『別れ際に』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
目が覚めた。
転がるような勢いでベッドを抜け出し、部屋を出る。
誰に会いに行けばいいのかなど、分かりはしない。けれど、どこへ行けば会えるのかは、なんとなく分かるような気がした。
縁側からサンダルを突っかけて、庭を抜け裏手へと向かう。
今は立ち入り禁止のその場所で、あの子が待っている。そんな根拠のない確信を持って、朝焼けの薄暗い道を走り抜けた。
その場所に、彼女はいた。
小さな池。皆が眠る場所。
名前も思い出せない彼女に、走る勢いのまま抱きつく。
「会いたかった」
「うん」
離れないようにしがみつき、会いたかった、と繰り返す。宥めるように背を撫でる、その手が只々懐かしくて涙が滲む。
「忘れていて、ごめん」
「うん」
「一人ぼっちにさせて、ごめん」
「うん」
「私を救ってくれて、ありがとう」
「うん」
ずっと一人にさせてしまっていた、泣き虫な優しい子。未だに思い出せない事が歯痒くて、さらにきつくしがみつく。
謝罪と感謝の言葉一つ一つに相づちを打つ彼女の優しさに、心のどこかで安堵する。
思い出せなくても、彼女との関係をまた始められる。新しく始める事を彼女はきっと許してくれるはず。
だから、と期待を込めて、願いを口にした。
「これからは一緒にいるよ。一緒に返ろう」
あの夕暮れ時のように。
一緒に手を繋いで。
――けれど。
彼女は何も言わない。
一向に答えが返らない事に不安を覚えて、しがみつく手を緩めて少しだけ距離を開ける。
怒っているのだろうか。自分勝手が過ぎると、機嫌を損ねてしまったのだろうか。
恐る恐る彼女の顔を見る。涙でぼやけて、はっきりとは見えない。
それでも、確かに。
涙に滲む先で、彼女は静かに微笑っていた。
「な、んで…?」
空いた隙間を広げるように、背を撫でていた手に体を押される。
離れたくないと伸ばした手は、彼女が後ろに下がった事で空を切り、届かない。
それは、明確な拒絶だった。
「あなたは、彩葉《あやは》として生きていける。もう大丈夫」
何が大丈夫なものか。こうしてここにいるのに、触れる事だって出来るのに何故一緒にいてはいけない理由が分からない。
何故、の疑問を口にしようとして、けれど溢れたのは言葉にならない嗚咽だった。
流れる涙が、彼女の輪郭を溶かしていく。このまま消えてしまうのではという恐怖に、もう一度腕を伸ばし。
「彩葉」
静かな声と共に肩を引かれ、手が彼女に届く事はなかった。
「法師、様?」
何故、止めるのだろう。
彼も彼女を覚えていないから、こうして止めるのだろうか。
ならば教えなければ、と口を開きかけ。しかし彼女を覚えていない事を思い出し、さらに涙が溢れてくる。
「狂骨の元に、彩《さい》の名を与え、彼女に見立てた化生を与えました。定着した瞬間に繋がりを断ち切ったので、彩葉が狂骨に引かれる事はないでしょう」
彼の視線が彼女を捉える。
息を呑む音。驚きからか、それとも別の何かがあるのか。
「これで、ようやく法師様の望みに応える事が出来ました」
「やはりそうか。儂の過ちを背負わせてしまい、すまなかった」
どういう事だろう。彼女がいなくなった理由が、法師様なのだろうか。
頭を下げる法師様に疑問が浮かぶが、しゃくり上げながら泣く事を止められない今、それを尋ねる事は出来ない。
「帰ってきてくれるか?お前に施した呪は、何としても解くと誓う。だから」
「ごめんなさい、法師様。でも、あの時間違った言葉は返せるから」
法師様の言葉に、彼女は首を振って謝る。
そして、とても綺麗な笑みを浮かべた、ように見えた。
「ただいま。お父さん」
あぁ、と吐息に似た、か細い声が聞こえた。
「そう、だな。そうだった。お前はあの時言ったのだったな。――行ってきます。お父さん、と」
思い出した、と告げる法師様の声は震えていて。
泣いているみたいだ。
「お帰り、儂の娘。これ以上零したくはない故に、名を呼べぬ事を許してくれ」
「いいよ。大丈夫。もう大丈夫だから」
彼女の声は酷く穏やかだ。
こんな彼女は、知らない。覚えていない記憶の中の彼女との差異が、何故か怖い。
「行かないで」
「ごめんね」
必死に言葉にした願いは、謝罪の言葉で否定される。
どうして、と腕を伸ばしても、やはり彼女には届かなかった。
「神様と約束したから。すべてを見届けてさよならを言えたら、神様の眷属になるって」
「っ、そ、んなの。やだ。なんで」
穏やかに、彼女は残酷な言葉を紡ぐ。
「理由は何にしたかな。手が暖かかったとか、眼が綺麗だったとか。そんな感じだったはずだけど」
「理由なく、神と契約を交わしたというのか」
法師様の言葉に、彼女はそうだね、と肯定する。
「神様がそれを望んだ。契約とか、対価じゃない。神様自身が共にいる事を望んだから。だから応えた。それだけだよ」
空っぽだったからね、と彼女が笑う。
その笑い方は、やっぱり知らない人のようだ。
「そろそろ、お別れをしないと。あまり待たせるのもいけないだろうし」
「やだ。ぃやだ。嫌だっ!」
首を振る。嫌だと、必死に否定して。
それでも駆け出そうとする体は法師様に引き止められて、どうしても彼女の元へと届かない。
「帰ろうよ?ねえ、お願いだから。一緒に帰ろう?」
「彩葉」
名前を呼ばれる。彼女か法師様か、分からない。
どちらでも構わなかった。
帰れないのなら。一緒でないのなら、それに意味はない。
「彩葉」
優しい声。
頬を暖かな手に包まれる。
幼い子供のように駄々をこねる私を慰めるその熱に、動く事が出来なくなる。
「大丈夫。一人じゃない。一緒にいてくれる親友がいるでしょう?だから、もう彩でいる必要はないんだよ」
彼女の言葉が、体の中に広がって。じわじわと染みこんで、怖さも何もなくなっていく。
彩葉、と名を呼ぶ声が、大切な親友のそれと重なって聞こえた。
「繋がりはもうないけど、しばらく残るものはあるみたいだ。ごめんね。ここまで来てもらって」
手が離れていく。
けれど、先ほどみたいにすがる気持ちは凪いでいて。ぼんやりと離れていく彼女を、ただ見つめていた。
「彼女をお願いします」
「そうだな。弔い続けよう。彩葉を切り離してくれたのだ。これから先は、過ちを犯した儂のやるべき事だ」
彼女が笑う。
お別れだ。きっともう二度と会う事もない。
そして、いつしか彼女がいた事すら忘れて、生きていくのだろう。
少し寂しい気がした。けれど、だからこそ生きなければいけないと強く思った。
それを何よりも彼女が望んでいるだろうから。
「彩葉。お父さん」
朝の光を纏う彼女は、とても綺麗だ。
「ありがとう。さようなら」
綺麗な彼女が、綺麗な声で別れを告げた。
強く風が吹いて、彼女を連れて行く。
舞う葉の合間から見えたのは、幾重にも縄の巻かれた強い腕。
太陽よりも強い光を湛えた、金の瞳。
さらに強くなる風に、思わず目を瞑る。
それは一瞬の事。
次に目を開けた時。そこに彼女の姿はない。
青の空を見上げ、さようなら、と呟いた。
20240929 『別れ際に』
《別れ際に》
最初に付き合う時は別れるなんて考えてなかったし
私達には関係ないと思ってたんだ
でも、現実はそうは行かなかったみたい
今日で貴方との特別な関係もお終い
だから、まだ貴方の「特別」である今の内に
「大好きだったよ、今までありがとう」
“感謝”を
だから、別れ際くらいは
「私と別れた事を後悔するよ!」
少しの悪態くらい許してよね
別れ際に 通り雨
カフェデートを楽しみ、そろそろお会計をと話し出した頃
窓を勢いよく叩く音が聞こえた
「あ、雨だ」
「通り雨っぽいよ」
雨に気が付いた私の呟きに彼はスマホを見ながら答えてくれる
はい、と見せられたスマホの画面には15分ほどで雨が止むと表示されていた
「ありがとう」
「どういたしまして」
スマホを返し、彼の顔を見るとニコニコと嬉しそうだ
「嬉しそうだね」
「愛しい彼女と過ごせる時間が延びるので♪︎」
「!?
さ、左様ですか…」
彼の屈託ない言動にこっちが恥ずかしくなる
恥ずかしいけど、嫌な気持ちはしない
だって私も同じ気持ちだから
さよなら、バイバイ。
いつもの「またね」を言ってくれると思ったのに。“また”があると思ったのに。まだ、隣に入れると思ったのに。
君が放った別れの言葉からは、「もう会わない。」そう言われた気がした。
実際そう思われていた、と思う。
それがわかっていても、引き止めることはできない自分が悔しくて悔しくて、情けない。
「うん、さよなら。じゃあね、」
―さよならなんて言いたくないけど。
どうか元気で。可能ならば、もう一度。
【別れ際に】
(すみません、枠の予約です。)
基本的に、あまり別れ際に悲しんだり引きずったりということはしないです。
じゃ、またね〜くらいの感じで。
またすぐ会えるから、という気持ちでいたいですね。
-別れ際に-
「なーに?」
人混みの中、私は声を張り上げる。彼は遠くにいるわけではない。すぐ隣にいる。声が小さすぎるのだ。
電車間に合うかな。もう門限ギリギリなのに。
早く別れたいわけじゃない。授業のグループワークを言い訳にして彼を一日誘い出したのは私のほうだ。
二人で図書館で勉強したりカフェでお話したり、偶然やってた福引きを一緒に回しちゃったりなんかして、一等のちいかわの巨大ぬいぐるみが当たったらどっちが持って帰るか相談したりして、本当に当たっちゃうかもなんてワクワクしてたら結局ただの参加賞で、ポケットティッシュ二袋入りをもらって、彼はちいかわのイラストのある方を私にくれて。
なんだか今日一日だけ、本当に付き合ってるみたいでさ。すごく楽しくてさ。ここで別れたら、今日のことが夢みたいに消えちゃいそうでさ。
でも彼を困らせたくはないし、今日は良い日だったから良い日のままで終わらせたかったし、だから明るく「じゃあね」って別れようとしたら、彼がもごもご何かを言っている。
普段から声の小さい彼が、さらに小声になるものだから、全然聞こえない。
私は片耳に手を当て、背伸びをして、彼の方に耳を近づける。
彼はまた何かを言っている。今度はちょっと早口で。なにか言い訳をしているようだ。しかしやはり聞こえない。
「なにー?」
背の高い彼は身をかがめて、私の耳に顔を近づけた。
「アヤカさん」
彼の声が、近い。
「は、はい」
ちょっとでも動いたら、彼に触れてしまいそうで、私は身を固くする。
「好きです」
えっ。
思わず振り返る。照れくさそうに笑う彼と目が合う。
【お題:別れ際に】
「別れ際に」
半年ぐらい前から突然住み着き、しまいにはきょうだいまで連れてきた、いまだに正体がよく分からないひとそっくりの機械。
気が向いたからか自分の世話を焼いてみたり、散歩をしてみたり、「仕事」とやら以外のことも色々している。
本当は生き物なんじゃないか……?
そいつはよく「仕事場」にも出掛ける。
別れ際にはいつも、「それじゃ!」「キミも元気でいてね?」「すぐに帰ってくるからさ!」って言うんだ。
だいたいちゃんと帰ってくるけど、時々思うんだ。
本当に帰ってくるのかな、って。
あいつのしている仕事は、割と危険が伴っているみたいで、この前なんかは右腕が吹き飛んだりもしてて。
そのうち、帰ってこない日が来るのかもしれない気がして。
すごく、すごく不安になるんだ。
小さいきょうだいを置き土産にして、いきなり「後は任せたよ!」なんて言われる日が来るとしたら、そのことを考えただけで恐ろしくなる。
どこかで元気にやってることを祈る日が続いたとしたら、それだけで悲しくなる。
今日は、ちゃんと帰ってくるかな。
元気な「ただいま!」が聞けるかな。
あんたの小さなきょうだいも、帰りを待ってるよ。
もうそろそろ、帰ってきてもいい頃だろ?
ほら、もう。
【⠀No.10 別れ際に 】
真夜中、熱の篭った真っ暗な室内に響くのは、肌と肌が
ぶつかる音と男女の甘い声、吐息だけ。
ふかふかしていて豪華なベッドの上で、男も女も満足するまで欲を吐き出す。
少し裕福な家庭で育った私は、タワーマンションの最上階に住んでいる。
お嬢様のような立ち振る舞いを何年も教わってきたから、家を出た今でも癖が抜けない。
そのせいなのか、私に好意を寄せてくれる男性は殆ど
いなかった。全員、カネ目当てだった。
だから私は出会いを求めて、裏垢を作り、男と会った。
彼は私にとって、少しだけ特別な存在になりつつある。
でも所詮はカラダの関係。
「ねえ、私たちって、何?」
「ただの発散相手」
「……そう、だよね」
当たり前のことなのに、そう言われると胸の奥が痛む。
この感情はなんなのだろう。
そんなことを考えながら、私が次会える日を聞こうとした時だった。
「俺、彼女できたからさ。もう会うのやめよ」
彼に触れようと伸ばした手は届かず、空気を掴んだ。
慣れた動きで風呂場に向かう彼の背中を、私はただ
見つめることしか出来ない。
扉が閉まってすぐに聞こえてくる聞きなれたシャワーの音が、今日はなぜだか体中に響いた。
5分も経たず上がってきた彼は、濡れた髪を気にせず身支度を始めると、玄関に私の部屋の合鍵を置いた。
「コレ、返すわ」
声が出なかった。
「あと、せめてものお礼。今までありがと」
私の方に何かを投げる彼。
それを私がしっかり受けとったことを確認すると、彼は今まで私に見せたことの無い幸せそうな顔で、スマホの待ち受け画面を眺めた。
「じゃ」
そんな短く素っ気ない言葉を残して、彼は部屋を去った。
さっき掴んだものをベッドに並べると出てきたのは、
1枚の硬貨と私が好きだと言ったキャラのキーホルダー
だった。
「ばか、なんで覚えてるのよ、」
何処から湧いてきたのか分からない涙が、シーツの上に
一粒落ちた。
彼が別れ際に私にくれたもの。
それは、彼と私の思い出の象徴と、
儚く苦い初恋だった。
カレンダー制作も無事終わり、学園祭の日がやってきた。
もちろん先生を誘ったが、大学の用事があって来られないらしい。残念だが、仕方がない。
しかし問題は藤江くんである。やたらと私にくっついて行動する。先生がいれば、彼から離れる言い訳にもできたのに。
クラスでの義務を果たしたら、後は自由時間。他のクラスや部活動の展示を見て回る。
藤江くんはずっと私についてきて、ニコニコと機嫌良くしていた。自分の興味ある展示を見に行けばいいのにと言ったら、「僕の興味は君に向いてるんだよ」と返された。
結局1日中彼と一緒に過ごした私は、先生への罪悪感でいっぱいになっていた。
対して藤江くんは1ミリも気にする様子がなく、販売されていたオリジナルカレンダーを意気揚々と購入していた。
「クラス用のがあるのに、わざわざ買うの?」
「もちろん! 君の可愛い姿を家でも拝めるじゃないか」
「もう……」
ここまで人に好かれるなんて、めったにないことだ。有り難がるべきなのかもしれない。しかし私にとっては、先生が優先だ。あの人を傷つける可能性のある行動は避けたい。
なんて考えていたら、救いの手を差し伸べる者が現れた。
「岡野、藤江!」
「あ、颯人先輩」
廊下で偶然会った先輩が声をかけてきた。
「お前ら2人で回ってんのか。俺のクラスはもう行ったか?」
「はい、先輩はいませんでしたが」
「ええ、残念でした。先輩のメイド服姿が見られなくて」
颯人先輩のクラスはメイド喫茶を開いていた。しかしメイド服を着ていたのは全員男子生徒だったのだ。
「あんなの着てたまるかよ。水泳部のほうに呼ばれてるって言って断った」
「え、ずるい……水泳部は展示だけだからあまり人いらないのに」
「いいんだよ、俺が着たところでどうせ似合わねぇし」
水泳部を出汁に使った先輩に非難の目を向けていると、藤江くんがとんでもないことを言い出した。
「たしかに、あれが似合う男子なんて相当な美形だけでしょうからね。煌時くんくらいの」
「ちょっと、藤江くん!?」
先輩に失礼だし、私の名を引き合いに出されても困るって。
「そうだ、衣装貸してもらえないんですか? 煌時くんに着せて写真撮りたいです」
「藤江くん、やめてよ!」
暴走する藤江くんと、必死に止める私。そんな我々を見て、先輩は何かを察したらしかった。
「まぁ、2人ともその気なら貸さんでもないが、岡野が嫌なら駄目だな。藤江、本人が嫌がってることはしてやるなよ」
「先輩! ありがとうございます!」
「ちぇ」
藤江くんはわかりやすく口を尖らせた。
「じゃ、俺そろそろ行くわ」
「あ、はい。お疲れ様です」
「お疲れ様です」
先輩を見送って歩き出そうとした時、藤江くんが「あっ」と言って立ち止まった。
「ちょっと待ってて!」
「え、うん」
すでに廊下の先の方まで歩いて行った先輩を追いかけ、何やら話しかけている。
この隙に逃げようかとも思ったが、それは流石に酷い気がして待った。藤江くんはすぐに戻ってきた。
「行こう」
「うん」
何の話をしていたのか気にはなったが、訊いてもはぐらかされるような気がして、訊かなかった。
後輩2人と廊下で立ち話。切り上げて去ろうとしたら、1人が追いかけてきた。
「先輩!」
「ん? 何か用か」
「さっきの発言が気になって。煌時くんのこと、かなり気にかけてるみたいですね」
「いや、そんなことねぇけど」
「本当に?」
何だか目が怖い。やっぱりこいつ……。
「何が言いたいんだ」
「僕は負けないってことです。たとえあなたが相手でも」
じゃ、そういうことで。
奴はそう言い残して走って行った。
岡野、食えない奴に好かれたもんだな。
別れ際、先輩を睨みつけるような男に気に入られた後輩のことが、少し可哀想に思えた。
テーマ「別れ際に」
先輩聞いてくださいよー
昨日彼女との別れ際に
綺麗だねって言ったんです
そしたら苦笑いされちゃって
僕なんか変なこと言いましたかね〜…
ーあ?お前の愛しの君子ちゃんがどうしたって?
やだな先輩、僕の彼女に変なあだ名
付けないでくださいよー
もういいですよう
仕事 仕事
ー バーカ お前いっつもおんなじ事
彼女ちゃんに言ってねーか?
だからだよー
先輩決めつけないでくださいよー
美人だねとか ちゃんと言い方変えていますよう
ー呆れてものも言えねえな
何でなんですかー!?
ーもともと言われ慣れてる言葉ばっかりできっと
うんざりされちゃってんじゃないかー?
そそんなぁー…先輩酷いこと言うなぁ
僕だって気を遣ってるのにー
ーこれだからお坊ちゃんは〜
もっと他に言えることあんだろうが
語彙力ねえのかよ 語彙力
ちきしょー今度会ったら
なんて言えば良いんだよー
ー苦笑
先輩まで苦笑しないでくださいよぉー
ーおう 先あがるわーおつかれ〜
せんぱーい…
お疲れ様でーす…
「俺らそろそろ帰るね」
そう言って拓也(たくや)が準備すると玲人(れいと)も同じく立ち上がる。
「今日はありがとう、楽しかった」
「ううん、私こそ物が少なくてごめんね」
「普段と違うからそれも楽しかったよ」
玲人はさりげなくフォローを入れた。
「...じゃあ私もそろそろ...」
葉瀬(ようせ)が立ち上がろうとした時、不意に秋(あき)に袖を掴まれる。
「あ...葉瀬ちゃんには残ってほしいな...」
二人にしか聞こえない距離で秋は告げる。葉瀬も何かを感じ取ったのか何も言わずに頷く。
「葉瀬準備できたか?置いてくぞ」
「あー、ごめん。私たち今日お泊まり会するから帰んないわ」
「えーいいなー俺もしたい」
「女子限定なので~?今日は駄目~」
また今度やろうね、と葉瀬は拓也に言う。
二人をドアまで見送ると、葉瀬は部屋に戻って
「それで、どうしたの?」
と問いかけた。
「えっと...葉瀬ちゃんは拓也が好きであってるんだよね?」
「うん、それがどうした?」
「あのね____...私も好きなんだ」
「......誰が?」
「拓也のことが、私も好きなの」
空気が止まる。秋は苦しそうに葉瀬を見る。
「葉瀬ちゃんは拓也が好きでしょう?言っておかないとと思って」
「そう...」
「...ごめんなさい、葉瀬ちゃんが先に好きになったのに......」
俯いて、今にも泣き出しそうだ。
「本当に、ごめんなさ...」
「いいよ」
「そうだよね......え?」
「ん?」
「え、えっと?え?」
「...ごめんね、秋。騙してて」
葉瀬は申し訳なさそうに言う。秋は戸惑うばかり。
「その...拓也が好きって言うのは、嘘なんだ」
「...どういうこと?」
「...あ、秋に諦めないでほしくて...」
「?」
「だ、だって!!このままじゃ...!」
今度は葉瀬が泣きそうになる。
「お、落ち着いて葉瀬。私なら大丈夫だよ」
「嘘ついてごめん...」
「とりあえず、葉瀬は拓也が好きなわけじゃないんだね」
「うん...」
「...そっかぁ...良かった...」
ごめんねぇ...と抱きついて再び葉瀬は謝る。
「大丈夫だよ。ありがとう葉瀬ちゃん」
「本当ごめん...」
「もう止めてよ。私も自覚できたんだし、ね?」
そう言うと落ち着いた葉瀬は肩に頭をぐいぐいと押し付けた。
「...なら、拓也について聞いてもいいよね?」
「えっ!?」
「大丈夫~私も話すから」
「え?」
「私は、玲人が好きなんだ」
「...えー!?」
「うふふ」
二人のお泊まり会はまだ始まったばかり。
お題 「別れ際に」
出演 秋 葉瀬 拓也 玲人
case.ムーン
馬車。窓から抱え上げられた私は強い風にあおられる。
「どうか丁重に接してやってくれ、こいつは態度の割に繊細なんだ」
「承知した」
男に抱えられながら、馬車の中でわりかし落ち着いた様子の彼になんとか言った。
「ユト、じゃあね」
「ムル、こっちのことは気にしなくていい。自由にしてこい」
更に風が吹いて、ユトだけがそこに残された。
case.シュー
「明日も来る?」
「来ようかな暇だし」
「もう暇とか言っちゃってるじゃん仕事しなよ」
「へいへい」
ボルはそう言って消えた。
二度と会うことはなかった。
case.ウィン
「元気で」
「あの…」
送り届けて、帰ろうとしたそのときに呼び止め
られた。
「ウィンさん…これからも誘拐を続けるの?」
「そうだな」
「いつまで?」
「…世界が我らに向き合うまで」
温厚な彼女。今日はいつもより饒舌だ。
「警備員が来るまでの時間稼ぎか」
「…いや…」
「ヌウヤは賢いからな」
ヌウヤの頭をぐしぐしと撫でてから、窓に手をかけた。大国チャリエルの警備体制をなめるつもりはない。早めに撤退しよう。
「あの、ウィンさん!お元気で!」
「ああ」
彼女は良い顔をしていた。
case.ダイル
「アタシ、ダイル嫌いだった」
「だろうな」
やっと家を出ていくと思ったセリがなにやら悪口を言い残しだした。
「でも結局ダイルずっと守ってくれてたし、なかなかあれのこと言い出せなかったのに待っててくれたし、その…ありがと」
「急にキモ」
「ぬあ〜!もう怒ったやっぱお前嫌い殺してから出てってやる!!!!」
ぽこぽこ殴ってくるセリ。うぜェー。
「てかそろそろ時間だろ行けよ」
「あ、ほんとじゃん!じゃね!」
ばたばたと出ていく。
最後まで忙しい奴だなと呟いた。
別れ際に
その御手に口づけを
真珠の溢れるような月の光の中で
あなたの髪は流れるように
もう友ではいられないけれども
もう、元の関係ではいられないけれども
あなたの幸福を誰よりも願って
愛しい気持ちを
涙に込めて
《別れ際に》
「ひと月が終わる度に雨が降る」
それが別れの言葉のようだと、先生は言った。
それは別れが悲しくて泣いているのだと、
学生の頃の私は言ったのだったか。
もう覚えていないけれど、
先生、今、ここでは雨が降っていますよ。
あなたのいる所は、ずっと晴天でしょうね。
別れ際はどうしても不安になる。だから私は誰かと出かけるときは、できる限り長時間一緒にいたい派だ。「また明日ね。」たったそれだけの約束が果たされないことを知っているから。
友人が入院しておよそ一か月が経過しようとしていたあの日、私はお見舞いのために彼女のいる病室を訪れていた。いろいろな話をした。私自身の近況から始まり、退院後に行きたい場所や食べたいものなどたわいもない話をして盛り上がった。帰り際「また来るね。」と言って病室を出た。ここまではいつも通りだった。
翌朝、一本の電話がかかってきた。「彼女の容体が急変した。」とのことだった。慌てて駆け付けたところ、すでに意識はなかった。絶望に打ちひしがれている私のそばで容体が悪化していることを告げるアラートが無情にも鳴り響いていたことは今でも忘れられない。その後、ずっと声をかけ続けたものの、ついぞ彼女からの返事はなかった。そして最後は食事を摂るために短時間離席した間に、再び容体が急変して彼女は旅立ってしまった。最期の瞬間に立ち会えなかったこと、そして回復することを信じてかけられなかった言葉があることが今でも私の胸を縛り付ける。当たり前が当たり前である日、それはいつまで続いてくれるのだろうか。
「じゃあな、元気でな」
いつもの店を出たところで、男は連れの女に声をかける。
自然な流れだ。
側から見れば不自然なことは何もない。
「どうしたの?」
女はなんの変哲もない別れ際に異変を感じた。
「転勤になった。」
「そうなんだ。じゃあ、元気でね」
女に後ろ姿を見せた男は、いつも通り左手を顔の真横で振ると離れて行った。
女も男を追いかけるでもなく、男とは反対方向へ歩き出した。
女は手の先と足の先が締め付けられるような感覚を感じたあと、胸の奥を力一杯握り締められた。
痛いと感じた時には、視界が滲んでいた。
お題『別れ際に』
「愛してるよ」
別れ際、君はにやりと笑って踵を返した。
「‥…は、」
ふざけるな。何がだよ。
あんなもの、愛なんて呼ぶんじゃない。
あんな独りよがりの独占欲なんて。
宝箱だと思って開いたら底無しの毒沼だった俺の気持ちが分かるか?
もうとっくに愛情なんてなくて、怖くて、
だけど切り捨てられずに惨めったらしく過去の思い出にすがる苦しさが分かるか?
もしかしたら、何てありもしない希望に宙ぶらりんになって手の平が裂けたんだよ?
なんで、ようやく決心して、解放されると思ったのさぁ。なんでそんなひどいこと言えるの?
そんなの言われたらさぁ、もしかしたら幸せになれたのかもって思っちゃうじゃん。
もう、本当にさ、
「死んでくれよ。」
「最期に言い残すことはあるか」
「……あなたに出会えてよかった」
「そうか、俺は最悪だ」
君の胸に赤い花が咲いた
『別れ際に』
別れ際にキミを抱きしめるのは、次に会うときまで、ぬくもりを忘れないように。
別れ際にキミにキスするのは、キミが僕のことを忘れないように。
別れ際に手をギュッと握るのは、キミと会えない時間も、頑張れるように。
別れ際に、バイバイ。って言ったあと振り返らないのは、別れたくない、淋しい気持ちが、キミにバレないように。
別れ際に僕がキミにいろいろしてしまうのは、キミのことが大好きだからなんだよ。
お題「別れ際に」
TikTokを見ていて、こんな投稿がありました。
「一つ質問です。もしもタイムトラベルをして、子供の頃の自分に会えるなら。あなたは何を伝えますか?」って。
伝えるも何も、とりあえずは遊んであげようかなって。
小さな空き地で、誰のかも分からないボロボロのキックボードに乗って、ドライブしよう。
赤いランドセルは置いて、君が転校するまで遊んであげるよ。
優しくしてあげるよ。甘やかしてあげるよ。
でもきっと、君はお姉ちゃんだから、そんなこと望まないんだろうね。
あはは、立派な子だね
君は真面目だよね。
学校の規則なんかきっちり守っちゃってさ。
その長い髪の毛も、かわいいね。
小さいね。
お家、遠くなったね。転校しちゃうんだっけ
「そうなんだ!!今日でバイバイだね!!」
そーだね。
そんな軽い会話をして、最後に、引き止める
「そういえば、お前のその笑顔気持ち悪いんだよね。前から思ってたんだけどさ。」
どんな顔をされても、
「俺全部知ってるんだよ。お前が虐められてることも、愛情に飢えてることも全部全部。」
どんなに泣かれても、
「お前が虐められてる理由、言ってやろうか。」
やめてあげないから。
「浮いてるんだよ。生まれた時から、ずっと。」
でも、私には、
「転校先でも、中学校でも、周りで浮いてるからお前は虐められるんだよ。」
そんな言葉響かないよね。
「今は、親にバレなければそれでいいって、ヘラヘラしてるけどそうにもいかないだろ。だって、、。」
だって、きっと私は笑ってるから。