村人ABCが世界を救うまで

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4/7/2026, 9:58:13 PM

信じられないような美しい夕焼けだった。

紫と青紫の雲を連れて、最後の朱色が大地を撫でるように染め上げている。

薄暗い遠くの空には膨大な魔力と、空を飛ぶ飛竜が時折り見えた。
これが世界の終わりだと言うのなら、なんて残酷なんだろう。

「夫婦になった途端にあの世行きなんてなぁ!笑えねぇよ」
酒をかっくらったドワーフ達は、巫女であるという素性を信じ切って、少女の周りを囲んだ。

「産めや増やせや大地を染め上げし我が王国」
「そうよ!」
「そうでなきゃならねぇ!」

酒が入ったドワーフたちは士気が上がり止まらない。それぞれの斧が高く担がれる。金物がガシャガシャと音を立てる。

一方人間たちを率いてきた、王宮魔術師である肩書きの青年も、人々の中心にいた。

「貴方に神のご加護がありますように」
「かならずお帰りください!」
「お願いします、勇者様、魔道士様!」

少しの休養ののち、勇者一行と魔術師である青年と仲間たちも、人間たちに送り出されるところだった。
「帰ってきたら…うちの村に住みなよ、あんたみたいな気さくなのは、ぜんぜんお貴族様とは思えない。私たちを見捨てた領主様の代わりに統治しておくれよ」
「そうだよ、まだ婚姻の祭りだってあれで終わりじゃないんだ盛大にやろうよ」

ありがとう。と青年はにっこりと町の婦人たちに返した。

確かに自分は王宮から来たが…。それは村を生贄に魔族と契約を結ぶためだったなんて言えない。
ここを違えば魔族たちと拮抗していた力関係は一気に崩れる…。それが自分たちは見過ごせなかった。


冷たい風が暗闇を呼んでいる。
ゆっくりと巫女の少女が杖を片手にやってくる。栗色の豊かな髪を持つ、精霊のような魂を感じる少女だ。元は…地球人…日本人とか言っていたかな。
「参りましょう」
「そうだね、奥さん」
この言葉に彼女は真っ赤になった。
かわいいな、と思って、青年は手をとる。

仮初の結婚だったけど、村人、勇者一行、仲間たち、ドワーフ達、精霊たちが一丸となった。


「水よ…」
「炎の精霊よ、我が手の契りとなり…」
2人の魔力と精霊力が空で混ざる。夕陽の中カーテンのように、淡い光のヴェールが広がった。
ドワーフ達が閨の声を上げる。
人間達が結界の張られた森に戻り、勇者達はそれぞれがバフ魔法を掛け始める。
戦は始まった。
夕闇と魔力の光のヴェールが混ざり合う不思議な紫の世界で。


美しい夕焼け

4/7/2026, 12:34:12 AM


月は天を指し、水面は星を抱く。
風は凪いで草木は耳を澄ませた。
「君とずっと一緒にいたい」
優しい。心に落ちる声だなと思った。
彼の真っ黒な瞳に、不安げな自分が映っていた。
「ずっと、よ」
「ずっとだ」
今度はこちらが覚悟を決める番だ。
「私もあなたと居たい。結婚して下さい」
「もちろん」
結婚式は、もうやっちゃったのにね。
ふふ、と笑って、どちらかともなくキスをした。最初は触れるだけ。2回目はすこし深く。真っ赤になって、顔が見れなくなってしまった。


君の目を見つめると

4/6/2026, 10:50:17 AM

せり出した丘の下には、深淵たる森が広がっていた。

豊かな水源と全てを受け入れる土壌。
1日の気温差は激しいが適度な雨量が季節ごとにもたらされる。


特徴といえば、眼下に広がる深い湖だった。

今は風も途切れ、星々さえも映す水鏡となっている。
「みんな寝た?」
男性の声に、湖の守護者の少女が振り返る。
豊かな栗色の髪に大きめのロングドレスは少し土に汚れていた。
「うん、さっき」
「そうか、良かった。疲れてたんだろうな」

男性は、近くの小屋で仕事に追われていて一段落したようだ。

仲間たちはみんな旅疲れもあってあっという間に寝てしまった。皆子供だった。自分たちだって20歳にすら満たないけれど年長者の自覚はあった。
「長い旅だったね」
「そうね…」

旅の終わりにこの2人は、とある部族の結束のために仮の結婚までしてしまった。
「いい森だ」
「うん」
この湖を守るために、守護者の少女はここから離れることはまかり通らない。ここで生きていくのだ。
「お仕事お疲れ様でした」
「いいや」
そこまで言って、いやによそよそしいなと男の眉が上がる。

「私はここで生きていく。現世にも戻らない」

元が中学生だった彼女の決意は、余りに大きすぎる。

「貴方のお仕事は私が引き継ぎます」
男性が驚いて目を見張る。
「なんで」
「ここは私が守ります。私がこの湖の主で、この湖の守り人だから」

重荷に思われたくない。明日の朝、影も形も消えて居なくなっててもいいぐらいに本来は無関係なんだもの。
もしこれが、拒絶の言葉なら男性は素直に身を引いただろう。
初めは仲間だった。だけど旅をしていく中で特別に感じたこともある。

「ならオレを雇ってくれないか。…この森の守護者に。ここは貴重な場所だ。いつ別の勢力に見つけられてもおかしくはない」
「雇う…って、警備員みたいな? 守護者になりたいの?」
「いや、あの」
少女から不思議な言葉が出た。
あまり聞き覚えのない単語…いや、そんなことはどうでもいいんだ。そういうのじゃなくてな? と、男は悔しそうに髪を掻きむしる。
何か言いあぐねていると思ったけれど、少女はよく分からない。
知らないふりをしたかった。

「気負わせたくないの。どうか、忘れて」

あの時の、偽物の結婚式が眩しくて悲しい。

少女がまつ毛を伏せたとき、そよと優しい風が吹いた。湖も揺れて星々や月も揺らいだ事だろう。

「忘れられるわけが無いだろう」

がっと男の大きな手が、少女の肩に食い込む。優しい扱いではない。
その瞬間に、少しだけ怯えるかのように硬直した娘の体を、掻き抱く腕があった。

星々だけが静かに幼すぎる2人の告白を見ていた。

「星空の下で」




翌日、仲間たち全員にこの「こっ恥ずかしい大告白」をとっくに知られていることになるのだが知る由もない。
皆、耳だけはとてもいいのだ…。

4/4/2026, 10:52:03 PM


この状況を変えようと思わないのか?
現実とお前の気持ちを切り離して考えてみるんだ。
それから整理してみる。
必要なものと、欲しいものは別なんだ。

人を羨むな。
お前はお前しかいないんだ。お前にしかなれないのは分かるな。 
羨むヤツになりたいか?なりたくないだろ。
憎むアイツになりたいか?なりたくないだろ。
お前はどうしたい?

春の陽気を感じて、花を愛でて、風を受ける。目をあけろ、空はこんなにも広いんだよ…。
連れてってやる。私がいるぞ。

「それでいい」



幼子を取り敢えず御者に任せ道を戻ると、家で待っていたはずの男から、義理程度の拍手が送られた。

「誘い文句お見事でした。殺し文句と言ってもいいぐらいでした。頑張りましたね」

影から見ていたな、コイツ。
後ろから私を軽く抱きしめてくる男が言う。

「いやぁ、あれだけ言われたら救いの神にも見えちゃうかも…。惚れますね」

めずらしくからかう様な口ぶりだ。
私は、でっかいこいつの重みを感じながら、間を持ってから呟く。

「お前が前に私に言ってくれたんだよ…」
「ぅえっ… 僕、ですか?言いました?」

そーだよ… お前の真似したんだよ。だからころりと惚れちまって手放せなくなったんだよ。

「自分の発言に責任持てよ…」
「いやぁ…覚えてません…」

最後はもそもそと口のなかで喋っている男に、私は連戦でへろへろの身体を預けた。

「私は、お前が必要だ。望むなら連れてってやる」
「分かっていますリーダー。連れてって下さい。地獄までもお供します」

抱きしめられて安心するのってなんでかな。



4/3/2026, 10:19:39 PM


おや。半端なく暴れましたね。

西の青紫の夕方の空に、最初は白い煙が上がっていた。
火事のような光景を見上げながら青年は残りの缶ビールをぐっと煽った。
周囲の人間のざわめきがどんどん増えていく。スマホで撮ったり電話したり、解説動画を作っていたり…。自分の時代では考えられない光景だ。


化学工場とガソリン車が駐車場にもあったし、やがて真っ黒な黒煙と、火球がここからも目視できた。

続いて体を揺らす爆風。
やじ馬の女たちの恐怖の悲鳴が続く。


少し経って、ホテルの窓から少女は帰ってきた。
帰ってきた彼女は煤だらけで埃だらけ。
髪もチリチリだ。早くお風呂に入れてやらなきゃ。誰にも見られていないといいけど…なんて心配は不要だ。彼女はそんなヘマはしない。
薄汚れた服を1枚、また1枚と脱がしてやる。彼女はされるがままだ。
「…なんで、お前は居てくれるんだ…」
「愚問ですね」
「あいつら、私のこと…頭がおかしいとか変とか言うんだ…」
だから燃やした。
「人間なんか、大嫌いだ…。全部潰してやる、全部…」
たったそれだけで。殺人鬼はもうこうなると手が付けられない。
下着だけになった彼女の肩を少し寄せると、向こうから飛び込んできた。煤と油の匂いがする。それから血の匂いも。
怒り狂って毛を逆毛立てている彼女にゾクゾクするし、帰ってきて自分の存在に戸惑う彼女がたまらない。
再確認する。
「僕が居ますよ。僕はあなたのものだ」
肋骨の浮き出た細い体に肩。子どもとは思えない柔らかな尻。細く白い首筋は、いくつもの裂傷のあとがあった。
「忘れないで」
「ん」
「僕が居ます」
分かってる。と、震える腕が顔に巻きついてくる。焼かれた臭いの中に、甘い花のような香りがする。
薄布の彼女を抱きしめても、服のなかには手を入れない。薄い胸と、女性らしい滑らかな脚、細い腰を感じる。
泣きそうだけど泣かない彼女を、ただ羽根のように抱く。



「1つだけ」

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