『バカみたい』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
「バカみたい」
あの時間は…
あの言葉は…何だったの?
バカみたいと思えることもあったけれど、
その積み重ねが今日の私。
ショコラ
「はいこれ。よかったら受けとって。」
と、渡された包み。小さいけれど重みはある。
「ありがとう。」
せっかくだからその場で開けた。
本だ。星の本。きれいな表紙に思わずため息が出た。
「きれい。うれしいよ、ありがとう。」
「どういたしまして。本屋でこの本を見かけたとき思い浮かんだんだ。この本を読んでいる君はどんな名画より美しいだろうなって。」
…うん?本の中身がどうとかより本を読んでいる私が見たいだけなのか?
「ねえ、いま読んでみて。写真撮りたい。」
「まわりの迷惑になる。だめだ。」
「じゃあ写真は撮らないから。読んでいる姿見せて。」
…本当馬鹿みたいだ。もの好きなこの人も。
それに乗せられてしまう私も。
バカみたい
「おろかなこと、無益なこと、度が過ぎることに用を為さないこと。……『バカ』にも色々あんのな」
ネット情報では、一部のセンダングサとかひっつき虫のオオオナモミとかを「バカ」って呼ぶ地域もあるのか。某所在住物書きはネットの検索結果を辿りながらひとつ閃き、数秒で諦めた。
「ひっつき虫とも呼ばれる『バカ』みたいに、近くを通るとピョンとくっついてくる子猫あるいは子犬」
物書きはため息を吐いた。猫犬カフェであろうか。
「『バカ』って通称の魚もいる」
植物を元ネタとした物語に困難を感じた物書きは、検索の幅を植物から食い物へ変更。
「調理法は、この地域で『バカ』って言われてる魚や貝『みたい』なカンジで大丈夫」
再度ため息。「バカ」の調理法が分からない。
――――――
東京の今日は、お昼過ぎまで雨だ。
そろそろ花粉症のピークはスギからヒノキに変わる頃で、でも雨だから飛散量は比較的少なくて、
私はさいわい、スギもヒノキも平気。
そのかわり天気と気圧とホルモンバランスが天敵。
スギでもヒノキでもなく、イネの花粉症持ちな前係長は、バカみたいに出てくる鼻水に対処しながら、
アナタ、別に毎年毎年箱ティッシュが半日で無くなるでもないんだから、マシでしょ、
なんてネチネチ言ってきたことがあった。
ティッシュにお金はかからないけど漢方とかお薬とかで生活費が消えるんだ。
ブタクサの花粉症持ちでスイカが食べられないって清掃員さんは、バカみたいに鼻がつまるらしくて、
キミは良いねぇ、花粉の時期にその花粉の飛散状況をいちいち気にしなくても、外に出られるんだから
なんて花粉対策用メガネを直しながら言ってた。
花粉の飛散状況はあんまり気にしてないけど、気圧配置とかは梅雨の時期バチクソ気になるんだ。
北海道でわりとメジャーなシラカバ花粉症が東京で猛威をふるうことはすごく少ないらしいけど、
その花粉症のせいでイチゴが食べられなくなったっていう相互さんは、バカみたいにでもないけど、
多分私達の苦労って、症状持ち同士、当事者同士でしか分かりあえないよね
なんて、ポロリため息を吐きながら言ってた。
……ホントそれ(共感と同意)
「付烏月さんはさ、何か、花粉症あるの」
「附子山だよ後輩ちゃん。俺、ブシヤマ」
「ヒノキとか大丈夫なのツウキさん」
「スギ持ちだったよん。舌下療法で完治したけど」
「そんな効くの?」
「運が良かっただけかなぁ。完治数割、改善大半、全然効果ナシも数割だってさ」
後輩ちゃんの体調不良も、いつか、舌下免疫療法みたいに完治できる時代が来ればいいね。
午前営業で終わった支店で、片付けと退勤の準備をしながら、付烏月さんが私に言った。
天気とホルモンバランスの関係で、体があんまり思うように動かない私に代わって、私が使ったコーヒーのマグカップとかお菓子の小皿とかは、付烏月さんが全部洗ってくれた。
「昼ごはん、どーする?作れる?出前?」
「今日はウバろうかなって」
「俺でよけりゃ作るよ?藤森からも、『あいつは苦しいとき、倦怠感で本当に体が動かなくなってしまうから』ってハナシは聞いてるし」
「ウバるんでホントにダイジョブです付烏月さん」
ぽんぽんぽん。タブレットの電源落としてデスクに置いて、ノートのタスクもAlt+F4の連打で強制終了。
支店の照明も全部消したら、最後に一度だけ店内を見渡して今日の仕事はおしまい。
「そういえば、例の稲荷神社の茶っ葉屋さん、ご近所の和菓子屋さんとコラボって、期間限定で桜スイーツと桜のお茶入れたらしいよん」
「マジ」
「藤森によると、『桜の花びらを仕込んだローシュガーのイチゴ大福が美味かった』らしいよ」
「情報あざすです附子山さん」
カギかけて、セキュリティーをオンにして、
じゃ、また月曜、また月曜。
ちょっとスマホいじってソシャゲのデイリーこなしてから、 さぁ、帰ろうって顔を上げて、
なお降り続いてる雨に対して、今更気づいた。
私、ロッカーから、傘持って来るの忘れた。
(まさしくバカみたい)
バカみたい
精一杯働いて、
客に怒鳴られ、働いて、
失敗しても、眠くても、鬱でも働いて、
勉強もして、朝から晩まで働いて、
それなのにバイトは一線をこえたら
税金を払わなきゃいけない。
大学行くために、生活費のために、学校のために、
働くのにどうがんばってもとられてく、
分かってるよ、税金が大切だって、分かってるけど、
これじゃあ、頑張ってる私がバカみたいじゃん、
わっきゃ、死にだがった、ちっちぇ頃、兄姉の影響でバレーボール始めだ
レスーブは痛ぇす中々上がね、だはんで辛ぇがっぱ練習すた、ちっちぇはんでずっぱどリベロであった
今は誇り持ってらばって、昔は嫌で嫌でだまねがった
ちっちぇとが、点取れねどが、弱点まみれなリベロ嫌であった
だはんで、リベロさ出来るごど、〝レスーブ〟そんき磨いだ
中学にあがるど、天才リベロど持で囃さぃだ、嬉すいはずなのに、へずねがった
天才、秀才どしゃべらぃるほど、期待さ応えねば失望するようなまなぐで見られる
だはんで、ひたすら練習すた、レスーブ、セット、期待さ応えるだめに、練習すた
そったある日、聞いでまった、チームメイトの批判の声ば
「天才どしゃべらぃで調子さ乗ってら」だったが、「あいづがいだはんで先輩は試合さ出らぃねがった」
そったような言葉つらづらど並べらぃだ、このチームにわの居場所がね、そう悟った
あっという間さ高校受験の季節になった、この近所、この県にわのいでいチームはねど思った
そごそごつえチームで細々どバレーでぎぃばえがった、勝づよりも友情大切にするチームさ
そごで、他県のIH出ぃるがどうがの高校さ入った、そごは、輝いであった
嫌な性格すた蒼空もいだ、マネの翠さ恋もすた、先輩は優すくて、後輩がら向げらぃる
純粋無垢な尊敬の眼差す、あずますくてあった、だはんで
蒼空「普、遅れんで」
翠「練習遅れますよ」
レイ「夕原先輩、早くしてください」
優花「夕原先輩!練習はじまっちゃいますよ!」
こった、仲間だぢど一緒にいるど、悩んぢゃー自分馬鹿らすくて
笑えでくる、大好ぎなバレーボール続げるだめ、このメンバーでわの因縁の故郷は倒す
津軽弁です、分からなかったらネット翻訳してみてね
あんたバカみたい。
という目つきでロウくんがみてくる。
そんな事言わないで
笑って
ね
笑って
幸せになってね
[独りじゃバカみたい]
苦笑をこぼす。
嘘を本当のことのように言って、友達を笑わせて、
自分で言ったことに自分でも笑ってしまった。
それが楽しくてたまらなかった。
それくらい、あの瞬間が愛おしかった。
許される小さな愚行とは気持ちいいものだ。
こうでしか笑わせられない自分を愚かしく思うほどに。
私は思わず視線を、俯かせた。
【バカみたい】
「バカみたい」
「好き」
夕焼けのオレンジの光が入る教室の中響いた声。
彼の心には届かなく、断られてしまった。
誰もいなくなった暗い教室。
「、、、バカみたい」
だけど、楽しかったな。
彼との帰り道、カラオケ、、、。
思い出すとふっと笑いたくなるような思い出が沢山ある。今までありがとう。
「さよなら。」
バカみたい
……のバカとは、どんなソレを指すんだろう。
使うのにわからない。
人に迷惑かけないように生きて、言いたいことがあっても心の中に閉じ込めて、ずっと心の中が傷だらけ
裏で誰かが誰かのことを嫌いって公言していれば
どうして傷つけるような言葉がそんな簡単に出るの
なんて、
言えないことを心に閉じ込めれば
自分の心をさらに傷つけるだけなのに
バカみたいな自分がいる
♯バカみたい
その瞬間、死を惜った。不感議な感覚だった。
生暖かい水の中に包まれたような。
右腕がジンッ...と燃えるように熱く感覚もなくなり身体が軽くなっていく感覚だけが消えずに残る。
人間死ぬ瞬間何を思い浮かべるのか。
私は……
あるおまじないアプリを友人が知っていた。
そのひとつに不安を消すおまじない。がある。
小学生の頃によく聞いたおまじないみたいなものだ。
例えば、好きな人の名前を消しゴムに書いて誰にも見られずに全部使い切る。
そうすれば好きな人と両想いになれる。
絆創膏を貼るだけで好きな人と両想いになれるおまじないもある。
そんな小学生の頃によく聞いたおまじないの類い。
「ねぇ、それ本当に効果あるの?よく聞く子供向けの馬鹿みたいなおまじないみたいだけど?」
「あるに決まってるじゃん!僕が言うから間違いないよ!」
昼下がりの午後、次の授業が英語の発表会という事もあり、私はいつものように不安と緊張が胸を覆い尽くした。
「本当に効かなかったらあんたの撲殺するよ?」
「ええー!僕殺されちゃうの?!」
「だからおまじないが成功すればいいんじゃない?そしたら私もあんたを殺さなくて済むよ?世界の希少種なんでしょ?僕っ子は」
「ううう…それは言わないで…我ながら痛いから」
「あんたは殺しても殺してもしぶとく生きそうだけど…で、どうするのよ…その不安を消すおまじないというものは?」
「えーとね」
素早くスマホを操作すると私にスマホ画面を見せてくる。
「貴方の悩み叶えます…?おまじないの館エム?なにこれ!?うさんくさっ!!」
「騙されたと思ってしてみてよ!これ…凄いんだよ……僕もね…僕もね…ふふふっ」
ゾクリと感じたことの無い違和感が背筋を駆け巡る。
「ねぇ、ねぇ…大丈夫?僕の顔なにかついてる?」
「い、いや…なんでもないよ…うん。大丈夫」
私はこの違和感に気付かないフリをした。
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「凄い…おまじないって効果あるんだね」
「もっと褒めてくれてもいいんだよ!なぜなら僕が見つけたしね!」
下校中、調子に乗った友人を無視して私はスマホの画面に目を移す。
(貴方の悩み叶えます。おまじない館エム。貴方が今日行ったおまじないは「不安を消すおまじない」今日中に納豆を食べてください。それがおまじないの代償です)
「納豆食べるだけでいいだなんて…いいおまじないだね」
「僕も「記憶力のおまじない」をしたからさっきの英語さ勉強してないのにペラペラだったよ!僕も今日中に……」
「ん?」
何かをボソボソと喋る友人だったが内容までは聞こえない。なんだろう……私と同じように何かを食べるのだろうか。
「あっ…?あ、雨?」
ポツポツと雨が頭のてっぺんを濡らしていく。
「「雨が止むおまじない」あった気がする!」
「えっ?またおまじない?やり過ぎじゃない?」
「大丈夫ブイ!どうせ代償はそんなに難しいものじゃないし!僕…傘持ってないしね」
スマホ画面にあのおまじない館エムのアプリを素早く開き、検索欄で探しているようだ。
ちょっとやり過ぎなくらいの友人を私は見つめるしか出来ない。
気付けば雨は止んでいた。
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「ねぇ、ねぇ、貴方の友達の子…最近学校来てないね」
「あー。どうしたんだろうね」
おまじないを知ってはや1ヶ月。
あいつは学校を休みがちになってしまった。
この間、久しぶりに来て話しかけると…人が変わってしまったようにブツブツと何か知らない言葉を繰り返していた。
見かねたクラスメイトに「近付かない方がいいよ」と言われて私は少し距離をおいていた。
「そういえば、おまじない館エム…っていうアプリ知ってる?」
「なにそれ?知らないよ」
「知らない…?そっかー!ありがとう」
やっぱりおかしい。
クラスメイトも知らない。
検索アプリで調べても出てこなかった。
スマホが不意にブブッと通知を知らせる音が鳴る。
「おまじない館エム。最新のおまじない「元に戻すおまじない」…!」
私は素早くスマホでこのおまじないを実行する。
いつもの不穏な音を立てて画面におまじない実行の文字が出る。
(貴方の悩み叶えます。おまじない館エム。貴方が今日行ったおまじないは「元に戻すおまじない」今日中何かを殺してください。それがおまじないの代償です)
スマホを床に叩きつけていた。
その流れを見ていたクラスメイトは「大丈夫?!」と声をかけてくれてがそれ所ではなかった。
今日中に何かを殺す…?
今までそんな代償はなかった。
「会わないと……」
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扉の前に来た。
綺麗に育てられていただろう花は枯れて、ポストには郵便物が溜まっていた。
雰囲気のせいか臭いもキツい臭いがする。
久しぶりに来た友人の家は変わり果てていた。
「こんにちは……」
トントンと叩いただけなのに急に扉が開いた。
ぶわっと先程よりキツく濃ゆい臭いが鼻腔を刺激した。
中は薄暗く廃墟と言われてもおかしくない内装をしていた。
「ねぇ…いるんでしょ?」
前来た時のように2階にある友人の部屋を目指して足を踏み入れる。
「僕の部屋」
と子供の頃に書いた友人の文字が貼ってある部屋の前に来た。
「ねぇ、いるんでしょ!」
扉を開ければ黒い何かが部屋中を舞う。
「ひっ!」
黒いざわめいたものは必死にしがみつくようにそれらの傍を舞っている。
「ちょっと!あんたどうしたのよ…それはなに?!」
「ぁ…ぁ…。わるいのは…こいつら…だよ。僕はわるくない…。だってなんで僕って言っちゃっダメなんだよ……女が男が…そんなの関係ないのに…」
「あんた…いったい……」
「すごいね…このおまじないは…神だよ?おかげで嫌いなこいつらを…殺すことができた…なにが親だ。なにが兄弟だ。夢を追いかけることも自分らしく生きることも出来ないなら…」
「いったい何をしたのよ…」
薄暗い部屋の中で友人のスマホが光る。
「代償を払わないと……ねぇ…僕の代償になってくれる?」
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暗がりの中、消えない出来事だけが目の前にある。
私は友人を殺してしまった。
友人の代償が何なのかは分からない。
なんのおまじないをしたのかも。
でも、バカみたい。
こんなおまじないひとつに友情は壊れるものなのか。
人間は変わってしまうものなのか。
「バカみたいだ」
「本当にバカ…みたいだねぇ…」
友人の声が聞こえた気がした。
その瞬間、私は死を悟った。
(貴方の悩み叶えます。おまじない館エム。貴方が今日行ったおまじないは「死なないおまじない」今日中に、嫌いな友人を殺してください。それがおまじないの代償です)
あるおまじないアプリを友人が知っていた。
「ねぇ、それ本当に効果あるの?よく聞く子供向けの……ばかみたいなおまじないみたいだけど?」
「僕が言うんだから…間違いないよ…ひひっ」
スマホを新しくしたある日。久しぶりに何か書いてみるかと、「書く習慣」を開いたら。
データが、消えていた。
今まで書いてきた約70作品、いただいたいいね、「苑羽」という名前、お気に入り登録していた書き手の方の記録、全て。
そりゃそうだ。
多分私は、ログインをせずにこのアプリを使っていたのだから。多分、というのは、そこら辺の記憶が全くないからである。
暫くしたら、アプリを消そうと思う。だから、その前に。
もし、苑羽という1人の書き手を、苑羽の作品を、愛してくださった方がいたら。ごめんなさい。苑羽の存在は、思っていたよりずっと、儚いものだったみたいです。
今まで書いてきた軌跡と、こんなに呆気なくお別れすることになるとは、到底思っていなかったけど。それでも、このアプリを通して出会った、かけがえない繋がりを、忘れることはない。
そして最後に…もし叶うなら。苑羽の作品を、一つでもいい、貴方の心のどこかに置いておいてほしい。そしてたまに、気が向いたら埃を払ってくれたら嬉しい。
さよなら。
椅子(しかも自宅の)から転げ落ちて、腰と肩を打ってめっぽう痛い。
言い訳をすると丸椅子で背もたれもなく座面も小さいことから、適当に腰を下ろしたらバランスを崩したと思われる。
最近、花粉症にコロナにと踏んだり蹴ったりの日が続くが、椅子から落ちるのは自業自得で同情も買えず(むしろ失笑を買って)本当にバカみたいである。
『バカみたい』
こんな逃避行、すぐに終わってしまうのに
きみと夜にとけて
ワルツを踊りたい
——バカみたい
大人になって出来なくなった事。子供だからできた事。沢山ある。
思い返した時に子供だから出来たことは
意外と少なくて、大人になって出来ない事って案外ないんよ。やらなくなってしまっただけでさ。
そう溢した君の横顔に、なんの意味があるのか戸惑いながら「そうかもな」と答えた。
君はまたニヒッ。と笑った。
***
君はいつも、歯を見せて、目を細めて、何か企むような笑顔を見せる。実際何か企んでいて、それはロクでもない事だ。
今日もその笑顔に僕はため息を吐く。
また振り回されるのだと。わかっていながらも、内心では楽しんでいる自分も居て。君に振り回されるのも悪くない。だって、僕の知らない僕の一面を見せてくれるから。
深夜の住宅街。酒缶片手にコンビニのビニール袋下げた君に連れ出されて歩く道のり。
街灯が照らす暗闇は、まだ肌寒い春風に揺れる桜の木。
君は前を歩き続ける。現れた公園の入り口から中に入ると、袋から何かを取り出した。小さい何か。
街灯の下へと向かう。袋から出した丸く黒い塊を僕に見せニヤリと笑うと、ポケットから取り出したライターで火をつけ地面に置いた。
次第にムクムクと大きく伸び始める黒い何か。しばらくするとそのまま止まった。
「なにこれ」
「知らない?」
「知らない」
「ヘビ花火」
「花火?これが?」
「うん」
「うんこじゃん」
「ヘビだよ。ウケるべ?」
「ウケねぇよ」
何処が楽しいかわからない僕に「わかってないなぁ」とボヤく。
まだ何か入っているらしいポリ袋から今度はメントスを取り出した。ブドウ味だ。
外がカリッとしているチューイングキャンディ。昔店の端にあるゲーム機で取ったのを良く食べていた。止めた数字の数だけ出てくるやつだ。懐かしい。
そんな事を考えている僕の横で封を開けると、君は僕に突き出してきた。
「食う?」
「貰う」
一粒貰い口に入れる。舐めると甘ったるいブドウの味が口全体に広がった。
君も一粒口に入れるとバリバリと噛み砕く。食べ方は人それぞれだが、そういえば君は飴もよく噛んでいたと思い出した。飴を共に食べるなんて事、もう無くなったから。
次に袋からコーラを取り出す。それを見て嫌な予感を覚えた。
キャップを開けると案の定そこに大量のメントスを入れ、急いでキャップを締める。
そして思いっきり振ると、キャップを開けるが早いか、赤いキャップを吹っ飛ばし、黒い液体が空高く吹き出す。
慌てて避けたが間に合わず被ったコーラのせいで、身体はベタベタ。手にペットボトルを持っていた君は盛大に浴び、頬を黒い液体が滴っていた。
「フッ………ハッハ……アハハハ!!!!」
腹を抱えて堪える事もなく大声で笑う君に釣られて僕も笑う。不意打ちを喰らい、身体がベタついた事も、服が汚れた事も今はどうでも良かった。
ただ、こんなしょうもない事が、バカみたいな行為が、楽しかった。
「はぁ〜あ。笑った。笑った。じゃ、お前んちで風呂貸して。今日泊まるから」
「は?泊まるって荷物……あ」
「そういう事」
うちに呼びに来た際置いていった大きなリュックは泊まり道具だったんだろう。なんとも準備が良い。最初からそのつもりで家に来たというのか。終電はもうないが、歩いて帰れない距離でもないだろう。
「一緒に風呂入ろうぜ」
「嫌だよ。大体家の風呂そんなにデカくないって」
「水鉄砲も買ってきたからさ」
「尚更無理だろ!男2人で入れる訳ないだろ!」
「やってみなきゃわかんないだろ〜。ほら行くぞ。文句言ったってお前はやる奴だって知ってっからさ」
君は僕を置いてさっさと公園を後にする。いつの間にかヘビ花火の残骸も片づけていて、残ったのはコーラで濡れた土だけだった。
「うわぁ。身体ベタベタ。しかも濡れてさみぃの」
「バカだろ」
「うるせ、楽しかったべ?」
「……ちょっとな」
「素直じゃないねぇ」
君の吐く息がまだ白かった時期の事を思い出す。僕が仕事で落ち込んで、自暴自棄になってた時だ。
あの日も君は僕を連れ出して、公園に積もった雪で雪合戦をしたんだ。2人きりで。
あの時も深夜だった。終電間近に大きな荷物を持ってやってきて、断る僕を引っ張り出して連れて行った。
雪と汗でびしょ濡れになって、凍えながら帰った後、風呂に入ってカップ麺を食べたんだ。君が買ってきてくれたやつ。
あぁ、そうだ。そうだったな。あの時君はこう言ったんだ。「たまには大人もバカみたいな事して良いんだぜ」って。それでぼくは……。
星空を眺めながら歩く君の横顔を見る。
「上ばっか見て歩いてるとつまづくぞ」
「鼻水垂れそうだから下向けねんだわ」
「……ばか」
「うるせ。大人だってたまにはバカなんだよ」
そう言う君の横顔は笑っていた。僕も釣られて笑って、心の中でありがとうと言った。
直接伝えるのはもう少し待って欲しい。僕もバカにならないと、恥ずかしくて言えないから。
#バカみたい
バカみたい。自堕落な生活をしているから毎日自己嫌悪している。もっとちゃんとした生き方をしたいけどそれができるような人間ならこうはなっていない。
手本となる人の生活スケジュールを真似すればその人に近づくことができるけどそれができれば苦労はしないってものだ。
堕落して生きてきた人間には人並みの生活でさえしんどい。そこまでして、という気持ちが常にあるから今日もいつも通りの生活をして自己嫌悪する。
まったくもってバカみたいな話だ。普通の人には理解できないんだろうな。がんばることができない人間の気持ちは。
国立医学部に現役で受かった先輩が部活に来てくれた。先輩が現役の頃にはバスケも数学も相談をした。何にでも全力投球する先輩でバスケだけでなく、生徒会の仕事にも積極的に携わっていた。
今日聞いた大学入試のアドバイスはたった一言
「人が引くほど、バカみたいにやりまくる」
やりまくるしかないんだよね。先輩からもらった参考書はボロボロだ。その参考書は机に飾った。
今使っている参考書を先輩の参考書のようにボロボロになるまで使い倒したい。
「こんなの作ってなんになるのさ」
「生者の心の安寧に」
「此処にはなんにも居ないくせに?」
「信じる限りは聞いている」
「こんなの作ってなんになるのさ」
「お前もどうせ、居ないくせに」
<バカみたい>
『バカみたい』
他所の国で傭兵として従事していたことがある。重篤な犯罪者でない限りは雇うというスタンスのためか世の中にうまく適合できないハジキ者ならず者も多く、戦う以外に能のない不器用な人間が集っていた。
同僚たちは不器用すぎるがために生きるのも下手くそだった。いつ死んでもおかしくない死線を共にくぐり抜けてきたというのに些細なことのケンカの度が過ぎたり、彼女にフラレて失恋して立ち直れなくなったり、突然ビルから飛び降りたりとバカみたいな理由で命を落としていった。虚しさを感じないわけはなく、ほどなく除隊した。
自国の平和な生活の中に表立った戦いの日々はない。けれどバカみたいな理由で犯罪に手を染めたり命を落とす奴がいるのはあちらとそんなに変わりはない。何が分かれ目なのだろう。考えても答えの出ない問いを幾度となく思ってしまう。