せつか

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9/19/2024, 2:59:30 PM

一度も思ったことのない願いだ。
子供の頃はいじめられて。高校生になってからは周囲と上手くなじめずに。就職試験は惨敗で、専門学校は行くだけで何も身につかなかった。生きる為に何とか仕事を探して、必死こいて日々を過ごす。
そんな日々を送りながら、早く時間が流れて何かがいい方向に行く事を願っていた。
「この瞬間がずっと続けば」なんて、おめでたい夢想だと思っていた。

「時間よ止まれ」
そんな願いを抱く瞬間が、いつか私にも訪れるのだろうか。


END


「時間よ止まれ」

9/18/2024, 3:37:22 PM

夜景というと山の頂上から見た都会の灯りや、工場の煌びやかな景色が浮かぶ。
「100万ドルの夜景」「工場萌え」みたいな言葉からも分かるように、都市の景色に心惹かれるものがあるのは確かだ。

夜の景色、というのなら高原で見上げる星空も、闇の中に浮かぶ奇岩も、月明かりの下に広がる砂漠も、夜景と言っていい筈なのに、それらは夜景とは言わない。何故か。ライトアップでもされない限り見えにくい、というのが理由の一つとしてあるのかもしれない。でももしかしたら、都市や工場の夜景は「人間がいないと出来ない景色」だからそれを誇りたい気持ちもあるんじゃないだろうか。

自然には作ることの出来ない景色。それも、昼には生々しく浮かび上がる、人間の醜い部分を上手く隠してくれる景色。
それが夜景に惹かれる理由かもしれない。

「綺麗だから、じゃ駄目なの?」
「勿論それが一番」


END


「夜景」

9/17/2024, 12:11:05 PM

「あぁ、今日は月が綺麗だね」
「月見をする日らしいですよ」
「日にちが決まってるんだ? いつでも見上げて、楽しめばいいのに。なんだか不思議だね」
「特別綺麗に見えるからじゃないですか」
「なるほど」
「この花だってそうでしょう? 芽が出て茎や葉が伸びて、蕾が膨らんで、花が咲く。そのタイミングを見計らって、私も貴方も見に来たんですから」
「そうだね。そう考えると一番綺麗に見える日が分かるというのはありがたい事なのかも」
「それにしても、確かに見事な月ですね」
「私達がこうして見ている月の光は、本当は太陽の光なんだよな」
「そうですね。月自身が輝いているわけではなく、太陽の光を受けて反射した光が私達の目に届いている」
「·····君はよく私を褒めてくれるけど、私が正しくあれるのは君がいるからだよ」
「なんです突然」
「私も君という光を受けて輝けるんだ」
「·····」
「この花が綺麗に咲くのも、陽の光をその身に受けているからだろう? 私の太陽は君だよ」
「·····ベタな口説き文句ですね」
「とか言って、口説かれてくれないくせに」
「だって、口説く必要無いでしょう。私はこんなに貴方に焦がれている」
「·····それなら私だってそうだよ」
「貴方、ちょっと喋り過ぎですよ」
「·····あぁ、ごめん」
「手、出して下さい」
「ん」
「せっかくですから歩きましょう。花畑はこんなに広いんですから」
「·····ふふ」

――なんだ。お互いとっくに口説かれてたんだ。


END


「花畑」

9/16/2024, 3:03:08 PM

空から降り注ぐ雨を涙と見立てているならば、ここ数年のゲリラ雷雨はさしずめ号泣と言ったところだろうか。なにがそんなに悲しいのか。
――決まっている。
奢り昂り、振り返ろうともしない人間に失望したのだ。

傷付けられた自然に気付かぬまま、尚も汚し続ける人間に、いつか涙は枯れるのだろう。
泣き疲れた果てにあるのはきっと·····怒りだ。
怒りは炎になって、いつか罪深い人間達を焼き尽くす。

もっとも、気付いた人間が増えればその結末は変えられるかもしれない。


END


「空が泣く」

9/15/2024, 3:11:25 PM

「また来年も行こうね。ばいばーい☆」
スタンプと共に送られてきた、君からのLINE。

何ヶ月も前から計画を立てていたデートは、アトラクションを五つ制覇したところで突然の雨に見舞われた。フードコートに避難して、びしょ濡れのままパンケーキを食べて、その時笑いながら撮った写真はまだスマホに残っている。
結局雨は止まず、駅まで走ってその後は濡れた服のままの君を家まで送った。
お母さんに何度も頭を下げられた覚えがある。
その日の夜、送られてきたLINE。
写真には濡れた服がハンガーに掛けられていた。

「来年は俺が行きたいところにしてよ」
そう送ったのに、既読は一向につかなかった。

君からの、最後のLINE。
スマホを見るたび、もう使わないアイコンが目に入る。タップして出てくる文章に、涙が滲んだ。

文章が残るアプリは正直キツい。
それでも俺はアンインストール出来ないでいる。


END


「君からのLINE」

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