大好きなミステリー小説。
ページをめくる手が止まらない。
早く早く、続きが読みたい。
資格試験の参考書。
1ページめくるたび、眠気が襲ってくる。
ウトウト、カクン。ノートはぐちゃぐちゃ。
同じ日本語で書かれていて、読める筈なんだけどねえ。
END
「ページをめくる」
一面ひまわりが咲き誇るなかを、一人歩いている。
人より背の高い自分にとって、その花は他の花と同じ見下ろすもので、綺麗だなとは思うが特別何か感慨が湧くものでもなかった。
――何かを探していた気がする。
ひまわり畑の中に何かを忘れてしまった気がして、歩き続けている。そのうち日が傾いて、辺りがオレンジに染まり始めた。
探し物は見つからない。
そもそも何を探していたのか。何を忘れてしまったのか。夕日が沈み、夜になってもひまわり畑の中をたった一人、歩いている。
夜のひまわり畑は少し不気味だ。
無数の目が自分を見つめている気がする。
こんな暗いなかで探し物なんか見つかるわけがない。
なのにいつまでもいつまでも、歩き続けている。
夜が明けた。
朝日がひまわりを照らしている。
金色の光は泣きたくなるほど神々しくて、温かい。
ひまわりが伸びている気がする。
膝あたりまでしか無かった筈の背丈が、胸のあたりにまで伸びていた。探し物は見つからない。忘れ物は思い出せない。
歩いているうちに、ひまわりが伸びたのではなく自分が小さくなっているのだと気付いた。
自分より背の高いひまわりが、自分を見下ろしている。怖くなって、歩くスピードを早めた。
迷路のようなひまわり畑を、たった一人走っている。何を忘れたか思い出せない自分を、何を探しているか分からなくなっている自分を、無数の目が咎めているようだった。
――怖い。
涙が滲んで、黄色の世界がぼやけてくる。
少し開けたところに出ると、小さな子供の背中が見えた。
「あ、やっと来た」
子供が振り向く。ひまわりの花を両手に抱えている。
「――」
振り向いた子供の顔は、ぽっかりと穴が空いて真っ黒だ。
「探し物、見つかった?」
真っ黒な穴から声がする。
小さく首を振ると「そっか」と少し残念そうに答えた。
「忘れてきた物が多過ぎて、何が大切な物だったか分からなくなっちゃったんだね」
真っ黒な穴は、いつの間にか子供の頃の自分の顔になっていた。
「大丈夫だよぉ」
子供の頃の自分がニコリと微笑む。
「君が血に塗れても、世界中が君の事を咎めても、絶対君の味方でいてくれる人がいるから」
子供の自分が指をさす。
その指が指し示す、その先――。
「だからちゃんと、好きだよって言うんだよ」
「探したぞ、××××××」
誰よりも大切な〝君〟がいた。
END
「夏の忘れ物を探しに」
今年の8月31日午後5時と、十年前の8月31日午後5時は気温も、風も、街の景色もまるで違っているだろう。
さらに十年遡れば、もう同じ世界とは思えない景色が広がっている。これが五十年、百年と遡ったら、もう違う惑星の記録を呼んでいるような気分になるかもしれない。
来年の8月31日、午後5時。
そこにはどんな景色が広がっているのだろう。
END
「8月31日、午後5時」
「アイツは昔から〝ああ〟なのか」
「なんです突然」
「質問に答えろ」
「·····〝ああ〟ですよ」
「お前はそれでいいのか」
「言って変わりゃあ苦労しません。アイツは頭がいい。この世の仕組みを良く分かってる。綺麗事で済まないってことも」
「お前はそれでいいのかと聞いている」
「いいわきゃないでしょう·····はらわた煮えくり返ってますよ」
「だったら·····」
「けど、ガキの頃から一緒にいる俺の言葉が届かないのに、他の誰かの言葉が届くわきゃねえですから」
「·····」
「だから俺は、最後の一線だけは超えないようにアイツをずっと見てるんです」
「お前の、それは·····」
「束縛だっちゅうんでしょう。分かってます。でもこれしか方法は無いんです。アイツもそれを分かってます」
「·····そうか。なら最後まで離すなよ」
「·····言われるまでもありません」
そこは余人が入り込めないふたりの世界。
他者から見れば叫喚地獄。なかのふたりには極楽。
END
「ふたり」
多分、オモチャ箱がひっくり返ったままの子供部屋という表現が一番しっくり来る気がする。
机の横の本棚には整然と本が並んでいるけれど、振り返って床を見れば、散らかしたままのオモチャがいくつも散らかっている。
思考が散らかってるというのは、きっとこんな感じだ。
もういいトシなんだから、落ち着くべきだと思うけど、結局私はこの混沌が好きなのだ。
END
「心の中の風景は」