『みかん』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
みかん
インフルにかかって食えるものがみかんしかないです
助けてください
36みかん
炬燵で蜜柑を食していた
ふとした時に思いつく
悪戯心に惑わされ
遊び始めて怒りを買う
そんな日が続くと良いな
籠の中の蜜柑が消えた。
溜息を吐いて、縁側に続く障子戸を開ける。
縁側の隅。縮こまるようにして座る坊主に、蹴りを見舞う。
「人の蜜柑を盗むんじゃない。この糞坊主」
「何という惨い仕打ち。愚僧はただ、気づいて欲しかっただけだというのに」
「五月蠅い」
吐き捨てて見下ろせば、ひぃ、と情けない声が上がる。抱えていた蜜柑を恐る恐る差し出して、まろび転がるようにして坊主は去って行った。
「まったく」
短く息を吐き、座敷に戻る。ぴしゃん、と障子戸を鳴らし締めてしまったが、仕方がないと誰にでもなく言い訳をした。
籠に蜜柑を戻し、そのまま炬燵に足を入れる。暖かさにほぅ、と息を吐いて、徐に蜜柑に手を伸ばす。
「可哀想になぁ。蜜柑に嫉妬する柿の気持ちなんざ、お嬢には些事でしかないらしい」
「五月蠅いよ」
座敷の角。一升瓶を抱えたままげらげら笑う、赤ら顔の男を睨めつける。
おぉ、怖い、と笑いながら手酌で酒を注ぎ、一気に呷る。
だがそれが最後だったらしい。さらに継ぎ足そうと一升瓶を傾けるが、一滴すら出ては来ず。空の一升瓶を名残惜しく揺すり、やはり一滴も出ない事に肩を落とした。
「お嬢、蔵の鍵くれや」
ゆらり、と立ち上がり、赤ら顔の男は此方に近づき手を差し出す。
それを横目にしながらも、男を気にする事はなく、手にした蜜柑の皮を剥き始める。
「お嬢」
「断る。厨に残っている、いつもの酒でも飲んでいろ」
赤ら顔の男の眉間に皺が寄る。握り締めた一升瓶に罅が入り、そのまま砕けて辺りに散った。
「鍵を寄越せ。人間」
割れた瓶の欠片を眼前に向け、男は再度要望を口にする。
少しでも身じろぎすれば、鋭い切っ先が眼球を抉るのだろう。焦点も合わぬほど近距離の破片を見つめながらも、返す言葉は、やはり否だ。
「いやだね」
「糞餓鬼がっ」
破片が眼球を抉る、その寸前。男の手首に細い糸が絡みつき、強い力で背後に引かれた。
それとほぼ同時。縁側の障子戸が開かれ、藁を纏い手には鉈を持った男が入り込む。糸に手を引かれ体制を崩していた赤ら顔の男に詰め寄り、その頭を容赦なく鉈の柄で殴りつけた。
「こりゃ、三吉!おめ、童っこに何さしよとしでんだ。それに蔵ん酒ば年越しん時のもんだで言ったべや。わりぇ子には仕置ぎせんばねぁな」
「痛っ。やめろ、角を持って引き摺るんじゃねぇ。悪かった。悪かったっつってんだろ!」
藁を纏った男は、赤ら顔の男の額の角を持ち、引き摺りながら襖戸を開ける。痛がる赤ら顔の男を意にも介さず、そのまま隣の座敷に移動する。
ぱたん、と襖戸が閉められた後、ぎゃぁぁぁ、という断末魔の声を最後に、何も聞こえなくなった。
はぁ、と溜息を溢し。気を取り直すように、手にしたままの蜜柑を一房口に入れる。
「ん。美味い」
甘さと瑞々しさと、仄かな酸味に口元が綻ぶ。もう一房口に含み、その味を堪能していれば、す、と隣に湯飲みが置かれ、背後から頭を撫でられた。
「賢い。賢い」
「来てたの分かってたからね。助けてくれて、ありがと」
見上げれば、赤い八つの目を持つ男と視線が交わる。
礼を言えばふわり、と表情を綻ばせ。しかしその目はどこか咎めるように細まった。
「だが、言葉は穏便に」
「…善処します」
気まずさに視線を戻し、また一房蜜柑を口にする。残った蜜柑を置いて湯飲みに手を伸ばし、ずず、と音を立てて茶を啜れば、その温かさにほぅ、と声を漏らした。
「負けず嫌いなのは悪い事ではないけれど、酔っ払いを煽ってはいけないわ」
開いたままの障子戸から、箒とちり取りを持った骸骨が入ってくる。瓶の欠片を片付けながら、窘められて、ごめん、と素直に謝罪した。
「酒飲みなんて馬鹿しかいないのだから、適当にあしらっておけばいいのよ。そうすれば、怖い思いをしなくてすむのに」
「ごめんって。でも誰かは助けてくれるって分かっているから、怖くはないな。骨の姉さんだって、いつも助けてくれるしね」
湯飲みを置き、蜜柑を食べながらそう伝えれば、骸骨はかたかた、と機嫌良く骨を鳴らす。
片付けが終わったのだろう。箒とちり取りを手に立ち上がると、その場でくるり、と回って見せた。
「あなたは私をいつも褒めてくれる、優しい子だもの。ねぇ、今日の私は綺麗かしら?」
「骨の姉さんはいつだって綺麗だよ。骨だけでも、そこに肉がついていたとしても」
「あら、嬉しい。いつもありがとう」
片付けてくるわ、とさらに骨を鳴らして、足取り軽く座敷を出ていく。
いつの間にか、赤い目の男もいなくなってしまったようだ。
自分以外誰もいなくなってしまった座敷で、蜜柑を食べつつ賑やかな音に耳を澄ませる。
ぎゃあ、と時折上がる半泣きの悲鳴は、先ほどの赤ら顔の男のものだろうか。ばたばた、と走り回る音はとても騒々しい。
遠くで、木を切り倒す音が聞こえる。少なくなってきた薪の足しにでもするのだろう。その合間に聞こえるのは、小豆を研ぐ音。楽しげに、だが時折外した調子の鼻歌に、耐え切れずくすくす笑いが漏れる。
ふと、障子戸の開けられる音がした。視線を向ければ、先ほど逃げていった坊主が、手に包みを抱えて此方の様子を窺っている。
「なに?」
「これを」
怖ず怖ずと座敷に入り、包みを開ける。
「柿?」
「あんぽ柿である。愚僧めが作り申した」
期待した目で見られ、苦笑する。一度茶を飲んでから、あんぽ柿に手を伸ばした。
一口囓る。干し柿と違う、柔らかさと瑞々しい甘さが口の中に広がり、目を細めて堪能する。
「美味しい」
「そうであろう。蜜柑などには引けを取らぬ旨さであろう」
「いや。蜜柑の方が好きかな」
正直な感想を言えば、なんと、と崩れ落ちる坊主に、楽しくなってけらけら笑う。
あんぽ柿を囓り、賑やかな屋敷の音を聞きながら。
こんな騒々しい年の瀬も悪いものではないな、と思った。
20241230 『みかん』
実家から送られてきたのでよかったらどうぞと、彼女が大きな段ボール箱を抱えて私の部屋を訪れたのは雪が深々と降り積もる日のことだった。
もっともここは所謂雪国で、冬の間はずっとそんな調子だと言って良いのだが。
「いいの?こんなにたくさん。スーパーに行ったらめちゃくちゃ高いんで、今年は諦めてたところだったんだよ」
4、5日前に近所へ買い出しに行った時見かけたのは一つ100円以上はする代物で、貧乏学生には手が出ない金額だったのを思い出す。
「あっちの方ではよく採れるので、買ったことはほとんどないくらいなんです。毎年時期になると近所の人からたくさんもらうので。さすがにこれは両親がどこからか買って送ってきたみたいですけど」
他人の部屋で当たり前のように自分のマグカップにお茶を淹れながら千佳は言う。
そういえば、実家はここよりかなり西の方の都道府県なのだと言っていたっけ。
「ありがたいけど、さすがにこれ一箱は多いな。いくら私が人一倍食い意地が張ってると言っても」
「あまね先輩が食べきれない分は私も食べますから大丈夫です。それにこの部屋、出入りする人が多いから。ここに置いておけばすぐ消費できると思ったので」
確かに何故だか、この部屋はやたら人の出入りが激しい。
そうは言っても先述のマグカップにはじまり膝掛けやらなにやら私物置いているのは、千佳をおいて他にはいないのだが。
「いいなぁ。千佳の実家の方は暖かいんだろうなぁ」
「こんなに雪が積もったりはしないですけど、さすがに冬は寒いですよ」
いつものように私の本棚から抜き取った本に目を落としながら彼女は応える。
窓の外は相変わらず雪が降り続いている。
しばらくはこの調子が続くだろう。
私たちがその下の地面の様子を思い出せるのはまだかなり先の話だ。
段ボール箱の中から、今しがたいただいたばかりのその果実をひとつ、手に取ってみる。
それは物質としてはあたたかいはずもない。
しかし、その色はなんとも目にも心にもあたたかく、このみかんがやってきただろう彼女の故郷に私は想いを馳せるのだった。
『みかん』
「みかん」
あなたが剥いてくれたみかんが一番美味しいよ。
炬燵の中に入って
テレビを流しながら
みかんを食べるのは
すごく冬っぽくて好きだ。
そして、炬燵の中で寝てしまい風邪をひく及び電気代が高騰するのはたまにキズだ。
だけれども今日も自分は炬燵の中にはいる
ーーーーーー
こたつのなか
『みかん』
山越えの道路を車で行く途中、道沿いにぽつりぽつりと設けられた小屋のようなものが目に入った。
また少し先に見かけて、通り過ぎる瞬間にそれを確認する。木で造られた屋根のある小さな建物の中にはオレンジと赤……
それを見て、みかんだ! と思った。
赤いネットに入ったみかんが数袋、小屋の中に並んでいる。
そういえば、この辺りにはみかん畑がたくさんある。小屋は、そのみかんを売るための無人販売所なのだろう。
次に通り過ぎた小屋には、手書きの看板にペンキで〝みかん 100円〟と書かれてきた。
アオトは心の中でガッツポーズをした。
大好物のみかんが、こんなに安い。しかもスーパーのより絶対美味しい。
きっと詳しい人は、この中でさらに1番美味しいみかんを置く店を知っているのだろうが、アオトにはこの中からどこを選べばいいのか分からなかった。
よし、次に見えた店に止まろう。
そう決めてから次の小屋が視界に入るまではすぐだった。
慌ててスピードを緩め、道路脇の空地に車を停める。隣にもう1台車があった。どうやら先客がいるようだ。
車のドアを開けると首元に冷たい風が吹き込んできた。アオトは、身震いしながらダウンのチャックを上までグイッと引っ張り上げた。
小屋の前に立ったアオトは、この無人販売所は当たりかもしれない、と思う。
ここのみかんは赤いネットに入った袋を、さらに丸いかごに入れて並べるスタイルだ。見たところ、かごの数は10個かそこらだ。その中で、みかんを乗せているのは3つ。
そして、前にも客がいる。ここのみかんは結構人気らしい。
先客の女性がみかんを手に取った。そのまま手を伸ばし、もう1つ取る。
とうとう、かごのみかんはあと1袋になった。
幸い、女性はその2袋だけを抱えて車に戻っていった。残り物には福があるというし、ラッキーだ。
ポケットから財布を出す。無人販売なんてものがこうやって成り立っている日本は平和だな、と思いながら料金箱に100円玉を入れた。
そうやって最後のみかんに手を伸ばしたその時、後ろに近づいてきたエンジン音が止まった。
あっ、と思い振り返る。
アオトの車の横に、黄色の軽自動車が停まっている。そして、中から同い年くらいの若い女性が降りてきた。
そっちを見ていたアオトと目が合う。
「すみませーん、もう売り切れですかー?」
伸びのある声が飛んでくる。
「あ、えっと。あと1袋……」
みかんをチラッと見てそう言う。
「よかった、ラッキー」
小走りでやって来る彼女。アオトは内心、しまった、と思っていた。自分がはっきり言わなかったせいで勘違いをさせてしまった。
心底嬉しそうな彼女に、このみかんが自分のだと主張することなんて、アオトにはできなかった。
どうすべきか分からなくて、その場に立ち尽くす。
料金を箱に入れた彼女が最後のみかんを手に取り、遂にみかんは完売となった。
アオトは心の中でため息をついた。
そんなこととは思いもしないだろう。嬉しそうな彼女の背中に軽く会釈をして、アオトは車へと向かった。
「あの!」
よく通る明るい声で呼び止められた。驚いて後ろを見る。
「みかん!」
「え?」
「このみかん! もしかしてあなたが買うつもりでした?」
両手を空っぽにしたアオトを見て、彼女がそう言った。
「えっと……はい……あ、でも気にしないで下さい。僕は他のとこを探すんで」
アオトが再び車に戻ろうとすると、再び「待って」と呼び止められた。
「よかったら、このみかん、半分こしませんか」
「え、半分こ……?」
「私、この辺のみかんは全部食べたけど、ここのが1番美味しいと思う。だから、譲ってもらったお礼に半分もらって下さい」
少し気が引けるような気もした。でもそれ以上に、そこまで美味しいみかんなら、アオトは食べてみたかった。
「じゃあ、お言葉に甘えて……」
「よかった!」
結局、最後のみかんは2人で半分ずつ分け合った。
自分の分のみかんを袋に移し終えた彼女は、その中から1個取って、その場でみかんを食べ始めた。
「う〜ん! 甘い! うまい!」
彼女があまりに美味しそうに食べるので、アオトも彼女の真似をしてみることにした。
「あ、ほんとだ! すごい美味しい!」
「でしょ」
少し自慢気に彼女が笑う。
「僕、絶対また買いに来ます」
「うん! でもお互い、今度はもっと早くにね」
そう笑い合って、彼女と別れた。
口の中が甘くて、ちょっとだけ酸っぱい。
今日食べたみかんの味はきっと、忘れない。
誰も、僕に、見向きも して くれなかった。
チャイムが 鳴ると、となりの陽子ちゃん、正太くんは 僕と反対側へ 足を出し 立ち上がる。
僕は 教科書と ノートを片付けて 本を取り出す。
図書室のなかで 一番 輝く UMA(未確認生命体)についての 本。
僕は オカルトが 好きだった。
理由は 特にない。多分、ワクワク するからだ。それと 昔から コワイものが 好きだった。
妖怪 宇宙人 UMA 幽霊。
コワイ絵を描く人は すごい。適当な箇所に指を入れ、本を開いた。
見ただけで ゾワッとして、心を掴まれる。
これは こわい。フラットウッズモンスター だって。
木が一本 版画みたいにそびえてて、その麓に なにか 禍々しい感じの いきものが 立っている。
こちらを 見ていないのに その目は 僕に気づいてるかのようで おそろしい。
点描に にてるな。水木しげる みたいな。
トンッと 僕の頭が前へ弾け飛んだ。
後頭部が痛い。後ろを向くと、僕を通り過ぎてく新山さんがいる。
最近多い。誰かが僕を 通り過ぎる度に、僕の頭にぶつかっていく。
もう一度 本に 目を落とした。さっきより少し 机に向かって首を下げた。
首がポキッと鳴ったけど 猫背のはじまり だったけど、別に気にしなかった。
だけど チャイムが鳴った。
陽子ちゃんと 正太くんは 僕と反対側から、それぞれ机へ 足を入れて、椅子に座った。
「はい。おはじきをくばります」
先生は言った。
僕はちょっと へんだな、と思った、さっきまで 休み時間が終わったばかりだったんじゃ なかったかな。
前の席からおはじき入りの ちっこい箱が飛んできた。
おもしろい。入ってくる陽の光に カラフルに輝いてる。
僕は箱を開けた。
「はい。みんな、おはじきを5個と3個におはじきを分けられましたか?5個と3個に。
分けられなかった子は教えてね、手を挙げて」
僕は手を挙げた。よくわからなかったが、手を挙げてと言われたので手を挙げた。おはじきは持ったままだった。
「福井先生が来てくれるよ」
僕は手を挙げたママ待った。先生は ちょっと 気づきにくい。ママは 僕が後ろの席だからだと言っていた。
持ったままの、3個のおはじきは、やがて僕の手の中から滑り落ちて机にかんからかんとうるさく鳴った。
僕は蒸れてた手の中が気持ち悪くて手の指を開けた。そのタイミングで 先生と目が合った。
あ 福井先生が 来てくれる、と思った。
先生は突然赤くなった。肩をすごい勢いであげて、エリマキトカゲみたいだった。
「なにしてるの!」
イッパツ 叫びで殴られる。耳がビリビリする。窓が 割れた気がする。僕は、あまりよくわからなかった。叫ばれた事しかわからなかった。
気道がとても 狭くなる。先生の眉間を見つめた。目をあわせたくなかったからだ。
先生は続けざまに「……周りみてみなさい。あなたが今、うるさくしたから、授業が止まっちゃったよ」言った。
視線を四方八方に飛ばす。みんな不思議そうな顔で僕を見ている。こわい。
ひとりは 僕をバカにした目で、ひとりはちょっとおもしろそうで、ひとりは全然僕に興味がなさそう。
僕は みんなに見られることが突然過ぎて こわくなった。いやなこわさだ。UMAのこわさのほうがずっといい。
「みんなにあやまりなさい」
先生は言った。
頭の中に 光だけ 溢れた。真っ白になってる。目がカクカク動いた。
僕、今、何で 怒られてるんだろう。
「あやまりなーさーいー!」
机はバンバン鳴った。
僕は息がヒックヒックしてきて 切迫した。
「ご、ご、う」
陽子ちゃんがため息をついた。
「ご、ごん、なさい」
先生はちょっとの間、僕を睨んだ。
顔を下げてボソッと何かを言った。
聞こえなかった。でも 僕は 大抵 僕が喋ったあと人がああいう表情している時は、僕の声がきこえなかったときだと知っていた。
「ごめんなさい!」
先生はすぐに顔を上げて持っていた教科書を机に叩きつけた。
「うるさいっつってるやろ」
先生は突然泣き出すと、教室から出ていった。
いつも 教室のすみのほうで大人しくしている福井先生は慌てて後を追った。
僕はおはじきを見つめた。
今は算数の時間だって事を思い出した。
僕はまだ教科書も、ノートも出していなかった。
「アホ?おまえ」
正太くんが言った。
「先生、可哀想」
陽子ちゃんがつぶやいた。
僕はみんなにバレないように、ゆっくり机に手をいれた。
「なにしとん」
バレた。こうなったら、精一杯のスピードで出すしかない。 僕は ちょっとした 速さで 算数の教科書を ひきずりだした。
またみんな 僕から目を離した。
みんな 僕から興味を落とした。
みんな 僕を諦めた。
「あほじゃ、ないし」
僕は静かに言った。みんなもう、先生を追いかけて行った。僕を通り過ぎる子はみんな 僕の後頭部に当たっていった。
僕の頭は そんなにジャマなのか。
ぼーっとしながら 学童を 過ごしていた。
僕に優しい先生は 掃除機をかけていた。
コワイ先生は 僕を睨んでいた。裁判官みたい。コワイ先生の机も相まって、そっくりだ。
「もう 七時ですけど」
コワイ先生は、カラス声で笑いながら言った。
先生の隣にいる 金魚のフン先生は それに同調して頷いた。
「ダメだよねえ、これ」
「ホントに。私たちだってねえ、ヒマじゃないのにねえ」
僕は まだぼーっとしてた。他の子達は みんな帰ってる。ピンポーンと鳴った。
ママだ。僕は 持ってきていたランリュックをしょった。
「遅いわ〜」
カラス声は大きく響いた。椅子から 立ち上がる時の掛け声 みたいに言った。
コワイ先生は僕の背中をグイグイ押しながら、 玄関に導いた。
「ママー」
「また遅くなってすみませんー……」
ママは僕を一瞬見たが、僕の頭を越したところを見た。
「ぇぇ〜、それ毎回言われますけど、そしたら次早く来れるんですか?」
「頑張ります」
「いや。頑張りますと違うくってえ」
カラス声が厳しくなった。僕の肩にはまだ先生の手があった。先生の手はいつも 僕を縛るみたいに強く掴む。痛い。
「ママ」
「……可哀想にね」
僕はママの手に手を伸ばした。早く帰っても なにも すること ないから 別にいいのに。
「もうみんないませんよ。今日もひとりでずっと、お利口さんに座ってたんですよ」
ママが泣いた。するとカラスの目が優しくなった。クチバシで肉を散らかさないように。狡猾な優しさ。滑稽な気遣い。
「私たちもね。ずっと時間がある訳じゃないんです。早く来てもらわないとね。わかるでしょ?」
ママは頷いた。ママの髪のおだんごがゆれる。ママは最近よく泣く。じいちゃんがなくなって(と、みんな言う)から、多い。
ママは僕の手を掴んで、カラスはようやく爪を僕から離した。
ママの車に乗る。ママはすぐに発進した。
「ママ、あのなフラットウッズモンスターってしってる?」
「……しらない」
「あのな、身長が2mあって、スカートみたいなん履いてるねん。めっちゃこわいで!」
ママは答えなかったが、僕は別になんとも思わない。
「帰ったらなー、テレビ見よっかなあ〜、あれ見たい。リトルマーメード」
ママは鼻水をプシュンと吹き出して泣いた。
「……売っちゃった。ごめんねヨーヘイ」
「売るって何?」
「もうないの」
「なんで?あっじゃ、お風呂であそぼー」
ママはハンドルを握っていたが、なにも握っていないように見えた。ママは時々、もぬけの殻みたいになる時があった。
お風呂のおもちゃもちょっと減っていた。
みかん
テーブルの上に、
綺麗な紙箱が置かれていた。
ふと漂う、
みかんとチョコレートの甘い香り。
手を伸ばすけれど、
箱の蓋は重たくて。
その瞬間、浮かんだのは…
お前の、笑顔。
その笑顔が、酷く眩しくて。
指先が、一瞬止まったんだ。
箱の中には、
夕焼け色の輪切りが並んでた。
甘くて、ほろ苦い、
少しお洒落な、オランジェット。
半分だけチョコレートに覆われた、
オランジェットは、
何処か、お前に似てたんだ。
真面目だけど、何処か気取ってて、
少し意地悪な、お前の態度みたいで。
夕焼け色をそっと摘んで、
口に運ぶ。
オレンジは、酸っぱくて。
チョコレートは、ほろ苦くて。
だけど、凄く甘くて。
胸の奥が、きゅっと痛んだんだ。
いつもすぐ傍にいるのに、
お前は、全然気が付かないんだ。
ボクが抱えてる、
甘くて苦い、この想いに。
ふと、みかんの香りが、
鼻先を掠めた。
ボクは思わず、
宝石の様なオレンジ色から、
逃げたくなって、箱を閉じた。
きっと、
この甘さも、ほろ苦さも。
全部、全部…
お前のせいなんだ…って。
胸の痛みを誤魔化すように、
ボクは一人、呟くんだ。
『みかん』
地元のソウルフードと言えばみかんの餡掛け焼きそば通称『みあん』。焼きそばの塩けにみかん餡の甘酸っぱさが絶妙で子供から大人まで大人気の一品だ。
私が初めてみあんを見たのはフードコートだった。母に勧められるがままに注文したみあんだが、その見た目に私は衝撃を受けた。
焼きそばの上に何やら黄色くてベタベタした得体の知れない物がのっている。何これ…食べられるの!?
そう思った時から私はみあんを口にすることが出来無くなった。それは多分、これからも。
どうしてこうなったんだろう…。
私は目の前のみあんを見て呆然としている。
確か今日は姉が婚約者を連れて来て、家族皆で食事に出たんだけど行き付けの店がたまたま臨時休業でどうする?って話から、だったらみあんが食べたいです!って婚約者が言って…
私は静かに目をつむる。美味しい匂いが漂って来る。私はみかんも焼きそばも大好き。だから大丈夫。きっと食べられる。
私は手に汗握りながら必死に自分に暗示をかけた。
【みかん】
一皮向けると甘い果実が出てくる
お父さんみたいだね
「みかん」
白い筋は栄養があるって聞くけれど。
舌触りが悪いからつい剥いちゃうよ。
みかん
蜜柑と聞くといろんな事が思い浮かぶと思う
冬、炬燵、酸っぱい、甘い…この辺りがよく浮かぶだろう
でも、私が1番に思い浮かぶのが推しだ
1年半ぐらい前から推している推しの頭には蜜柑が乗っているのだ
「推しに出会う前は炬燵に蜜柑!だったのになぁ」
炬燵に入りながら蜜柑の皮を剥きつつ呟く私
推しに出逢えて良かったと思っている
だって今回みたいな小さな事でもふと思い浮かぶ程 推しが大好きだから
年末年始のためと買ったはずのみかん。
箱で5kgで買ったのに、残りわずか…
いつの間にか食べていたんだ!
新年迎える前に無くなる予感。
5kgじゃたりないんかーい。
――種がないのも困りもの。
二階の自室からダイニングへ下りると、遊びに来ている友人が見慣れないものを食べていた。手土産だろうか、それと同じものが小さな木の籠に積まれて置いてある。香りは普段よく食べるオレンジと似ているけれど、少し、違うような。
「オレンジ、ですか?」
持ってきた本を机の端に寄せて、橙色の果物を指先でつつく。なんだか小さくて丸っこい。
「ミカンっていうのよ」
「みかん?」
「ほら、この前ユズを見せたでしょう。あれと同じ地域で育つ柑橘類よ」
あのお湯に入れる果物の仲間らしい。でも、それならだいぶ酸っぱいんじゃないだろうか。
「甘いんですか?」
「ええ、普通のオレンジよりもね」
食べてみる? とひとつ差し出されたみかんをまじまじと眺める。オレンジよりも皮が柔らかい。友人も素手で皮を剥いている。
「ナイフは要らないんですね」
「食べやすくて良いわよね。簡単に剥けるわ」
なるほど、とひとつ頷き、友人を真似てみかんに力を込める。あ、本当に簡単に剥ける。
「実が小さいです」
「そこが難点かしら。いくつか食べないとお腹にたまらないわ」
「……それ、何個目ですか?」
「さあ……いくつかしらね」
わざとらしく目を逸らした友人に呆れつつ、テーブルに目を落とす。……三つか四つはありそうだ。こんなに食べて、夕飯が入るのか心配になる。
「ほら、食べてみなさいな」
「そうですね」
促されるままひとつ口に含む。
「ん、甘くて美味しいです」
「でしょう」
三つ四つと手が伸びてしまうのもわかるかもしれない。少し酸っぱくて、でもそれ以上に果物らしい甘さがちょうどいい。
「これ、育てられないでしょうか」
「庭で?」
「種があれば……」
「種が出にくいように品種改良されてるみたいよ」
「たくさん食べれば……」
夕食が入らないくなるわよ、と笑いながら言われてしまう。
「なら夕飯の後に食べます」
「はいはい、私も手伝うわ」
翌日、黄色っぽくなった肌に二人して悲鳴をあげるのはまた別のお話。
(みかん)
みかん。
みかんがおいしい季節になっている。
皮が薄いほうが良い。
小さい方が味がまとまっていておいしい。
三ケ日の早生みかんは今月の上旬辺りから微妙となっており、早生みかんの季節ではない。
全然頭がまとまらないが、年末なんだからと言い訳つけて、ぼんやりしていたい。
私が書いた物語は完結したけど
物語の登場人物にとってはほんの一部に過ぎなくて
自分で作っておきながら文字に起こしてない
未完の物語が時々無性に気になる
それも書き起こしたらキリがないから
作者自身も夢想するしかない
『みかん』
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
SNSやっているといろんな裏話が目に飛び込んできます。
例えば、モーニング娘。『みかん』には「未完」という意味が込められていて、非常に前向きな明るい楽曲が魅力的、とか。
……「うたばん」のスタジオセット、非常にフルーティーでしたけど、当時はあまり知られてなかったのかな。
t「みかん」
「蜜柑の季節やんな〜」
『そうだねぇ』
窓際に立ち外を眺める君が空返事をする。でもそれは仕方ない。だって今日は珍しく外に雪が積もっているから。
たまに降る事があっても、積もる事な少ない。物珍しい光景に釘付けになってる君は、窓の側から動けずにいる。その姿を見て思わず笑みがこぼれてしまう。
「外、行こうか?」
『!?』
自分の言葉にバッと振り返る君。その表情が愛おしくてまた笑いがこぼれた。外に行く準備をして、ドアノブに手を掛けた瞬間君はいの一番に飛び出す。
「可愛いな〜」
艶やかな黒色に雪の結晶が乗っかり、妖精のようにふわりふわりと雪を踏み潰す感触を味わっている。
「寒いから遠く行かんといてな」
そう声を掛けその場にしゃがみ込んだ。
帰ったら君の好きなこたつで蜜柑でも食べてぬくぬくしようかなと思った。
みかん
愛媛、和歌山、熊本、三重
美味しいみかん産地は挙げればきりがない
焼きみかん
揉みかん
食べ方もきりがない
ビタミンcの代名詞代表候補
国民、庶民のアイドルフルーツ
冬場のみかんはコタツの相棒
人間をだめにする椅子の助走補助
今年もありがとう
「やっぱり冬は、こたつでみかんだよね」
キミと2人、向かい合ってこたつに入り、カゴに入れたみかんを食べていた。
「ん、今度のも甘い」
2個目を口に入れ、キミは目を細めるが
「ん、俺のは酸っぱい」
俺は思わず、眉を寄せる。
「え?そんなに」
とキミが驚くので、俺のを一粒渡すと
「ホントだ、酸っぱい」
口に入れ、顔をしかめる。
「私のもどうぞ」
キミのを一粒もらい食べると
「ん〜、甘い」
甘くて美味しい。
「甘いのと酸っぱいの…じゃあ、こうだね」
キミは食べているみかんを半分に割り
「あなたのも半分ちょうだい」
微笑まれ、半分を交換する。
「あなたのと私の。一粒ずつ食べれば…うん、酸っぱさが和らいだ」
ニコッと笑うキミに、キミが恋人で俺は幸せだな。
と思うのだった。