「幸せを履き違えてるんじゃないですか?」
彼の鋭い眼光が、私に向けられた。欲しいものに囲まれて、たくさんの友達がいて、非の打ち所がない恋人がいる。仕事も上手く行っている。今の私に不満など、あるはずがない。欲しいものは、全て手のなかにあるのだから。臆することなく、私は笑ってみせた。
「なに言ってるの?」
「あなた、幸せを履き違えてるんじゃないですか、と言ったんですよ」
「それはさっき聞いたよ」
「自慢話のつもりですか?」
彼は攻撃的な口調で言った。だんだんと苛立ちを隠すつもりはなくなってきているようだった。けれど、私はどこで彼の地雷を踏んだのかが分からなかった。彼の瞳の奥に宿る熱を、首を傾げてただただ曖昧に受け止めることしかできなかった。
「勝手に私の幸せを決めないでよ」
少し困って見せれば、彼はバツの悪そうに視線を外した。
「物があれば、あなたは幸せなんですか。たくさんあれば、人より優れていれば、あなたは満たされるんですか?」
彼の問いかけにグッと言葉をつまらせる。
何も言わない私に、ほら、と彼が追いうちをかける。
「周りの物や人で測っているような幸せなんて、自分が思い込みたいだけじゃないですか。そんなんで笑ってるあなたを見てると、イライラするんですよ」
呆然と、彼を見つめ返すことしかできなかった。彼の本心を聞いたところで、私はどうしたらいいんだろう。
「私は、あなたの言葉が聞きたいんです」
見透かしたように、彼が呟く。その瞬間、無意識のうちに自分の中にあった幸せという呪縛から、解放された気がした。
彼の頬がわずかに赤らむ。まるで告白じみた言い回しが彼らしくて、思わずふはっ、思いっきり吹き出した。
題 : 幸せとは 「アナタの言葉で聞かせて」
1/5/2025, 2:33:18 PM