暮れていると言うのに、あの女は笑っていた。
何が〝同情〟だ。気持ちが通じたって思いは全然別のところにあるのに。
私はウィンガイナーに乗り込むことにした。そう、一人で。
暴走なんかクソ喰らえだ。私はクロノを助ける。例え結ばれことはなくても。
ウィンガイナーを動かすと人々は逃げ回った。
そして流入してくるウィンガイナーの意識。
なんと言う人間への憎悪。私は身を固くし必死に意識の壁を作る。クロノが囚われている牢へと向かわねば。
私は城の壁を破壊すると鉄格子をこじ開けた。
「今のうちに逃げて。」
「その声はアンナか?すまなかった。人質を取られて仕方なくやったことなんだ。」
「同情はしないよ。そんな余裕はこっちにはないんだから。」
「ありがとう、君のこと忘れないよ。」
ウィンガイナー、何でそんなに人間を憎むの?そう言う風に作られたから?だったら私が解放してあげる。
2/21/2024, 9:44:48 AM