別れ際に』の作文集

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別れ際に』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど

9/29/2023, 2:12:58 PM

「今までありがと」
それが最後の言葉だった。
また会いたいだけが募っていく。




#別れ際に

9/29/2023, 1:21:01 PM

深い深い地下遺跡から、二人はようやく帰還した。太陽もなく鐘の音もない地下にいると、どれだけの時間が経っているのかわからない。睡眠を取った回数を経った日数だと数えている。
 今回は三度寝たから計四日は経っているはずだが、一週間も経ってはいないだろう。前のあのときみたいに、異空間に飛ばされでもしていない限りは。
 洞窟の出入り口から入り込む陽光が目に眩しい。火傷のような衝撃を覚えて、咄嗟にニェナは目をつむった。鮮烈な光がやわらかく感じるようになって、ようやく彼女は目を開けた。
「……大丈夫か?」
 心配そうにメイナードが自分の顔を覗き込んでいる。
「あ、はい」目が合ったのでニェナはにっこりと微笑んだ。「大丈夫です。……少し、目が眩んでしまって」
 そうか、と小さく頷くと彼はニェナから離れた。そして、先に外へと出て行った。もう少し目を慣らしてから、ニェナもその後に続いていく。
 思ったとおり、彼は洞窟の出入り口のすぐ近くに立っていた。彼がニェナを置いていくことは決してない。好奇心旺盛なニェナが彼を置いていくことは多々あるが。
 二人は並んで森の中を歩き始めた。
 森の木々は紅葉が深まってきた。そろそろ秋も半ば。異世界にいるうちに時間があっという間に過ぎてしまっていたから、実感としては薄いものの、もう探索を始めて半年以上の月日が経っている。まだ、災厄は治まらない。……治まる兆しも見せない。
(おばあ様はわたしのせいではないと仰ってくださったけど……)
 どうしてもニェナは引き金を引いたのが自分ではないかという罪悪感が拭えなかった。解決して英雄と呼ばれたいわけではない。栄誉を誰かに譲ることになっても構わない。
 ただ、町が、生まれ育ったこの故郷が平和になるのであればそれでいい。
 枯れ葉が積もるふかふかの腐葉土の地面も、大勢の人々が何度も行き交ううちにすっかり踏み締められている。その道を辿って町に戻ってきた。
 町の中央広場までやってきた二人は、どちらとともなくモニュメントの前で立ち止まった。
「メイナードさん、今回もありがとうございました」
 ニェナはそう言うと頭を下げた。
「構わない」彼の返答は素っ気ないほど端的だ。「次はどうする?」
「メイナードさんがよろしければ、明日にでも」
「承知した」
 彼女の言葉に彼は頷いた。それではまた、と簡潔な挨拶を残して去っていく。
 ニェナはその後ろ姿が見えなくなるまで見送ると、踵を返して家への道を駆けていく。

9/29/2023, 10:54:16 AM

別れ際に、で思い浮かんだのは
「刑事コロンボ」。
犯人と話して、別れ際に
「あともうひとつだけ…」と
犯人の緊張が緩んだところで、本質に迫る 質問を重ねる。

流石に刑事に聞かれたことはないが、
就活ではある。
「最後に、何かご質問はありませんか?」
というやつ。

ないわ!と思うが、そこはにこやかに、
「たくさんお話しさせていただいたので、
入社後のイメージができ、ますます御社で働きたいと感じました」
というのもベターらしい。

最後まで、何事も気が抜けないものですね。

9/29/2023, 10:47:53 AM

「今日も演奏、素敵だったわ。ありがとう」
 そう言って、C***さんが頬に口づけをして去っていく。それが彼女にとっては(ある程度気に入っているとか、そういう前提があるにしても)それなりに珍しくないことだと知っていても、やはりどぎまぎしてしまうのは、俺が男だからなのか、彼女がそれだけ美人だからなのか、その両方なのかは分からない。横で見ているあの人も特に気分を害した様子を見せないから、構わないといえば構わない。それに、あの人によれば俺も大概キス魔だからどうでもいいらしい。そもそもお前は私のモノじゃない、と言い切られたときはちょっと悲しかったから、そのへんの感覚は単純でいて大層複雑なのだ。これがヒトの機微というやつか、とあるとき漏らしたら、それだとまるでお前が人間じゃないみたいに聞こえるぞ、と笑われたから、それはそれでなんとも言えない気分になった。
 まあ、マウストゥマウスじゃないからいいか。
 そう思うことにする。
「さて、どうする?少しなら飲むのに付き合ってもいいが」
「そうですね――」
 あの人の言外の誘いに俺はちょっと考える。ここの酒場は何度か来ているが、品ぞろえはよく言えばオーソドックス、悪く言えばコンサバなので、外しはしないが嵌りもしない。質についてもそれは同じだから、意外な発見、というのも期待できない。
「今日はいいです。それよりも――」
 そう言ってあの人の腰のちょっと上、手を置きやすい場所に触れる。背丈があまり変わらないから、自然と腕を伸ばした先がちょうどそこに収まるのだ。もっと積極的な男ならばそのまま抱き寄せやすいのかもしれないが、俺にはそれはあてはまらないようだったし、彼女もそれで喜ぶタイプではない。
「ふふ、今日は妙に積極的だな」
「そうですか?まあ、さっきまでの曲のせいですよ。酒場ですから」
 そう言って俺にしては珍しくちょっとだけ彼女を引き寄せると、彼女は俺の鎖骨のあたりに、挟むように手を置いてそっと撫ぜる。ぞわりとしたものを感じるが、俺は身体を引かずに、むしろ前に出て彼女の耳元で、それらしい言葉を囁く。
「そのよく分からない言葉、なんとかならないのか?たまに水をさされた気分になるんだが」
 そう言う割に、距離を保ったままに熱い、おそらく酒くさい息で彼女は囁き返した。俺は一度身体を離し、軽く口づけをする。至近距離で見た彼女の目は、言葉ほど冷めてはいない。
「すみません、つい。たくさんしてください、って意味です」
「ならいい。せいぜい可愛がってやる。いつもとは違うだろうしな」
 そう言うと、彼女は寄りかかっていた壁を離れてカウンターへと向かい、俺も黙って従う。案の定、おや、今日は飲んで行かれないんで?という言葉をかけられるが、俺は無言で彼女に視線を向けた。彼はちょっと意外そうな顔をして、いつでもお待ちしていますよ――とだけ言うと、すぐに別の客に呼ばれ、俺たちから離れていった。
 そのやりとりを黙って見ていた彼女は、まあ、いい。そういうのもお前の少しはましなところだ――そう言って俺の手を掴むと、酒場を出た。
「さあ、素面のお前はどうだろうな」
 そう言った彼女の目は、やはりらんらんとした光を放っていた。

9/29/2023, 10:01:47 AM

言葉では何も残せない 
そう思うなら 傷を入れてよ最後のキスで

#短歌 #書く習慣 20230928「別れ際に」

9/29/2023, 9:58:27 AM

「私の瞳の色は心の色なの」

彼女はそう教えてくれた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
彼女は澄んだ青色の目を持っていた。

ふわふわの髪の毛は私の直毛と、全く違った。

姿かたちは、どこか異国の雰囲気を漂わせていた。

彼女は緑香る頃、爽やかな風と共に、私達の学校に

やってきた。彼女は、退屈な日常に異国情緒を伴った

風を吹き込み、非日常に変えたのだった。日常に

飽き飽きして、非日常に飢えていた私達は、

たちまち彼女の虜となった。明るく美しい彼女も、

私達のことを好いてくれたようで、クラスは彼女を

中心として、きちんと回っていた。

私は彼女のことを1番愛しく思っていて、彼女も

クラスの中で、私を大事に思っていてくれた。

自分の瞳が感情によって変わるという秘密を

私にだけ教えてくれた。彼女の瞳が冷たい色に

なるとき、彼女は悲しみや怒り、辛さなどの良くない

感情を感じている。逆に、暖かい色になるとき、

喜びや、嬉しさ、などの良い感情を感じているときだと

発見したりもした。

なのに、歯車が狂い始めたのはいつからだろうか。

最初は、うさぎ小屋でうさぎが死んだ事件だった。

当時、生き物係だった私と彼女は、放課後小屋で、

包丁で殺されたうさぎの時代を見つけた。

なかなかにグロテスクで、彼女の後ろに隠れて

しまったくらいだった。

「うさぎ殺されたみたい…。」

「誰がこんなことしたのかしら。ひどいわね。」

彼女は憤慨した様子で、そう言った。正義感の強い

彼女は、こんな事件が起きたら首を突っ込むこと

間違いなしだった。私は密かに、放課後も彼女と

居られる喜びを噛み締めながら、小屋の周りを

観察した。特に何も見つからなかったけれど、

彼女はなにか分かったようだった。

「今日は朝の7時半まで、雨が降っていたわね。

 なのに扉を 開けた跡が土に残っているわ。

 きっと朝にやったのでしょう。朝7時半から…
 
 そうね、朝挨拶委員が並ぶまで、8時までに

 来た人は誰かしら。」

私は答えられなかった。朝のことなんて覚えて

いなかった。そう繰り返す私に、彼女は諦めたよう

だった。犯人探しは頓挫した。

事件はおそらく生徒の犯行ということで、表沙汰には

ならなかった。彼女の瞳の色は緑色だった。

冷たい色だった。きっと悲しみを感じていたんだと

おもっていた。

歯車が狂い出した原因は、もう一つあるだろう。

彼女の瞳の色について、噂が出回ったのだ。

彼女の表面しか見たことがない人は、彼女の美しさを

妬み、悪意のある噂を流した。魔女の末裔だとか、

はたまたそれは虚言で、有名になりたいがためについた

嘘だとか。

みんな好きになるのが早かった分、離れていくのも

早かった。みな、異国からやってきた素敵な姫と

思っていたのに、もう他国からやってきた異物だと

思っているようだった。

彼女は徐々に孤立し、顔に笑みが浮かぶことも

なくなった。私は最後まで彼女のそばにいたけど、

彼女の瞳は緑色をたたえたまま変わらなかった。

深い哀しみに取りつかれているのだと思っていた。

そして彼女はとうとう転校した。

私に何にも告げず、学校に行ったら居なかった。

不審に思って先生に聞いたら、転校するのだと

教えられた。先生は親切に、彼女たちが出発する時間

も教えてくれた。

私はその時間に、彼女の家まで行った。ちょうど彼女が

出ていく頃で、私は声をかけた。

「ねえ、帰っちゃうの?なんにも言ってくれなかった

 じゃない!」

「ねえ、なにか言うことはないかしら。」

「言うこと?うーん…。あなたがいなくなったら

 さみしいわ。」

彼女はもうなにも言わなかった。黙って私に背を

向けた。そしてそのまま歩き出した。

でも私には見えた。別れ際の彼女の目は緑色だった。

多少素っ気なくても、別れを悲しく思っているのだと。



分かったつもりだった。

最近までは。でも今になってあのことを思い返すと、

彼女は気づいていたのかもしれない。



私が、うさぎを殺したって。彼女と少しでも長く一緒に

居たくて、あんなことをした。朝早くに来ていたのは

二人だけだった。私と、利き腕を骨折をしていた

クラスメイト。言ったらバレると思って、忘れたふりを

した。でもあれくらい骨折をした子に聞けば、すぐに

わかったはずだ。まともにうさぎを殺せたのが私だけ

だったと。

噂もそうだ。あのことを知っていたのは私だけだった。

みんなと仲良くしている彼女を見て、少し孤立したら

私だけを頼ってくれると思ったのだ。

そう、きっと彼女の瞳の緑色。

あれは軽蔑の色だったに違いない。

犯行をして、自分はやっていないように振る舞っていた

その姑息さを、心底軽蔑していたに違いない。

そして別れ際に、彼女が促しても知らない振りをした。

その卑怯さに呆れ果てついに私を見放したのだ。



でも時々思う。

        かわいそうな子

     私を愛してくれたらこんなことには

        ならなかったのに。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

別れ際に
「緑の瞳」

9/29/2023, 9:55:57 AM

別れ際にあなた
またね、って言ったのに
あれから何年たったかしら

9/29/2023, 9:38:54 AM

「別れよう」
彼氏から突然告げられた、最悪の言葉。
「なん…で…」
その辺のカップルよりかは、充実した生活を送っていたと思う。
これじゃ、満足できなかったの?
私に何か非があったの?
もしかして好きな人ができたの?
たくさんの質問が脳裏によぎる。
だけど。
「わかっ…た…。」
それでも口から出た言葉は『肯定』だった。
「…ごめん。」
私が愛したあなたは気まずそうに俯く。
せめて、別れ際くらいは。
「な、ど、どうしたの!?」
あはは、すごく動揺してる。
「…最後くらい、私からしてみようと思っただけ。」
彼の唇に私を重ねた。
「…っ」
彼は頬を真っ赤にして唇に手を当てる
「ふふっ、惚れ直した、なんて言ってももう付き合ってあげないんだから」
いたずらっぽい笑みで微笑んで、私はその場から去った。
私は最後まで彼の『彼女』で居れたよ。

お題:別れ際に

9/29/2023, 9:31:28 AM

別れって急にくるよね。だからみんな1日1時間1分1秒を大切にしろって言うけどだるくね?カップ麺だけ食べて生きていきたい

9/29/2023, 9:19:11 AM

卒業式の日。
みんながみんな泣きながら友人と高校生活最後の日を過ごしているとき。
私は1人涼しい顔をして喋っていた。
「泣かないなんてすごいね。」
と、何人に言われただろうか。
心の中では多分、
『この場の空気を読んで泣くマネぐらいしろよ』
なんてことを思っているんだろうな。

そんな冷めた考えを頭の中で渦巻かせながら、次々とこっちに寄ってくる人達の相手をしてあげる。

ーー疲れてきたし、そろそろ終わんないかな…

そんなことを思っていた時だった。
あなたが…私が1番大嫌いなあなたがこちらにやってきたのは。

『やっほー!』
「今日で最後だね。」
『ねー!あ、自覚したらまた涙が…グスッ』
「あー、泣かない泣かない」
と、ハンカチを差し出すと
『逆になんで泣いてないの〜??』
と、泣きながら言われた。
模範的な回答をする。
「高校生活は終わっちゃうけど、またいつでも会えるでしょ?」

まあ、絶対会わないけど。

だって、私あなたのこと嫌いなんだもの。
世界で1番。

でも、あなたはそれを知らない。だから、
『そうだよね!私たち、1番の親友なんだから!』

ああ、なんて…



愚かな子



まあ、いいや。
どうせこいつとも今日でおさらば
あ、終礼の時間だ。

「終礼の時間だから、教室に戻ろう。」
『うん!』

教室に戻ると、担任含め、私を除く全員が大号泣していた。

あーあ担任、アイメイクが崩れてほぼパンダじゃん。

担任「あなた達と過ごせて本当に良かった。これで私も悔いなく…!」

刹那、教室の至る所から空気が注入されるような音がした。

ザワつく教室
混乱する生徒
狂ったように笑う教師




計画通り。




私はほくそ笑んで用意していたロープを伝って窓から降りた。
地に足が付き、私はロープを勢いよく引っ張って残りの生徒の逃げ道を無くした。


教室の鍵は外からしか開けられない。


これで…



清々しく卒業できるね


私のために死んでくれてありがとう


              2023/9.29 別れ際に

9/29/2023, 9:17:52 AM

幼馴染の親友と遊んだ時、

"別れ際に"寂しいと思った事がある。

当たり前なのかもしれない。

しかし自分の中でそれほど居心地の良い空間だったんだなと思うと、やっぱり昔の友達は大切だと感じる。

自分の存在意義が分からなくなって、

現実が辛くなって。

そういう時に何もしていなくても元気をくれる

ただそこにいてくれるだけで幸せになれる

そういう人に、いつか私もなりたい。

9/29/2023, 9:00:55 AM

「はい、今日は飴ちゃんね」

ヤンキーっぽい彼女は、別れ際にいつも私にお菓子をくれる。

彼女曰く、私は「唯一の友達」だと言う。

そんな関係だけど、理由は聞いた時がない。

と言うか、多分聞いても「はぁ?」とか言って払われるだろう。

ただ、そのお菓子と一緒に1枚の紙切れももらう。

(99……?昨日は100だったのに)

黒ペンで書かれた数字。

キョトンとしている私を置いて、彼女は「じゃ」と短く言って手を振った。

私も慌てて「またね」と返して、帰路についた。

〜別れ際に〜

9/29/2023, 8:43:54 AM

別れ際に、また明日ね、という毎日
当たり前に思えても、終わりが来る時は決まっている
今がこんなに楽しいから
迫る未来を押しのけて
繰り返し、繰り返し
同じ時を歩むことが出来たら良いのに

(別れ際に)

9/29/2023, 8:41:12 AM

私は貴方とずっと一緒に遊んだり、話したりする上でふと思い出すことがある。
私と貴方はあくまで『友達』という事に。
画面越しでのあの親密な関係ではなくって、一からやり直したみたいに。
でも、その親密な関係すら『親友』という関係である事。
…私は貴方の恋人になりたい。昔からそう思っている。だけど現実はそう上手くはいかない。
私はそれを分かっているけれど、どこか悲しかった。
明日は早くて、泊まれない。となって自宅に帰ろうとして
「じゃあ、また今度ね」と笑顔で言ってそこから去ろうとした時
不意に口から本音が零れ落ちた。
「私、貴方の特別になりたい。」なんて。
私はそれを言った後、すぐに自宅に戻った。
なんて事を別れ際に言ったんだ。私。

9/29/2023, 8:29:07 AM

🌝秋夜思🌝

   床前看月光
   疑是地上霜
   擧頭望山月
   低頭思故郷


     李白✨




 床前として月光を見る

 疑ふらくは
 これ地上の霜かと

 頭を擧げて山月を望み

 頭を低れて故郷を思ふ




【現代語訳】

寝台の前まで射し込んでくる
月の光を見ていると

まるで地上一面に降りた
霜ではないかと見間違うほどの
白い輝きである

振り仰いでは山の上に
明るく輝月を眺め

俯いては故郷のことを
しみじみと懐かしく思い出す

9/29/2023, 8:28:43 AM

【別れ際に】

別れ際にもう一度『夢』を見る。

手を繋いで

キスをして

体を重ねて

朝になったらサヨナラさ。

9/29/2023, 8:05:58 AM

──別れ際に。
 君の髪が靡くのを見た。黒くて、長くて、きれいな髪だった。
 君の髪が夕日に照らされて、橙色に輝くのを見た。
 それが、僕が覚えている君の最後の姿だ。

9/29/2023, 7:54:46 AM

別れ際に、何かひとつ記憶に残せたらいいよ。案外、どうでもいいことを後から懐かしく思い出したりするだろうから。

ほんとうに懐かしくなるまでは、何十年もかかるけど、ひとかけらになるまで。待とう。

9/29/2023, 7:30:32 AM

「んじゃ、ここで。」
彼は駅の改札の手前で立ち止まると、くるりとこちらを向いた。
わたしが好きな優しい笑顔を浮かべてこちらを見つめる彼。

今日は手を、つないで帰ってくれなかった。

いつも、わたしたちは手をつないで彼の駅の改札まで一緒に帰っていた。
二人で他愛のない話をしながら歩く帰り道。
柔らかな温もりがいつも左手にあった。
なのに今日は、なんだか寒い。
「…うん。また、ね。」
わたしはぎこちない笑顔を浮かべた。
本当はばいばいなんてしたくない。
本当は今すぐにでも抱きつきたかった。
でも…。
「あのさ、」
ふと、彼はわたしに少し歩み寄った。
二人の視線が絡み合う。
「今後もさ、友達としての関係は続けたい。」
彼はわたしの顔を見ずにそう言った。
わたしは彼の言葉に何も返さず、俯いて黙り込んでしまった。
愛想よく可愛らしい笑顔でうん、っていえばよかったのに。
どうしてわたしは黙ってしまうの…?
なんだか目頭が熱くなってきた。
ぐっと涙を堪えていると、優しい声でわたしの名前を呼ぶ声がした。
ふっと顔をあげたとき、全身が温もりに包まれた。
わたしの大好きな香りが鼻腔をかすめる。
「ごめん…。」
彼の優しい声が耳元で聞こえた。
「ううん…。いいの。」
わたしたちはそのあとは何も言葉を発せず、ただただ抱き合って静かに涙をこぼした。

彼と別れた帰り道。
わたしは駅での余韻に浸っていた。
彼と一緒に帰るのはあれが最後だった。
「なんで、別れちゃったのかな…。」
わたしはぼんやりとそんなことを思った。
わたしたちが別れた理由は簡単だった。
お互いの意見が少し食い違っただけで大喧嘩して、そのまま別れてしまっただけ。
ほんとにくだらないことで大切な人を失ってしまったのだ。
日が沈みきりそうなとき、通学路の途中にある公園の、大きな一本の木が花を咲かせていた。
金木犀だった。
金木犀は、彼の好きな花。
わたしはトイレの芳香剤みたいな匂いで嫌いだったけど、今は金木犀が愛おしく思える。
「わたし、本当は大好きだった…。」
わたしは頬が濡れるのを感じながら目を閉じた。
金木犀は優しい香りを風に乗せ、彼との思い出をゆっくりと呼び起こしていった。


『別れ際に』

9/29/2023, 7:29:37 AM

別れ際には一番いい顔をしよう。
それが今生の別れになるかも知れないからね。
一番いい顔を思い出してもらおう。

別れが嬉しいって勘違いされるかもしれないけどね。

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