ゆずの香りを嗅いで想い出すのは、好きだった人の匂い。
すれ違う時にいつも、ゆずの香りがしていた。おそらくは香水なのだろう。
想いを抱くことはあっても、伝えることはできなかった。だから、懐かしいと言える。
すれ違いに挨拶をする程度の間柄だったから。それぐらいにしか接点は無かった。
だからこそ、今、ゆずの香りを嗅ぐと、想い出すのだ。叶うことの無い恋だとしても。
今も、冬になると、ゆずの香る季節になると想い出す。
忘れたい悪夢の中の良心的な恋としてーー。
ーーその恋心は叶うことの無いもの。胸に秘めたまま終わって散ってしまったもの。
忘れたい悪夢。忘れてしまえば、恋を抱いたことだけを遺して無くなってしまう。
儚い記憶の片隅に色づいたもの。それがゆず香る季節の恋なのだからーー。
12/22/2024, 12:31:03 PM