ミキミヤ

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【虹のはじまりを探して】※長いです

虹のはじまりには、特別にすごい妖精さんがいて、願いをひとつ叶えてくれるらしい――。

古くからぼくたちの村に伝わるお話。
お星さまになったおかあさんにまた会いたいぼくは、その願いを叶えるために、相棒の犬のチッポと一緒に旅に出た。
虹のはじまりを探して、雨雲の後を追いかける。
晴れた後に、綺麗な虹が出たら、そのはじまりを探して走る。
山あり谷あり、ぼくらの冒険は続く。
虹を追いかけても追いかけてもはじまりにはなかなかたどり着けなくて、苦しかった。だけど、その度にチッポがぼくを励ましてくれた。そばにいて、くるんと巻いた可愛いしっぽを振って、大丈夫だよって言ってくれてるみたいだった。だから、ぼくは頑張れた。

何度目の虹だっただろう。もう数え切れないほど追いかけた先で、ぼくはやっと虹のはじまりを見つけた。
なないろに輝くその綺麗な場所には、小さくて可愛らしい妖精さんがいた。
「あらあら、人間がここに来るなんて珍しい」
妖精さんは目を丸くして言った。
「あの、ぼく、お願いを叶えてもらいたくて、ここに来たんです」
ぼくがそう言うと、妖精さんはニコリと笑った。
「そうなのねそうなのね、あなたのお願いはなぁに?」
ぼくは、ゴクリとつばを飲み込んだ。そして、お願いを言った。
「ふむふむ、お星さまになったお母さんに会いたい?」
妖精さんはぼくの言葉を繰り返す。そして、
「どうしてどうして?」
と不思議そうな顔で言った。
「どうして……?そんなの会いたいからに決まってる!」ぼくは叫ぶ。
「なぜなぜ?会いたいのはなぜ?」
妖精さんはまた不思議そうに訊いてくる。
そこでぼくは言葉に詰まった。だって、会いたいのに、理由なんてない。
黙ったぼくに、妖精さんは優しい笑顔で語りかける。
「あのねあのね、理由のないお願いは叶えられないのよ。理由のないお願いには果てがないから」
ぼくは頭をハンマーで殴られたみたいな気分になった。ぼくのお願いは、叶わない?おかあさんには、もう会えない?
ぼくは足から力が抜けて、その場にへたりこんだ。目からは涙が溢れた。それを、チッポがぺろぺろ舐め取ってくれる。
妖精さんは、ぼくらの姿を見て「うふふ」と笑った。そして、キラキラの虹色の粉をチッポに振りかけた。
「たいせつなごしゅじんさま、なかないで」
チッポがそう言った。ぼくはびっくりして、妖精さんの方を見上げた。妖精さんは楽しげにウインクした。
「ねえごしゅじんさま、ぼくがいるよ。そばにいるよ」
チッポがぼくを舐めながらそう言う。
チッポがいる。そうだった。この旅の間だってそうだったのに、ぼくは今、それを忘れてた。
おかあさんには会えなくても、チッポはそばにいてくれる。そう思ったら、足に力が戻ってきて、ぼくはまた立ち上がれた。
「ごしゅじんさま、だいすき。もうだいじょぶ?」
ぼくを心配そうに見上げるチッポに、ぼくは頷いた。
「ねえねえ、わたしの魔法、気に入ってくれたかしら?」
妖精さんがニコニコ笑っている。ぼくは頷いて深くおじぎをして、
「はい。ありがとうございます。大切なこと、思い出せました」
と言った。
妖精さんはくるくる回って楽しげに笑った。

やがて、虹のはじまりが薄くなりはじめた。妖精さんは、ぼくらに小さく手を振って、空の向こうへ飛んでいく。
ぼくはそれに手を振り返しながら、脇でしっぽをブンブン振ってワンワン吠えるチッポを撫でた。

虹が消えた空は、青く晴れ渡っていた。
ぼくは心の中でもう会えないおかあさんを思った。やっぱりまださびしい。けれど、ぼくは独りじゃない。隣を見ればチッポがいる。

ぼくはまだ、自分の足で歩けそうだ。

7/29/2025, 9:35:14 AM