せつか

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8/8/2025, 11:45:56 AM

家に帰ったら推しのフィギュアがある喜び。
運を使い果たした感があるけど後悔は無い。

END


「夢じゃない」

8/7/2025, 5:16:25 PM

コンパスなんてアテにならない。
こっちに行くだろうなと思ったらあっちに行って、あっちに向かえば安心だと分かっているのにそっちに行ってしまう。
自分の心なんて分かってる。
そう思っていた筈なのに思いがけない沼にハマったり、普段なら選ばない選択肢を選んだり。

羅針盤なんて、あって無いようなモノだ。


END



「心の羅針盤」

8/6/2025, 5:19:08 PM

酒は強い方だ。
仲間うちで飲んだら大抵最後まで残って、先に潰れた連中の世話をするのが常だった。

だからこんな事は初めてで、彼は微かに酔った頭でぼんやりと目の前の男を見つめている。
「·····」
視線に気付いた男はニコリとしまりの無い笑みを浮かべる。彼より早いピッチで、彼より強い酒を飲んでいた筈なのに、その表情はいつもと何ら変わらない。
「まさか君とサシで飲める日が来るなんてね」
男の言葉に彼は不機嫌そうに鼻を鳴らす。苛立ちを紛らわせようとジョッキを傾ける姿に、男はますます笑みを深くした。

◆◆◆

路地を吹き抜ける冷たい風に、彼はぶるりと長身を震わせた。酒で火照った頬には心地よいが、全身でそれを感じるとやはり寒い。
季節は冬へと少しずつ向かっている。
「あぁ、楽しかった」
男はまだ飲み足りなかったのか、隠し持っていたスキットルを取り出すとぐびりとウイスキーを流し込む。
彼は呆れたようにそれを横目で見ながら煙草を取り出して火をつけた。
「アンタは楽しかったでしょうが、こっちはもう二度と御免蒙りたいですねぇ」
紫煙と共に吐き出した言葉が、夜気に紛れて消えていく。男はスキットルから唇を離して彼を見つめると、片方の口端を軽く上げて男臭い笑みを浮かべた。

彼が仕事ではなくプライベートでこの街を訪れたのも、男が普段とは違う店を訪れたのも、言わば偶然。だが、そこで二人が出会い、酒を酌み交わしたのは必然だった。少なくとも男はそう思っている。だが彼の方はそれを認めたくないのだろう、憎まれ口を叩くその横顔は、酔いのせいか微かに赤くなっていた。

「さて、そろそろ帰ろうか」
空になったスキットルを投げ捨てて、男が言った。
彼は手袋をした長い指で煙草を摘むと、ゆっくりと息を吐く。細く白い煙が蜘蛛の糸のように中空を漂うのを、男は目で追う。
「仕事モードになっちまう前に早く消えて下さぁい」
大きな月を背にそんな毒を吐く彼は、何をしても絵になると男は思う。スラリとした長身、煙草を挟む長い指、皮肉げに片方だけつりあがった唇、手入れの行き届いたスーツ。自分の魅力を良く知っているのだろう、そんな自信が現れる彼の一分の隙も無い姿が、男は見ていて好きだった。
――だって、崩しがいがあるからね。

「仕事でもプライベートでも、どっちでもいいからまた会える日を楽しみにしてるよ」
「寝言はおうちに帰って寝てから言って下さいねぇ?」
シッシッと手を振って追いやる彼に、男は笑う。
「あっはっは。じゃあ、またね」
ひらひらと手を振って人混みに消える男の背に、彼の視線が突き刺さる。

繁華街のざわめきは、男の昂る心を鎮めてくれそうになかった。


END



「またね」

8/5/2025, 5:01:33 PM

人魚姫は泡になりたくてなったわけではないと思う。
自分の恋が叶わなくても王子様を殺すくらいなら泡になって消えたい、そう思ったんじゃなかっただろうか?

私はあのプリンセス達の方の人魚姫は知らない。
アンデルセンとは結末が違うらしい。
どちらがいい、とかの話ではないだろうけど泡になって死んでしまった結末の方が私は好きだ。
(風の精霊になった、という話もあるらしい)

物語は時代が進むにつれて枝分かれし、たくさんのifが生まれる。
泡になりたい、と心から願う人魚姫がもしかしたらもうどこかにいるのかもしれない。
恋を忘れて姉達と海底で楽しく暮らす人魚姫もいるかもしれない。

どんな結末でもいいけれど、他者に「泡になりたい」と思わせてしまうような人魚姫だけは、解釈違いだなぁと思う。


END



「泡になりたい」

8/4/2025, 4:36:49 PM

アスファルトが陽炎のように揺れている。
見上げれば、ビルの窓ガラスには太陽が反射して白い光を放っている。
額に浮いた汗を拭って、恨みに満ちた視線を空へと向けた。
「·····」
ギラギラと突き刺すような痛みが露出した腕や首に降り注ぐ。真夏の太陽は容赦が無い。
いや、太陽自体は昔から何一つ変わってはいないのだ。人間が身勝手に環境を変えて、自分達の首を絞めているだけだ。だから突き刺さるこの痛みにも、うだるような暑さにも、苛立ちを覚えてもその怒りをぶつける場所が無い。
「·····」

暑さも痛みも、自分で避けようと思えばいくらでも避けられる。大人しく家でゆっくりしていればいい。
ニュースでもそういっている。
「·····」
自分で自分の首を絞めている。
ペットボトルの水をがぶ飲みすると、肩に掛けたカバンを抱え直した。

――年に一度、この為に。
この真夏の一日の為に、私の他の364日はあるのだ。

「ただいま!」
会場へと続く道で、胸の中でそう叫んだ。


END


「ただいま、夏」

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