やなまか

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酒場で男たちに絡まれる少女に声をかけてから、なんだか最近身の回りがおかしいんだ。

彼女がいつもそばにいる。やたら声を掛けてくるし、気付くと肩が触れそうな程の距離にまで近付かれている。落ち着かない。
彼女は幼さの残る顔をにこりとさせ、
「ねぇねぇ!今日はあったかいよねー!」
と、特に中身のない会話を投げてくる。
「そ、そうかな。もう少し君は服を着たほうがいいよ…見てて寒い」
「そぉ?」
1年の半分以上は雪に閉ざされるこの地は、まだ春の兆しすらない。

今日は無防備に男の部屋にまで付いてきて、流石に限界だった。
「あのさぁ!」
「なぁに?」
僕が勢いを付けて怒鳴ったのにのんびりと返してくる。毎回この調子だ。明るいというか能天気というか…。
「ほんと、やめたほうがいい、よく知らない男に…馴れ馴れしくしないでくれ」
「よく知らなくはないよ?仲良しじゃないの私たち」
彼女は小首を傾げて笑う。それが普段どうしたら自分が一番可愛く見えるか計算されたものであるのを僕は知らない。
まぁ可愛かった。上気した頬に緩く編んだ淡い髪。まだ子供っぽいけど…白いうなじや鎖骨が見える胸元。太ももまでちらちら見える。急に頭を落とす。
「私のこと、嫌い?」
「なんでそうなるの!?」
「じゃあ好き?」
喉の奥で空気がごくりと降りていく。
もう、意味がわからない…。僕は、親友が通りかかったら助けを求めてしまいそうな程うろたえていた。

6/30/2025, 11:07:21 AM