村人ABCが世界を救うまで

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3/19/2026, 12:51:30 AM

人間の連合軍と義理の父親をバックに持つヴィルと、王国側の嫡男をどうしても英雄に仕立て上げたいという大臣の息のかかった次男坊の捨て駒とされたらカノン。
もし2人が人間でなかったとあらかじめ知られていて得をするのはと考えると…答えは人間側なのだ。

「そんなのおかしいでしょうが!!ヴィルもカノンも、なんで疑問に思わないの!」

魔界と連絡手段を持てるシーナが水鏡を持ってきた途端に飛び出てきたのは、かんかんになって怒るミレーヌだった。 

「だいたいね、もう10年だよ!?」
「15年な」
隣で変なこだわりを持って突っ込むのはカノンに付いてきた黒髪の剣士ギールスだ。

彼女はそれには突っかからずに、小さな弟に向けるように人差し指を空に立ててぷんすか怒ってみせる。
「おかしいと思わないの!あなた達が争う理由なんかないの。まおーぐんだか魔界の大王だか知らないけどその議会に私も連れてってよ、子供を巻き込むなって!」

なんだか彼女はやたらオーバーヒートしている。幼馴染の男2人は知らず一緒にげっそりとする。彼女怒り出すとしつこいのだ。カノンもヴィルも嫌というほど知っている…。

やがて水鏡の向こうでティーエやシーナの静止するような声がする。

うそだろ…!!と思っているうちに、まるで扉を割るようにミレーヌが鏡を破ってこちらの世界に飛び出してきた。


不条理

3/18/2026, 8:25:11 AM

カノンが村に帰って来てからというもの、明らかに土壌が良くなった。
彼自身が精力的に開拓をしたのもあるが、土地を守る精霊たちに受け入れられるほどに、罪を赦されていた証だ。

彼自身には、何のいわれもないのだけれど。
考えたら当たり前だ、彼は物心つく前からこの村にいたのだから。

ミレーヌは不憫に思いながら毎日騎士見習い達や、オーガやスピリッツ、ホビット達と汗をかいて土だらけになって帰って来る彼を出迎える。



あなたはこの村で愛されているよ。誰よりも朝から晩まで働かなくても、みんな見限らないよ。

口で言ってもきっと心の奥底にまでは届かないかもしれない。不安が先立ち、何も言えない。

泣かないよ。

3/17/2026, 1:53:47 AM

ひらりと枯れ葉が舞い、秋の風を感じる午後だった。
山から降りてくる風は丘をくだり、途中の湖で湿り気を帯びてやってくる。
ここは真冬になっても雪はさほど降らない。
山が雪雲を遮るかたちになり風だけ降りてくる。春や夏にはそれは見事な水量の雪解け水が流れてくるのだ。風土は豊かで気候も穏やか。水源は豊富。

ただ、大陸の奥深くで交通の要所とならなかったため人の出入りが少なく、周辺の小さな村々は、また1つ、また1つと森に消えていく。

少女ミレーヌと開拓団、王国の騎士たちが一次的にだが妥結して村興しを初めて半年。一人の青年が村に帰ってきた。小さな妖精を大切に手でかばいながら。
「ただいま」
「カノン、おかえりなさい」
「あぁ、ティーエも」
カノンの手の中には少し衰弱した幼少期からの友達が居た。
「眩しくて、すぐティーエがいるのバレちゃうんだよね」
「そうだね。よく寝てる…」
彼女は薄い光をまといながらまるで花の蕾のように妖精の羽根に包まれ眠っている。

起きたらすっごい喋るんだろうねと、2人で顔を見合わせる。離れていた半年などなかったかのように。
ミレーヌは彼の文の通りにティーエの寝床を作り、小さな小屋も造っていた。
甲斐甲斐しく長年の親友の世話をするミレーヌを、カノンは勧められた椅子に座って見ている。
彼女はもうすっかり村の女の子だ。


カノンは旅の荷物を解く様子もない。
「もしかしてまたどこか、行っちゃうの?」
お茶のおかわりを持ってきた彼女に即答できないでいる。

「また、春に…僕は異界の穴を封じなきゃいけないから」
「王政からの命令?」
「それはないよ」
ふふ、と笑ってみせるけどミレーヌの顔は晴れない。
自分たちは散々大人たちの都合に振り回された。やっと手に入った呼吸を得るような時間。
「ここにいてカノン」
彼女の頼みは、優しくて残酷だ。
「僕はもう人間じゃないみたい」
だから、人と暮らすことはできない。暗にそう言った。
なのにミレーヌは、ふふ、と笑った。やっと笑ってくれた顔が懐かしくて可愛い。ちょっとカノンが喋れないでいる間に彼女は言った。
「やだわ、私たち、魔族にエルフに妖精に古代人に…人間のほうが珍しいパーティーにいたのに」

彼女は何も怖気づいて無かったのだ。柔らかい腕でカノンの頭を包む。
「ここにいてよ。ここは貴方と私たちの村なんだから」
荷物がどさりと落ちる。
「誰も貴方を傷つけない」
振り払うには温かすぎる。カノンがそっと応えると、ミレーヌはぐいぐいと薄い胸を押しつけるように抱きしめるのだ。
「本当に」
「本当よ」
幼馴染はようやくほっとして、震える大きなため息を漏らした。どちらだったのか。






怖がり

3/15/2026, 11:52:45 AM

凍りつくような夜だった。

朝から遠方射撃の波を越え、生きているものだけで空と地上から後方を落としながらの逃避行を続けている。
我々を乗せた飛竜は時折り高度を落とし、御者は手綱を引き絞りたたえては持ち直す。何度繰り返しただろう。

数々の条約のうえに組まれた連合軍は、突然何かが合致したらしい。今朝方、連携のとれた波状攻撃を加えてきた。紙面の契約はそれほどまでに確固たるものなのか。

地上の部隊は数を減らし、空を飛ぶ竜騎兵も何匹か撃ち落とされた。それが昼過ぎのことだった。
今は不気味なほどに何もない。追尾や追撃は止んだのか、それとも油断を誘っているのか。疑心暗鬼になり、皆もう何もしゃべらない。

術符の守護の集中力はとっくに限界を超えていた。
零下の中、指先も耳ももう感覚がない。雲の上は無限に続く重苦しささえ感じる満天の空。気流は音を遮断し温度しか感じない。この世界からそのまま息絶えてしまいそうだ。



星が溢れる

3/14/2026, 4:21:39 PM


長身で野性味溢れる男が横たわっていた。彼の隣に少女は力なく彼に寄り添っている。

赤銅色のむき出しの肩に、森を思わせる黒緑髪に埋もれて、彫り深い顔は見えない。まだ若い。
辺り一面、燻したようないやな匂いが漂っていた。その場にいるだけで皮膚が張る。彼は地獄から巻き上がる炎の渦をその身に受け倒れたのだ。


震える手で彼に触ろうとして、身に付けていた服装が炭化していたのかほろほろとこぼれていく。
身体中の水ぶくれと腫れ上がった皮膚。人体の表面は一気に水分を失ったのだ。
身に付けた貴金属さえも未だ高温を放っている。中身は無事では済まなかった。
「カリオン…」
自分で彼に付けた名前だった。良く働く騎馬戦士だった。

苦しかったろうに、叫び声はほとんど上げずに彼は果てた。
それとも喉と肺が一気に焼かれ何も発声することができなかったのかもしれない。ぞわりと恐怖を感じると共に一気に胃の中のものかせり上がってきた。
嗚咽と共に地面に中身を吐き出す。
自分はなんと傲慢だったのか。大切な部下ひとりさえ守れない。

「すまない、すまない、カリオン…」

涙が溢れて前が見えない。彼の装飾品に水分がじゅうと染みた音がした。
薄く開いた瞳さえも白く濁っていて、閉じてやろうとして動かない固さを思い知る。なんて地獄。

古い石畳に靴音が響いた。振り返ると元凶の男が立っていた。癖のある朱色と金の混じる髪に、上級貴族のような時代錯誤の服装。周囲の空気が一気にぴりつく。
「サ、シェゼ」
「なんだ、随分と大切にしてんだな。子供みたいにグシャグシャに泣いて」
もうひとり、燃やそうか?と嫌な笑顔をする。
「いや!!!やめて、なんでもする!もう、なにもしないで」
動かないと思っていた身体で必死に彼の足元にすがり付く。カリオンをこのままに出来ないと抱えながら。
「へぇ」
「お、お願い」
地面に頭をすり付ける。
もう誰も。この男の反感を買って失うのは避けたい。
サシェゼは、ぐしゃりと娘の頭を鷲掴みにして地面に押し付けた。砂が口に入り顔に付く。
お高く止まっていたお前がここまで従順になるとはね。赤髪の男は至極愉快そうに笑った。



朦朧とした意識のなか、場面は一気にベッドの中に戻った。男の手のひらが首筋をもっと締め上げていくる。
「…っか…」
かすれて出る呼吸はそれだけ。サシェゼは死ぬぎりぎりまでこちらの首を絞めてくるのだ。
そのまま、身体の奥に楔をうち込められた。奴は腹の奥にとてつもない圧迫感を与えながら嘲る言葉を降らす。
「いいなお前。最高だ。いい拾い物をした」
もう何も身を守る術もない。過去の記憶を繰り返し視させられ、この男に蹂躙されていく。誰ももう失いたくない。



安らかな瞳




ところで「安らかな」「瞳」ってへんじゃないですか?

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