雨上がりの渓谷で、メルルの回復魔法の柔らかい光が辺りを照らしていた。
ヒムのひび割れた腕を治している。
「ポップやマァムのとは違うな」
メルルが目線だけ上げてきた。可愛い眉が寄せられている。ヒムの腕はむくむくとスライムのように治っていった。
「ポップさんやマァムさんに治して欲しかったらそうしてください」
「なんか怒ってる?」
「怒ってます」
「なんでだよ」
なんでだと言ってからなんとなく分かった。別の人の名前を出したのが悪かったのか。
「違います!無茶しないで欲しかったんです!」
こちらの心を読んだように叫ぶ。もしくは本当に読んだのか…
「しない訳にいくか。何のためにオレが居るんだよ」
傍には落石が転がっていた。メルルに当たっていたら命はなかった。彼女を庇うようにヒムが飛び出したのだ。
ヒムは泣き出した彼女に戸惑う。目の前で命を投げ出されたようで恐ろしかったのだ。治療の光が止む。
「もっと次からは別ルート行こうな」
「はい」
涙を恥じて目元を拭う彼女はもうてきぱきと散らばる荷物を片付け始めていた。
10/16/2023, 7:28:13 PM