ありす。

Open App

その瞬間、死を惜った。不感議な感覚だった。
生暖かい水の中に包まれたような。
右腕がジンッ...と燃えるように熱く感覚もなくなり身体が軽くなっていく感覚だけが消えずに残る。
人間死ぬ瞬間何を思い浮かべるのか。
私は……

あるおまじないアプリを友人が知っていた。

そのひとつに不安を消すおまじない。がある。

小学生の頃によく聞いたおまじないみたいなものだ。
例えば、好きな人の名前を消しゴムに書いて誰にも見られずに全部使い切る。
そうすれば好きな人と両想いになれる。
絆創膏を貼るだけで好きな人と両想いになれるおまじないもある。

そんな小学生の頃によく聞いたおまじないの類い。

「ねぇ、それ本当に効果あるの?よく聞く子供向けの馬鹿みたいなおまじないみたいだけど?」

「あるに決まってるじゃん!僕が言うから間違いないよ!」

昼下がりの午後、次の授業が英語の発表会という事もあり、私はいつものように不安と緊張が胸を覆い尽くした。

「本当に効かなかったらあんたの撲殺するよ?」

「ええー!僕殺されちゃうの?!」

「だからおまじないが成功すればいいんじゃない?そしたら私もあんたを殺さなくて済むよ?世界の希少種なんでしょ?僕っ子は」

「ううう…それは言わないで…我ながら痛いから」

「あんたは殺しても殺してもしぶとく生きそうだけど…で、どうするのよ…その不安を消すおまじないというものは?」

「えーとね」

素早くスマホを操作すると私にスマホ画面を見せてくる。

「貴方の悩み叶えます…?おまじないの館エム?なにこれ!?うさんくさっ!!」

「騙されたと思ってしてみてよ!これ…凄いんだよ……僕もね…僕もね…ふふふっ」

ゾクリと感じたことの無い違和感が背筋を駆け巡る。

「ねぇ、ねぇ…大丈夫?僕の顔なにかついてる?」

「い、いや…なんでもないよ…うん。大丈夫」

私はこの違和感に気付かないフリをした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「凄い…おまじないって効果あるんだね」

「もっと褒めてくれてもいいんだよ!なぜなら僕が見つけたしね!」

下校中、調子に乗った友人を無視して私はスマホの画面に目を移す。

(貴方の悩み叶えます。おまじない館エム。貴方が今日行ったおまじないは「不安を消すおまじない」今日中に納豆を食べてください。それがおまじないの代償です)

「納豆食べるだけでいいだなんて…いいおまじないだね」

「僕も「記憶力のおまじない」をしたからさっきの英語さ勉強してないのにペラペラだったよ!僕も今日中に……」

「ん?」

何かをボソボソと喋る友人だったが内容までは聞こえない。なんだろう……私と同じように何かを食べるのだろうか。

「あっ…?あ、雨?」

ポツポツと雨が頭のてっぺんを濡らしていく。

「「雨が止むおまじない」あった気がする!」

「えっ?またおまじない?やり過ぎじゃない?」

「大丈夫ブイ!どうせ代償はそんなに難しいものじゃないし!僕…傘持ってないしね」

スマホ画面にあのおまじない館エムのアプリを素早く開き、検索欄で探しているようだ。
ちょっとやり過ぎなくらいの友人を私は見つめるしか出来ない。

気付けば雨は止んでいた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ねぇ、ねぇ、貴方の友達の子…最近学校来てないね」

「あー。どうしたんだろうね」

おまじないを知ってはや1ヶ月。

あいつは学校を休みがちになってしまった。
この間、久しぶりに来て話しかけると…人が変わってしまったようにブツブツと何か知らない言葉を繰り返していた。
見かねたクラスメイトに「近付かない方がいいよ」と言われて私は少し距離をおいていた。

「そういえば、おまじない館エム…っていうアプリ知ってる?」

「なにそれ?知らないよ」

「知らない…?そっかー!ありがとう」

やっぱりおかしい。
クラスメイトも知らない。
検索アプリで調べても出てこなかった。

スマホが不意にブブッと通知を知らせる音が鳴る。

「おまじない館エム。最新のおまじない「元に戻すおまじない」…!」

私は素早くスマホでこのおまじないを実行する。
いつもの不穏な音を立てて画面におまじない実行の文字が出る。

(貴方の悩み叶えます。おまじない館エム。貴方が今日行ったおまじないは「元に戻すおまじない」今日中何かを殺してください。それがおまじないの代償です)

スマホを床に叩きつけていた。
その流れを見ていたクラスメイトは「大丈夫?!」と声をかけてくれてがそれ所ではなかった。

今日中に何かを殺す…?
今までそんな代償はなかった。

「会わないと……」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
扉の前に来た。
綺麗に育てられていただろう花は枯れて、ポストには郵便物が溜まっていた。
雰囲気のせいか臭いもキツい臭いがする。

久しぶりに来た友人の家は変わり果てていた。

「こんにちは……」

トントンと叩いただけなのに急に扉が開いた。
ぶわっと先程よりキツく濃ゆい臭いが鼻腔を刺激した。

中は薄暗く廃墟と言われてもおかしくない内装をしていた。

「ねぇ…いるんでしょ?」

前来た時のように2階にある友人の部屋を目指して足を踏み入れる。
「僕の部屋」
と子供の頃に書いた友人の文字が貼ってある部屋の前に来た。

「ねぇ、いるんでしょ!」

扉を開ければ黒い何かが部屋中を舞う。

「ひっ!」

黒いざわめいたものは必死にしがみつくようにそれらの傍を舞っている。

「ちょっと!あんたどうしたのよ…それはなに?!」

「ぁ…ぁ…。わるいのは…こいつら…だよ。僕はわるくない…。だってなんで僕って言っちゃっダメなんだよ……女が男が…そんなの関係ないのに…」

「あんた…いったい……」

「すごいね…このおまじないは…神だよ?おかげで嫌いなこいつらを…殺すことができた…なにが親だ。なにが兄弟だ。夢を追いかけることも自分らしく生きることも出来ないなら…」

「いったい何をしたのよ…」

薄暗い部屋の中で友人のスマホが光る。

「代償を払わないと……ねぇ…僕の代償になってくれる?」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
暗がりの中、消えない出来事だけが目の前にある。
私は友人を殺してしまった。
友人の代償が何なのかは分からない。
なんのおまじないをしたのかも。
でも、バカみたい。
こんなおまじないひとつに友情は壊れるものなのか。
人間は変わってしまうものなのか。

「バカみたいだ」

「本当にバカ…みたいだねぇ…」

友人の声が聞こえた気がした。
その瞬間、私は死を悟った。

(貴方の悩み叶えます。おまじない館エム。貴方が今日行ったおまじないは「死なないおまじない」今日中に、嫌いな友人を殺してください。それがおまじないの代償です)

あるおまじないアプリを友人が知っていた。

「ねぇ、それ本当に効果あるの?よく聞く子供向けの……ばかみたいなおまじないみたいだけど?」

「僕が言うんだから…間違いないよ…ひひっ」

3/23/2024, 3:45:15 AM