爆音と爆風を巻き起こしながら、巨大な金属の塊が空に向かっていく。
発射場の周囲を囲むフェンスに取り付いた子供達が、歓声を上げる。
空気を切り裂いてぐんぐん昇っていくと、ロケットはやがて見えなくなる。
「かっこいー!」
「宇宙まで行ったかなぁ?」
「まだ早いよ!」
子供達は興奮冷めやらぬ様子で語り合いながら走っていく。あと数分もすれば彼等は空に向かっていったロケットの事など忘れて、サッカーボールを追いかけるのだろう。
そして。
大気圏を脱したロケットは少しずつその身を削ぎ落とし、目的を達成する為に再び大気圏に突入する。
◆◆◆
『今日未明、〇〇国から発射された大陸間弾道ミサイルが××国の南部に着弾し、首都を含む半径〇〇km圏内が壊滅状態に陥っているとの情報が入ってきました』
「ミサイルだって」
「怖いね」
「なんで戦争なんかするんだろう」
「あ、そうだ!お父さん、今日ロケットが飛んでくの見たよ。すっげーかっこよかった!!」
END
「空に向かって」
はじめまして、で良かったよね?
それとも久しぶり、の方が正解?
良く知った顔が初めて見せる顔をして、謎かけのような事を言う。
その言葉に何と答えたのか。
どちらを答えても違和感があって、喉に何かが引っかかっているような不快感が残る。
記憶の中の顔が決してしない表情で、向けられるはずの無い言葉を寄越してくる。
何も守るものが無いと、こうなるのか――。
何もかも手放したものに唯一残った本質が〝ソレ〟なのか――。
寄る辺ない私達が再び邂逅を果たしたのは、街を埋め尽くさんばかりの大雪が降った、ある寒い夜のことだった。
END
「はじめまして」
〝というわけで、今回の××はここまで。お相手は、※※※※でした。リスナーのみなさんまたね! バイバーイ!〟
いつものように番組が終わると、私はタブレットの画面をタップしてアプリを閉じた。
深夜一時。
四六時中手放さなかったスマホとタブレットをようやくテーブルに置いて、私はベッドに向かう。
週に一度、大好きな推しのラジオを聞くのが私の楽しみ。
最後の「またね!」に心の中で「またね!」と返し、明日からの一週間の糧にする。
しんどい仕事、しんどい人間関係、キビシイ現実を乗り越える為の栄養剤。
だったのに。
〝〇月×日午前二時頃、アイドルグループ×××の※※※※さんが路上で車に跳ねられ、病院に搬送されましたが死亡が確認されました〟
――嘘でしょ?
END
「またね!」
※500作品達成しました。読んで下さっている皆様ありがとうございます。
「この前は歩いてられないくらいの風だったのに」
鳥居越しに揺れる桜の枝を見上げながら、呟いた。
吸い込まれるくらいに澄んだ空。
薄いピンク色をした桜は満開で、穏やかな風にその身を任せている。
コートでは少し暑いくらいだ。
参拝を済ませ、百を超える石段をゆっくりと降りながら、清浄な空気にしばらく浸る。
朝、不意に神社に行こうと思い立った。
何故かは分からない。
信心深い方では無いし、初詣ももう何年も行っていない。なのに何故か、その日は神社に行かなければ、と思った。
穏やかな風が吹く。
小さな花びらが雪のように音もなく舞っている。
一段一段、降りるたび木々の緑の間から街の景色が鮮明になってくる。
ふわり。
コートの裾が微かに揺れた。
同時にスマホが鳴って、おもむろにポケットを探る。
「もしもし。――お母さん?」
十年以上音信不通だった母からだった。
「うん。うん、·····そう。良かった。うん。分かった。なるべく早く帰るよ」
「おかえりなさい、おじいちゃん。お疲れ様でした」
声に答えるように、桜の枝が小さく揺れた。
END
「春風とともに」
〝彼は泣かない〟
なぜそんな事を思ったのだろう。
泣いたことの無い人間なんて、いない筈なのに。
どんな人間でも子供だった頃はあって、記憶は無くとも確かに泣いている筈なのに。
「涙なんてとうの昔に枯れ果てた」
その言葉の裏にある絶望と寂寥を、私は気付けた筈なのに。
あの時。
あの人を救いたいと思ったのと同じように。
彼の渇いた心を、彼の憎悪の底にあるものを、私だけは気付くべきだった。
◆◆◆
〝あの男は泣かない〟
なぜそう思ったのか。
泣くほどの挫折も、苦悩も、あの男は乗り越えるだけの強さを持っている筈だった。
「勝手に出てきてしまったんだ」
その言葉にあるのは、私には無い感情を持て余す強がりだったと、今なら分かる。
あの時。
もっと話をしたいと言ったあの男の言葉を。
あの男の誠実を、あの一瞬だけでも信じるべきだった。
◆◆◆
「あなたが泣くなんて」
「お前が泣くとはな」
泣かない強さも、泣けない弱さも、表裏一体のものなのだと気付いたのは、何度も何度も出会いと別れを繰り返した果ての、互いの涙を初めて見た時のことだった。
END
「涙」