失うのが怖い。
深夜に急に呼び出しが来る。
私は誰かをまた失いそうで飛び起きた。
たまたま取れた2人部屋で急いで、でも細心の注意をしながら身支度をしていたら、大きな腕が伸びてきた。
「こんな夜中にどこへ?」
寝ていると思った…。部屋着の隙間から見える筋肉のついた男性の腕を見ながら答える。
「離すんだ…」
「命令ですか」
命令…。命令したら、置いて行けるのか?
自問していたら、羽織っていた外套ごと、太い腕が回ってきた。
息ができない。
カラフル
朦朧としているとこに、無理やり液体が口に注がれた。
「ダメだよそいつ。すぐ反応して吐いちゃう」
「そうか薬物にも抵抗値高いしな。すぐ感知されるのか。惜しいな…口からが一番副反応少ないんだが。一緒に気持ちいい思いしようぜ」
ベッドの上でむせている私に、2人の男は杯を交わし合う。
短髪の男の衣服ははだけ、だらしない姿になったが色気は増加したように思う。男は中東気味の堀の深い顔で嬉しそうにこちらを見てくる。
「なぁ。少しぐらいいいだろ、そのほうがお互い具合もいい」
「お断りだ」
私はかすれた声で反抗した。普段何も受け答えも抵抗もしないからか短髪の男は目を見開いている。
普段は寡黙でいる長髪の男の方が笑っていた。
これ以上尊厳を踏みにじらせない。
「へぇムカつく。極楽見せてやろうと思ったのに」
この世界に極楽とはとんだ皮肉だ。奴らの口上にあきれてしまう。
「直接とか」
「やめとけ、面倒だ」
バサッと、服が落ちる音がした。
もう抵抗は許されない。大きなごつごつした手が上から襲ってきた。
楽園
俺たちの世代で終わりにしようと言い出したんだ。
友人の夫がそう言った。
「見てわかる通り、似てるよね。君を襲った奴らと俺」
「そう、だな」
いつの間にこの人、自分のことを「俺」と言う様になったんだろう。なんて関係ないことが頭をかすめる。
肩幅も広いし、何ヶ月も会っていなかったからか、随分と日焼けして逞しくなった。出会ったときは中学出たての小僧のようだったのに。
自分の所属管理をしているプランディショニング… 役職名が難しいので上司と呼んでいるのだが、そいつら厄介なんだよね…。無理な仕事!仕事じゃない用事!多すぎる。
そいつらと目の前の友人の夫は見た目が似ているのだ。
「従兄弟とかではないが、だいぶ近い」
「血縁関係なんだ?」
「確かめるすべがない」
「は?そんな高度な技術持ってるのに」
あの世界、だいぶ細分化したあとの世界だからね。
「調べるのがまぁ…逆に不利なんだ」
「へぇ。よくわからん」
「調べたことの履歴が残る。そして履歴を消した跡も残る」
「聞いてて怖いんだが…」
勝手にぞわっとしていると、目の前の旦那も頭を抱えている。今の世界とだいたい似たようなものか…。
私は要するにパトロンであるやつらを手放せない。なのに、影で私をフォローしているこの旦那の有能性たるや。いろんなシステムの隙間を縫って私を助けてくれてたんだな…
なんて、久しぶりにホテルのそばの森を歩いていたら、彼の事務所での会話を思い出した。友人達や友人のいた世界が懐かしい。
友人の旦那がいた時の安心感、ありがたかったな。
風に乗って
どうして人肌はここまで落ち着くのか。
寝入る直前に、隣のベッドからしくしくとまるで子供のようなすすり泣きが聞こえてきたのだ。
嘘だろうと思ったが、彼女の顔を確認して涙が一粒こぼれ落ちた。一体誰を思い出しているのか「行かないで」と泣いている。
普段男言葉を扱い、特別に愛想もよくない彼女。
「行きませんよ」
寝入りに強い薬だったため、ぴくりとまぶたが動く。だが動くだけだ。そっと手を繋ぐと握り返してくる。本当に自制が利かなかったと後で謝ろう。
額にキスをしたら、彼女の唇に目が行く。
「かず、き…?」
ぞわりとした。あまりに甘い声。
「寝ていいですよ…」
どうして自分のことは恐れないのだろう。
自分だけは特別だとそろそろ思ってもいいだろうか。
まだ春は遠くて室内の温度はぐっと落ちた。部屋の暖炉の火は落ちてしまっている。彼女の肩が震えている。
「寒い、ですか」
こく、と顎が動くから、少し躊躇ってから隣に身体を滑り込ました。身体の後ろからなら非難も受けまいとそっと密着させる。少しでも暖を取れたら。自分は湯たんぽなんだと言い聞かせる。普段だって、僕らはそんな……と誰かに心の中で言い訳をしていた最中だった。
どうして抱いてくれなかったの。
小さな唇がそう呟いて一瞬理解が追いつかない。急に迫り上がってくる熱にたまらず力の限り抱きしめると、彼女と見つめ合うことになる。唇が半分開いている。
「抱いて、欲しかったんですか?」
「そう。言えなかった…私はこんな…」
卑下するような言葉の予感がした。無視をして顎を捉える。
「知りませんよ…」
そっとキスをする。思えば暴れ出しそうな感情に何日も耐えてきた。
抱きしめた身体は思いのほか柔らかい。首筋に唇を這わすととんでもなく色気のある声音が漏れてきた。
「んん…っ」
どうしてそんな声を出すんですか。
何度も角度を変えて唇を塞いでいると、やがて彼女のほうが舌を細かく使い出した。
脳が麻痺していく感じ。そっと手のひらに余るほど小さな胸を壊さぬように包んでいたら、突然理性が消し飛んだ。
刹那
すぐに薬は効いて、ナナは子猫のように丸くなってソファで寝てしまった。
「ナナ」
呼びかけても動かない。本当によく効くんだ…。
食器類を片付けていた、ほんの少しの間にだ。揺り動かしても、すうすうと健やかな寝息が聞こえる。
仕方ないかと、和樹は彼女の身体に手を差し込んで抱き上げる。
彼女も成人女性のはずだが…小さな頃から身体の時間が止まっているかのように柔らかくかるい。そのまま抱き直すとドレスの裾や髪がゆらりと沿う。
本来眠って脱力した人間を運ぼうとすると重いはずなのだが…。
「ちゃんとした所で寝ないとまた襲われますよ…悪い狼に」
窓際は寒いだろうと暖炉寄りのベッドに寝かす。羽織っていた男物のジャケットを取り去り、華美で苦しそうなドレスの胸元のボタンを外していく。
パチン。パチン。
大きく軽いパニエを、そっとはがす。
細い足が出てきた。
怪我が残る肌は暖炉の赤い光でなおさら目立って見えた。髪のカチューシャを取り去ると「うぅん」と何かを答えているような声。
「この和樹が何もしないとでも?それは幻想ですね。これでも雄の一員なので」
普段は彼女も、他人のいるところでここまで深く寝入ったりしない。
脱がせる最中に、絹のような髪をすいて、首元の香りを嗅ぐ。
いつもの太陽に愛でられた草原のような香りの中に、シトラスとミントが混ざったかのような…男性物のシャンプーの香りがした。
脱がせた彼女を、ぎしっとベッドに閉じ込めるように下ろしたら、彼女は本当に小さな女の子だった。
普段は高いブーツや目が隠れる帽子、かっちりとした服を身につけて肩を張っていたが…
「これは…欲情するなんてとんでもないな。…女なら…そういうことか…」
少し前に自分で言ったことに、ゾッとする。
銃もナイフも爆薬もいらない。男女間や家族を不仲にさせたり分離させる方法。
柔らかい素肌の中でリズムよく呼吸が繰り返されていた。生きている。貴方は、自分の身体を大切にしてほしいんです。
溶けそうな肌にキスをする。
「んん…かず…」
小さな手がひらひらと探しておちた。
「和樹はここですよ。おやすみなさい」
布団を持ってきて肩まで掛けてやる。大人しい彼女は珍しい。イタズラがしたくなって、もう一度勝手にキスをして、その隣で自身も床についた。
生きる意味
彼女のためなら生きられる。
そして迎える朝チュン。
「私が寝てる時になんかした!?」
「はい?」
「な、なにかを…その…」
「ナニかって例えば?(^^)」
「……え、いや…まさかね…うん…(汗」
自己肯定感激低ご主人様は今日も妄想が激しい。