夢で見た話

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昼下がり。廊下であいつと出会した。
小さな風呂敷包みを手にしている。遣いでもあるのかと聞くと外の空気を吸いに、と言う。想定通り。

『時間が空いているから付き合おう。』

何でもない風を装ったが、目の前のやつは妙な顔をした。理由が怪しかった自覚はある。しかし誰かが必ず付き添う理由など、はっきり言って隠す必要は無い、と開き直る。
出会した、というのは嘘だ。昼前に上司から声が掛かり、半日の間、私が目付を任されていた。

『目を離さないで、でも邪魔もしないで。』

何をと問うと、すぐにわかるよと言われてしまい、それ以上聞く事はできなかった。だが、否やはない。
困ったように首を傾げながら、やつは退屈するが良いか、と言った。構わないと答える。
城を出て三刻程歩き、木々の間のぽっかりとした野原へ辿り着く。春には一面小花が咲いて見栄えもするが、今は枯れかけてくすんだ草が秋風に揺れているだけだ。
上司がこいつを一人にさせないのは、夏の初め頃から頻繁に体調を崩し、食欲が失せぐっと痩せてしまっているからだ。なのに、どうして体を引きずってでもこの寂しい場所へ来たがったのかわからない。

手荷物が開かれる。出てきたのは幾つかの、とても小さな握り飯。摘み上げ、のろのろと口へ運ぶ。その一口は鳥が啄むような量だった。溜息をつきながら長い時間を掛けて、やつはそれを食べ切った。日が傾いていた。

『風にあたると吐き気が和らぐらしい。』

あの時間が何なのか、何を報告したものかと思いながら上司を訪れると、そんな事を告げられた。食べようとしているのなら大丈夫、とも。上司の目は、先程別れたやつのものとよく似ていた。つい先程、ありがとう、と言って笑った瞳には、秋の午後の光が揺らめいていた。


【やわらかな光】

10/16/2023, 11:12:20 PM