ミキミヤ

Open App

教壇の上、教卓の中に潜む。

「もういいかい」「もういいよ」

廊下の外から聞こえる鬼の声に応えた。身を縮まらせて息を殺す。ここからドキドキのかくれんぼのはじまりだ。

放課後、幼馴染の友人と4人、久々にかくれんぼをしようという話になった。
このかくれんぼの範囲は、僕たち4年生の階の3つの教室と、廊下の全て。鬼が全員見つけられたら鬼の勝ち、見つけられなければこちらの勝ちというルールだ。
僕は、かくれんぼ参加者の誰も属していないクラス、鬼から一番遠い教室に隠れていた。
放課後の教室は静かだ。残っていた子が少しいたが、僕が隠れさせてほしいと伝えると、みんな了承してくれた。

「アサギ、見ぃつけた!」

さっそく、別の子が見つかった声が聞こえた。鬼はまず廊下から攻めているようで、その子が見つかったのもどうやら廊下のようだ。どこに隠れていたのだろう。掃除用具入れの中だろうか。僕はそのくらいしか思いつかなかった。
あと、2人。
鬼はやがて、僕のいる教室の隣の教室に入っていった。僕らの行方を周囲に訊く鬼の声と、「鬼なんだから自分で探せよー」と笑う周囲の声が聞こえた。教室にいる子達がかくれんぼの事情を事前に把握していたように聞こえた。もう一人は隣の教室に隠れているのだろう。

教卓の下に身を縮めながら、仲間が見つかりませんようにと祈る。
――が、それもむなしく。

「スズ、見ぃつけた!」

隣の教室の仲間は、あっさりと見つかってしまった。

「悔しい!」
「いや、カーテンの裏とか、動いたら丸わかりだから」
「動かないようにしてたつもりだったんだけどなー!」

鬼と見つかった子の声が聞こえる。
廊下で「お疲れさまー」と見つかった子同士が労い合う声も聞こえた。
あと、1人。最後は僕だ。

僕のいる教室のドアが開く。「サワ知らねえ?」教室に残っていた子に鬼が訊く。「知らないよ」誰かが応える。
鬼がバッとカーテンをめくる気配がした。「さすがに同じとこにはいないか……」鬼が窓際を離れる。
掃除用具の入ったロッカーをガチャガチャと開ける音。一つ一つ机の下を覗く気配。少しずつこちらに近づいてくる。
鬼が、先生の席までやってきた。気配が近すぎて心臓が口から飛び出そうだ。鬼が椅子を引く。「居ねえなあ。サワ、どこだー?」少し大きな声で鬼が言う。「見つかんないな。ここじゃないのか?」独り言をいいながら、教壇の上を横切っていく。僕の直ぐ側を通り過ぎた。教室のドアを開ける音。廊下で「お〜い!サワ〜!」と僕を呼ぶ声がする。

見つからなかった……?僕が緊張を解き、詰まっていた息を吐き出したその時。バタバタと走る足音がして。

「サワ、見ぃつけた!」

鬼がにゅっと教卓の下に顔を覗かせた。

「うわあっ」

僕は驚いて教卓に頭をぶつける。

「はは、驚いた?絶対ここじゃんって思ったんだけど、せっかくだから一旦油断させて驚かせてやろうと思って。大成功!」

鬼がニヤリと笑う。

「なんだよ、わかってたのかよ。マジビビった。わきを通り抜けられたときなんか心臓止まるかと思ったよ」

僕が言うと、鬼はまた「作戦通り!」と笑った。

先に見つかった2人とも合流して感想を言い合う。
久々のかくれんぼは、思った以上に楽しかった。
場所を変えてまたやろうと約束した。
こうして僕のスリリングな放課後は幕を下ろした。

11/13/2024, 9:15:11 AM