ソラシド

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「あ、流れ星」
キラリと瞬いた星は、既に夜の深い海に消えていく。夜空を駆けていったようで、私の目に留まることはなかった。ぼんやりと空を見つめていると、隣にいた人物が素っ頓狂な声を上げた。
「見つけられなかったぁ」
「そりゃあ残念」
残念そうに声を震わす彼女を一瞥する。ガックリと肩を落として、頭を垂れていた。ブルーシートの上で待ち続けてかれこれ数時間だが、待望の瞬間を逃したことへの落胆としてはいささか大袈裟な気がした。
「いつから天体観測が趣味になったの?」
パーカーを羽織り直しながら彼女に言った。夏と言えど、夜の山は冷える。地上よりも空が近くにあるから、肉眼でも小さな星がよく見えた。
「そんなんじゃないけど、たまに見たくなる」
ゆっくりと顔を上げた彼女の視線を追っていく。数多くの星々で埋めつくされた空。あんなにあるのに、私たちの手元にはひとつも落ちてこない。ずっとその場から離れられずに、自由になった光は燃えながら夜の中に消えてしまう。まるで空に囚われた星。ひとつひとつが僅かな光で自分たちの存在を知らせているようだった。
「ひとつくらい、落ちてきたっていいのにね」
彼女の呟きに、なんだか無性に胸を締め付けられた気分だった。
「あの威力で落ちてきたら、きっと怪我じゃすまないだろうよ」
「リアリストだなあ」
ため息まじりに、彼女はブルーシートに寝転がった。
「いつか、届くよ」
彼女の瞳が大きく見開かれる。ほろりと音もなくこぼれていく涙が、流れ星ように頬を伝っていった。

#夜空を駆ける、星と涙

2/21/2025, 3:39:10 PM