せつか

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信号で車を停めると、途端に暑さが気になってきた。
コートを脱ぎたくなったがハンドルから手を離す訳にもいかず、こめかみにじっとりと浮かんだ汗を手で拭う。助手席からニヤニヤと笑う視線を感じた。

「こんな晴れるとは思わなかった」
コートを脱ぎながら恨めしげに空を見上げる。
薄い水色が広がる空は雲一つ無く、辺りはやけに静かだ。年明け直後の数日は、何故か妙に静かな場所とやたら賑わっている場所があるように感じる。ここも人の姿はそれなりにあるのに妙に静かで、サクサクと芝生を踏む音さえ聞こえてきそうだった。

十分ほど歩いて、土手を上がりきる。
町を区切る大きな川を、真昼の太陽が照らしていた。
川べりでは子供が犬を連れて走っている。その姿からも歓声らしきものは無く、どこか作り物めいて見える。
「あったかいね」
キラキラと煌めく川面を見つめながら、隣でそう呟く声が聞こえた。
唯一聞こえる音はそれだけで、背後で行き交っているであろう車の音も耳に入ってはこなかった。

あたたかくて、静かで。
こんな日がずっと続けばいいのにと、私は思った。


END


「冬晴れ」

1/5/2025, 3:04:10 PM