『冬晴れ』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
冬晴れ
冷たい北風が、丸裸の木々の枝を、容赦なく揺らす向こうに、寒々とした青空が拡がる…
山茶花の垣根に、ポツポツ咲いている赤や白やピンクが、周りの景色を鮮やかにしている…
久しぶりの青空が、鈍くどんよりした空気を、何となく晴らしてくれた気がする…束の間の晴れ間でも、ほっと出来る瞬間…
昨日までの雪が庭に残って白くなっている
鼻を刺すような寒さの中に
やっと登り始めた太陽のあたたかさが沁みる
冬の透き通った空気を吸い込んで
今日という1日を始めるのだ
-冬晴れ-
信号で車を停めると、途端に暑さが気になってきた。
コートを脱ぎたくなったがハンドルから手を離す訳にもいかず、こめかみにじっとりと浮かんだ汗を手で拭う。助手席からニヤニヤと笑う視線を感じた。
「こんな晴れるとは思わなかった」
コートを脱ぎながら恨めしげに空を見上げる。
薄い水色が広がる空は雲一つ無く、辺りはやけに静かだ。年明け直後の数日は、何故か妙に静かな場所とやたら賑わっている場所があるように感じる。ここも人の姿はそれなりにあるのに妙に静かで、サクサクと芝生を踏む音さえ聞こえてきそうだった。
十分ほど歩いて、土手を上がりきる。
町を区切る大きな川を、真昼の太陽が照らしていた。
川べりでは子供が犬を連れて走っている。その姿からも歓声らしきものは無く、どこか作り物めいて見える。
「あったかいね」
キラキラと煌めく川面を見つめながら、隣でそう呟く声が聞こえた。
唯一聞こえる音はそれだけで、背後で行き交っているであろう車の音も耳に入ってはこなかった。
あたたかくて、静かで。
こんな日がずっと続けばいいのにと、私は思った。
END
「冬晴れ」
北海道の冬特有なのかもしれないが、冬に「晴れた」ということは「特に冷え込む日」と同義だ。
雪がずっと降っているのが当たり前なのだが、ぴっかり晴れ渡る冬の日もある。そういう日は大抵風が強くぐっと気温が低い。
つまり、道が凍る。
ざくざくした雪は踏みしめて歩けるが、凍ると道産子にも滑らずに歩くのは難しい。
晴れた日にこそ、下を見ながら歩くことになるので、誰も晴れていることに気が付かない。
仕事合間のランチに外に出たその信号待ちで、横断歩道のどのルートが滑らず安全かを見極めていて、ふと空を見る。雲ひとつない、きりりとした晴天だった。ほ、と出た息が白く煙る。悪くない。
不便だし安全に歩くのは難しいが、悪くない。
毎日の、雪との生活も、こんな鮮やかな晴天を見る日があるなら、悪くない。
信号は青。
珍しく晴れ渡る青空。
安全なルートを確保さえすれば、空を仰ぎながら歩くことだってできる、という話。
暖冬かと思っていたけど、流石に寒くなってきた。午後の、夕方より少し早めに洗濯物を取り込む。冬は、晴れてても気温が低くて、洗濯物があんまり乾いてないときがあるからなあと、乾き具合を確認しながら、ばさばさと片付ける。(取り込んでから、室内で少し乾かすフェイズが発生したりする)我は生活を回す者である。
冬晴れ
暑いから夏は嫌だし寒いから冬も嫌
でも、たまに訪れる冬晴れの暖かさは好き
春なんてまだまだ先だって分かってるのにこの先に待ってる春の暖かさを感じてしまう
寒いから嫌だなんて言ったけど、この待ち遠しい感覚が好きだから冬も意外と嫌いじゃないのかもしれない
ここのところ、天気が悪い日が続いていた。窓から見える外はホワイトアウトしており、外に出ることもままならない。
幸いなことに、買い込んだ食料はまだまだ残っている。しばらく、家から出ずに引きこもっていることにしよう。
マーシャはぱちぱちと薪が爆ぜる暖炉の傍に、ロッキングチェアを移動させ、戸棚から毛糸玉と編み針を取り出した。この二つを以前に触ったのがいつだったのか、もう思い出せないが、編みかけの何かが残っている。
その編みかけの何かを矯めつ眇めつして悩んだ末、彼女はマフラーを編むことに決めた。特に凝ったことをするつもりはないが、ただ編むだけではつまらない。縄編みで模様をつけて、最後にフリンジをつけよう。
そうと決めたなら、あとは編むだけ。そして、マーシャは猛然と編み針を動かし始めた。
どれくらいそうしていたのだろう。手がかじかんできたなと思って辺りを見回すと、いつの間にか薪が燃え切っていた。
彼女は大きく伸びをすると、立ち上がった。納戸から薪を取ってこなくてはならない。カーディガンを羽織って部屋の外に出た。
廊下は当然冷え切っている。冷え切った手先に息を吐きかけながら、納戸の方へと歩き出す。
階段を下りようとしたとき、
「マーシャ」
階下から声がした。階段の縁から身を乗り出して下を見ると、マルスがこちらを見つめていた。
「マルス? どうかしたの?」
階上から声をかけると、彼は手招きをした。彼女は困惑して首を傾げたものの、階段を下りていく。
彼の傍に立つと、小首を傾げた。
「どうかしたの?」
彼はマーシャの方を見て、にっこりと微笑んだ。ゆっくりと手を挙げて、ある方向を指差す。
「見てごらん」
彼の指す方向は玄関だ。その方向へ振り向くと――。
まあ。思わずマーシャは声を漏らすと、玄関から外に飛び出した。
いつの間にこんな天気になっていたのだろう。外はここ数日の中では珍しいほどの晴天が広がっていた。
「いい冬晴れだな」
「このまま、少し散歩でもしない?」
「ああ、構わないとも」
輝いた瞳できょろきょろと辺りを見回すマーシャを、彼は愛おしげな眼差しで見つめている。
作品No.280【2025/01/05 テーマ:冬晴れ】
冬 のはずなんだけど
冬なら寒い はずなんだけど
晴れてると暑いのは
なんでなんでしょ?
「冬晴れ」
冬晴れ。
冬の晴れた空は、寒いけれど明るく晴れているなぁと私は空を見ながら、思った。
『冬晴れ』というテーマについて…
冬なのに…晴れてるね…
晴れているけど寒いね…
これが冬晴れなのかな…
3月…4月…あたりになると春の陽気になるのかな??
暖かくなるかな…だんだん…
冬が終われば春が来るね…
でもまだまだ寒い日が続きそうだね…
風邪を引かないようにしなくちゃ…
自分が思う『冬晴れ』っていうテーマになったかもね…
12月29日 帰省組2人到着
1月1日~2日 プラス一族7人集結
全12人で新年会
1月3日 別の一族全7人で新年会
1月4日 帰省組2人出発
最後の1人を駅まで送って戻る道
久しぶりに見上げた青空
また日常が始まる
【冬晴れ】
※ほんのりですが児童●待と取れるような描写があり、捉え方によっては酷いバッドエンドとも言えます。苦手な方、地雷の気配を感じた方はご注意ください。
ある満月の晩。
リビングの窓越しに見える月があまりにも綺麗だったので、そんなガラではないのに深夜の散歩と洒落こんでみた。
スマホと鍵、煙草とライターと携帯灰皿をスウェットのポケットに雑に突め込み、玄関を出て施錠をしアパートを出る。
目的地も定めずに家を出てきてしまったが、ふと、十五分ほど歩いた所に小さな公園があったことを思い出した。大学生にもなれば流石に公園なんて場所には縁がなく、その公園には一度も足を踏み入れたことがなかった。成人した男が一人で深夜に公園って······と、想像した景色は怪しさ満点ではあったが、もう日付も変わりそうな時間帯である。人目にはつかないだろうし、万が一通報されたとしても身分証出して深夜ウォーキングしてました〜で何とか······あ、そういえば財布置いてきたんだった。手元に身分証ねぇわ。
······そんなくだらないことをつらつら考えつつ、見慣れたようで見慣れない道をキョロキョロと物珍しげに眺めながら歩いていれば、十五分なんて距離はあっという間だった。夜の空気は冷たく、だからこそ澄んでいて、悪いもんでもないな、なんて思った。
辿り着いた公園。入口のタイルみたいになってるコンクリートを踏み越え、敷地の中へと歩を進めた。
ぐるりと見渡せば、滑り台に鉄棒、砂場、ブランコといったド定番中のド定番な遊具しかないものの、小さいしショボイとはいえここは確かに公園だった。きっと昼間だとか夕方前頃には、この近隣に住む子供たちが我が物顔で占領しあちらこちらへと走り回り、活気に溢れていることだろう。
しかしまぁ、公園で遊ぶのは子供の特権。この歳にもなって、例え深夜で人目が無いと言えども、一人でこれらの遊具を使い遊ぶつもりなどさらさらない。それこそ不審者として通報されかねない。
入口に突っ立ったままだった俺は、少し離れた右手側にベンチがあるのを確認し、そこを目掛けて歩き出す。じゃり、じゃり、とクロックスが細かな砂を踏みつける音が、静かな世界に響き渡る。
そうしてベンチに辿り着いた俺は腰を下ろし、ポケットをまさぐって煙草を取り出し、一本口に咥えてライターで火を灯した。煙草を摘んでいる反対側の手でポケットの中の携帯灰皿を出しがてら、煙草を口元から外し夜空へ向けて「ふぅー」と煙を吐き出す。公園は外周を何本もの木に覆われてはいたが、それぞれの枝の先で枯葉が生い茂りあうその中央にはぽっかりと穴が開いていて、そこからあの綺麗な月が顔を覗かせていた。
「うーん、絶景」
そう独り言ち、再び煙草を咥え直した時······さっき俺が響かせたのより随分と小さかったが、じゃり、じゃり、という他人の足音を耳が拾った。
こんな時間に誰だ? 不審者か? と自分のことを棚に上げて暫しそのまま上を見上げながら硬直していると、音の出処はどんどん近付いてきて、俺の座っているベンチのすぐ右側辺りで止まった。
ゆっくりと、そちらへ首を向ける。そこにはなんと不審者が······なんてことはなく──いや、不審という点では間違ってはいないのだが──小学校の低学年ぐらいだろうか? 十歳に到達しているかしていないか、それぐらいの年齢に見える女の子が立っていた。
それを確認した俺は、そこでまた暫し硬直する。こんな日付けが変わりそうな深夜の時間帯に、公園で一人佇む小さな女の子。明らかに異質だった。俺が異質だと感じたのはそれだけではなく、女の子は異様なまでにニコニコとした笑みを崩さない。逆に無表情だったり、怯えた様子だったりしたならば、何かワケありの子なのかな? というような憶測も立てられようものだが、しかしその子は笑顔なのだ。こんな時間の、男子大学生が一人で煙草を吸っているだけの、そんな地味でつまらない空間に居ながら、ニコニコと嬉しそうに笑っているのだ。
あんまり関わり合いにならない方がいいかな······なんて考えながら、特にこちらから話し掛けるようなことはせずに煙草の煙を吐き出すと。
「それ!」
突然上がった幼く高い声に、ビクリと肩を跳ね上げて女の子の方を見る。「それ」が何を指しているのかわからなかったが、女の子は俺の顔目掛けて人差し指を一本、地面と水平になるように伸ばしていた。
「······それ?」
聞き返してみれば、「うん! それ!」と、よくよく見れば俺の顔ではなく、俺が指に挟んだ煙草を指さしていることに気が付く。
「あのね! それ、お父さんも吸ってた!」
その子供特有の曖昧な指示語では、「それ」が煙草全般という大きな括りを示しているのか、はたまた銘柄まで絞って「それ」と言っているのかはわからなかったが、あえてここで話を深掘りさせる必要もないだろうと判断し、「へぇ、そうなんだ」と当たり障りない返事を返すに留める。
そうして訪れる沈黙。俺からは話しかけないぞ、の気持ちをアピールするつもりで、子供の横で悪いとは思いつつひたすら煙草を吸っては煙を吐く。その間に女の子は何を思ったのか、間に人一人分ぐらいの距離を開けてベンチに座ってきていた。別に子供が嫌いなわけではないが、そんな年代の子と接するような機会なんてないし、何を喋ればいいのか全く分からない。いや、わからないぐらいで丁度いい。変に話し掛けたら不審者通報待ったナシかもしれないのだ。世知辛い世の中である。
そしてまた、沈黙が訪れる。俺は煙草を吸い、女の子はベンチに座ったまま両足をプラプラと揺らしている。ただそれだけの時間。
······一本煙草を吸い終わり、携帯灰皿に吸殻を押し付けた俺は、観念したように深い溜息を吐きながら女の子に尋ねた。
「······あの、さ。家。帰らなくていいの?」
女の子は相変わらずニコニコと口角を上げたまま、両足のプラプラもそのままに、視線を己の爪先辺りに固定して「うん!」と。
「お母さんがね、ちょっとでかけてくるからって! たまにね、ここでしばらく待っててねって言われるときもあってね! 今日は家にいてもお母さんいないから、だからかえらなくてもだいじょうぶなの!」
子供の話すことは支離滅裂だ。俺の顔を見て必死に言葉を紡いではいるが、きっと俺にはこの子の言っていることの半分も理解出来ていない気しかしない。
いや、それ以前にだ。何となく今の会話から察するに、この子のお母さんとやらは割とろくでもないのでは? 恐らくこの子は、この時間にこの公園に来ることが初めてなわけではないのだ。むしろ逆に、頻繁に居る確率の方が高いのでは、と感じる。こんな時間に子供を放ったらかしにして、そのお母さんとやらは何処へ行っているのか。自分の子供の安否・生死にすら勝る大事な用があるとでも?
俺が言葉に詰まり、口ごもっている間も、少女は嬉しそうに俺に向け話し続ける。両の手をちっちゃなグーにして、それを時たま上下に振りつつ、身振り手振りをつけて、必死に。
「あのね! ここでわたしいがいの人と会ったの、はじめてなの! おにいさんがはじめて! とってもうれしい! わたしのお庭にようこそ、おにいさん!」
「あ〜······どうも、お邪魔してます······」
とりあえず適当に返事をしてやったら、「えへへー」と女の子は照れ臭そうにはにかんだ。
「ねえねえ、おにいさん! 明日、晴れるかなあ?」
女の子は星空に浮かぶ月を眺めながら、俺に問う。
「明日······?」
俺は夕方にニュース番組で見た天気予報を脳内で思い返す。確か「明日は全国的に晴れ、温かな冬晴れになるでしょう」なんて言っていたっけ。
「明日は晴れだと思うよ。今日は月もこんなに綺麗に見えてるし」
女の子は「ほんとー!?」と喜んだかと思えば、次の瞬間には首を傾げて。「お月さまがきれいだと晴れるの?」と疑問を口にする。
「······もし曇ってたら、お月様見えないだろ? 曇ってると雨が降る確率が上がるんだ。だから夜に空を確認して、曇ってなければ大抵次の日は晴れになる」
今の説明でわかったのかわからなかったのかは不明だが、女の子は難しそうな顔をし、続ける。
「······でもでも、今はくもってないけど、このあとブワァー! ってとつぜんくもってきちゃったらどうしよう······そうしたら、明日雨ふっちゃう······?」
不安そうな顔を俯かせ、女の子はキュッと両手でワンピースの裾を握り締めた。明日何があるのか知らないが、よほど大事な予定でもあるのだろうか。
ふと、自分が女の子ぐらいの年齢だった頃を思い出す。ああそうだ、そんなこともしてたっけ。
俺はベンチから立ち上がり、二歩ほど前に進んで止まる。片方のクロックスを、甲と指の間ぐらいに引っ掛けてプランと浮かせる。
「あーしたてんきになーぁれ」
そうして控え目に、あくまでも控え目に口ずさんでから、宙ぶらりんだったクロックスを前方へと向けて勢いよく飛ばした。
片足でケンケンしながら移動し、落下したクロックスを見下ろす。気付けば女の子もベンチから駆けてきたようで、一緒になってクロックス──上を向いて落下したらしいそれ──を見つめていた。
「ん、上向いてる。これが横向いてたら曇りで、裏側だったら雨。だから明日は、やっぱり晴れ」
「そう、なんだ······。ッそうなんだ······!」
女の子は嬉しさを抑えきれない様子で、その場でぴょんぴょんと飛び跳ねながら二周半ほどくるくると回った。
「あのね、あのね! 明日晴れたらね! お父さんがどっか遠いところまで遊びにつれていってくれるって! やくそくしたんだよ! ゆびきりげんまん、したの!」
飛び跳ね回りながら、女の子はそう言い嬉しそうにはしゃいだ。
「お父さんおむかえ早いから、わたし、もうおうち帰ってねるね!」
女の子はタタタッと一瞬小走りに駆けたあと、一度立ち止まってこちらを振り返り。
「またね! おにいさん!」
最後まで嬉しそうに、楽しそうにニコニコしながら、走って公園から出ていった。
「······またね、か」
そう言われても、今日だって本当にただの気まぐれで足を運んだだけだ。それに、俺はよくても、やっぱりあんなに小さい子がこんな時間に外を出歩いているのはおかしいし、あまりにも危なっかしいが過ぎる。でもあの子は、まるでまたここで俺と会えることを信じて疑っていないような口振りだった。そう、まるで······「私はいつでも居るから」と言外に告げているようにも感じられた。
やはり俺は、あの子と関わらない方がいいと思った。この場所に立ち寄ることもしない方がいい。もしも再びこの時間にこの場所へ訪れる日が来るとしたら、それは······今日みたいに変なきまぐれを起こすか、よほどの何かがあった時ぐらいだろう。
そう決意し、俺は公園を後にした。その時はまだ、考えもしていなかったのだ。そう遠くない未来に、もう一度この場所を訪れることになるだなんて。
──ガードレールに突っ込んだ車、河川へ転落。引き上げられた車内からは男性と少女の遺体発見。無理心中か。
「······やあ」
月のように白いシラユリの花束を持ち、俺は事故が起こった河川敷······ではなく、あの夜女の子と遭遇した深夜の公園へと足を運んでいた。
まさか、こんなにあっさり再会することになるだなんて思いもしていなかった。どうしてだろう。本当に、どうしてだろうね。
俺は、あの日あの子が座っていたベンチ、まさにその場所にそっと花束を置く。好きな花のことなんて聞いてなかったけど、少しでも気に入ってくれればいいのだが。
······もしもあの日、雨が降っていたなら。晴れていなければ。クロックスが裏側を向いていたならば。
あの子は今も、この場所に居たのだろうか?
そんな「もしも」を打ち消すように首を振る。そうして花束と人一人分ぐらい空けた隣に腰を下ろし、煙草の煙を燻らせる。あの子の存在が、あの夜の思い出が、煙と一緒に溶けてなくなってしまいそうだ、と思った。それが何だか無性に腹が立って、泣きそうになった。
煙草を吸い終わるとベンチから立ち上がり、隣の花束へと声を掛ける。
「またね」
そうして俺は公園から出て、自宅への道を歩く。
冬晴れは、まだ暫く続くそうだ。
【冬晴れ】
冬に晴れのイメージあまり無かったけど
一年で一番晴れの多い日は12月24日らしい
場所にもよりけりだろうけど
太陽なんて聞くと
すぐに夏をイメージする俺にとっては
なかなか意外な話だった
太陽みたいな人と言えば
いつも輝いていて
周りも明るくしてくれるような人
と思ってたけど
凍える時に
じんわり温めてくれる人
と言えば
それもそうだと思える
冬晴れ
澄んだ空気と陽だまり
「幸せを履き違えてるんじゃないですか?」
彼の鋭い眼光が、私に向けられた。欲しいものに囲まれて、たくさんの友達がいて、非の打ち所がない恋人がいる。仕事も上手く行っている。今の私に不満など、あるはずがない。欲しいものは、全て手のなかにあるのだから。臆することなく、私は笑ってみせた。
「なに言ってるの?」
「あなた、幸せを履き違えてるんじゃないですか、と言ったんですよ」
「それはさっき聞いたよ」
「自慢話のつもりですか?」
彼は攻撃的な口調で言った。だんだんと苛立ちを隠すつもりはなくなってきているようだった。けれど、私はどこで彼の地雷を踏んだのかが分からなかった。彼の瞳の奥に宿る熱を、首を傾げてただただ曖昧に受け止めることしかできなかった。
「勝手に私の幸せを決めないでよ」
少し困って見せれば、彼はバツの悪そうに視線を外した。
「物があれば、あなたは幸せなんですか。たくさんあれば、人より優れていれば、あなたは満たされるんですか?」
彼の問いかけにグッと言葉をつまらせる。
何も言わない私に、ほら、と彼が追いうちをかける。
「周りの物や人で測っているような幸せなんて、自分が思い込みたいだけじゃないですか。そんなんで笑ってるあなたを見てると、イライラするんですよ」
呆然と、彼を見つめ返すことしかできなかった。彼の本心を聞いたところで、私はどうしたらいいんだろう。
「私は、あなたの言葉が聞きたいんです」
見透かしたように、彼が呟く。その瞬間、無意識のうちに自分の中にあった幸せという呪縛から、解放された気がした。
彼の頬がわずかに赤らむ。まるで告白じみた言い回しが彼らしくて、思わずふはっ、思いっきり吹き出した。
題 : 幸せとは 「アナタの言葉で聞かせて」
冬晴れの空の下
凍えながら友達と話す
それだけで楽しかった
そんな青春が好きだった
0105 冬晴れ
鋭い寒さに頬が赤らむ
許しを請うような陽光が包む
擦り合わせる手も
まだ温度は戻らない
ゆっくりと息をする
耳を澄ませ
枝の揺れを感じる
氷がひたりと溶ける音がする
春はまだ来ない
冬の音に耳を澄ませる
あなたが持ってる幸せはわたしには無いもので、
私が持ってる幸せはきっとあなたには持てない。
#19 幸せとは
二日くらい前のこと
〝しぶんぎ座流星群〟が見頃なようなので、彼女を連れて二十三時を廻る少し前に家を出た。目的地に近づくにつれ街灯は少なくなり、いずれ無くなった。ハイビームにしなければ真っ暗で、暗闇とはこのことなのだと思った。
「ここなーんもないのに星は綺麗だよね」
「なーんもないからねぇ」
雲一つない星空だ。息を呑むほど美しい。
「あ、流れ星!」
何も知らない無邪気な声。でも今更「今日この時間は流星群のピークなんだ」なんて言えるわけがない。
最後に流星群を見たのは、八月のペルセウス座流星群だった。夏と比べるとやはり、冬は空気が澄んでいる、星が綺麗なんだなと身を持って体感できる。
冷えた空気を、肺いっぱいに。
身体の芯から凍てつきそうだ。
「冬晴れ」それは、冬の少し暖かい、晴れた日のことを指す。
これは冬の季語として俳句などにも使われており、冬の俳句を閲覧する際に少し見かけることもある。
昔、私がまだ7歳くらいの頃だろうか。12月の下旬あたりの冬休みのとき、当たり前に毎日がすごく冷え込んでいた。そんな中テレビニュースで、とある1日だけ少し暖かくなるということを聞いた。だから私は母親に
「あの日は暖かくなるんだって!遊園地に行きたい!暖かい日なんだからたくさん遊びたい!」
とお願いをした。だがそのころ、上の兄は中学に進学する時期で、家にはお金も時間も余裕が無く、当然そんな甘い願いが受けいれて貰えるわけがなかった。
しかし、当時の幼い私は親の様子からなんとなく察していただけで、あまり家の状況理解ができなかったし、人の立場になって考えるということもほんの少し身についていた程度だった。そのため、どうしても諦めることができなかった上に、「親に嫌われてしまったからこんなこと言われてるのかな?」とマイナスな思考になってしまった。そのうち、悲しさや不安、恐怖などの色々な感情が津波のように押し寄せ、目から涙が溢れ出した。
溢れた涙は止まることを知らず、ずーっと赤子のように泣いて泣いて泣き喚いた。
やがて涙が止まる頃には目が酷く腫れ、喉をいためていた。そのあとも日が変わっても不貞腐れて続けている私を見兼ねた母親に、仕方なくピクニックに連れ出してもらった。
そのピクニックは、久しぶりの外出と豊かな大自然ということが相まり、とても楽しかった。大きな池で華麗に泳ぐ鯉の姿を眺め、鳥のさえずりや木々の擦れた音を楽しみ、木漏れ日に当たりながらおにぎりを口いっぱいに頬張る。まるで夢のような、素敵な体験だったといつ振り返っても心からそう感じる。
冬晴れの日にはいつも、この一世一代の思い出を思い出す。
「ふぁあ……」
重い身体を起こすと、心地好い温もりが身体に絡まって来て、それを見つめる。そこには愛しい恋人が無防備に眠っていた。
すやすやと安心した表情が愛らし過ぎて、思わず頬をつついてしまう。一瞬、眉間に皺を寄せて片目が少し開いた。俺を見たかと思うと、ふにゃりと笑顔になってから俺の腕にしがみついて眠りにつく。
スマホを探して時計を見ると、昼を過ぎていた。
昨日は夜勤で、帰って眠ったのは朝方だったから、そんなに眠ってはいない。
でも、起きようかな……。
彼女は俺に合わせて起きてくれていたから、ここぞとばかりに一緒に眠った。とはいえ、変な時間まで眠ると昼夜逆転しまう恐れがある。
「そろそろ起きよう」
彼女の耳元に口を寄せてそう囁くと、首を横に振りながら俺の身体にしがみつく。
「起きない?」
「もう少し、ゆっくり休んで欲しいです」
「昼夜逆転しちゃうよ?」
その言葉に反応し、目をこすりながら身体を起こして、その大きな瞳が俺をとらえると彼女の両腕が向けられる。
それが何を示しているのか理解している俺は彼女を正面から抱きしめた。
気持ちが落ち着いたのか、ゆっくりと身体を離す。
視線が合うと、ふにゃりと力のない笑顔を見せてくれた。俺もつられて口角があがる。
ベッドを抜けてカーテンを開くと、太陽の光が部屋に入って明るくなる。昼も過ぎたのだから当然だ。
「あ……」
「どうしました?」
「いや、見て」
彼女に手を差し伸べると、彼女もベッドから抜け出して俺の手を取って窓を覗く。俺もそれに習って外を見つめた。
朝では無いけれど、それでも普段見えない山々まで見える景色に、彼女も息を飲んでいるのが分かる。
「いつもの風景が少し違って見えますね」
「晴れた上に冬の空気でよく見える」
「はい!」
家からの景色だけれど、季節が変わると眺めが変わって見える。
彼女を見つめると、俺の視線に気がつくから同時に笑ってしまった。
おわり
二三四、冬晴れ