巴衛[長文練習中]

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【一年後】3

俺が生まれ育った集落には古くからある風習がある。
19歳になる誕生日の夜、集落の奥に祀られている「お鏡さま」にお告げを頂くのだ。

そして俺は今日19になる。今まで大人たちに聞いてもお鏡さまやお告げについて聞いても教えてくれる人はいない。その時になったらぁ分かる。そういうばかりだ。

そんなことはもうどうでもいいんだ。だって今から自分の目で確認してやるんだからな。
俺はわくわくしながら「お鏡さま」の元へ向かう。

道中、隣の家のおじさんと村長に出会した。ダムを作るとかなんとかで県の人が立ち退きを相談してきたそうだ。生まれ育った場所だ。立ち退きなんて嫌だと言うとおじさん達は笑って「ありがとう」と言ってくれた。そのあとなんだか難しい話が始まったから俺はまた足を動き始めた。

集落の中心部と違い不気味なほど静かだ。辺りを見回すと2mはありそうな大きな鏡があった。
これが「お鏡さま」だろうか。とりあえず俺は教わった通り言葉を唱える。

「お鏡さま、お鏡さま。どうか向後をお教え下さい」

…所詮ただの言い伝えかよ、馬鹿馬鹿しいな

「頼む、みんなを救ってくれ」
確かにそう聞こえた。俺以外この場所に居ないのに。

どういう意味なんだ?俺の未来に何かあるのか?みんなとは村のみんなのことか?
分からないことが多すぎる。

空耳…だよな。気にする必要ない。

――――――

《ここで速報です》
お鏡村で大規模な土砂災害発生しました。
お鏡村ではダム建設が進んでおり現在関連を調べているとのことです。


みんな死んだ。土砂に巻き込まれて。俺だけ生き残ってしまった。
どうすればいい。誰も何も無い。

ふと「お鏡さま」が目に入った。傷は付いているが無事なようだ。

頼れるものがこんな物しか無いなんて。
思考とは裏腹に体は動いた。

「神様、頼む、みんなを救ってくれ」

5/8/2023, 2:23:27 PM