「気の毒に。同情するよ」
そんなふうに言うくせに、アイツは昔からオレの悪口をみんなに流していた。何倍も誇張した悪い噂がクラス中に広められてしまったお陰でオレの居場所は無くなった。それが理由のすべてではないけれど、今日付けでオレは別の学校に転校する。
そして、教室の自分の荷物をまとめていたらさっきの言葉を言われた。吐き捨てるような言い方はちっとも同情しているようになんて感じられなかった。
「お前がいなくなると寂しくなるよ」
よくもこんな、思ってもないことを笑顔で言えるもんだな。コイツに尊敬するところなんてひとつも見当たらないが、演技力だけは人並み外れたレベルだなと少しだけ感心した。
「新しい学校ではうまくやれそうかい?寂しくなったらいつでも連絡してくれ」
ニヤニヤしながらそんなことを言うから、思わず聞いていて噴き出しそうになった。ちなみにさっきからしつこく話しかけられているけど、オレは一切相手をしてなかった。心の中では反応しているけど顔は無表情のままだ。コイツの存在を視界にすら入れてない。じゃあオレのほうが演技力は上なのかな?だがそうしたらもう、コイツは何の分野でもオレには勝てない。こんなにオレを真正面から敵対視してるっていうのに。そもそもオレは相手にすらしていないから、勝敗もクソもないわけだが。
それにしても荷物が思ったより多いな。さすがにこれ抱えながら帰るのはしんどいかもしれない。母さんに連絡して迎えに来てもらおうかな。
「っ、おい!いつまで無視してる気だ!いい加減オレの話を聞けよ!」
いきなり胸ぐらをつかまれた。顔を怒りで真っ赤に染めたソイツがオレに掴みかかってきた。相手にされなくて業を煮やしたらしい。
「おい、なんとか言えよ」
「ナントカ」
「あぁ?」
「ナントカ言えって言うから」
「てんめぇ……」
握り拳を振りかざすのを確認して、すかさずオレはヤツの足をかけ転倒させた。正当防衛だから文句言われる筋合いはない……って言っても、この低レベルはどうせ納得しないんだろうな。
「いきなり何しやがる!」
思った通り、尻もちをついたままでオレに喚き散らしてきた。惨めだなあ、と冷めた気持ちで見下ろした後、オレは荷物を抱えて教室を出た。後ろから待てこらとか聞こえてくるけどこれも無視した。
新しい学校はどんな感じだろうな。転校理由はクラスからのイジメにしたけど、実際のところは違った。もう、こんな低レベルな連中が集まった所にいるのはウンザリだ。それこそが、オレが転校を希望した理由だった。寄って集ってひとりの人間のあら探しをしてコソコソ笑ってる奴ら。こっちが相手にしなきゃ、さっきの馬鹿みたいにムキになってかかってくる。なんなんだか。
にしてもさっきのアイツのセリフ。同情するだなんて、言葉の意味を知りもしないで使うから決定的馬鹿だなと思った。憐れみも思いやりも持ってない人間が二度と口に出すなと思う。ただオレを見下したかっただけだろう。でもオレは最初から相手にしなかったから。それが叶わなくて結果、さっきみたいに暴力に頼ろうとする。低能すぎて呆れが止まらないよ。
そんなヤツは相手になんかしないで、オレは自分に相応しいところへ行くよ。さようなら、愚かなクラスメイト。いつまでもガキごっこしてるお前らに心から“同情”するよ。最高級の、憐れみを。
2/21/2024, 9:42:17 AM