case.ムーン
馬車。窓から抱え上げられた私は強い風にあおられる。
「どうか丁重に接してやってくれ、こいつは態度の割に繊細なんだ」
「承知した」
男に抱えられながら、馬車の中でわりかし落ち着いた様子の彼になんとか言った。
「ユト、じゃあね」
「ムル、こっちのことは気にしなくていい。自由にしてこい」
更に風が吹いて、ユトだけがそこに残された。
case.シュー
「明日も来る?」
「来ようかな暇だし」
「もう暇とか言っちゃってるじゃん仕事しなよ」
「へいへい」
ボルはそう言って消えた。
二度と会うことはなかった。
case.ウィン
「元気で」
「あの…」
送り届けて、帰ろうとしたそのときに呼び止め
られた。
「ウィンさん…これからも誘拐を続けるの?」
「そうだな」
「いつまで?」
「…世界が我らに向き合うまで」
温厚な彼女。今日はいつもより饒舌だ。
「警備員が来るまでの時間稼ぎか」
「…いや…」
「ヌウヤは賢いからな」
ヌウヤの頭をぐしぐしと撫でてから、窓に手をかけた。大国チャリエルの警備体制をなめるつもりはない。早めに撤退しよう。
「あの、ウィンさん!お元気で!」
「ああ」
彼女は良い顔をしていた。
case.ダイル
「アタシ、ダイル嫌いだった」
「だろうな」
やっと家を出ていくと思ったセリがなにやら悪口を言い残しだした。
「でも結局ダイルずっと守ってくれてたし、なかなかあれのこと言い出せなかったのに待っててくれたし、その…ありがと」
「急にキモ」
「ぬあ〜!もう怒ったやっぱお前嫌い殺してから出てってやる!!!!」
ぽこぽこ殴ってくるセリ。うぜェー。
「てかそろそろ時間だろ行けよ」
「あ、ほんとじゃん!じゃね!」
ばたばたと出ていく。
最後まで忙しい奴だなと呟いた。
9/29/2024, 9:58:21 AM