たやは

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ゆずの香り

「みすずちゃん。新しいお客さんよ。どうかしら。」

バーカウターの中でカクテルを作っていた手を止めて玲子ママがそっと教えてくれたお客さんが店内に入って来るのを見た。

「え!?」

ガタン。

私は慌ててカウターの中に身を隠すように座り込んだ。うぇ。気持ち悪い。

「何!みすずちやん。どうしたのよ」

近くにいたバーテンダーに支えられながら立ち上がれば、白い豪ジャスな着物を着た玲子ママが心配そうに声をかけてきた。

「すみません。玲子ママ。真ん中にいたお客さまは大丈夫ですけど、右側にいた紺野スーツの人はちょっとヤバイです。」

「ヤバイってどんな色だったの。」

「何て言うか、灰色かかった黒ぽい感じです。あんな色始めてみました。何か灰色が体に絡みついてるようで気持ち悪かった」

都会のスナックでバーテンダーとして勤めている私は、人の色を見ることができる。
色が見えるなんて信じてくれない人が多いが、玲子ママは違った。
いや、玲子ママも始めは信じていなかったが、ホステスとして働く私が選ぶお客さまが何故か上玉ばかりなので私を信じるようになった。そう私はお客さまを選んでいて、色てお客さまを判別していたのだ。

私の見える色は、その色によって性格や幸福度、羽振りの良さなどに違いがあり、明るく綺麗な色ほどその人の幸福度は高く、優しい性格の人が多い。逆に濃い色や汚れた色、くすんだ色の人はあまり良くな人生を歩んでいる人が多い。つまり、都会のスナックにおいてお金も人望もない人は歓迎されない。
玲子ママは私の色を見る能力を評価してくれてホステスではなく、バーテンダーとして働くことを進め、お客さまの判別をして欲しいと頼んできた。今まで、この色のことで辛いことばかりだったが玲子ママに会って自分を必要としてくれる人ができて嬉しかった。

今日も新しいお客さまが来るからと玲子ママに声をかけられ色を見たが、1人はとても気持ち悪い色だった。あんなの凶悪犯人の色だ。あの絡み付く灰色はなんたろう?執着や執念みたいなものだった。
見た目は優しそうな人だったけれど、確実にヤバイ。

「お客さま。申し訳ございませんが、うちはご紹介がない方は入店をお断りしておりますの。この界隈で珍しい?そうでしょう。私は古くからの格式を重んじておりますの。ごめなさいね。」

玲子ママがさり気なく新しいお客さまの入店を断った。一緒に来ていた人も同じように断ってしまい少し勿体ない気もするが仕方がない。

「ママ良かったんですか。」

「良かったのよ。みすずちゃんの人を見る目は間違いはないわよ。店のなかで騒ぎでも起こされたらたまらないわよ。ゆずの香りのカクテルをちょうだい。スッキリしたいわ。」

「はい。今お持ちしますね。」

それから1月後、新聞にあの灰色のお客さまの家の床したから奥さんが見たかったと載っていた。3ヶ月前から行方不明だったらしい。

「みすずちゃんの言う通りだったわね。入店拒否して良かった〜。これからもよろしくね」

確かに殺人犯が常連さまだったなんてマスコミのネタになっていたことだろう。
でも、あの気持ちの悪い色はやっぱり奥さんの怨念だったのたろうか。2度と見たくない色だ。

12/22/2024, 12:23:45 PM