『一年後』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
恋人の彼が亡くなってから1年後。やあ、久しぶり!元気してた?寂しくない?·····そ、良かった········へぇ、新しい仕事に着いたんだね?良かった!ずっと心配してたよ········これからも、僕のこと、忘れないで欲しいなぁ····だって僕ら、恋人同士でしょ?·····結婚できないのは正直寂しいけど、次は結婚できるように頑張るから!期待しててね!
··········それじゃあね!!またいつか!
自分は、ちゃんと生きているのだろうか。
生きていたとしたら、少しでも変わったところはあるのだろうか。
外側だけじゃなく、内側も。
いい方向に変化していたらいいのだけれど。
占いで未来を見てみたい。
自分はどんな風になっているのか、知ってみたい。
だけど、見たくない気持ちもある。
未来を知ってしまったら、今後の生活に面白みが欠けるというかなんというか……、なんだかつまらなくなりそうだから。
〜一年後〜
あ〜、やっと来年の春
子供達が社会にデビュー出来る!
長かった…
一馬力で色々あったけれども
何とか立派なスキルを携えることが出来たようです
周りの皆様に感謝です
来年の今頃には二人のいい笑顔が拝めるといいな
そしてゆっくりと旅行にでも行こうか
だいぶ最終回に近づいてきたかと思われます
「あ、あの車」
バイト先を出て大通りに出た瞬間、先ほど一緒に上がった先輩が急に立ち止まったので、私もなんとなく振り返る。
この時の私は、この人こんなに大きな声も出せたのか、と無感動に思ったくらいだった。いつも覇気がないと怒られているのは、なんだったのだろう。そして先輩の指差す先の車を見ても、なんの変哲もない白の軽自動車の、一体どこに驚いたのだろう、と呆れたくらいだった。
「あの車、お好きなんですか?」
どうでもいいし、早く帰りたかったが、訊いておくのが礼儀だと思ったので、一応尋ねる。
すると、こちらを向いた先輩は、なぜか途方に暮れた迷子みたいな瞳をしていた。
「好き……じゃない。けど、ナンバーがxxxxだった」
はあ? と声に出てしまったと思う。何か問題ありますか? と面倒くささもあらわに問いかけた私に、先輩は今度は記憶喪失の人のように空っぽの表情を浮かべている。
「……そうか、ごめん、そうだった。なんでもないから忘れて、すまないすまない」
この人は、話を終わらせたくなると、決まってすまないを二度繰り返す癖がある。私もいい加減帰りたいので、短く別れを告げてその場をあとにした。
そんなことが、あったなあ。
たしか、あれちょうど一年前くらいだ。
寒い。さむい。感覚が遠のく。
身体は冷えているのに、頭だけは妙な走馬灯を再生している。
あの日の先輩の言葉は、結局なんだったんだろう。先輩はあの直後フラッと辞めてしまったから、もう話すことは叶わないけれど。
私に追突してきた白の軽のナンバー、xxxxでしたよって、教えてやりたいのに、なあ。
(一年後)
今日も君が好きな系統の洋服を着て
君に可愛いと思われたいから
慣れないメイクに時間をかけるのに
君は何一つ気が付かないし
君が好きになる子は
いつも君を好きにならない
君ってほんとに見る目が無いね
こんな君を待てる人なんて
私くらいしか居ないんだから
はやく気付いて、振り向いてよね
しょうがないから、気長に待っててあげる
【一年後】
今日のテーマ
《一年後》
「一年後には大学生かあ」
「ちゃんと受かればな」
「縁起でもないこと言わないでよ」
帰り道、並んで歩きながら軽口を叩き合う。
同じ学校の制服を着て、こうして歩けるのもあと一年。
夕暮れ時の物寂しさも相俟って、何となくしんみりしてしまう。
「来年の今頃も一緒にいられるかな」
「何だよ、模試の結果イマイチだったのか?」
「そうじゃないけど」
狙ってる大学は同じだけど、志望の学部は違う。
環境も変わるし、お互いに新しい交友関係も増えるだろう。
そうなった時、私達の関係も変わってしまうんじゃないかと、そんな不安が胸をよぎる。
祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり――
平家物語の一節が頭の中に浮かんでは消える。
変わらないものなんてない。
変わらない関係なんてない。
変わらない気持ちも、きっとない。
「ほんとにどうしたんだよ? 何かあったのか?」
「ううん、別に何も」
「何もってことないだろ、そんな泣きそうな顔して」
足を止めた彼が、心配そうに身を屈めて私の顔を覗き込んでくる。
至近距離に迫る顔、さっき飲んでたコーヒーの香りが吐息に混じって鼻腔をくすぐる。
まるでキスする時みたいだと思ったら、そんな場合じゃないのに頬に熱が上ってくる。
「顔赤いな。もしかして熱でもあるのか?」
「違うし! ていうか、顔、近すぎ!」
「あっ、……ごめん」
どうして私が赤面してるのか察して、彼は慌てて距離を取る。
その素早さが、互いの疚しさを誤魔化しているようで、何だかものすごく恥ずかしくなってくる。
「……俺は」
「うん?」
「俺は、来年も、再来年も、ずっとおまえとこうして一緒にいるつもりだから」
「え?」
「先のことなんか分かんねえけど、分かんないからこそ、不安に思うより前向きに考えた方が良くね?」
ああ、彼は――この人は、私の不安をちゃんと分かってくれてたんだ。
分かってて、でも無責任に「絶対大丈夫」なんて気安めは言わないで、それでも安心させようと言葉を選んでくれてる。
鞄を持ってない方の手を取って、ぎゅっと握ってくれる。
手のひらから伝わる温もりに、胸の奥でモヤモヤしてた不安がすーっと小さくなっていく。
心が軽くなって、私はやっと微笑みを浮かべることができた。
「それにしても、なんて急に不安になってんの? 誰かに何か言われた?」
「お姉ちゃんが、彼氏と別れたって言ってて」
「あー、たしか遠恋してるって言ってたっけ」
「うん。高校の時からずっとラブラブだったのに」
4つ年上のお姉ちゃんは大学4年生。
彼氏はその1つ上で今年就職したばかり。
このままもう何年かつきあってから結婚するんだろうと思ってたのに、離れて1ヶ月かそこらで他に好きな人ができたらしい。
直接詳しい話を聞いたわけではなかったけど、隣の部屋から聞こえてきた会話から、そんな話が伝わってきた。
お姉ちゃんは通話を切った後もずっと泣いてて、正直勉強どころじゃなくなってしまった。
「そりゃ、そういう話聞いたら不安になるよな」
「うん……」
「俺も、絶対そんなことしないって言い切れはしないけどさ、でも余所見しないように努力するし」
「うん……私も、勝手に重ねて不安になったりしてごめん」
彼とあの人は違う。
少なくとも、こうして私の不安に気づいてくれるし、不誠実な真似するようなことはないって信じられる。
変わらないものはないけど。
変わらないよう努力することはできる。
変わるにしても、より良い関係になるようにすることも。
一年後も、二年後も、その先もずっと。
叶うことなら、こうしてあなたの隣にいたい。
想い叶って生涯ずっと隣で笑い合うことになることを、今はまだ誰も知らない。
『時間結び』
時間と時間を結んでく 明日と今日を紡いでく ひと月過ぎて またひと月過ぎて 半年経って振り返る
始まりの時計台はもう見えない だけども糸は繋がっている 『一年後が楽しみだ』時間結びの旅人はそう呟いて、針穴に目を凝らす
一年後の景色はどんなだろう
今より鮮やかに見えるのかな
それともくすんでるのかな
鮮やかなら周りに笑顔を
くすんでるのなら木陰で一休みしょう
どんな一年後も
一歩一歩に
きっと意味があるから
年輪のように
力強く、優しい存在でありたい
✳︎一年後✳︎
「真面目な話すると、一年後には、いい加減コロナ禍完全収束するか、特効薬だの治療薬だのがメッチャ行き渡って、インフル程度の怖さになってくれりゃあ、とは思うねぇ」
もしかして俺が不勉強なだけで、実はもう、そういうのしっかり確立してたりすんのかな。
19時のニュースを確認しながら、某所在住物書きは茶を飲み、チョコを舌にのせている。
「あとアレよ。なんかこう、宝くじ当たったりとか『コロナ頑張りました給付』で50万ポンとか、ガチャが最高レア大盤振る舞いとか」
特にガチャはな。大事よな。物書きは過去の爆死を想起し、唇を噛みしめた。
「……まぁ、ひとまず、前回投稿分に繋げて今日もハナシ書くか」
――――――
都内某所の某アパート。諸事情で人間嫌いと寂しがり屋を併発した捻くれ者が、自分の部屋で次の仕事の整理と準備をしながら職場の後輩とのグループチャットに応じている。
室内には穏やかな茶香炉の香り。加熱された緑茶の茶葉の甘さが漂う。
『イングランドがエンデミックかも?だって』
ピロン。捻くれ者のスマホが、後輩からのメッセージの着信を告げた。
『向こうは80パー感染してて、日本40しか感染してなかったんだね。向こうヤバくない?エグいよ』
有名漫画のスタンプと一緒に送られてきたのは、その日報道されていた、新型コロナウイルスの動向に関するいち見解。
カキリ。捻くれ者が首を傾けると、小気味よく、骨が小さな音を立てた。
『今日のニュースを観たのか』
『みたみた。5類移行と決壊と、銀座の強盗』
『珍しいな?「ニュースどころかテレビ自体観ない」と言っていたのに?何故?』
『先輩観てるから最近観始めた〜』
先輩(わたし)が観ているから、観始めた?
キーボードを滑る手が止まる捻くれ者。
届いたメッセージをどう受け取り、どう返すべきか、目を細め唇に指を添え熟考している。
やがて2分3分経過した頃、再度首を傾けて、自信無さげに返信を編集し、
『「一年後」のための、ポイント稼ぎか?』
送信して、ガリガリ頭をかいた。
『そんなことをしなくても、来年お前も私も残っていれば、記憶に残っている限り善処する。安心しろ』
捻くれ者は今朝の職場で、後輩から妙な願いを託されていた。
「一年後故郷の林檎の花見に連れて行け」。
ゴールデンウィーク明けの通勤途中、知らぬ誰かが旅行で林檎の花を見に行って、その話を小耳に挟んだがために、
「自分も見たい」と、この後輩が、雪国の田舎在住である捻くれ者にダメ元で話したのが発端であった。
『なんなら「一年後」の先取りで、去年撮ったもので良ければ送ろうか?バラ科リンゴ属の花?』
『ポイント稼ぎ関係無いです〜
そんなんじゃないです〜』
私先輩ほど捻くれちゃいませーん。
即座に文章は既読され、秒の早さで返事が届く。
『でも貰えるなら画像ちょうだい(貪欲)
一年後の予習しとかなきゃ』
何に対するそれとも知れず、捻くれ者は浅い、小さなため息をひとつ吐き、送信用の画像選びをゆるゆると始めた。
【一年後】
長いようで、過ぎてしまえば短いと感じる一年。
何も考えず時の流れに身を委ねるだけで、日々は過ぎて行く大した趣味もなく、熱心に仕事に打ち込む事もなく。
変化のある日もなく、ただ仕事をし、家に帰ってご飯を食べ、寝るだけ。そしてまた仕事へと向かう。
退屈だと感じる変哲のない日々だけれど、それが一番幸せなのかもしれない。
一年後の自分もきっと、なんの変わり映えのしない日常を送っている事だろう。
歩けない
ー
ー
。ー
ー
ー
ー。
ー
私は 歩こうともしない
だって、
生きるつらさとしぬ辛さがせめぎ合っているから
そんな私に
1年後を想像する勇気はない
こんな私でもあと1年踏ん張ることを決めたんだ
あと1年くらいなら、
自覚のある息ができるかもしれないし。
お題「1年後」
「1年間だけ付き合おう」久保樹(いつき)に
そう言われた時、この人、何言ってんだろう、と私、間宮有希は思った。
ー告白にしては変な告白ねー
そうは思ったけれど、別に今は付き合ってる人もいない。
嫌いなタイプでもない。第一、1年間だけ、というのに興味をそそられ承諾した。
樹は、彼氏としてはとても良い彼氏だった。
明るいし話も合うし、よくふたりで映画に行ったり遊びに行った。
好きな映画のジャンルも一緒だった。
春に告白されてから、季節は変わり夏になった。友達も交えて海にも行った。
友達からは「有希!どうやってあんな素敵な人と出会えたの?」と、よく聞かれた。
「それは私が魅力的だからよ」と笑いながら言うと、みんなに彼氏が良すぎてあんたには勿体ないと言われた。
海は何度も行った。「有希と一緒に海に行かれて良かった」と樹は何度も微笑みながら言った。けれど「来年も行こう」とは決して言わなかった。
なんで1年間だけなのだろう。こんなに好きなのに……。でも私も明るく「うん!樹と海に行かれて楽しかったよ!」と言った。
秋は、ハイキングにがんばってお弁当を作って行ったり、黄金色の銀杏の葉をかけあったりして無邪気に遊んだ。
樹は、いつも優しかった。
やがてしんしんと雪が降り、町はクリスマス一色に染まった。
「クリスマスは夕飯を食べに行こうよ」と樹が言った。嬉しかった。
樹によく似合いそうなネイビーブルーのセーターも編んでプレゼントした。
樹はとても喜んでくれて、私にもリボンのかかった小さな箱をプレゼントしてくれた。
「開けていい?」と言ってからそぉっと開けてみると、銀色の雪の結晶がついた、とても綺麗なネックレスだった。
嬉しくて、「ありがとう、早速つけるね」とその場でつけた。襟がたっぷりしたタートルネックのモヘアのセーターにちょうど良く似合ってた。
「でも、どうして雪の結晶なの?」と笑いながら聞くと「だって、名前が有希だから」とやっぱり微笑みながら樹は言った。
「ありがとう、宝物にするね」と私はネックレスを触りながらとても心を込めて言った。
だって、たった一度だけのクリスマスプレゼントだもの。心の中でそう言っていた。
嬉しいのに、とても淋しかった。
雪が解けたら、春になったらお別れだもの。
そういう約束だって承知して付き合ったんじゃない。自分に言い聞かせる様に心の中で言う。
年が変わって新年になった。
着物を着て樹と初詣に行った。
夏、海に行ったメンバーでスキーにも行った。何度も。何度も。
樹とスケートにも行った。転ぶと笑いながら「大丈夫?」と言ってすぐにそばに来てくれた。手を握って起こしてもらった。
やがて雪が解けて、地面が顔を出し、花達が咲き出した。
春だ。春になってしまった。
いよいよ、次のデートが樹との最後のデートだった。
私は朝、昨夜泣いて目が赤くなってないか確かめて、そしてとても丁寧に髪をとかし、絶対、泣いたりしないで笑って別れよう、と思った。
だって、樹には私の笑顔を覚えておいて欲しいから。
樹は、先に待っていた。「お待たせ!」とっておきの笑顔で私は言った。
樹は優しく微笑んだ。その笑顔を見たら胸が詰まりそうになった。
でも、私はがんばって笑顔で「話があるんじゃない?」と言った。樹に、話しやすくする為に。
すると樹は微笑みながら「1年間、ありがとう。有希と過ごしたこの1年間はとても楽しかったよ」と言った。
やっぱり。本当に終わりなんだ。涙が出そうになったけれど、私は物凄くがんばって笑顔で「こちらこそ、ありがとう。樹と過ごしたこの1年間はとても、とても楽しかったよ」と言った。
すると樹は微笑みながら手を出して「さようならの握手」と言った。本当に泣きそう。でも、ぐっとこらえて笑顔で「うん、さようなら」と言って握手をした。
それから「じゃあね」と言って踵を返して元気よく、もと来た道を歩き出した。
声を出さずに、ぽろぽろ涙が止まらなかった。
翌日、少し泣き腫らした顔で歩いていると、「間宮さん」と言われた。
振り返らなくても、それが誰だがすぐわかった。
樹だった。そして私に「1年間だけ付き合おう」とまた1年前と同じことを言った。
私は混乱し、「え?どういう事?」と言うと不安そうな顔をした。こんな顔の樹は見たことがなかった。
「だって、駄目なのかなと思って」と言うので「ねえ、なんで1年間だけなの?」と言うと「だって、その方が毎日が大切で新鮮だと思ったから」私は泣き笑いになって「それ、毎年やるの?」と言うと「うん、僕はいいと思うんだけど」と言ったので私は一度だけ「バカ!!」と言ってやった。何が、間宮さんだ!
そしてため息をついてから笑顔で「1年間、よろしくお願いします。久保さん」と言った。
一年後の自分へ
・
理系コースのトップ1位クラスに入る。
模試の成績を上げてトップ10人以内に入る。
適度な運動も!
青春を楽しもう!!
今を悔いなく生きろ!❤️🔥
灼熱の太陽が照りつける。
容赦のない日差しに、流れる汗はとめどなく。
アスファルトを蹴り付けるスニーカー。呼吸音は規則正しく、一定のリズムを繰り返す。
僕は走る。ただ、ひたむきに。目指すひとつの未来に向けて。
言葉を交わしたわけでもない。約束をしたわけでもない。
ただ確信している。一年後、もう一度君と。
軋む肺。疲労が鉛のようにのし掛かって、つい足が止まる。それでも。苦しさに折れそうになる心をスポーツドリンクと共に嚥下して。僕は再び走り出す。
あの時わずかに届かなかった。その距離を埋めるために。 人知れず涙した。悔しさに報いるために。
重ねてきた日々を嘘にはしない。
君と競い、越える。そのために。
先は長く、果ては見えない。目の前に伸びる険しい坂道をまっすぐに見据え。その日を目指して、僕は走る。
【一年後】
この、ただいっしんにたぎる炎の揺れゆくさまをわたしはもう見ていられなかった、だからきみにやすいキスをねだった。きみは少し、ほんの少しためらったあとにわたしの紅でめかした唇にそろりと、小鳥のさえずりのような触れるだけのやさしいキスをした。きみはわたしと同じ色の唇をぬぐいもせずにあっちに行ってしまった。わたしはあのとき、生れてはじめて、人目も気にせずにひたすらにしゃくりあげて泣いた。あのとき燃え広がったもので心が大火傷をした。ひりひりとただれて痛む。今もずうっと。
早苗「ショーゴくん。来年は僕らの卒業式だぞ。一年後の僕らはああなっているんだと思うと驚かないか?」
翔吾「どこに驚くところがあるんだよ?」
早苗「いや、いや。よく考えてみてくれたまえ。君と僕はおそらく別の大学へいくだろう? だとしたら、あの人たちみたいに『連絡するよ』とか『夏休みに会おうね』とかそんな話をしているんだよ。驚くべきことだと思わないか? この二年間ずっと一緒にいる僕らが、だ」
翔吾「別にこの二年間ずっと一緒だったわけじゃねえだろ。文理選択は違うしよ」
早苗「そうだけどそうじゃなくてだな……!」
翔吾「じゃあなんなんだよ?」
早苗「僕ら毎日連絡とか取り合わなかっただろう? 電話もあまりしないじゃないか。それなのに連絡を取り合って日にちを決めて、会う予定を立てて遊ぶようになるんだぞ? 変な感じがしないか?」
翔吾「……」
早苗「想像できたかい?」
翔吾「……言ってもいいか?」
早苗「うん?」
翔吾「なんかお前がうちに転がりこんで住んでるのしか想像できなかった」
早苗「……流石に私はそこまで神経図太くないぞ」
翔吾「かもな。でも、多分来るだろ。合鍵渡したら」
早苗「……そう、だね。そうかもしれない」
翔吾「ま、まず俺たちは一年後にきちんと卒業できるか心配したほうがいいだろう?」
早苗「それは、そうだね」
【一年後】
一秒先だって分からないような私に、そんな果てしない先のことなんて分かるのだろうか。そう思ってはしまったが、もう少し真面目に考えてみようか。
一年経つということは歳が一つ増え、周りの環境もおそらく変化している。もしかしたら仲の良い彼女は合わないからと退職して行っているかもしれないし、私も別のことがしたいと退職をして、親に反対されながらも自営業を始めていたりするかもしれない。
“かも”という想像でしかないが、少しそんな未来を思い描いて笑えた。もしかしたら、息抜き程度ならば夢を描くという意味でも思案するのはいいかもしれない。
深くソファに腰掛け、ぼんやりと外を見ている。光に透かされた瞳はやや明るく柔らかいブラウンで、少し伸びてきた髪を耳にかけた横顔は相も変わらず美しいラインをしていた。
彼は私の恋人、だった人だ。別れたわけではない。ただ凄く奇妙な状況で、恋人と言い切ってしまうのははばかられる。彼には私と交際していた記憶が無いのだ。もっと言えば交際前の記憶も無いし、簡単にまとめてしまえば記憶喪失というもの。同棲していた家から追い出すのも、と思い未だ一緒に住んではいるが、彼にとって私は他人に近い。
彼は変わった。太陽のように眩しく笑っていた顔はほとんど動かないし、テンションが上がるとワントーン上がる声は静かに低く、喋る頻度も最低限といった風に。確かに他人に愛想を振りまく必要は無いが、別人のような彼には驚いてばっかりだ。
彼が彼ではないような一面を見つけるたび、いつ記憶を取り戻して元の彼に戻るのだろうと思う。一年経っても戻らなければ、私はもう限界かもしれない。
彼に愛しい人の面影を感じるたび、胸が締めつけられる。知らない顔を向けられるたび、電撃のような衝動が体を駆け巡る。彼のようで彼では無いあの人に、日に日に惹かれているのが自分でもわかるのだ。それなのに、一年の間に彼が帰ってきて私を正気に戻してくれなければ、一年後の私は、一体どうすれば。
『一年後』
一年後
一日一日の積み重ねが一年後の自分をつくるとするならば、奇跡とも言えるこのひと時を大事にしよう。
一年後に何が待ち受けていようとも良く頑張ってきたと褒めてあげられる自分でありたい。
一年後、強いて言うなれば
まだ見ぬ自分を発掘できている事を願う。
1年後、
私は君とちゃんと友達でいられているかな?
よく喧嘩もするし、お互いの意見を尊重しないことだってある。
だけど、
ちゃんと友達だ。
ちゃんと親友だ。
また来年も同じクラスになれるといいな。