かたいなか

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「真面目な話すると、一年後には、いい加減コロナ禍完全収束するか、特効薬だの治療薬だのがメッチャ行き渡って、インフル程度の怖さになってくれりゃあ、とは思うねぇ」
もしかして俺が不勉強なだけで、実はもう、そういうのしっかり確立してたりすんのかな。
19時のニュースを確認しながら、某所在住物書きは茶を飲み、チョコを舌にのせている。
「あとアレよ。なんかこう、宝くじ当たったりとか『コロナ頑張りました給付』で50万ポンとか、ガチャが最高レア大盤振る舞いとか」
特にガチャはな。大事よな。物書きは過去の爆死を想起し、唇を噛みしめた。
「……まぁ、ひとまず、前回投稿分に繋げて今日もハナシ書くか」

――――――

都内某所の某アパート。諸事情で人間嫌いと寂しがり屋を併発した捻くれ者が、自分の部屋で次の仕事の整理と準備をしながら職場の後輩とのグループチャットに応じている。
室内には穏やかな茶香炉の香り。加熱された緑茶の茶葉の甘さが漂う。

『イングランドがエンデミックかも?だって』
ピロン。捻くれ者のスマホが、後輩からのメッセージの着信を告げた。
『向こうは80パー感染してて、日本40しか感染してなかったんだね。向こうヤバくない?エグいよ』
有名漫画のスタンプと一緒に送られてきたのは、その日報道されていた、新型コロナウイルスの動向に関するいち見解。
カキリ。捻くれ者が首を傾けると、小気味よく、骨が小さな音を立てた。

『今日のニュースを観たのか』
『みたみた。5類移行と決壊と、銀座の強盗』
『珍しいな?「ニュースどころかテレビ自体観ない」と言っていたのに?何故?』
『先輩観てるから最近観始めた〜』

先輩(わたし)が観ているから、観始めた?
キーボードを滑る手が止まる捻くれ者。
届いたメッセージをどう受け取り、どう返すべきか、目を細め唇に指を添え熟考している。
やがて2分3分経過した頃、再度首を傾けて、自信無さげに返信を編集し、
『「一年後」のための、ポイント稼ぎか?』
送信して、ガリガリ頭をかいた。

『そんなことをしなくても、来年お前も私も残っていれば、記憶に残っている限り善処する。安心しろ』
捻くれ者は今朝の職場で、後輩から妙な願いを託されていた。
「一年後故郷の林檎の花見に連れて行け」。
ゴールデンウィーク明けの通勤途中、知らぬ誰かが旅行で林檎の花を見に行って、その話を小耳に挟んだがために、
「自分も見たい」と、この後輩が、雪国の田舎在住である捻くれ者にダメ元で話したのが発端であった。
『なんなら「一年後」の先取りで、去年撮ったもので良ければ送ろうか?バラ科リンゴ属の花?』

『ポイント稼ぎ関係無いです〜
そんなんじゃないです〜』
私先輩ほど捻くれちゃいませーん。
即座に文章は既読され、秒の早さで返事が届く。
『でも貰えるなら画像ちょうだい(貪欲)
一年後の予習しとかなきゃ』

何に対するそれとも知れず、捻くれ者は浅い、小さなため息をひとつ吐き、送信用の画像選びをゆるゆると始めた。

5/8/2023, 2:59:13 PM