ガルシア

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 深くソファに腰掛け、ぼんやりと外を見ている。光に透かされた瞳はやや明るく柔らかいブラウンで、少し伸びてきた髪を耳にかけた横顔は相も変わらず美しいラインをしていた。
 彼は私の恋人、だった人だ。別れたわけではない。ただ凄く奇妙な状況で、恋人と言い切ってしまうのははばかられる。彼には私と交際していた記憶が無いのだ。もっと言えば交際前の記憶も無いし、簡単にまとめてしまえば記憶喪失というもの。同棲していた家から追い出すのも、と思い未だ一緒に住んではいるが、彼にとって私は他人に近い。
 彼は変わった。太陽のように眩しく笑っていた顔はほとんど動かないし、テンションが上がるとワントーン上がる声は静かに低く、喋る頻度も最低限といった風に。確かに他人に愛想を振りまく必要は無いが、別人のような彼には驚いてばっかりだ。
 彼が彼ではないような一面を見つけるたび、いつ記憶を取り戻して元の彼に戻るのだろうと思う。一年経っても戻らなければ、私はもう限界かもしれない。
 彼に愛しい人の面影を感じるたび、胸が締めつけられる。知らない顔を向けられるたび、電撃のような衝動が体を駆け巡る。彼のようで彼では無いあの人に、日に日に惹かれているのが自分でもわかるのだ。それなのに、一年の間に彼が帰ってきて私を正気に戻してくれなければ、一年後の私は、一体どうすれば。


『一年後』

5/8/2023, 2:26:56 PM