『ゆずの香り』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
顔見知りの店長が営む書店。
レジへいくと、無骨に角張った指が机上の柚子を弾く。
「よかったら、あげる」
いつも通り、無愛想なしゃがれ声が耳を撫ぜた。
「ゆずの香り」
ゆずは好き。
あの爽やかな香り。
私には到底
似合わないとは思うが。
大嫌いなかぼちゃが夕飯に出た。
「かぼちゃは栄養満点なんだから今日ぐらい一つ食べなさい!」
目くじらを立てたお母さんが、私の取り皿にかぼちゃの煮物を一切れ取り分けた。そりゃあお母さんからしたら一口大のかぼちゃだけど。私からしたら巨大な台形型の天敵である。食感はモソモソするし、繊維だか何だかが口に残るし、なによりもったりした舌触りが気に入らない。皮付きで堂々煮付けられたくせに肝心の皮が全然柔らかくないのも憎たらしい。
私は顔を歪ませたまま、果肉の部分を箸で少し摘んで口に含んだ。しょっぱい煮物しか知らないからかぼちゃ独特の甘味に眉間の皺が寄る。
私の様子に見かねたお母さんが、鬼の形相で口を開く。
「そんなの食べたうちに入るわけないじゃない! 食べたくないならもうご飯終わってもいいんだよ!」
「やだ!」
「じゃあ嫌いな物も食べなさい!」
「やだ!」
「わっっっがままっ!!」
やばい、返事間違えた。
そう思った時にはすでに手遅れで、お母さんは私が次どんな行動を取るか見張る態勢になった。
さすがにこのまま平然と他のものを食べたら、私は明日からご飯がなくなる。
私はそう危機を感じ取り、半ばヤケでかぼちゃを一切れ箸で刺し、口に放り込んだ。噛めば噛むほどもたつく口の中を、冷たいお茶と温かいお味噌汁で飲み下す。嫌いな食べ物の、嫌な味が口に残る中、私は新しいお茶を注ぎに席を立つ。
「最初っから食べればいいんだよ。たった一個で大袈裟な」
グチグチと続くお母さんの小言に、私は何も言葉を返せなかった。ただ席に戻って、残りのご飯を飲み込むようにかき込んだ。
トウジにはナンキンとユズユ。
ここに「冬至」と「南瓜」、「柚子湯」が当てはまり、日本の年中行事であると理解できるまで十年以上は掛かった。
当時の母と変わらない年齢に達しても、かぼちゃへの苦手意識は克服できないままだ。だからかぼちゃの他に「ん」が二回繰り返される食べ物を食べると良い、という言い伝えを当てにして、ニンジンとレンコンのきんぴらを毎年食べている。
ご飯の後は、ゆずの香りが漂う湯船に全身で浸かる。ぼんやりと宙を見ながら、遠い日の記憶を思い出して悶絶する。超絶わがまま娘時代の私は黒歴史と呼ぶに相応しいくらい、高飛車で小生意気な小娘であった。
『ゆずの香り』
ゆずの香りを嗅いで想い出すのは、好きだった人の匂い。
すれ違う時にいつも、ゆずの香りがしていた。おそらくは香水なのだろう。
想いを抱くことはあっても、伝えることはできなかった。だから、懐かしいと言える。
すれ違いに挨拶をする程度の間柄だったから。それぐらいにしか接点は無かった。
だからこそ、今、ゆずの香りを嗅ぐと、想い出すのだ。叶うことの無い恋だとしても。
今も、冬になると、ゆずの香る季節になると想い出す。
忘れたい悪夢の中の良心的な恋としてーー。
ーーその恋心は叶うことの無いもの。胸に秘めたまま終わって散ってしまったもの。
忘れたい悪夢。忘れてしまえば、恋を抱いたことだけを遺して無くなってしまう。
儚い記憶の片隅に色づいたもの。それがゆず香る季節の恋なのだからーー。
湯船に浮かんだ柚子をつつく
静かに少しだけ進んで、また止まる
それをもう一度前に押し込む
軽い音がして、柚子はお風呂の縁にぶつかる
途端に関心が失せてしまって、天井を眺めだす
白い天井に意識が吸い込まれる
明日が来なければいい
このまま今日、世界が滅んでしまえばいい
朧げな視界の中、水面が迫ってくるのが見えた
ゆずの香り
良い匂い
冬至にお風呂に入れて温まる良い香り!
1軒目2軒目は自慢の特技で吹き飛ばしたが、どうもこの3軒目には通用しないようだと諦めた。
だが、特技で吹き飛ばすのを諦めただけで、全て諦めた訳では無い。特技を潰された恨みもある。絶対に中の奴らを見返してやる。
だが、特技以外に自信は無い。腕力で向かっても特技より弱いだろう。どうするべきか悩み、まずは相手をよく観察して対応するべきだと家の周りをぐるぐる回って突破口を探す。
ひとついい場所があった。煙突には蓋が無い。入ってしまえばこちらのものだ。
屋根に登り煙突へ飛び込む。が、飛び込んでからふと思う。
煙が出ている煙突って事は下は火が点いてるんだよなと。
思った時にはもう手遅れ。
下で沸かされていた湯にドボン!!
熱つつつ!!と叫ぼうとして……叫ぶのをやめた。
熱くない。というか、まだ少しぬるい。
沸かしきって煮えたぎる前に落ちたのだ。どうすればいいか分からなくなり、ゆずの香りのする湯に浸かったまま硬直して奴らを見る。
奴らも驚きと戸惑いの表情で見ている。
「ぉお、オ…オオカミさん、湯加減はどうですか?」
奴らの1人がそう声を発した。その問いで理解する。
「まだちょっとぬるいけど、ゆず湯にするならこのくらいでいいのかもしれない」
そう、ここは風呂場だ。
最初の特技の事やコイツを見返してやろうとしていた事など頭から抜けてしまったオオカミはゆずの香りを堪能して帰って行ったのでした。
(ゆずの香り)
三匹の子豚のオマージュ、ゆず湯は少しぬるめにして、浮かべた終えたゆずは水アカ除去掃除などに使うと良いよ。
ゆずの香り
「みすずちゃん。新しいお客さんよ。どうかしら。」
バーカウターの中でカクテルを作っていた手を止めて玲子ママがそっと教えてくれたお客さんが店内に入って来るのを見た。
「え!?」
ガタン。
私は慌ててカウターの中に身を隠すように座り込んだ。うぇ。気持ち悪い。
「何!みすずちやん。どうしたのよ」
近くにいたバーテンダーに支えられながら立ち上がれば、白い豪ジャスな着物を着た玲子ママが心配そうに声をかけてきた。
「すみません。玲子ママ。真ん中にいたお客さまは大丈夫ですけど、右側にいた紺野スーツの人はちょっとヤバイです。」
「ヤバイってどんな色だったの。」
「何て言うか、灰色かかった黒ぽい感じです。あんな色始めてみました。何か灰色が体に絡みついてるようで気持ち悪かった」
都会のスナックでバーテンダーとして勤めている私は、人の色を見ることができる。
色が見えるなんて信じてくれない人が多いが、玲子ママは違った。
いや、玲子ママも始めは信じていなかったが、ホステスとして働く私が選ぶお客さまが何故か上玉ばかりなので私を信じるようになった。そう私はお客さまを選んでいて、色てお客さまを判別していたのだ。
私の見える色は、その色によって性格や幸福度、羽振りの良さなどに違いがあり、明るく綺麗な色ほどその人の幸福度は高く、優しい性格の人が多い。逆に濃い色や汚れた色、くすんだ色の人はあまり良くな人生を歩んでいる人が多い。つまり、都会のスナックにおいてお金も人望もない人は歓迎されない。
玲子ママは私の色を見る能力を評価してくれてホステスではなく、バーテンダーとして働くことを進め、お客さまの判別をして欲しいと頼んできた。今まで、この色のことで辛いことばかりだったが玲子ママに会って自分を必要としてくれる人ができて嬉しかった。
今日も新しいお客さまが来るからと玲子ママに声をかけられ色を見たが、1人はとても気持ち悪い色だった。あんなの凶悪犯人の色だ。あの絡み付く灰色はなんたろう?執着や執念みたいなものだった。
見た目は優しそうな人だったけれど、確実にヤバイ。
「お客さま。申し訳ございませんが、うちはご紹介がない方は入店をお断りしておりますの。この界隈で珍しい?そうでしょう。私は古くからの格式を重んじておりますの。ごめなさいね。」
玲子ママがさり気なく新しいお客さまの入店を断った。一緒に来ていた人も同じように断ってしまい少し勿体ない気もするが仕方がない。
「ママ良かったんですか。」
「良かったのよ。みすずちゃんの人を見る目は間違いはないわよ。店のなかで騒ぎでも起こされたらたまらないわよ。ゆずの香りのカクテルをちょうだい。スッキリしたいわ。」
「はい。今お持ちしますね。」
それから1月後、新聞にあの灰色のお客さまの家の床したから奥さんが見たかったと載っていた。3ヶ月前から行方不明だったらしい。
「みすずちゃんの言う通りだったわね。入店拒否して良かった〜。これからもよろしくね」
確かに殺人犯が常連さまだったなんてマスコミのネタになっていたことだろう。
でも、あの気持ちの悪い色はやっぱり奥さんの怨念だったのたろうか。2度と見たくない色だ。
《この季節に香る》
「さっっむい!!」
冬の冷たい空気の中を足早に帰ってきた君は、鼻を赤くしていた。
「お風呂あったかいよー」
「最高!大好き愛してる!!」
大袈裟な愛の告白を叫ぶ君に思わず笑ってしまう。
直後お風呂場から「柚子湯だー!!」とまた声が。
「12/21は冬至だからねー」
「そうだった!うわぁ、めっちゃいい香り」
子供みたいに無邪気な君の反応と
ゆずの香りを体に纏わせる君を待ちながら、
どうかまた来年もこうして笑い合えることを願っているよ。
#ゆずの香り
六花の花咲く
窓ガラス
見えない星を数え
残り少ない今年を振り返る
湯気の中に浮かぶのは
ホッとさせる心地好いかほり
何故か今夜は
湯船に揺られ
自分を優しく褒めてやりたい
ゆずの香り
駅のホームでふと香ったゆずの香り。
その香りに導かれるように歩くと、目の前に現れたのは、
昔通っていたカフェのオーナー、リョウさんだった。
「おお、久しぶり!」
リョウさんは笑いながら、手にゆずを持っていた。
「これ、君にちょうどいいと思って。」
「え、なんで急にゆず?」
私は驚きながら聞いた。
リョウさんは少し照れくさそうに言った。
「君が好きだったジャム、覚えてる?それを作ったんだ。」
「あのジャム…」
私は懐かしさに微笑んだ。
「君にもぜひ試してほしいな。」
リョウさんはジャムを手渡してきた。
「ありがとう。」
私はそれを受け取ると、ふと心が温かくなるのを感じた。
その香りが、あの頃の静かな記憶を呼び起こし、
私は少しだけ胸が締め付けられるような気持ちになった。
でも、それでも歩き続ける。
あの頃の私が、今もどこかに残っている気がしたから。
「ゆずの香り」
たった1つのゆず。
こんなゆず1つでも落ち着ける匂いがする。
そう、こんなゆず1つでも
人を落ち着かせれる力を持ってる。
ゆずより人間の方が上。
そんな当たり前のような、
ゆずを見下すようなことを言いたいわけではないけど、
まぁ変な比喩表現みたいなもので。
ゆず1つでも人を幸せに出来て、
ならきっと人1人でも人を幸せに出来るだろうと。
"ゆずの香り"で人が幸せに出来るなら
人にだって似たことが出来るだろうと。
そんなひとつのゆずの香りで
人の可能性を感じたりできた今日この頃。
ゆずの香り
義母が毎年作ってくれる
ゆず酒
甘味と酸味のバランスがちょうどよくて
毎回水割りで飲んで年始を過ごすのが定番に
夏前に大病を患っていつもとは違うお正月
この日々は当たり前じゃない
今年も美味しく飲めそうで安心です
いつもありがとう
ゆずの香り
ゆずの香りってほのかに爽やかである
お吸い物やうどんに入っていると
ゆずの香りだけで
うまいなぁ
とうなってしまう
食べ物を美味しくさせる香り
ゆず
ゆずの香りで癒やされて
香りを楽しむことを考えた人は本当に天才だと思うのである
#ゆずの香り
いっぱいのゆずを浮かべた浴槽
風邪を引かないようにと願いを込めて
小さくなった身体とゆっくり過ぎる足取りで
貴女はいつも用意してくれた
食卓には手作りあんこの冬至かぼちゃ
ほくほくとしたかぼちゃと柔らかな小豆
あぁ 会いたいなぁ 食べたいなぁ
あたたかな柚子の色が鮮やかに湯船を彩っている。
いびつな形のまるい柚子が二つ、幼い僕の身体の横を流れて、父の濡れたまっくろな胸毛をなでた。
あのときより狭い湯船と、あのときより大きな身体。
あのときと似た小さな手が、香る柚子を大事そうに握りしめている。
21
「わあああああ!!!」
その瞬間、俺の叫びは風呂場で何重にもなって響き渡った。
「何って見ての通り、柚子風呂に決まってんだろ。ほれ、もう一丁!!!」
元気よくそう掛け声を上げて東城翔(とうじょう かける)は俺が入っている浴槽へと思い切り柚子を投げ入れてゆく。
投げる勢いが強すぎるせいで、柚子は湯の表面に振れた瞬間、爆発かと思う程の轟音と水しぶきを上げて湯の中へと入っていった。
「おい、そんなに強く入れなくても良いだろう…!そもそも何個入れるつもりだ」
既にもう二十個ほどは入っている。いくら柚子風呂だと言っても、これは入れすぎと言って良いだろう。
翔は風呂場の入り口付近に仁王立ちしている。
両手には柚子を更に二個づつ持ち、自信に満ち溢れた表情でこちらを見ていた。
「何言ってんだ。柚子風呂なんてのはな、柚子を入れれば入れただけ効果効能があるってもんだ」
「そのような事は無いと思うが…。そもそも冬至はもうとっくに過ぎただろう」
俺は追加で投げ入れられる柚子を避けながら言った。
「分かってねえなあ。イベントなんてのは、"今日だ!"って思ったその日にやりゃあ良いんだよ。クリスマスが夏だって思うなら夏にやりゃあ良い。今は令和の時代だぜ、もっと自由に、フリーダムに行こうぜ!!」
「いや、確かに一理あるが…。とは言えさすがに極論過ぎだろう」
「良いじゃねーか。ほら、それに柚子の良い香りでリラックス出来るだろ」
確かに―――俺は気がつけば頭頂部に乗っていた柚子を手に取り、鼻に近付け少し嗅いだ。
爽やかな酸味のある柚子の香りが心地良い。
「―――この前、俺風邪ひいただろ。で、久々に風邪引いたら結構辛かったんだよ。だから…お前にはそんな思いしてほしくなくてな」
だから柚子を箱買いしてきたんだよ―――翔は少し照れくさそうにそう言って笑った。
(…つまり、俺の身体を労って柚子風呂を―――)
先程までこの男の挙動を全く理解出来なかったのだが、そう聞いてしまうと照れくさいやら、恥ずかしいやら、嬉しいやら、様々な感情が俺の中で沸々と湧いてきた。
俺はどう反応していいのか分からず、思わず翔へ背を向けた。
翔は照れ隠しなのか、そんな俺に向かい無言で次々と柚子を投げつけていく。
ぽこぽこと頭に柚子を受けながら俺は目を閉じた。
(確かに嬉しい。思えば突然箱で柚子を買ってきて、いつもは面倒臭がって嫌々やってるくせに今日は当番でも無いのに風呂掃除に湯船の準備まで突然し始めたと思ったが―――俺の身体を気遣っての事だったのか)
柚子の香りが途端に照れ臭く感じて、俺は思わず鼻まで湯に浸かった。
(先程からぽこぽこと頭に柚子を投げてくるのも愛情の内というわけだ)
このような幼稚な愛情表現もその心情を知れば愛おしさすら感じる――――
「―――訳無いだろ。くらえ」
俺は湯から顔を出すと、浮いていた柚子を掴み、振り向きざまに思い切り翔に向かい投げ付けた。
弾けた柚子の香りが鼻腔をくすぐる。その感覚がくすぐったいのか、湯にのぼせたのか、俺は頬が熱くなっているのを感じた。
「ゆずの香り」
柚子の香りって、子供の頃はそんなに好きじゃなかった。
たまに銭湯に行くと柚子湯の日とかがあって、浴室内に柚子の香りが漂ってて。
香りは好きじゃないんだけど、子供だからネットに入って浮かんでる柚子が何だか面白くて、捏ねくりまわしてた思い出がある。
でも、大人になると柚子の香りが好きになった。
何なら味も好きになって、柚子味噌とか、〇〇の柚子風味とかは今はもう大好物。
柚子に限らず、味覚も嗅覚も、子供の頃とは変わってきて、嫌いだった物が好きになったり、逆に好きだった物がちょっと嫌になったりする。
人もそう。
苦手だった人が、実は不器用なだけのいい人だって気づいて好きになったり。逆に好きだと思ってた人が、表面だけ良い裏表のある人だとわかって嫌いになったり。
大人になる事で、初めて見える世界や表情があるけど、それは大人にならないとわからないから。
だから、自分が子供の頃は言われてもピンと来なくて、反発したりもしたけど。
今になったら色々わかる事も出てきて、ちゃんと話聞けば良かったな、って思う事もある。
でも、そうやって失敗をしてきたからこそ気づけた事なんだと思うし、そうやって成長出来たのかな?って思う。
きっと、今の自分の色んな事も、何年、何十年先には「もう、あの頃の私ってばホントに!!」って、赤面物な事が山程あると思う。
でも、逆に言えばそうなれるよう、今の自分よりは成長していたいと思う。
今の私が、見えない·聞こえない·気づかない事に気づける自分に、なっていたい。
ゆず…冬至湯といえば、か。わが家はしたことが無いのだけど、きっと良い香りがするんだろうな。温まりそう。
どちらかというと、ぜんざいの方を食べたい(笑)
「ゆずの香り」
そこを訪れるといつもゆずの香りがした。
死んでしまった愛する人の部屋。