『スリル』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
#82 スリル
[人生のスリリング]
時間まで、あと1分もあるよ。
大丈夫。まだ間に合う。
1分1秒のスリリング。
こういう時こそ度胸で、楽しむよ!
いやいや、
楽しいなんてそんな無理です?
楽しもうとする意識が大切なんです。
別に今すぐ楽しめなくたって、良いんです。
毎日ほんのちょっと楽しむ意識を
持つだけでいいんです。
どうでしょうか?
貴方も楽しく、人生のスリリングを
駆け抜けていきませんか?
格子戸を抜けた先。見慣れたはずのそこが、全く見知らぬ場所に見えた。
「曄《よう》。大丈夫?」
「っ、うん。大丈夫」
こみ上げる不安を誤魔化すように、声に出す。
心配する親友の存在だけが、ここに立つ覚悟を与えてくれるような気がした。
「皆、無事だといいけど」
辺りを見回す。
夜でもないのに周囲は暗く、灯りのない状態では遠くまで見通す事は出来そうにない。
左に見える建物は倉だろうか。だとすれば、母屋の台所付近に出た事になる。
「式の気配が消えている。これはよくないな」
「様子を見てくるか」
「いやいい。よくない状況が分かったのだから、無理をする必要はないよ。玲《れい》、何かあればすぐに切り離せ」
「分かってる。それより、何この臭い。腐った泥のような」
顔を顰めて鼻を押さえる彼女に困惑する。
辺りの匂いを嗅いでも彼女の言うものは感じられず。逆に馨しい花の香りに目眩がしそうだ。
隣にいる親友を見る。その横顔からは、何も察する事は出来ない。けれどどこか険しさを湛えた眼が母屋の先、離れのある辺りを真っ直ぐに見つめていて、嫌な予感に息を呑む。
「何か、いるね」
「何かって、何?」
「分からない。でも」
その視線は変わらず屋敷の奥を見つめていて。
彼女達も気づいたのだろう。皆険しい顔をして母屋に視線を向けた。
「くるよ」
誰かの言葉とほぼ同時。
静かだった空間に、声が響いた。
「何、あれ」
「泥、かな。離れないでね」
母屋から這い出てきたのは、親友が言うように泥に近いナニか。
べちゃり、ぐちゃり、と地面を黒に染め、いくつもの泥がこちらへ近づいてくる。
その泥から声がした。
叫ぶような、呻くような。意味を持たない音の羅列が重なり合い、不協和音を奏でている。
「気持ち悪いな。これ以上近づかないで」
彼女の言葉が泥を否定し、見えない壁が境界となってそれ以上泥が近づく事を許さない。
そうして進めなくなった泥を、彼らは容赦なく切り裂いていく。
「臭い。藤白《ふじしろ》、早く何とかして。泥を切ってどうするの」
「そうは言ってもね。燃やしたりしたら屋敷まで燃えてしまうじゃないか。それよりは切った方が確実だよ」
「数が多いな。また来るぞ」
母屋から次々と現れる泥に、それぞれの表情は段々に険しさを増していく。
何も出来ない事が、歯痒くて仕方ない。けれど今無理に何かをしようとしても、足手まといにしかならない事は分かりきっている。
繋いでいる手に力が籠もる。縋るようにして親友にもたれかかった。
「ごめん。少しだけ」
「いいよ。見ているだけはつらいね。特にあの子達に何も出来ないのは苦しいね」
「あの子達?」
親友の言っている意味が分からず、視線を向ける。同じようにこちらを見た親友は、何故か悲しげな顔をして笑い泥を指さした。
「元に戻す事は出来ないし、還す事も出来ない。根源が歪んでしまっているから」
「もしかして、あの泥」
泥を見る。目を凝らし、耳を澄ませる。
泥と重なるようにして、小さな点が淡く光を灯していた。
光が明暗を繰り返す度、声が聞こえる。意味のない呻きではない。痛みや苦しみに嘆くたくさんの人が、必死に声を上げていた。
「魂と呪と。無理矢理一つにされていたものが、今度は無数に千切られてしまったんだ。どこかに大本があるはずなんだけど」
親友がするように辺りを見ても、見える範囲には千切れたという泥ばかりだ。泥が母屋から出てくる事からも、屋敷の何処かにいるのだろう。
そう思い、親友を見る。その眼は再び、離れのある方角に向けられ、何かを屋敷越しに視ているようだった。
不意に、親友の表情が変わる。
険しさの中に困惑を混ぜたような目をして、一歩前に出た。
「危ないから、まだ下がってて」
「誰かいる。こっちに来るよ」
振り返る彼女に、親友は視線は屋敷に向けたまま答える。
その言葉に母屋を見る彼女の前で、泥が燃え上がった。
「藤白!」
「俺じゃない。母屋だ」
「何だお前ら?ここの奴か」
低い、男の人の声。
次々と燃える泥が灯りになって見えた母屋の奥から、大柄な人影がこちらに向かって歩み寄ってくる。
「ん?嬢ちゃんと、嬢ちゃんの友達じゃねぇか。兄貴がよく許したな」
その人影に、見覚えがあった。
「寒緋《かんひ》さん」
「久しぶりだな、嬢ちゃん。兄貴はどうした?」
けれど彼の纏う空気は知らない誰かのように冷たくて、近づいてくるのが怖いと思ってしまう。口元だけを歪めて笑い、けれどその琥珀色の瞳は鋭さを隠そうともせずに。近づくだけで切り裂かれてしまいそうな雰囲気に、体が震えるのを止められない。
彼が手にした何かを投げつける度に泥が燃える。真っ赤な炎に照らされた彼の服が赤に染まっているように見えて、目を逸らした。
「寒緋さんはどうしてここに?」
「兄貴の頼み事だよ。それにしても兄貴の眼を誤魔化すなんざ、止めといた方がいいと思うけどな。怒らせると後が怖いぜ」
「大丈夫です。寒緋さんがここにいるなら、きっと全部視ていたんだと思いますから」
微笑んで、親友は繋いでいた手を解き、彼に近づく。そして彼の手を取り、小さく旋律を口遊み始めた。
今のこの場所には似合わない。陽だまりのような暖かさを感じるような音色。
「やっぱすげえな。嬢ちゃんは」
彼の目が僅かに見開かれ、そして緩やかに細まる。
直前の鋭さが消える。口遊む音色に怖いものがすべて融かされていくようだ。
「これで、大丈夫ですか?」
「ん。助かった。姉ちゃんを置いて来ちまったから、少し呑まれてたみたいだ」
彼の穏やかになった空気に、周りの緊迫した空気も消えていく。
「すごい。何あれ」
彼女が小さく呟く。安堵に驚きが混じった表情をして親友を見て、こちらを振り返り手招いた。
「おいで。もう泥は全部なくなったみたいだから」
側に寄れば、どこか心配そうな彼女に手を握られる。
「震えてる。怖かったね、大丈夫だよ」
その言葉に握られた手を見る。微かに震える手を見て、さっきまでの色々な恐怖を思い出し、きつく目を閉じた。
「つらいなら、無理に行かなくてもいい」
「大丈夫。行くってきめたから」
頭を振り、目を開ける。
真っ直ぐに彼女を見て答えれば、彼女はそれ以上何も言わずに頷いた。
「行こう。急がないと」
握られた手を引く。
急がなければ、とその衝動にも似た気持ちが前へと足を進ませた。
20241113 『スリル』
スリル
記憶を漁ってみた。最もスリルのあったこと。
車を運転して山の中へ入った。母が助手席に乗っていた。当時、出かけたがりの母にごねられてはいろいろな場所へ走らされていたのだ。その日も、「あの道が何処に通じているのか確かめたい」(←よくあった)と主張する道へ。地図を開いて確認したが記載なし。「新しい道なのよ、知っておかないと。あそこからダンプが入って行ったのを見た」などと譲らぬ母。確かに、山の麓には道らしきものが見える。…ダンプみたいな大型車輌が行けるなら、困ることはなさそうかと考えて、その道へ入った。
道にはバラストが敷かれていた。真新しいと言っていい。車輌1台ぶんしかない道幅に真新しいバラスト、ガードレールなし。今の私なら絶対に入り込んだりしない…が、当時の私は何も考えなかった。車がラリー車の市販型で走破性が高いことと、ラリー用のブロックタイヤを履かせていたこと、小さな山であることもあって、舐めてかかっていたのだ。道はジグザグにヘアピン続きだ…
厚みのあるバラストは、車で走るときには「ふかふか」であると表現して間違いない。積もった新雪と同様の注意が必要なのだ。そんな道で時速40キロのままヘアピンに入ればどうなるかと言うと、グリップの効かないバラストがざらざらと動いて、まるで雪道のように車が滑る。軽い後ろ側がカーブの外に振られ、重量のある車輌前部分は惰力で進みながらも「回転軸」になり、結果として眼前にはガードレールの無い道の端。下の道との高低差はけっこうなものだ。落ちれば車の鼻面を下にしてしまうから、大怪我か悪くすれば死ぬ。母はシートバックに張り付いている…
頭は何も考えなかった。が、状況は細かく認識していた。たまに聞く「時間がゆっくり流れる」意識状態で、手足は勝手に動作した。アクセルを少し緩め、同時にカウンターステアを当てていた。車は無事に道の進路に復帰した。
さて、この日のスリリングな出来事はこの後にも起こった。山の中で迷子。容赦なく減りゆく燃料。いつまでも山中でうろうろしていてはガス欠で動けなくなる。携帯なんか繋がらないエリア。やがてT字路にぶつかった。これまでの移動方向と距離と現在の時間と太陽の位置を総合して、進む方向を選ばなければならない。燃料計は残量インジケーター寸前まで落ちている。自宅まで距離は50キロ近くあるはずだ。市街地へたどり着かねば、そも帰れない。
右方向を選んだ。目算が合っているなら、何か見覚えのあるものを見つけられるかも知れないと思いながら進む………見えた。海上保安庁の無線中継局アンテナが。見慣れたものだから間違いない。ならば市街地まで行ける。
自分が何処に居るのかわかった安心感は今でも忘れない。無事に帰れたから笑い話にもなる。
「ねえグルーシャさん、これ見てくださいよ〜」
怪訝そうにわたしを見るグルーシャさんに気付かない振りをして、丁度手に持っていた雑誌の記事を大きく見せる。
「何これ? 新アトラクション? これどこなの?」
「イッシュ地方にあるライモンシティの遊園地ですよー! ほら観覧車が有名な」
「ああ。で?」
「相変わらず冷たいですね、この新しいコースター、凄く人気なんですって! ドキドキハラハラ!それにスリル満点! 行きたいなぁ」
パルデアにはイッシュ地方のような大型遊戯施設はあまりなく、だからこそ余計にガラルのシュートシティやシンオウのコトブキシティのように発展していてライモンシティのような煌びやかな街にわたしは強い憧れを持っている。いつか行ってみたいなぁ。
「何言ってるの、イッシュならあんた行けそうじゃん。ブルーベリー学園に近いし」
「そうなんですけど! 留学中ってなかなか遊びに行けたりとか出来ないじゃないですか」
「まあ、確かに」
ブルレクであったりリーグ部であったり、何だかんだとやる事が多くて留学中はイッシュ地方を回れず仕舞い。それがかなりの心残りだ。
「第一ぼくは無理だよ。有給が取れない。それに絶叫モノは好きじゃない」
検討の余地もなく一蹴されガッカリ感が全身を覆い、(無理な我儘だとは分かってはいるが)発散出来ないモヤモヤをグルーシャさんに当ててみる。簡単に言えば単なる八つ当たり。
「えー! ちょっとは考えてくださいよ!愛が足りない!絶対零度トリックの名が廃りますよ!」
「バカ言うなよ、訳分かんないし。 ……まあコースターは無理だけど、スリルは味合わせてあげられるよ。着いておいで」
そう手を差し出され、迷いなく掴む。このナッペ山にそんな、ドキドキハラハラなスリル満点な場所あったかなぁ。
「どう? ドキドキハラハラしたでしょ? ナッペ山名物、アルクジラ滑り」
「ちょっと!可笑しいですよこれ! アルクジラ滑りなのに何でわたしだけグルーシャさんのハルクジラ滑りなんですか! スリル通り越して最早恐怖ですよ!」
わたしの全身雪まみれを見てグルーシャさんは楽しそうに良い笑う。いかんせん全く腑に落ちない。確かにアルクジラより大きなハルクジラにしがみついて雪道を滑るのはなかなかスリルがあって楽しかったけれど。
「もうー! こんな筈じゃなかったのにー! 面白かったですけど!」
「楽しかったんならいいじゃん。 でもハルクジラ滑りは今回きりね」
そうハルクジラをモンスターボールに戻しながら話す。確かにハルクジラが勢いよく滑れば周りの木々も、それこそパワーの問題で雪が全部雪崩てしまっちゃうかもだし。危ないよね。
「はーい。……でもやっぱり遊園地にも行きたいなぁ」
やっぱり諦めきれず恨みがましくグルーシャさんを見る。だってグルーシャさんとそんなデート出来たら絶対楽しいし憧れる。
「まだ言ってるよ……。 じゃあ、新婚旅行で連れてってあげるから。それでいい?」
「わかりま…… え! ちょっ! いましっ、新婚……!? ええ!」
一瞬流しかけたがさらりとグルーシャさんは飄々とそれを話しながら去っていく、そんな未来の約束。
「だから、早く大人になってよ。 待ってるから」
「!」
ハルクジラ滑りより、話題のコースターより。一番グルーシャさんの言葉がドキドキハラハラのスリル満点だった気がする。言葉を噛み締め呆ける事しか出来ないわたしは相変わらず雪まみれな冷たい現実を受け入れる。
pkmn sv [スリル]
テーマ:「スリル」
雷が走ったかのように肌の表面が痺れ、鋭敏な感覚が思考をフレームへと細切りにする。
拳銃の角度を見て咄嗟に傾けた額を、鉛の塊が掠め、一瞬の間を置いて血流が噴き出す。
その後に訪れるであろう暗闇を察知していた脳が、与えられた一瞬のうちに今の視界を網膜へと焼き付け、
そして、閉ざされる前に目を閉じることで眼球を保存し、
闇雲に踏み出した一歩で距離を詰め、
頭を相手の頭に向かって突き出す。
衝撃と流動する液体が、攻撃の成功を証明し、
一歩引きながら服を破り、顔を一通り拭き取るようにしてから、源泉を巻きつけて塞ぐ。
目を開けると、拳銃も失ってその場で闇雲に暴れるだけの姿が見え、
その緩急に合わせるようにして、私は勢いのついた拳を相手の頬へと叩き込んだ。
「もし人間に余分な部位があって、それが何度でも再生可能なら――人間はその部位を切断して遊ぶだろうか?」
何言ってるんだ、と口を挟む余地すら無い様子で、彼は眼球を激しく動かし言葉を探している。かなり興奮しているのか、瞳孔が開き、涎が顎を伝っていた。
「子供の頃、退屈な時に例えば手遊びをしなかったか?――つまり、動物のする遊戯の原点は『体』を使った遊びだということだ」
「……それで君も例外なく、『体』で遊んでいるのか?」
半ば強引であったが、やっと僕が口を挟めた。
――注射痕。
僕は医師ではないので、この見立てが正しいのか分からないが……同じところを決まって刺しているのか、彼の左腕の皮膚が赤黒くただれている。
先ほどからの異様な興奮も、薬物によるものと考えれば説明がつく。問いたださずにはいられなかった。
「……スリルだよ。別に薬物が好きなわけじゃない」
形相がガラリと変わる。
今にも首を絞められそうな、殺意に近い気迫を感じた。
「いかにも薬物中毒者の言い訳に聞こえるな」
彼の神経を逆撫でしすぎないよう顔色を窺いながらも、あえてはっきりと指摘した。
皮膚の変色具合や注射痕の数から見て、かなり大量に薬物を摂取している可能性が高い。このままでは、捕まる前に彼の体が限界を迎えてしまうと思ったのだ。
「いいやスリルだ。お前らが俺にしたことと何が違う?」
ガリッ、と彼の奥歯が軋む音が聞こえた。
彼の醜く歪む顔の皺には、激しい憎悪が詰まっている。
吊り橋効果で恋に落ちるように。
陰口で共感し合って友情を深めるように。
社会の目を掻い潜って罪を重ねてみるように。
人間にとって、スリルとは娯楽だ。
数年前、僕たちは彼を利用してスリルを楽しんでいた。
それがある日突然、彼は行方をくらませたのだ。
心配なんて誰一人せず、死んだとかパクられたとか散々馬鹿にして、卒業する頃には全員綺麗さっぱり忘れた。
その彼が、目の前にいる。
「……そもそも、僕は君に会いに来たんじゃない。【当時同じグループの一人】からの連絡でここに来たんだ」
アイツはどこにいる?
そう尋ねる前に、彼はふらりと物陰に消えた。
そして腕が飛んできた。――腕が、飛んできた。
その手首には、ギラついたブランド腕時計。
数ヶ月前にアイツから自慢された物と酷似している。
鈍い金属音を立てながら、彼が斧を引き摺って現れた。
……なるほど。体を切断という最初の比喩は、ドラッグの使用で出てきたうわ言などではなく、『事実』から想起されたものだったのか。
「まぁ、過去のことなんか忘れて楽しもうや」
人間のする、カラダアソビ。
いじめ。ドラッグ。暴力。
――そしてそれらの先に待ち受ける、冷たい死。
「待って待ってくれ僕は嫌々従ってただけ――」
そのスリルの代償はいつも、『体』。
2024/11/12【スリル】
私にとって人と付き合うことはスリル。
ただし恐さが9割方。
それでも付き合ってしまうのは、
このお気楽根性のせいかなあ。
『スリル』
手のひらサイズに切り取られた紙を折り、紙を更に小さくする。紙には、定義や成り立ち、記述問題の長文解答が書かれている。小さくなって見える範囲が限られた。
服はオーバーサイズの物を用意した。袖口からは折った紙が入るかの確認も忘れない。
俺は今日の試験でカンニングをする。
カンニングペーパーを仕込み、紙に書いた解答をバレないよう解答用紙に写していくのだ。
試験中は教壇から試験監督が監視しているから、試験前に少し工夫しておく。前から問題用紙や解答用紙が配られている最中に、カンニングペーパーを机に置き、その上から用紙で隠す。後は、カンニングペーパーの存在がバレないように問題用紙で隠しながら解答を書く。解き終わったら袖口にカンニングペーパーを押し込み、何食わぬ顔でペンを置いて解答を終えるのだ。
前方から教師が用紙を配り始め、これからの行為に心臓が僅かに速まる。
体が言いようのない緊張感に包まれた。
だれかと戦うのが好きだ
スリルを味わえるからだ
死ぬか生きるかそんな死闘が大好きだ。もし殺されそうになったら逃げるそれも楽しい
もっとスリルを味わいたいから僕は僕以上に強い人間と戦いたい
スリル
スリルを求めたらろくなことにならない。それは知ってる。というか知ってるつもりだった。夜0時、日が変わる時刻にスマホと鏡を使って合わせ鏡をすると「とてつもないスリル」が味わえる、とバカバカしい話を聞いたときぼくはただ笑った。そうだよあんなことするつもりじゃなかった。ちょっとストロングなチューハイをうっかり3本飲んで鏡に向かったら、ほんの出来心で…スマホと鏡で…ぼくが悪かったです。出来心でした。もうしません。スリルはもう全然いりません。だからどうかここからおろして。あたりいちめんは火の海、ぼくは一本の細い綱に繋がれなんでこんなところに連れてこられたのかさっぱりわからないけどたぶんぼくのせい、そしてここはきっと地獄。
「スリル」
「ね!ね!いこ!おしゃんぽ!」
「明日じゃ駄目か……めちゃくちゃ眠いんだ……。」
「や!いくもん!」
こんな夜にもちもちの膨れっ面を見せられてもな。
「ね!ニンゲンしゃん!」
「こらこら、引っ張らないの。」
「お!しゃ!ん!ぽー!!」「……わかったよ。」
「そのかわり」「んー?」「大人しくするんだぞ?」「ん!」
わかったのかわかってないのかよく分からん返事だ。
……まさかこんな時間に出かけることになるとは。いや、むしろ人に見られないから好都合か?
どっちだ───「ちょ、止まって!」「えー?」
「いきなり走り出すと危ないだろ?」「んー?」
「そこの角から何かが飛び出してきたらぶつかるかもしれない。だろ?」「ん!ボク、はちらないの!」
聞き分けが良さそうなのが救いか。
「ほら、手を繋ご───って言ってるそばから走るな!」
「んー!」「返事だけは一丁前だな……。」
「おへんじ、じょーず?やたー!」
嬉しそうにぴょんぴょん跳ねて赤信号を渡ろうとする。
思わずかわいい腕を掴んだ。
「ニンゲンしゃ、いたいー!」「危ないだろ!」
「なんでー?」「赤は渡っちゃ駄目だ。青の時に渡ろうな?」
「あおー?⬛︎⬛︎ちゃんのいろににてるねー!」
……全く呑気なやつだ。
「ちょっと今日はもう帰ろうか。」「えー?あしょびたいのにー!」「ニンゲンのルールをもっと知らないといけないから。」
「るーる?てなにー?」「お約束、ってとこかな。」「ん!」
それから……自分にはスリル満点すぎた。
一歩間違えたら事故だし……ついでに言えばあいつに何言われるか分からないからな……。
「じゃー、だっこ!」「はいはい。」こっちの方が安全だ。
……小さな子どもはあったかいな。湯たんぽみたいだ。
安心したのか、もう眠り始めた。
……よっぽど抱っこが好きなんだな。
にしても、親代わりっていうのは大変なことだ。
でも……悪くはない、かも。
「前回までのあらすじ」───────────────
ボクこと公認宇宙管理士:コードネーム「マッドサイエンティスト」はある日、自分の管轄下の宇宙が不自然に縮小している事を発見したので、急遽助手であるニンゲンくんの協力を得て原因を探り始めた!お菓子を食べたりお花を見たりしながら、楽しく研究していたワケだ!
調査の結果、本来であればアーカイブとして専用の部署内に格納されているはずの旧型宇宙管理士が、その身に宇宙を吸収していることが判明した!聞けば、宇宙管理に便利だと思って作った特殊空間内に何故かいた、構造色の髪を持つ少年に会いたくて宇宙ごと自分のものにしたくてそんな事をしたというじゃないか!
それを受けて、直感的に少年を保護・隔離した上で旧型管理士を「眠らせる」ことにした!
……と、一旦この事件が落ち着いたから、ボクはアーカイブを管理する部署に行って状況を確認することにした!そうしたらなんと!ボクが旧型管理士を盗み出したことになっていることが発覚したうえ、アーカイブ化されたボクのきょうだいまでいなくなっていることがわかった!そんなある日、ボクのきょうだいが発見されたと事件を捜査している部署から連絡が入った!ボクらはその場所へと向かうが、なんとそこが旧型管理士の作ったあの空間の内部であることがわかって驚きを隠せない!
……ひとまずなんとか兄を落ち着かせたが、色々と大ダメージを喰らったよ!ボクの右腕は吹き飛んだし、ニンゲンくんにも怪我を負わせてしまった!きょうだいについても、「倫理」を忘れてしまうくらいのデータ削除に苦しめられていたことがわかった。
その時、ニンゲンくんにはボクが生命体ではなく機械であることを正直に話したんだ。「機械だから」って気味悪がられたけれど、ボクがキミを……キミ達宇宙を大切に思っているのは本当だよ?
それからボクは弁護人として、裁判で兄と旧型管理士の命を守ることができた。だが、きょうだいが公認宇宙管理士の資格を再取得できるようになるまであと50年。その間の兄の居場所は宇宙管理機構にはない。だから、ニンゲンくんに、もう一度一緒に暮らそうと伝えた。そして、優しいキミに受け入れてもらえた。
小さな兄を迎えて、改めて日常を送ることになったボク達。しばらくのほほんと暮らしていたが、そんなある日、きょうだいが何やら気になることを言い出したよ?なんでも、父の声を聞いて目覚めたらしい。だが父は10,000年前には亡くなっているから名前を呼ぶはずなどない。一体何が起こっているんだ……?
もしかしたら専用の特殊空間に閉じ込めた構造色の髪の少年なら何かわかるかと思ったが、彼自身もかなり不思議なところがあるものだから真相は不明!
というわけで、ボクはどうにかこうにか兄が目を覚ました原因を知りに彼岸管理部へと「ご案内〜⭐︎」され、彼岸へと進む。
そしてついにボク達の父なる元公認宇宙管理士と再会できたんだ!
……やっぱり家族みんなが揃うと、すごく幸せだね。
そして、構造色の少年の名前と正体が分かったよ。なんと彼は、父が考えた「理想の宇宙管理士」の概念だった。概念を作った本人が亡くなったことと、ボク以外の生きた存在に知られていないことで、彼の性質が不安定だった原因も分かった。
ボクが概念を立派なものに書き換えることで、おそらく彼は長生きするだろうということだ。というわけで、ボクも立派に成長を続けるぞ!
─────────────────────────────
ニュースで見た限りだが、総辞職して次期首相に任命されたとき、その当人は居眠りをしていたという。
原因はあの体型だから睡眠時なんとか症候群で居眠りをしたとか、ナルコレプシーだからどうだという説が囁かれている。
病気ならアレだけど、こういった説もある。
朝、風邪薬を飲んだので、つい眠気が出てしまい、国会で寝てしまったとのこと。
これも「スリル」だよなあ。
肝が据わってるというかなんというか。
「スリル」
針の先をつまんでみては
皮膚にちくりと刺すような
遊びをただしてるだけ
ちくりと刺された痛みはここに
全て預けてしまうだけ
ハラハラ
ヒヤヒヤ
は
わたしの人生には
なるべく
要らない。
わたしの
心が
不安定に
なってしまうから。
締切ギリギリとか
絶叫系アトラクションとか
本当に
ニガテ。
なるべく
そういう選択肢を
選ばないように
自分が
穏やかに
生きていける道を
探していく。
わたし自身のために。
#スリル
[スリル]
「皆が静かな教室で叫ぶのスリルあってなんか好きなんだよね~爆笑爆笑」
こんな変なことばかり言って盛り上がってた学生時代。
スカイダイビング、ホラー、対戦ゲーム。
スリルを味わうために作られたもの。
空を飛べる能力、呪霊、呪霊討伐。
俺たちの日常と何ら変わらない。
スリル満点波乱万丈、俺たちの青春。
水魚之交一日千秋、傑が大好きな俺。
五里霧中愛別離苦、置いていかれた僕。
親友は僕を怪物にした。
傑という重荷を背負った最強の怪物にした。
怪物にさせたんだよ、傑。
強盗、殺人、誘拐。
スリルのある犯罪、許されない罪。
討伐、討伐、討伐。
僕の日常と何ら変わらない。
変わらないはずだった。
お前がいなければ、お前が見つからなければ、
お前が知らない場所で幸せに生きていてくれたら。
スリル満点波乱万丈、僕らの青春。
水魚之交一日千秋、傑が大切な僕。
五里霧中愛別離苦、僕の未来。
僕は親友を消してしまった。
傑という重荷を背負い続ける最強の怪物になった。
僕は怪物。
スリルには良いスリルと悪いスリルがあると思う。良いスリルはあった方が良いときもあるだろう。だが悪いスリルはいらない。それは人を悪い意味で不安にさせるし危ないと思う。だからいらない。しかし良いスリルは人を成長させてくれると思う。さらに程よいスリルは人生を楽しくさせてくれるだろう。何も起きず平和に過ごせることも良いが、ときにスリルというスパイスを加えることで人生をより楽しめるはずだ。
一人暮らしを始めてすぐの頃、映画「リング」を借りた。
なんでも後回しにしてしまう私がその映画を見終えたのは、レンタル期間の最終日。閉店時間も過ぎていて、店外付けの返却ポストを利用しなきゃいけない時刻だ。
映画はとても怖かった。そして時刻は深夜。
絶対に延長料金を払いたくないと覚悟を決めて、本気で怯えながら真っ暗な道を歩いていった。
私は学校の屋上に君を呼ぶ
息を切らして到着する君
辞めろよだの、意味ないだの、俺がいるだの、君はいうけど
私をあと一歩を踏み出そうとする
その時君は私の手を引く
死ねなかった。
やっぱり、君は私しか愛せないね。
スリル。
小説。
出前館さんやウーバーさんは、動きやすくて清潔感のある格好をしている。片手に端末を持って、商品受け取り口へまっすぐにやってくるので、ぱっと見で判別ができる。
お客さまへは「いらっしゃいませ!」といい、出前館さんやウーバーさんには「お疲れさまです」という。
ぱっと見で客か、ウーバーさんたちか見分けられるしかも百発百中の先輩がいる。
その日は大雨で、夏はもうこれっきりというような荒れた天候だった。
店内はガラガラだった。雨やどりにときどき人が入ってくるくらいで、あとはフードデリバリーとネットテイクの注文が届くきりだ。
こんな日にウーバーなんてと俺は思うが、ウーバーさんのなかは「楽しいじゃないですか! こんな日こそ!」「平気ですよ! 好きなんです」と言っている人もいる。こんな日に商品を取りに来てくれるのはそういう配達員さんだ。
「スリルですよ」
「スリルですか」
「じゃッ。お疲れさまです」
「お疲れさまです。おねがいしまーす」
俺は、せめて事故に遭わないようにと祈りながらウーバーさんを見送った。
入れ違いでつぎのお客さまが入ってきた。
蛍光オレンジ色のつなぎを着たお客さまだった。
ウーバーさんかな、出前館さんかな、見たことない配達員さんだ、と思いつつ、「おつかれさまでーす」と声をかける。
若いお兄さんははにかんだ。
「番号おねがいしまーす」と俺はいった。
「すみません。ネットで注文していたN0010です」といわれた。
ウーバーじゃなかった。
「ウーバーかと思ったわよねぇ」とフロントの田川ナミ子さんにも囁かれた。
「服がね、あれだものね、世良くん」
「オレンジですからね。俺、間違えましたよ。お疲れさまですって言っちゃいました」
「あたしも。焦っちゃったわ」
「スリルですねぇ」
「はァ?」
オレンジのつなぎのお兄ちゃんが雨の中を走り抜けているのが見えた。
店の前のタクシー乗り場脇に、ゴミ収集車が止められていた。
ゴミ収集車のお兄ちゃんだったのか。
ゴミ収集車には運転席にもひとり乗っていて、お兄ちゃんに向かって助手席の扉を内側から開けてあげていた。
いっしょに食べるのかなとおもっていると、ナミ子さんが、「おいしいもの食べてほしいわね」といった。
「そうですね」
「お疲れさまよお」
「お疲れさまですね〜」
時間帯責任者のウルシバタさんが、そのときうしろから飛び出してきた。
「ええーい帰りましょう! あと一時間で店を閉めます。店は十五時までね。わたしと世良くんは残ってクローズ。ナミ子さんは十四時で上がっていいわよ」
「やったー!」
ナミ子さんがお疲れさまでーすとフロントでくるくる回る。
それを見て、雨やどり中のお客さまが笑っていた。
読了ありがとうございました!