雨の日は、君に近づけるチャンスだ。
ザーザーと音のなる屋根の下で雨音を数えていれば、優しい君はきっと気付いて声をかけてくれる、かもしれない。
折りたたみ傘を鞄に隠して、傘を忘れたふり。
「入りなよ」って、招かれるまま、小さな傘は二人でいっぱいになった。一緒に帰ろうって、その一言がいつも言えなかった。君の背中を見つめるばかりの帰り道を、今日は雨を言い訳にしたんだよ。こちら側に傾けられた傘、合わせてくれる歩幅、よく聞こえる君の声。全部がやさしくて、やっぱり好きだなって、心に思う。ドキドキもするけど、なんだか心地いい。今はまだ、私だけの秘密にしておきたい。
雨を言い訳にしなくても、一緒に帰ろうって言うことから、はじめよう。
#傘の中の秘密
雨上がりに虹を見つけると、ちょっと嬉しくなる。
いつまででも見ていたくなる。
青色が強く散乱する空に、七色の橋が架かる景色が、なんだか良い。
空の青も、虹も、自然が生み出すものたちを不思議がって、原理を知ることも私たちのためになる。
でも、全てを知らなくても、ただ綺麗だと感じること。不思議だと空を見上げること。思考よりも無心になれる余白も大事だったりするのかなあ、なんて。それっぽいことを書いてみました。
星を数えてた。
どこまで数えたか分からない。
無数にある星を、ひとつ、ひとつ指でなぞっていた。
眠れない夜は大抵星を数えていた。
目を閉じても眠気なんて一向に来なくて、頭の中でぐるぐると渦巻いている些細なことが膨らんで、目の前を不安で黒く染まらせていった。スマホの光も眩しい。音楽もうるさい。でも、眠るのは嫌だ。
そっとベットから這い出て、窓を開けると、生暖かい風が頬を撫でた。春の匂い。南の空の高いところに、三日月が弧を描いている。
月がひとつ。
星は、無数だ。
月の見える明るい日、私のところから星を見つけるのは難しい。
ひとつ、ふたつ、みっつ。空を目指して数をかぞえた。
見えないだけで、たしかにある星。
虚しくなるほど途方もない星遊び。
あの星が私に落っこちてくればいいのに。
#「星」 そしてこの夜の闇から、光り輝く星の海に連れ出して。
金平糖をもらいました。
金平糖って、星屑みたいだなって思いました。
私は夜空が好きで、夜空に浮かぶ無数の星に何度思いを馳せたんだろう。
あの星が落っこちて、世界で滅亡すればいい。
あの星に手が届けばいいのに。
あの星のひとつくらい、落っこちて空っぽの心が埋まればいいのに。
あの星の今見えている光が、何光年もかけてようやく届いているのだと思うと、涙が出てくる。
金平糖は空から落ちてきた星。流れ星に祈った願い事は消えてなくなるんじゃなくて、こうして私の手の中に。まるで「あなたの願いを聞いて、やってきました」って言ってるみたいで、また涙が溢れた。
一方で、
「金平糖ってさ、金の糖でしょ。砂糖の塊だよ。あと平らって書くし」
と、情緒もくそもないことを言われて、少し、いや大分悲しくなりました。悲しいというか、ショックというか、なんだろう。
なんでわざわざそんなこというんだろうっていう、やっぱり悲しみだったのかな。
この感覚を分かってほしいとは思えないけど、
ただそうなんだねって、言ってほしかったなあ。
「あ、流れ星」
キラリと瞬いた星は、既に夜の深い海に消えていく。夜空を駆けていったようで、私の目に留まることはなかった。ぼんやりと空を見つめていると、隣にいた人物が素っ頓狂な声を上げた。
「見つけられなかったぁ」
「そりゃあ残念」
残念そうに声を震わす彼女を一瞥する。ガックリと肩を落として、頭を垂れていた。ブルーシートの上で待ち続けてかれこれ数時間だが、待望の瞬間を逃したことへの落胆としてはいささか大袈裟な気がした。
「いつから天体観測が趣味になったの?」
パーカーを羽織り直しながら彼女に言った。夏と言えど、夜の山は冷える。地上よりも空が近くにあるから、肉眼でも小さな星がよく見えた。
「そんなんじゃないけど、たまに見たくなる」
ゆっくりと顔を上げた彼女の視線を追っていく。数多くの星々で埋めつくされた空。あんなにあるのに、私たちの手元にはひとつも落ちてこない。ずっとその場から離れられずに、自由になった光は燃えながら夜の中に消えてしまう。まるで空に囚われた星。ひとつひとつが僅かな光で自分たちの存在を知らせているようだった。
「ひとつくらい、落ちてきたっていいのにね」
彼女の呟きに、なんだか無性に胸を締め付けられた気分だった。
「あの威力で落ちてきたら、きっと怪我じゃすまないだろうよ」
「リアリストだなあ」
ため息まじりに、彼女はブルーシートに寝転がった。
「いつか、届くよ」
彼女の瞳が大きく見開かれる。ほろりと音もなくこぼれていく涙が、流れ星ように頬を伝っていった。
#夜空を駆ける、星と涙