あなたは、太陽みたいな人だった。
周りを明るくして皆に慕われて。
私もあなたに照らされる一人だった。
あなたを喪った痛みにもがきながら、思うの。
私もあなたみたいになりたいって。
今からでも、私でも、なれるかな。
私はこれからずっと、あなたっていう光の星を追いかけて、届こうと手を伸ばして、生きていくよ。
どうか見守っていて。
【星を追いかけて】
大切な人を亡くした。私は胸が引き裂かれるような絶望に支配されているのに、世界はいつものように回っている。
あの人が亡くなって初めての朝。眩しく美しい朝だった。私はそれが悲しかった。
あの人が亡くなって2日目。早くもこぼれ落ちていく記憶の欠片を慌ててかき集めようと、もがく。あの人の面影がどんどん遠ざかっていく。それがどうしょうもなく寂しくて、悲しい。
あの人がいない日を一日一日重ねていく。記憶はどんどんぼやけていく。あの時どんな表情だったか、どんな声だったか、わからなくなっていく。
それでも、一つだけ確かに覚えていることがあった。それは、あの人が私を愛していてくれたこと。
私があの人を支えているのだと思っていた。でも、違った。あの人の存在に、その愛情に、私はずっと支えられていた。
今はまだ黒い絶望が私の胸を締め付けて苦しい。それでも、あの人の後を追いたいとは思わなかった。むしろ、あの人が生きられなかったその先を、私がしっかり生きなければ、と思った。
だから私は、今を生きる。絶望の中でも、どんなにもがき苦しんだとしても。あの人がいない世界で、私は生きていく。
【今を生きる】
空は青く晴れ渡り、薄黄色の砂浜は、強い陽射しを浴びて白く輝いている。砂浜のあちこちにパラソルが立てられ、道路沿いには海の家が立ち並ぶ。
打ち寄せる波は少し冷たい。波打ち際から進んで少し深いところへ頭から飛び込めば、暑さに焼かれた頭が冷えて、何とも心地よかった。口の中にしょっぱさを感じて、テンションが上がる。「うわー!しょっぱい!海だよ、海!」君を振り返って大口を開けて笑えば、君は私のはしゃぎように少し呆れて笑っていた。
そんな君目掛けて、手で水をすくってかけてやると、君は驚いて一瞬目をつむって、次の瞬間には「やったなー!」と笑って、私に向かってやり返してくる。
私は夏が好き。こうしてはしゃいで騒いで、君とふたりで過ごせるから、好きなんだ。
【夏】
言葉にしなかった。言ってしまえば、きっと全てうまくいかなくなるって分かってたから。
双子の妹と、幼なじみの男の子。どっちも大好きなふたり。そのふたりが好きあって、想いが通じ合って、幸せそうに笑ってる。
こんな場面、私だって嬉しい……嬉しい、はずだった。私も彼を好きじゃなかったら。
妹も彼も、私の想いなんて知らない。ここで笑わなきゃ、笑って「おめでとう」って言わなきゃ、絶対おかしい。気づかれちゃいけない。間違っても「なんで私じゃなかったの」なんて、口にしちゃいけない。ふたりの幸せに水を差して、3人の関係を気まずくして、壊しちゃうようなこと、したくない。
だから私は、真実を胸に秘めたまま、ふたりを祝福した。まるで痛みなんてないみたいに笑って。「ふたりでデートもいいけど、私に構うのも忘れないでよね」なんてふざけてみたりして。
ふたりは「忘れるわけないじゃん」って笑ってた。
その日はいつも通り3人で遊んで、妹と2人で帰宅した。母が作る夕食をいつも通り美味しくいただいて、夜もいつも通り過ごした。
そして、妹と同じ部屋、二段ベッドの上の方、自分だけの居場所に帰ってきて初めて、胸の傷と向き合わなきゃいけなくなった。
寝るために暗くした部屋で、二段ベッドの下の方には妹が寝てる。私はバレないように静かに泣いた。
なんで私じゃなかったの。私の方が早く想いを伝えてたら、彼と付き合うのは私だった?
3人で過ごすのが心地よくて、想いを伝えることに臆病になってた私が悪かったのだろうか。だから、今、こんなに痛いのかな。
頭の中をいろいろな考えが駆け巡った。
涙はとめどなく流れた。たぶん人生で一番泣いた。
そして私は、覚悟を決めた。この真実は、一生隠し通そうと。大好きなふたりのため。ふたりのことが大好きな私のため。
隠された真実は、涙とともに、夜の闇の中、深い胸の奥底へ沈んでいった。
【隠された真実】
軒に下げられた風鈴が、風に吹かれて、何とも涼し気な音を立てる。
アスファルトの地面からはユラユラと熱気が立ち上り、吹く風も生温いというのに、それが立てる音は涼し気なのだから、不思議なものだ。
冷蔵庫から、三角に切られた西瓜と、冷たい麦茶を取り出して、軒先に座った。
西瓜の上には少しのお塩。齧り付けば、ジュワリと果汁が口の中に溢れ、塩が引き立てる甘さが、暑さで疲れた胃腸に染み渡る。麦茶のコップを煽ると、芳ばしい香りが鼻を抜け、冷たさが喉を冷やす。
リリィーン……リィーン……
汗をかいて、風鈴の音に耳を涼ませながら味わう夏の味覚は、この上ない贅沢に思えた。
【風鈴の音】