『一年後』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
一年後の景色はどんなだろう
今より鮮やかに見えるのかな
それともくすんでるのかな
鮮やかなら周りに笑顔を
くすんでるのなら木陰で一休みしょう
どんな一年後も
一歩一歩に
きっと意味があるから
年輪のように
力強く、優しい存在でありたい
✳︎一年後✳︎
「真面目な話すると、一年後には、いい加減コロナ禍完全収束するか、特効薬だの治療薬だのがメッチャ行き渡って、インフル程度の怖さになってくれりゃあ、とは思うねぇ」
もしかして俺が不勉強なだけで、実はもう、そういうのしっかり確立してたりすんのかな。
19時のニュースを確認しながら、某所在住物書きは茶を飲み、チョコを舌にのせている。
「あとアレよ。なんかこう、宝くじ当たったりとか『コロナ頑張りました給付』で50万ポンとか、ガチャが最高レア大盤振る舞いとか」
特にガチャはな。大事よな。物書きは過去の爆死を想起し、唇を噛みしめた。
「……まぁ、ひとまず、前回投稿分に繋げて今日もハナシ書くか」
――――――
都内某所の某アパート。諸事情で人間嫌いと寂しがり屋を併発した捻くれ者が、自分の部屋で次の仕事の整理と準備をしながら職場の後輩とのグループチャットに応じている。
室内には穏やかな茶香炉の香り。加熱された緑茶の茶葉の甘さが漂う。
『イングランドがエンデミックかも?だって』
ピロン。捻くれ者のスマホが、後輩からのメッセージの着信を告げた。
『向こうは80パー感染してて、日本40しか感染してなかったんだね。向こうヤバくない?エグいよ』
有名漫画のスタンプと一緒に送られてきたのは、その日報道されていた、新型コロナウイルスの動向に関するいち見解。
カキリ。捻くれ者が首を傾けると、小気味よく、骨が小さな音を立てた。
『今日のニュースを観たのか』
『みたみた。5類移行と決壊と、銀座の強盗』
『珍しいな?「ニュースどころかテレビ自体観ない」と言っていたのに?何故?』
『先輩観てるから最近観始めた〜』
先輩(わたし)が観ているから、観始めた?
キーボードを滑る手が止まる捻くれ者。
届いたメッセージをどう受け取り、どう返すべきか、目を細め唇に指を添え熟考している。
やがて2分3分経過した頃、再度首を傾けて、自信無さげに返信を編集し、
『「一年後」のための、ポイント稼ぎか?』
送信して、ガリガリ頭をかいた。
『そんなことをしなくても、来年お前も私も残っていれば、記憶に残っている限り善処する。安心しろ』
捻くれ者は今朝の職場で、後輩から妙な願いを託されていた。
「一年後故郷の林檎の花見に連れて行け」。
ゴールデンウィーク明けの通勤途中、知らぬ誰かが旅行で林檎の花を見に行って、その話を小耳に挟んだがために、
「自分も見たい」と、この後輩が、雪国の田舎在住である捻くれ者にダメ元で話したのが発端であった。
『なんなら「一年後」の先取りで、去年撮ったもので良ければ送ろうか?バラ科リンゴ属の花?』
『ポイント稼ぎ関係無いです〜
そんなんじゃないです〜』
私先輩ほど捻くれちゃいませーん。
即座に文章は既読され、秒の早さで返事が届く。
『でも貰えるなら画像ちょうだい(貪欲)
一年後の予習しとかなきゃ』
何に対するそれとも知れず、捻くれ者は浅い、小さなため息をひとつ吐き、送信用の画像選びをゆるゆると始めた。
【一年後】
長いようで、過ぎてしまえば短いと感じる一年。
何も考えず時の流れに身を委ねるだけで、日々は過ぎて行く大した趣味もなく、熱心に仕事に打ち込む事もなく。
変化のある日もなく、ただ仕事をし、家に帰ってご飯を食べ、寝るだけ。そしてまた仕事へと向かう。
退屈だと感じる変哲のない日々だけれど、それが一番幸せなのかもしれない。
一年後の自分もきっと、なんの変わり映えのしない日常を送っている事だろう。
一年後
社会はどうなっているのか。
自分自身も一歩でも前に進めているのか。
気になるところだ。
コロナも落ち着き、薬が開発されていたらいいのに。
コロナの終息、早くしてほしい。
いつもの日常に少しでも戻っていることを願う。
歩けない
ー
ー
。ー
ー
ー
ー。
ー
私は 歩こうともしない
だって、
生きるつらさとしぬ辛さがせめぎ合っているから
そんな私に
1年後を想像する勇気はない
こんな私でもあと1年踏ん張ることを決めたんだ
あと1年くらいなら、
自覚のある息ができるかもしれないし。
お題「1年後」
「1年間だけ付き合おう」久保樹(いつき)に
そう言われた時、この人、何言ってんだろう、と私、間宮有希は思った。
ー告白にしては変な告白ねー
そうは思ったけれど、別に今は付き合ってる人もいない。
嫌いなタイプでもない。第一、1年間だけ、というのに興味をそそられ承諾した。
樹は、彼氏としてはとても良い彼氏だった。
明るいし話も合うし、よくふたりで映画に行ったり遊びに行った。
好きな映画のジャンルも一緒だった。
春に告白されてから、季節は変わり夏になった。友達も交えて海にも行った。
友達からは「有希!どうやってあんな素敵な人と出会えたの?」と、よく聞かれた。
「それは私が魅力的だからよ」と笑いながら言うと、みんなに彼氏が良すぎてあんたには勿体ないと言われた。
海は何度も行った。「有希と一緒に海に行かれて良かった」と樹は何度も微笑みながら言った。けれど「来年も行こう」とは決して言わなかった。
なんで1年間だけなのだろう。こんなに好きなのに……。でも私も明るく「うん!樹と海に行かれて楽しかったよ!」と言った。
秋は、ハイキングにがんばってお弁当を作って行ったり、黄金色の銀杏の葉をかけあったりして無邪気に遊んだ。
樹は、いつも優しかった。
やがてしんしんと雪が降り、町はクリスマス一色に染まった。
「クリスマスは夕飯を食べに行こうよ」と樹が言った。嬉しかった。
樹によく似合いそうなネイビーブルーのセーターも編んでプレゼントした。
樹はとても喜んでくれて、私にもリボンのかかった小さな箱をプレゼントしてくれた。
「開けていい?」と言ってからそぉっと開けてみると、銀色の雪の結晶がついた、とても綺麗なネックレスだった。
嬉しくて、「ありがとう、早速つけるね」とその場でつけた。襟がたっぷりしたタートルネックのモヘアのセーターにちょうど良く似合ってた。
「でも、どうして雪の結晶なの?」と笑いながら聞くと「だって、名前が有希だから」とやっぱり微笑みながら樹は言った。
「ありがとう、宝物にするね」と私はネックレスを触りながらとても心を込めて言った。
だって、たった一度だけのクリスマスプレゼントだもの。心の中でそう言っていた。
嬉しいのに、とても淋しかった。
雪が解けたら、春になったらお別れだもの。
そういう約束だって承知して付き合ったんじゃない。自分に言い聞かせる様に心の中で言う。
年が変わって新年になった。
着物を着て樹と初詣に行った。
夏、海に行ったメンバーでスキーにも行った。何度も。何度も。
樹とスケートにも行った。転ぶと笑いながら「大丈夫?」と言ってすぐにそばに来てくれた。手を握って起こしてもらった。
やがて雪が解けて、地面が顔を出し、花達が咲き出した。
春だ。春になってしまった。
いよいよ、次のデートが樹との最後のデートだった。
私は朝、昨夜泣いて目が赤くなってないか確かめて、そしてとても丁寧に髪をとかし、絶対、泣いたりしないで笑って別れよう、と思った。
だって、樹には私の笑顔を覚えておいて欲しいから。
樹は、先に待っていた。「お待たせ!」とっておきの笑顔で私は言った。
樹は優しく微笑んだ。その笑顔を見たら胸が詰まりそうになった。
でも、私はがんばって笑顔で「話があるんじゃない?」と言った。樹に、話しやすくする為に。
すると樹は微笑みながら「1年間、ありがとう。有希と過ごしたこの1年間はとても楽しかったよ」と言った。
やっぱり。本当に終わりなんだ。涙が出そうになったけれど、私は物凄くがんばって笑顔で「こちらこそ、ありがとう。樹と過ごしたこの1年間はとても、とても楽しかったよ」と言った。
すると樹は微笑みながら手を出して「さようならの握手」と言った。本当に泣きそう。でも、ぐっとこらえて笑顔で「うん、さようなら」と言って握手をした。
それから「じゃあね」と言って踵を返して元気よく、もと来た道を歩き出した。
声を出さずに、ぽろぽろ涙が止まらなかった。
翌日、少し泣き腫らした顔で歩いていると、「間宮さん」と言われた。
振り返らなくても、それが誰だがすぐわかった。
樹だった。そして私に「1年間だけ付き合おう」とまた1年前と同じことを言った。
私は混乱し、「え?どういう事?」と言うと不安そうな顔をした。こんな顔の樹は見たことがなかった。
「だって、駄目なのかなと思って」と言うので「ねえ、なんで1年間だけなの?」と言うと「だって、その方が毎日が大切で新鮮だと思ったから」私は泣き笑いになって「それ、毎年やるの?」と言うと「うん、僕はいいと思うんだけど」と言ったので私は一度だけ「バカ!!」と言ってやった。何が、間宮さんだ!
そしてため息をついてから笑顔で「1年間、よろしくお願いします。久保さん」と言った。
一年後の自分へ
・
理系コースのトップ1位クラスに入る。
模試の成績を上げてトップ10人以内に入る。
適度な運動も!
青春を楽しもう!!
今を悔いなく生きろ!❤️🔥
灼熱の太陽が照りつける。
容赦のない日差しに、流れる汗はとめどなく。
アスファルトを蹴り付けるスニーカー。呼吸音は規則正しく、一定のリズムを繰り返す。
僕は走る。ただ、ひたむきに。目指すひとつの未来に向けて。
言葉を交わしたわけでもない。約束をしたわけでもない。
ただ確信している。一年後、もう一度君と。
軋む肺。疲労が鉛のようにのし掛かって、つい足が止まる。それでも。苦しさに折れそうになる心をスポーツドリンクと共に嚥下して。僕は再び走り出す。
あの時わずかに届かなかった。その距離を埋めるために。 人知れず涙した。悔しさに報いるために。
重ねてきた日々を嘘にはしない。
君と競い、越える。そのために。
先は長く、果ては見えない。目の前に伸びる険しい坂道をまっすぐに見据え。その日を目指して、僕は走る。
【一年後】
この、ただいっしんにたぎる炎の揺れゆくさまをわたしはもう見ていられなかった、だからきみにやすいキスをねだった。きみは少し、ほんの少しためらったあとにわたしの紅でめかした唇にそろりと、小鳥のさえずりのような触れるだけのやさしいキスをした。きみはわたしと同じ色の唇をぬぐいもせずにあっちに行ってしまった。わたしはあのとき、生れてはじめて、人目も気にせずにひたすらにしゃくりあげて泣いた。あのとき燃え広がったもので心が大火傷をした。ひりひりとただれて痛む。今もずうっと。
早苗「ショーゴくん。来年は僕らの卒業式だぞ。一年後の僕らはああなっているんだと思うと驚かないか?」
翔吾「どこに驚くところがあるんだよ?」
早苗「いや、いや。よく考えてみてくれたまえ。君と僕はおそらく別の大学へいくだろう? だとしたら、あの人たちみたいに『連絡するよ』とか『夏休みに会おうね』とかそんな話をしているんだよ。驚くべきことだと思わないか? この二年間ずっと一緒にいる僕らが、だ」
翔吾「別にこの二年間ずっと一緒だったわけじゃねえだろ。文理選択は違うしよ」
早苗「そうだけどそうじゃなくてだな……!」
翔吾「じゃあなんなんだよ?」
早苗「僕ら毎日連絡とか取り合わなかっただろう? 電話もあまりしないじゃないか。それなのに連絡を取り合って日にちを決めて、会う予定を立てて遊ぶようになるんだぞ? 変な感じがしないか?」
翔吾「……」
早苗「想像できたかい?」
翔吾「……言ってもいいか?」
早苗「うん?」
翔吾「なんかお前がうちに転がりこんで住んでるのしか想像できなかった」
早苗「……流石に私はそこまで神経図太くないぞ」
翔吾「かもな。でも、多分来るだろ。合鍵渡したら」
早苗「……そう、だね。そうかもしれない」
翔吾「ま、まず俺たちは一年後にきちんと卒業できるか心配したほうがいいだろう?」
早苗「それは、そうだね」
【一年後】
一秒先だって分からないような私に、そんな果てしない先のことなんて分かるのだろうか。そう思ってはしまったが、もう少し真面目に考えてみようか。
一年経つということは歳が一つ増え、周りの環境もおそらく変化している。もしかしたら仲の良い彼女は合わないからと退職して行っているかもしれないし、私も別のことがしたいと退職をして、親に反対されながらも自営業を始めていたりするかもしれない。
“かも”という想像でしかないが、少しそんな未来を思い描いて笑えた。もしかしたら、息抜き程度ならば夢を描くという意味でも思案するのはいいかもしれない。
深くソファに腰掛け、ぼんやりと外を見ている。光に透かされた瞳はやや明るく柔らかいブラウンで、少し伸びてきた髪を耳にかけた横顔は相も変わらず美しいラインをしていた。
彼は私の恋人、だった人だ。別れたわけではない。ただ凄く奇妙な状況で、恋人と言い切ってしまうのははばかられる。彼には私と交際していた記憶が無いのだ。もっと言えば交際前の記憶も無いし、簡単にまとめてしまえば記憶喪失というもの。同棲していた家から追い出すのも、と思い未だ一緒に住んではいるが、彼にとって私は他人に近い。
彼は変わった。太陽のように眩しく笑っていた顔はほとんど動かないし、テンションが上がるとワントーン上がる声は静かに低く、喋る頻度も最低限といった風に。確かに他人に愛想を振りまく必要は無いが、別人のような彼には驚いてばっかりだ。
彼が彼ではないような一面を見つけるたび、いつ記憶を取り戻して元の彼に戻るのだろうと思う。一年経っても戻らなければ、私はもう限界かもしれない。
彼に愛しい人の面影を感じるたび、胸が締めつけられる。知らない顔を向けられるたび、電撃のような衝動が体を駆け巡る。彼のようで彼では無いあの人に、日に日に惹かれているのが自分でもわかるのだ。それなのに、一年の間に彼が帰ってきて私を正気に戻してくれなければ、一年後の私は、一体どうすれば。
『一年後』
一年後
一日一日の積み重ねが一年後の自分をつくるとするならば、奇跡とも言えるこのひと時を大事にしよう。
一年後に何が待ち受けていようとも良く頑張ってきたと褒めてあげられる自分でありたい。
一年後、強いて言うなれば
まだ見ぬ自分を発掘できている事を願う。
1年後、
私は君とちゃんと友達でいられているかな?
よく喧嘩もするし、お互いの意見を尊重しないことだってある。
だけど、
ちゃんと友達だ。
ちゃんと親友だ。
また来年も同じクラスになれるといいな。
【一年後】3
俺が生まれ育った集落には古くからある風習がある。
19歳になる誕生日の夜、集落の奥に祀られている「お鏡さま」にお告げを頂くのだ。
そして俺は今日19になる。今まで大人たちに聞いてもお鏡さまやお告げについて聞いても教えてくれる人はいない。その時になったらぁ分かる。そういうばかりだ。
そんなことはもうどうでもいいんだ。だって今から自分の目で確認してやるんだからな。
俺はわくわくしながら「お鏡さま」の元へ向かう。
道中、隣の家のおじさんと村長に出会した。ダムを作るとかなんとかで県の人が立ち退きを相談してきたそうだ。生まれ育った場所だ。立ち退きなんて嫌だと言うとおじさん達は笑って「ありがとう」と言ってくれた。そのあとなんだか難しい話が始まったから俺はまた足を動き始めた。
集落の中心部と違い不気味なほど静かだ。辺りを見回すと2mはありそうな大きな鏡があった。
これが「お鏡さま」だろうか。とりあえず俺は教わった通り言葉を唱える。
「お鏡さま、お鏡さま。どうか向後をお教え下さい」
…所詮ただの言い伝えかよ、馬鹿馬鹿しいな
「頼む、みんなを救ってくれ」
確かにそう聞こえた。俺以外この場所に居ないのに。
どういう意味なんだ?俺の未来に何かあるのか?みんなとは村のみんなのことか?
分からないことが多すぎる。
空耳…だよな。気にする必要ない。
――――――
《ここで速報です》
お鏡村で大規模な土砂災害発生しました。
お鏡村ではダム建設が進んでおり現在関連を調べているとのことです。
みんな死んだ。土砂に巻き込まれて。俺だけ生き残ってしまった。
どうすればいい。誰も何も無い。
ふと「お鏡さま」が目に入った。傷は付いているが無事なようだ。
頼れるものがこんな物しか無いなんて。
思考とは裏腹に体は動いた。
「神様、頼む、みんなを救ってくれ」
一年後も
多分変わらず
1日を必死で生きていると思う
1年経てば
学校の生活には慣れていると思うけど
短大だから
就職活動もあるし
車の免許も取りたいし
バイトも頑張らないと
結局、今よりも忙しいのかもね
一年後、と聞いた瞬間に
真逆な思いが私の身体の中で入り乱れる。
わくわくさせられるような新しい何かが始まっていたらよいな、
とか、
今と変わらず、毎日を平穏に暮らしていたいな、
とか、
いろいろと。
でも、とにかくも。
せめて祈りたい。
世界が平和でありますように。
心を重くするものを手放して、
軽やかに、
みんながそれぞれ、健康で
幸せを感じれている自分でありますように。
一年後
「よし……」
少女は真っ暗な部屋の中で、マッチをつけ、ろうそくを灯す。少しだけ明るくなった視界に映る自身の部屋の床には禍々しい魔方陣のようなものが描かれていた。
古い書物に書かれていた悪魔を召喚する方法は思っていた以上に手軽にできるものだった。あとは悪魔を呼び寄せるため、対価を宣言するだけ。
すぅ、と深呼吸をして、少女は目を閉じる。
「人の心に巣食う悪魔よ、我のもとへ姿を現せ。そして、願いを聞き入れろ。……対価は、私が持っているものなら何だってくれてやるよ」
書物に書かれた呪文をなぞるようにそらで読み上げ、悪魔が来るのをじっと待つ。
窓もない部屋なのに、風が通り抜けたような気がして、少しだけ怖くなる。悪魔は本当の姿を見せたがらないので、目はつむっていなければならない、と書かれていたことを思い出して、目は開けないようにぎゅっとつむっていた。
「目を開けよ、人の子よ」
突然聞こえてきた声に驚き、目を開ければ、そこにはなんとも悪魔らしくない悪魔がいた。
くまの耳のような可愛らしい耳を持ち、短めの角がちょこんと二つ生えている。フォルムもどことなくくまっぽくて、どこかのマスコットキャラクターだと言われてもおかしくないような、そんな可愛らしい見た目をしていた。
「……ほんとに、あくま?」
「失礼なやつだな。正真正銘悪魔だ。お前が呼んだんだろ。ほら、どうしてほしい?」
そう言って笑う顔は、悪魔らしく恐怖を抱かせるが、そんな恐怖を振り払うように少女は告げる。
「嫌なものも、嫌な人も、全部消してほしい。その代わり私があげられるものなら、何だってあげる」
少女は本気だった。世界を呪いたいほどに、嫌なものであふれるこの世界が嫌いで、憎たらしかった。こうして悪魔なんかに頼ってしまうほどに、追いつめられていたのだ。
悪魔はニヤリと笑って言った。
「いいねぇ、そういう願いは大好物だよ。いいよ、叶えてあげる。君が嫌いだと思うものを全部消してあげよう」
「本当?」
少女が期待を込めて、悪魔を見つめれば、悪魔は楽しそうに微笑む。
「もちろん。その代わり、……そうだなぁ。君の一年をちょーだい」
「へ? 一年?」
「そう、一年」
「寿命一年分ってこと?」
「まぁ、そうやって考えるのがわかりやすければ、そんな感じ」
「わかった。いいよ、あげる」
「ふふふ、じゃあ契約成立だね。じゃあ、君が次目覚めたとき、世界は一変しているだろうね」
「ありがとう、おやすみ」
「おやすみ」
その声に誘われるように眠気が少女を襲う。
「ありがとう、なんて悪魔に言うだなんて馬鹿だねぇ」
そう言った悪魔の声は、少女には届かなかった。
そして、少女は目を覚ました。久々によく寝たような気がするくらいには長い時間寝ていた気がしたし、何だったら少しだるいくらいだった。
しかし、少女は期待に胸を膨らませていた。なんたってもう嫌なものも、嫌な人もいない世界になったのだ。嬉しそうに鼻歌を歌いながら、リビングにつくが、そこには誰もいなかった。
いつもなら、朝ごはんを作っている母親がいるはずなのに。そう思いながら、少女は家の中を歩き回り、探すが、母親もいなければ、父親もいないし、妹と弟もいなかった。
「……なんで?」
そう呟いた声に、笑い声が聞こえた気がした。
「なんで、ってそりゃ君が嫌いだと思ったからさ」
そんな声に驚いて、振り返れば、そこにはあのときの悪魔がいた。
「嫌いだなんて、思ってない」
「嘘をつくなよ。嫌いだと思ったことくらいあるだろ」
「それは、あるかもしれないけど、そういうことじゃない! 私が消してほしかったのは、そういうのじゃない! 元に戻してよ!」
「そりゃ無理だ。だってもう対価はもらってしまったからね」
「え?」
「気づいていないと思うけど、君が眠りについてから、もう一年経っている」
「いち、ねん」
「そう。君がくれた君の一年だ。いやー、この一年は君のおかげでとても楽しかったよ」
「あ、……あぁ」
絶望にうちひしがれる少女を横目に悪魔は笑っていた。
「一年後がこんなにも素晴らしいものになるなんて、嬉しいだろ?」
そう問いかける悪魔に少女は声の限りに泣き叫び、崩れ落ちる。それを見ていた悪魔は新しいおもちゃを貰った子どものように、それでいて愚かな少女を嘲笑うかのように、楽しげに笑っていた。
1年後、私は生きているんだろうか。
過去には絶対に戻ってくれない時の流れ。未来が知りたい。見てみたい。私の生きる未来を。
きっと私はまだ生きれる。
〜1年後〜
「1年後」
1年後、私は中学三年生になる。中学三年生になったら、受験勉強で、忙しい日々になるだろう。
でも、何より私が心配なのは、小学五年生から片想いをしている人の事だ。
その人と部活は一緒なのだが、私は一向に緊張してしまって話せない。
いつも、遠くからその人を見ているだけ。
だが、やはり部活には他の女子も居るもので、その女子達はなんの抵抗も無くその人に話しかける。
それが、私が言うのもなんだが、嫌だった。
その人は普段女子とはあまり喋らなく、五年生の頃も、ずっと一人で座って勉強をしていた。
だからこそ嫌なんだ、そんな人が他の女子と楽しそうに話すのは。
あぁ、1年後も、こんな感じで、私は報われないのかな。