『やわらかな光』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
やわらかな光を授かったような、そんなあたたかな気持ちにさせてくれた君と、君の腕に抱かれている小さな命に、僕は精一杯の感謝を捧ぐ。
【やわらかな光】
昼下がり。廊下であいつと出会した。
小さな風呂敷包みを手にしている。遣いでもあるのかと聞くと外の空気を吸いに、と言う。想定通り。
『時間が空いているから付き合おう。』
何でもない風を装ったが、目の前のやつは妙な顔をした。理由が怪しかった自覚はある。しかし誰かが必ず付き添う理由など、はっきり言って隠す必要は無い、と開き直る。
出会した、というのは嘘だ。昼前に上司から声が掛かり、半日の間、私が目付を任されていた。
『目を離さないで、でも邪魔もしないで。』
何をと問うと、すぐにわかるよと言われてしまい、それ以上聞く事はできなかった。だが、否やはない。
困ったように首を傾げながら、やつは退屈するが良いか、と言った。構わないと答える。
城を出て三刻程歩き、木々の間のぽっかりとした野原へ辿り着く。春には一面小花が咲いて見栄えもするが、今は枯れかけてくすんだ草が秋風に揺れているだけだ。
上司がこいつを一人にさせないのは、夏の初め頃から頻繁に体調を崩し、食欲が失せぐっと痩せてしまっているからだ。なのに、どうして体を引きずってでもこの寂しい場所へ来たがったのかわからない。
手荷物が開かれる。出てきたのは幾つかの、とても小さな握り飯。摘み上げ、のろのろと口へ運ぶ。その一口は鳥が啄むような量だった。溜息をつきながら長い時間を掛けて、やつはそれを食べ切った。日が傾いていた。
『風にあたると吐き気が和らぐらしい。』
あの時間が何なのか、何を報告したものかと思いながら上司を訪れると、そんな事を告げられた。食べようとしているのなら大丈夫、とも。上司の目は、先程別れたやつのものとよく似ていた。つい先程、ありがとう、と言って笑った瞳には、秋の午後の光が揺らめいていた。
【やわらかな光】
カチ、とスイッチを押す無機質な音が鳴る。うっすらと目を開けると、背後から暖色を帯びた光が枕元に差しているのが見えた。
時刻はおそらく日付を越したあたりだろう。隣でごそごそと布団をめくる彼女は最近帰りが遅く、帰ってくるのは私が寝た後が多い。時々その音や明かりに起こされることもあるが、不思議と怒りは湧いてこない。
ペラ、ペリリ。
買ったばかりの本、それもハードカバーと呼ばれる文庫より大きめの本特有の押しつぶされたページが剥がれ、捲られる音が静かな寝室に広がる。
読書家の彼女は疲れていてもこの時間を設けたいらしく、ベッドサイドに置いた間接照明をこっそり付けて私の横で本を開く。そして私は横に並びながら彼女の息遣いが聞こえる偶然のタイミングがたまらなく好きだった。
こちらを気遣いつつも止められない光は、今日もやわらかに彼女の没入する物語を照らしている。
何も掴めなかった
この手を
見上げる空に伸ばしても
誰も
何も
引き上げても
握り返してもくれない
ただ
やわらかな光が
髪に
肌に
微笑みかけるような
暖かさで
包み込んでくれる
無償の愛の
温もりに
心がゆるむ
けれど
祈れない
何も
祈れない
誰にも
今はまだ
「やわらかな光」
森の中に入ると、樹々の間から、太陽のやわらかな光が差し込んでくる。足元はぬかるんでいるが、心地よい温もりを肌に感じながら、私は歩いた。
湖畔は、一周すると20kmにもなるそうだ。ひとまず目的の岬を目指して、歩みを早めた。お昼までには、対岸に渡るつもりだ。
【やわらかな光】
「やわらかな光」
取り込んだタオルをふんわりとたたむ午後。
洗剤のいい匂いが部屋を包む。
窓から差し込む淡い陽の光に微睡んで、ハッとした。
まだまだ、夜まで眠れない。
【やわらかな光】
やわらかな光が斜めに差し込み、ソファで本を読む君の足元を三角に照らしている。
なんでもない休日の午後。
おれは2人分のコーヒーを淹れ、黙って君の前に差し出す。
君は優しく笑って、また本の世界へ。
おれはコーヒーを飲みながら、楽器の手入れ。
2人に今は言葉はいらない。
やわらかな光に包まれて、今はそれだけでいい。
やわらかな光
窓から室内に広がる光を全身で浴びる。
まるで母に抱かれているかのような温かさだ。
パジャマ姿の僕は、胸ポケットに入っているお守りを握り締めた。
明日もこのやわらかな光を全身に浴びることができるはずだ。太陽の光を浴びることが、こんなに心を落ち着かせるものだとは思わなかった。日常の当たり前が愛おしい。
「それでは、そろそろ行きましょうか?」
女性の優しい声が耳に響く。いよいよだ。
白い服を着た女性が3人と男性が1人。部屋に入ってくる。車椅子を移動させると僕を包んでいた光はなくなり、急に寒く、恐怖で身体が震え始めた。
「大丈夫ですよ。必ず元気になります。私が約束します」
心強い言葉を男性に掛けられた。
ゆっくり立ち上がると身体は宙に浮き、ストレッチャーに乗せられる。窓から差し込む光を見つめながら、大きく深呼吸をし、僕は覚悟を決めた。
手術室に向かう。
やわらかな光
少女は、小鳥のような歌声で、楽しそうに歌う。
花々のほんのり甘い香りを纏っていた彼女は、
ふんわりと舞い踊る。
軽い声色で口ずさみ、風を切って踊る少女の長髪を
やわらかな木漏れ日が、朱色に染めた。
【やわらかな光】
血に塗れた人生だった。人の命を奪い、幾度となく両手を汚してきた。この罪の報いは受けねばならない。自分の死はきっと惨たらしいものとなる。そう覚悟していたというのに。
「お疲れ様」
あなたの声が降り注ぐ。ああ、やめてくれ。俺なんかに触れれば、あなたの手が汚れてしまう。そんな俺の願いを見透かしたようにあなたは薄く微笑んだ。
「おまえのそれが罪だと言うなら、その罪に支えられ命を救われてきた私も同罪だ」
高潔にして寛大なる俺の王。あなたの腕の中で死ねるなんて、俺のような者にとっては身に余るほどの光栄だ。
「おまえのような臣を得て、私は幸福だったよ」
やわらかな光が俺を包み込む。あなたの温もりが、優しく意識を溶かしていく。
(おれも、あなたにおつかえできて、しあわせでした)
最期に囁いた感謝は、もはや声にはならなかったけれど。
やわらかな光が私の部屋のカーテンの隙間から刺してくる。
もう、起きなさいと言わんばかりに。
「駿さん……もう起きる時間………」
「うーん。もう、も、少し……………くー」
「駄目です。早く起きて」
そういうと私はベットからスッと降りる。
恋人の制止の腕をかわしながら…
「……今日は駄目です」
「………………」
力なく恋人の腕はベットに落ちる。
その腕は一度落ちたまま、動かなくなった。
…………また寝たな……。
「駿さん、早く起きてっ!遅刻しちゃう」
そう言いながらベットへ戻り膝をベットに置くと、手を優しく引っ張られ、バランスを崩しベットに私は倒れてしまった。
「ちょっ!なんですもうっ!!」
「………たまに敬語になるの、いつになったら辞めてくれるの?……それに、名前もまださん付け……年だって一個しか違わないのに………。」
「忙しい朝にいじける題材じゃないですっ。早く起きて、準備してください!」
「起こしたいなら、一度でもいいから名前にさん付けやめて……そしたら起きる……」
「〜っあのねー。」
「早く……」
私だって本当は名前で呼びたい。
でも、まだ、何だか名前でさん付けをしない呼び方で呼ぶのは、何だかむず痒いのだ。
「…………っ、どう、しても?」
「どうしても」
「………………………………………ん」
「…、なに?聞こえないよ?」
「………くん」
「まだ聞こえない…………」
「駿くん、早く起きて!」
そういった後の沈黙……………
「なんでだまってるのよーーーー!!!!」
こっちは凄く恥ずかしかったのに、黙るなんて狡いっ!!!
「何か言って!!」
そう言うと、彼は静かに私と目があったもののすぐにそらし、こう言った…。
「ごめん……。自分で頼んだくせに、いざ言われたら、なんか凄く恥ずかしくて、むず痒くなった………………
でも、嬉しい。」
#やわらかな光
彼女が僕を見る時、いつもその瞳には仕方ないなぁ、とでもいうような光が宿っている。
暖かく、僕を導いてくれる光。
その光が僕は嫌いだった。
本当はありがたいはずなのに、何故か僕は君に見下されているような気になって、どうしても許せなかった。
ごめん、ごめんね。
僕はその言葉を飲み込んで、君の首に手を掛けた。
そんな時にも瞳にはやわらかな光を宿していた君は、どうして、僕を受け入れるのか、今でも分からないまま。
『お腹』
膨らんだ大きなお腹は希望だ 暗い道が照らされる
お腹の不思議な力だ 羽より重たく フライパンより軽い お腹が行進していくよ いつのまにやら 柔らかい光がお腹に宿る
朝のやわらかな陽光を
グラスに注いで
一気に飲み干す
少しずつ 少しずつ
優しい気持ちが戻ってくる
尖った気持ちが消えていく
心が傷んだ時の
わたしの特効薬
# やわらかな光 (305)
カーテンの隙間から射し込む、朝のやわらかな光で目が覚めた。
ぼんやりした頭で横を向くと、肩に君の頭がもたれかかっていた。
あぁ、そうか。
昨夜は君と二人で飲んで、ソファに座ったまま気付かぬうちに寝てしまったのか。
週末の仕事帰り。「明日休みだし、今からうちで飲もーよ!」と、こちらのことをなんとも思ってないからこそ、気軽に誘ってくる君。
おいおい、一応俺だって男なんだ。襲われたって文句は言えないぞ。とは思うものの、君のことを大切に想っているから、絶対にそんなことはしないのだが。そして君も、そんなことはしないって俺を信頼してくれているからこそ、こうして誘ってくれているのだろうが。
それが、嬉しくて、でも、少し寂しい。
そうして結局二人で君の家で飲んで、こうして何事もなく平和に朝を迎えたのだ。
君はまだ眠っている。幸せそうな顔をして、一体どんな夢を見ているのだろう。
この射し込んでくるやわらかな光のような、明るく、そして優しく俺を照らす君の存在。
もたれかかる右側の温もりが心地良くて、まだしばらくこのままの関係でいいかと、俺もまた幸せな気持ちで再び目を閉じた。
『やわらかな光』
ボクに見せてくれないか
キミの心に潜んだ暗闇を
ボクを信じてくれないか
キミの全てを抱くことを
少しずつ溶かしていこう
ゆっくりと進んでいこう
月の光が差し込むように
闇夜の道を照らすように
キミがキミを思い出す時
ボク達はひとつになろう
小さく瞬いた星がひとつ
心の色を優しく照らして
心の灯を激しく揺らして
『やわらかな光』
自然
カーテンの隙間から差し込む
太陽からの光
直接的に目覚め
間接的に眠る
昔に思いを馳せる
※やわらかな光
やわらかな光
樹々の間から差し込むやわらかな光。平日の午前中。本当なら仕事で慌ただしい時間。
私は壊れてしまった。100時間を超える残業。時間に追われる毎日。疲労と挫折。
そして、マンションの屋上から飛び降りた。植え込みに落ち、一命は取り留めた。
都心から離れた病院。ここで、私は癒されていく。両足、複雑骨折で歩けるようにはならないと思うが、心は穏やかになっていく。
逃げれば良かったんだ、あの地獄から。逃げる勇気がなかった。
やわらかな光。
少し休もう。何も考えずに、、、。
朝の光で目覚めるのは、社会競走のスターターピストルの音が頭に鳴り響くような気がして苦手だ。
だから朝日が昇る前に生活を始める。自分だけフライングしてルール無視の1日を踏みしめられる気がする。
数年前は、日がこのまま昇らないでくれと自殺願望に似た何かを願いながらベッドで怯えていた。
朝日に怯えず強くなれたのは、窓際のベッドでおかしな寝相で寝ている彼女のおかげだ。
「どうやったらそんな体勢になれるんだよ」ツッコミを入れながらコーヒーを淹れる。
今日もコーヒーが苦いことを確認してから視線を寝相に戻す。
今日も日が昇る。
窓から差し込む光は、寝顔に反射してやわらかくなって僕の目に届けられる。
今日も生きていこうと活力が湧く光。
残酷な1日の始まりを寝ているだけで美しいものに変えてしまう魔法に惚れ惚れする。
あしたも日が昇る前に起きようと決意する。
雨上がりの渓谷で、メルルの回復魔法の柔らかい光が辺りを照らしていた。
ヒムのひび割れた腕を治している。
「ポップやマァムのとは違うな」
メルルが目線だけ上げてきた。可愛い眉が寄せられている。ヒムの腕はむくむくとスライムのように治っていった。
「ポップさんやマァムさんに治して欲しかったらそうしてください」
「なんか怒ってる?」
「怒ってます」
「なんでだよ」
なんでだと言ってからなんとなく分かった。別の人の名前を出したのが悪かったのか。
「違います!無茶しないで欲しかったんです!」
こちらの心を読んだように叫ぶ。もしくは本当に読んだのか…
「しない訳にいくか。何のためにオレが居るんだよ」
傍には落石が転がっていた。メルルに当たっていたら命はなかった。彼女を庇うようにヒムが飛び出したのだ。
ヒムは泣き出した彼女に戸惑う。目の前で命を投げ出されたようで恐ろしかったのだ。治療の光が止む。
「もっと次からは別ルート行こうな」
「はい」
涙を恥じて目元を拭う彼女はもうてきぱきと散らばる荷物を片付け始めていた。