おへやぐらし

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高級住宅街のとある一軒家に
訪問販売に訪れたA

「この間買った浄水器、
もうすっごく良くて愛用してるわよ」
「ありがとうございます」

この家に暮らす奥様はいつも
ニコニコとしている優しいご婦人だ。
この仕事は行く先々で嫌がられる事も多いのだが、
奥様は親切に迎え入れてくれて、
商品を購入してくれた。
今はこうしてお茶とお菓子までいただいている。

ふと、ベランダの方へ視線を向けると、
ボサボサの髪にヨレヨレの服、肌は薄汚れており、
何日も風呂に入っていないであろう
子どもがいて、こちらをじっと見つめていた。

「あ、あの」
「ん?どうしたの?」
「ベランダに子どもがいます」
「あーあれね、気にしなくていいのよ!」

パンフレットに視線を向けたまま
明るい口調でそう話す奥様。

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「すみません、御手洗を借りてもいいですか?」
「どうぞー、そこ奥入って右にあるからね」

暗い廊下を進むと先程の子どもが蹲っていた。
「ひっ」
こちらを見上げる真っ黒な瞳。
よく見ると顔や体に細かい傷跡が
たくさんできている。

「きみ、大丈夫…」
手を伸ばそうとすれば、
ガシッ!と何者かに腕を掴まれた。
横に視線を向けると奥様が真顔で立っている。

「優しくしないで」
「え」
「それに優しくしないでね」

そう言うと奥様はいつものように笑ってみせた。

お題「優しくしないで」

5/2/2024, 5:00:09 PM