『優しくしないで』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
独白 2024/5/3
理解できないことは理解できないと諦めますが、
理解できないということは何故なのか。
考え続けたいのです。
高級住宅街のとある一軒家に
訪問販売に訪れたA
「この間買った浄水器、
もうすっごく良くて愛用してるわよ」
「ありがとうございます」
この家に暮らす奥様はいつも
ニコニコとしている優しいご婦人だ。
この仕事は行く先々で嫌がられる事も多いのだが、
奥様は親切に迎え入れてくれて、
商品を購入してくれた。
今はこうしてお茶とお菓子までいただいている。
ふと、庭の方に視線を向けると、子どもがいた。
窓ガラス越しにこちらをじっと見つめている。
ボサボサの髪にヨレヨレの服、薄汚れた肌、
おそらく何日も風呂に入っていない。
「あ、あの」
「ん?どうしたの?」
「外に子どもがいます」
「あーあれね、気にしなくていいのよ!」
パンフレットに視線を向けたまま
明るい口調で話す奥様。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「すみません、御手洗を借りてもいいですか?」
「どうぞー、そこ奥入って右にあるからね」
暗い廊下を進むと先程の子どもが蹲っていた。
「ひっ」
こちらを見上げる真っ黒な瞳。
よく見ると顔や体に細かい傷跡が
たくさんできている。
「きみ、大丈夫…」
手を伸ばそうとすれば、
ガシッ!と何者かに腕を掴まれる。
横目で見やると、奥様が真顔で立っていた。
「優しくしないで」
「え」
「それに優しくしないでね」
そして、奥様はいつものように笑ってみせた。
お題「優しくしないで」
『優しくしないで』
あたしの名前はモブ崎モブ子!
私立ヘンテコリン学園に通う高校一年生。
あたしは現在、学園西側に位置する
「秘密の花園」と呼ばれる場所に来ています。
ここは生徒達も滅多に立ち寄らない
絶好の穴場スポット!
一人で考え事したい時なんかによく訪れるのだ。
風に揺られてざわざわと音を鳴らす木々や
馨しい花の香り、涼やかなそよ風に癒されていると、
誰かの気配を感じた。
振り向けばそこにいたのは入学当初から
気になっていた銀髪の不良青年。
精悍な顔立ちと、制服の上からでもわかる
野生の獣のようなしなやかで引き締まった
体つきに目を奪われる。
「おい、あんた」
不意に声をかけられて辺りをきょろきょろと
見回す。ここにはモブ子と不良以外誰もいない。
え、あたしのこと?
不良イケメンがどんどん距離を詰めるので、
あたしはどんどん後ずさった。
ほどなくして背中がレンガの壁にぶつかる。
ひええええええええ
これが噂の壁ドンって奴?
金色の瞳に見下ろされると、まるで肉食獣に
狙われる小動物みたいな気分になってしまう。
不良イケメンはあたしを壁際まで追い詰めると、
こちらへ手を伸ばしてきた。
反射的にぎゅっと目を瞑る。
びくびくと震えながら身を縮こませていると、
髪に優しく触れられる感触がした。
恐る恐る瞼を開くと、
彼は指に黄金色の細長い物体を摘んでいる。
「芋けんぴ、髪に付いてた」
カリッ
そう言って不良イケメンは手にした芋けんぴを齧った。
ちらりと見えた鋭い犬歯がワイルドで
不覚にもドキッとしてしまう。
う…わ──────!!!!!
今朝食べてきた芋けんぴじゃん。
超恥ずかしい!!!
湧き上がる羞恥心に悶える中、
あたしは次の言葉を必死に紡いだ。
「あ、あの!ありがと──」
「セバスチャン!」
お礼を言おうとした瞬間、
誰かが名前を呼ぶ声がした。
「!主」
彼はその声を聞いた途端、飼い主に名前を
呼ばれた忠犬のように背筋をピン!と伸ばして、
声のした方向へ一目散に向かった。
その場に一人取り残されるあたし。
視線の先では、不良イケメンと高飛車お嬢様が
何やら親しげに話している。
……。
…………。
「優しくしないで」
小さく小さく虫の鳴き声よりも弱くそう呟いた。
それは一体どちらに向けて放った言葉だろう。
モブ子は自分の中に芽生えた感情の名前を
まだ知らなかった。
「優しくしないで」
今日は元気がないね、なんて
らしくないよ
元気がないのはどっちよ
優しくしたくないから
優しくしないで
優しくしないで
ーおねがいだ
嫌よ。
あいしている
ーその言葉を、使わないで。
ーそばにいてほしい
貴方が、私に、
そばにいてほしいんでしょう?
貴方が、自分の、孤独に気づきたくは、
ないんでしょう?
泣いてしまう。
何も言えずに只、泣いてしまう。
演奏者くんが、最近なんだか優しい⋯⋯気がする。
前は怒ってた軽いからかいで、怒らなくなってしまった。
前に1回死ぬほど怒ってた『グランドピアノを触る』ということをした時に「やめて、くれるかい」と言われたきりだった。
なんだか、調子が狂う。
そもそも優しくされることに慣れてない。
元の世界のことは全く覚えてないけど、この世界に『迷い子』として来たってことは、多分死ぬほど辛かったのだろう。
この世界に来てからは、催眠が生まれるまでは殴る蹴るなんかの暴力による支配が主で、そこに優しさなんてなかった。
権力者になってからも、下っ端だから頑張って仕事しなきゃいけなくて、優しくしてくれる人なんていなかった。
演奏者くんだって、最初はボクのことを『邪魔者』って呼んで、目の敵にしてたはずなんだ。
なのに、なのに、いつの間にか『邪魔者』から『権力者』に変わって、最近ではたまに『メゾ』って呼んできて。
ボクの名前をなんで知ってるのかも分からないし、そうやって呼んできたり、ピアノを触っても怒らなかったりするのか皆目検討もつかなくて。
でも、前に来た『迷い子』が言っていた言葉が脳裏を過ぎる。
「怒ってくれたりするのはまだ自分に『興味がある証拠』。何かしても怒らなくなったら『興味がなくなった』ってこと」
あの子の言葉の通りなのかもしれない。
ボクが弱いってことがバレて、ボクに向かって怒りを露わにしても例えば倒しても、何の意味もないってことに気づかれたのかもしれない。だから『興味がなくなって』優しくしてくるのかもしれない。
そんなのは嫌だ。そんなのは嫌なんだ。
ボクは、演奏者くんに興味を失われたくなんかないから。そんなことをされるくらいなら『嫌い』な方がいいから。
どうか、どうか、優しくしないで。
「優しくしないで」
今はそんなにないが、子供の頃はまだ感情の整理がつかないからか、親に誉められたりすると、逆に煩わしく感じて「優しくしないで」なんて言っていたと思う。
僕は、天の邪鬼だったのだろう。
優しくされると、その人を怒らせたいと思ったし、怒られると、褒められようと頑張っていた。
なんともめんどくさい子供である。
今は感情の整理もついてか、ただただ皆に優しくされたいと思うばかりである。
でもたまに、優しくされるのが辛い時がある。
不甲斐ない自分を怒って欲しい時がある。
優しさだけでは何ともならないことはあるから、僕は、色んな自分を見せられたら良いなと思う。
優しくしないで、
か、
優しくして欲しいけど、優しい人ほどすぐに去るから
優しくされればされるほど寂しくなるよね
離れるってわかってるのに、
「優しくしないで、」
この言葉を聞いた時、皆さんはどんな感情を想像しましたか?
私は、「脅し」という感情が浮かびました。
世間のニュースで、新人社員が1ヶ月後に会社を辞める人が続出されています。
人間関係によって脅しであえて優しくされたり、女性の場合、セクハラで自分の体を許してしまうケースが多いので、私はそのニュースを見て、「将来、そんな人とは関わりたくないな」と思いました。
【あとがき】
Annaです!
久しぶりに執筆しました!
最近はメンタルにも限界が近づいて、しばらく休んでました。
今後は、自分が書きたくなったタイミングで書いていきます。
優しくしないで 2日
優しくしないで!
彼女は、そう言った。
私は、それが分かんなかった。
そして数年後、私はまた別の人に同じ事を言われている。
優しくしないで
会いたいよ
この無味な世界から救い出して
【優しくしないで】
飼い主はいつも僕じゃなくてあいつを撫でる。
僕より賢いし、飼い主の言うことを聞く。
反対に僕は気まぐれな性格で、
やる時とやらない時の差が激しいのかもしれないけど、
そこは僕の可愛い所…でしょ??
僕だって寂しい。
遊んで欲しい時だってある。
だから、今日は振り向かせる為に
お気に入りの猫じゃらしを持ってった。
でも…
飼い主は見向きもしない。
「ニャー…」
声を掛けても、振り向いてくれない。
時間経ってから
僕に優しく接してきた。
僕は嫉妬した。
猫の僕より、犬のあいつが良いんだろ!
「シャー!!」
僕は、猫パンチを繰り出した。
飼い主は、びっくりして悲しい表情をしたが僕は知らない。
窓が少し空いていたので、いきよいよく飛び出した。
何日経ったか分からない。
目が掠れている。
よく見えない…。
聞いた事のある声が聞こえる。
耳をそっちに傾ける。
どんどん近くに来ているように聞こえる。
「……ニャー……」
優しく何かで包まれる。
暖かい手で頭を撫でられる。
優しくしないで。
僕は、悪い子だよ?
なんで、優しくするの?
優しくしないで…
優しくされたらまた好きになっちゃうじゃん。
なぁに平成ボケした女みたいなこと言ってんのよ
そういうのは理不尽に八方美人な殿方に言いなさいよ
と、おでこを小突かれた。
そうだ、ここんとこの三寒四温の寒暖差で見事に大風邪をひいてしまって親友のレナに泣きごと言って来てもらっていたのだった。
さっきのは微睡んでいた私の寝言へのツッコミらしい。
何を言ったか覚えていないもんで、突然の軽い衝撃にびっくりしてすっかり目が覚めてしまった。
渋い顔して唸る私にレナは悪戯な笑顔を投げてからワンルームの狭いキッチンに立った。
消化のいい食べ物を数日分作り置きしてくれているのだ。
とても手際のいいリズミカルな調理の音が心地よかった。
"レナ、絶対いいお嫁さんになるよ"
いつだったか言ったことがある。
お世辞みたいな決まり文句だけど本心からそう思った。
けれどその時は、結婚する気はないと興味なさげだった。
レナは猫毛で柔らかなブラウンの髪をした読モみたいに可愛い子で、メイクもしてないのに透きとおるようなきれいな肌をしていた。
私はそんなレナにひと目惚れして高2の春に同じクラスになってすぐに声をかけて打ち解けた。
それからずっと社会人になった今でも仲良くしてもらっている。お互い20代も折り返し地点に来てしまった。
レナの薬指にある品の良い小ぶりなダイヤが窓から差し込む光を反射して眩しい。婚約相手は同じ会社の同期だそうだ。
何ヶ月か前に恥ずかしそうに小声で教えてくれた。
その時の表情が本当に幸せそうで、それと同時にレナの中の私はもうレナの特等席には居ないことを知ってしまった。
なのに、こういう時に頼れるのはレナだけだって本当に私の人生は情けない。
選ばなかった選択肢をたどって、ありもしない今を空想するのも最近は虚しくて、手当たり次第マッチングアプリで知り合った男の人と1日デートしてはその日の夜に連絡先をブロックするということを繰り返していた。
もちろん身体は許していない。というか、私は男の人とそういうことをすることにあまり関心が持てないのだ。
かと言って女の子と性的な繋がりを持ちたいのかと問われたらよくわからない。
もうこのごろ本当に、私という人間がわからなくなってしまった。もしかしたら人間ですら無いのかもしれない。
そんなことを熱に浮かされながらぼんやりと考えていたら、レナがまたベッド脇に来て私を覗き込んでいることに気づいた。
病人にすべきことをひと通り済ませたからそろそろ帰るらしい。名残惜しい気持ちをなんとか飲み込んで、小さくありがとうと言って瞼をとじた。
レナが玄関のドアを開閉する気配を感じながら、私はまた深い眠りの中に意識を逃がしてやることにする。
余計なことを考えないで済むように。
#優しくしないで
「優しくしないで」/小説
いつも僕をいじめるやつがいた。同じクラスの高橋というやつだ。高橋のいじめにはいつも苦しめられていた。自殺をも考える日が続いた。
しかし、ある日をさかいに高橋は僕をいじめなくなった。それどころか、僕に優しさすら見せるようになった。高橋の変貌は、最初なにかの罠ではないかと思われたが、次第に疑いは晴れていった。高橋の優しさは徹底していたし、罠をかけるにしてはあまりにも長い月日が罠なしで経過していたからだ。
疑いが晴れると、学校がそれほど苦痛でなくなった。むしろ楽しくさえ思えてきた。授業中に起こる笑い声を、以前は憎んでいたが、今は一緒になって笑うことができた。
それにしても高橋の変貌は凄まじかった。僕はおそらく教師が高橋に注意してそれでいじめなくなっなのだろうと思っていたが、それにしては優しさの度が過ぎるように思える。
こんなことがあった。体育の授業でペアを組むとき、友達のいない僕が一人でいると、高橋は「また一人かよ、俺が組んでやるよ」とにこやかに話しかけてきて僕とペアを組んだ。それもその笑いにはいっさいの嘲笑が含まれていなかった。
再び疑いが芽生えてきた。いや、今度は疑いというより気味の悪さだった。何か得体の知れないものに触れたときに感じる気味の悪さだった。
それはいじめよりもなお悪いものだった。いじめを受けるのはつらい経験だが、いじめを行う人間の感情は理解できる。しかし、この優しさは理解できない。
僕は理解できないものに苦しめられた。高橋の内部世界は全く、その一端さえ知ることのできぬ、闇に閉ざされた薄気味悪いものに思われた。以前はそうではなかった。いじめをする人間の内部世界など手に取るようにわかる。以前、僕はいじめを受ける弱者でありながら、相手の内部世界を把握している強者でもあったわけだ。
しかし今はどうだ? 僕はいじめを受けているわけではないが、未知のものに怯えている点では弱者のままだった。しかも、今は相手の内部世界の把握という強者の特権さえない弱者であった。
完全な弱者。優位な点を何ひとつ持たぬ弱者。
それからの日々はまた地獄だった。以前よりもなおひどい地獄だった。彼の優しさに触れるたびに、人間でも動物でもないものに愛撫されるような気味悪さを味わった。
いじめを受けていた日々が懐かしく思い出された。あの頃僕は、苦しかったとはいえ、理解可能なものに囲まれて暮らしていた。それがどれほど耐えしのぎやすいかをあの頃は知らなかった。今は得体の知れないものに脅かされていた。我慢の限界だった。
ある日、僕が係の仕事で牛乳のバケツを洗いに行くとき、手伝いに来た高橋に、こう言った。
「もうやめてくれ。優しくしないでくれ。僕を以前のようにいじめてくれ」
高橋は、奇妙に顔を歪ませながらも、口角だけは激しく吊り上げて、こう言った。
「俺はその言葉をずっと待っていたんだよ。これで堂々とお前をいじめることができる。なにしろお前がいじめてくれと頼んできたんだからなあ」
僕は身内に豊かな安らぎが湧いてくるのを感じた。
優しくしないで
その気がないのに優しくしないで
勘違いしちゃうから
貴方から離れられないから
そう思っているのに
優しくされてどこか嬉しい私がいる
今日もまた、貴方に優しくされるのを待っている
優しくしないで
ボクは、別にお前なんか、
好きでも何でもないし。
ホント、マジでウザいんだけど。
だって。
ボクが仕事に飽きて、サボろうとすると、
目敏く見つけて、説教するし。
ボクが、ちょっと掃除の手抜きをしただけで、
やり直せ、と文句を言うし。
ボクが、つまみ食いしただけで、
めちゃくちゃ、怒るし。
どうせ、真面目なお前は、
こんなボクの事が嫌いなんだろ?
だけど。
ボクが具合悪くして、寝込めば、
こっそり、看病してくれるし、
ボクが仕事でミスれば、
こっそり、フォローしてくれる。
何だよ。お前。
ボクの事が嫌いなら、
優しくしないで。
そんなふうに優しくされたら、
ボクはお前の事を、
本気で、嫌いになれないじゃないか。
頼むから。
お前の事を、嫌いにさせて。
そうじゃないと。
ボクは何時迄も、お前のコトを、
諦められないから。
「誕生日おめでとう!」
ってLINEして
「ありがとう」
って返信あるだけでも嬉しいのに
「今度久しぶりにご飯でも行こう」
なんて書いてあったから、もう嬉しくってその場で踊りだしちゃいそうになる。
でも知ってる。
君の言葉は9割が社交辞令だって。
だから真に受けたら悲しくなるんだ。
「いいね!ずっと会ってないからいろいろ話したいな」
ほら、既読すらつかない。あ、既読になった。
しばらく経って、忘れたころに、スタンプひとつ。
会話終了のお知らせ。
だったら優しくしないでよ。期待させないでよ。
君の一言に一喜一憂させられる、ちょろい私なんですから。
『私の気持ち知ってるでしょ?なら優しくしないでよ』
今にも泣き出しそうな顔で君がいう。
知って、、か、
そうだな、
確かに 気づいてた。
僕のこと、少なくとも好いてくれてる
友達、、以上に。
でも、自信がなかった。
僕には恋愛経験が少ない。
す、好きだという気持ちだけだった。
「き、君は、もっと、素敵な男に、僕じゃない方が、」
情けないのはわかってる。
わかってるけど、、、、
『私の気持ちはどうでも良いの?』
『私はあなたが好きなのよ
好きなの。わかってよ、、』
君が僕の手をそっと握る。それだけで手に汗が、、
『そっか、、私のこと別に好きじゃないのか。私が勘違いしてるだけか。そうだよね、あなたは誰にでも優しいし、
「ち、違うっ、!、」
自分でもちょっと驚くくらいの声が出た。
でも、、
「僕は、ぼくは君が好きだょ、、」
「そ、それだけは本当だ。自信がない、だけなんだ」
握られてた手に力が入ったから君の方を見たら
目が合った。
ほんと?と君が優しく笑ってるから
僕は目が離せなくて、
自然と近づいて触れるだけの優しいキスをした。
『あなたがいいの。その優しさが私だけのものならなおさら。』
「き、君だけだよ、、」
にっこり笑う君を見て顔が熱くなった。
そしてすっかり汗ばんだ僕の手をずっと離さずに握る君の手を今度は僕が強く、でも優しく握り返した。
お題:優しくしないで
4月はあっという間に過ぎ、今はゴールデンウィーク。
特に予定はなく、何もしない自堕落な生活。
とても良い休日だが、本当に何もせずこのまま休日までもが過ぎて良いのか‥。
もうすぐ夏。
そうだ、服を買いに行こう。
勤続年数だけは無駄に長い私。
なぜか4月の給与が上がっていた。
お金は心に余裕を生む。
通帳残高に浮かれ、連休のセールに浮かれ、
気がつけばこんなに着るの?と言われそうな程たくさん洋服を買っていた。
量より質だというが、大は小を兼ねるとも言う。
私はああ言えばこう言う性質だ。
とにかく、細かいことは置いておく−−−−
浮足立って帰宅し、戦利品でファッションショーを開催!夏といえばジーパン!
しかし、ズボンは足が短いのでジーパン生地のスカートを購入した。
スケスケふわふわな肩を少し出した、セクシーでガーリーなトップス。
スケスケなのをシースルーというらしい。
うん、夏っぽい!
可愛い服を着りゃ可愛くなるだろうという安易な思考で購入した1着だ。
可愛いオシャレ女の子の完成だ!
そのはずだった。
腕が肩袖のゴムで締めつけられ、今にもうっ血しそうになっている。
スカートも履いたはいいが、お腹が千切れそうな程に圧迫されている。
ウィンナーの先端のねじれ切れてる部分のような気持ちだ。スカートに殺される!
「どんな感じ〜?」
突如私の背後から現れたファッションショーの観客の声に心臓の音が跳ねる。
私の顔が青ざめているのはお腹のせいか、夫にこの身体を見られるからか。
時も夫も歩みを止めない。一刻一刻、一歩ずつ私に近づいてくる。逃げられない!
「おお〜〜可愛いお腹だね」
邪悪さなんて欠片も感じない笑顔で、私のお腹をぽんぽんと撫でるように叩く。
そうだ、ダイエットをしよう……。
私の目の前には、たくさんの服が並んでいる。
フリフリのたくさんついた、ドレスと見間違うかのようなカラフルな服の数々。
これは全て、私のために用意されたもの。
こんなに服を持っているなんて、まるでお金持ちのよう。
でも残念なことに、この服は私の物じゃないし、私もお金持ちでもない。
この服は親友の沙都子のもので、お金持ちなのも沙都子なのだ。
ではなぜこれらの服は、私のために用意されたのか?
「百合子、こっちの服を着てみて」
「分かった」
沙都子が、私に服を着せるためである。
沙都子はお金持ちの令嬢なんだけど、なんでも服のデザイナーになりたいらしい。
働かなくても生きていけるのに、働きたいなんて変わっている。
とはいえだ、いつも世話になっている親友の夢、ぜひとも叶って欲しい。
だから私は沙都子のために、服のモデルを買って出たのだ。
決して、沙都子の私物を壊したお詫びとかじゃない。
決して!
「じゃあ、こっちも」
「了解!」
「……」
まさに夢に向かって一直線といった沙都子だったが、その顔は暗い。
何かあったのだろうか?
「どうしたの、沙都子? 調子悪いの?」
「……あのさ、これ言っていいのか分からないんだけど」
「珍しいね、沙都子が言い澱むの」
「さすがの百合子も落ち込むと思うから……」
「そんなに!?」
聞くのが怖い。
でも聞かないと今晩眠れなくなってしまう。
深呼吸して覚悟を決め、沙都子に向き直る。
「大丈夫!心配しないで言って」
「それなら」
沙都子は気まずそうに、私を見る。
「百合子、太った?
前に測ったサイズで作った服が入らないわ」
「失礼な!成長期だよ!……多分」
沙都子の言う通り、ちょっとしょげる。
確かに最近食べてばかりだけど、太るわけないじゃん。
……体重計が怖いなあ。
「はあ、今日は駄目ね。全部作り直し」
「ゴメンね私の発育がいいばかりに」
「そうね」
おや、冗談のつもりだったのに、ツッコミが返ってこない。
どうしたことか?
本当に元気がないようだ。
やっぱり、沙都子のお気入りのマグカップ割ったのがいけなかったんだろうか
沙都子の誕生日に百均で買ったカップだったけど、大事にしてたからなあ。
……待てよ、割とぞんざいに扱っていたような気もする。
割る前からヒビ入ってたし、やっぱり違う理由だな
聞くか。
「ねえ、沙都子。 なにか悩みあるの?」
「ええ、デザインのことでね」
「相談に乗るよ」
「でも百合子はデザイン分からないでしょ」
「そうだけどさ、素人ゆえの着眼点もあるかもだよ」
私の言葉に、『ふむ』と言って考え込む沙都子。
「そうね。地味だな、と思って」
「地味とはなんじゃい」
「違うわよ。服の方が地味だなと思って」
「……ああ、そういうことね」
でもすでに派手だとは思うけどね。
フリフリたくさんついてるし。
でもきっとそういう話じゃないんだろう。
沙都子は不安なんだ。
だから、服にフリフリを過剰につける。
今までの作った服に違いを持たせたくて……
多分沙都子はスランプなんだ。
でもそれならば話は早い。
「じゃあさ、いつもと違う服を作ってみたらどう?」
「というと?」
「沙都子は可愛い系ばっかり作るから、カッコいい系を作ろうよ」
「それ、あなたが着たくないだけでしょ」
やっぱりバレたか。
沙都子はたまにカッコいい系も作るけど、圧倒的に可愛い系の服を作るんだよね
「まあ、正直に言えばね。
けど、いつもと違うものを作れば、違う視点が得られる――
らしいよ」
「『らしい』ね」
沙都子は呆れたように、ため息をつく。
「私、何か変なこと言った?」
「いいえ、百合子にしては有益な情報だわ。
可愛い系は好きだけど、たしかに拘り過ぎてたかも」
「うん、じゃあカッコいい系を――」
「セクシー系を作るわね」
「ズコー」
思わずずっこける。
「あら、あなたそんなリアクションも出来たのね」
おかしそうに笑う沙都子。
私も人生でそんなリアクション取るとは、夢にも思わなかったよ。
不本意だけど、元気出てよかったことにしよう。
「助かったわ、百合子。 いいものが出来そう」
「え?」
そう言うや否や、沙都子ははさみを取り出し、服を切り刻み始める。
足元には切った服の布で、カラフルな模様が出来ていた。
「待って待って、捨てるくらいならちょうだい。パジャマにするからさ」
「捨てないわよ。というか、コレ外出用の服よ」
「さすがにそれを着て外に出る度胸は無い」
フリフリつけるなって言ってるのに、どんどん増えるんだもんなあ。
「まあ、いいわ。今切ったのはね、捨てるためじゃなくて、スリットを入れるためよ」
沙都子は、持っていた服を私に見せつける。
その服は、胸元がぱっくりと開いていた。
「沙都子、セクシー系って、雰囲気セクシーじゃなくて、エロ方面でのセクシー?
これ『童貞を殺す服』ってやつでしょ、私は知っているんだ。」
「変な造語を作らない。まあ言いたいことは分かるわ」
造語じゃないんだけど……
私が文句を言う間にも、沙都子は他の服にもスリットを入れていく。
「ちょっと、セクシー系は私には早すぎると思うんですよね」
「大丈夫よ、こうしてスリットを入れたおかげで、服に余裕が出来たわ」
「さすがに切り込み入れ過ぎでは」
大胆に入れられた切込みで、動くのは楽であろう。
けど普通に下着が見える。
これは別の意味で外を歩けない。
おまわりさんの目線を集めてしまう。
「仕方がないわ、初めてだもの。
でもここまで違うものを作れば、たしかに何か見えてきそうだわ。
さあ、百合子、着るのよ」
こうして私の出過ぎた助言のせいで、私が着せられる服にセクシー系が加わることになった
着たくはないのに、沙都子に借りが多すぎるせいで断れない。
セクシー系の服は、童貞を殺す前に、私を(羞恥心で)殺してみせるのだった。