実家から送られてきたのでよかったらどうぞと、彼女が大きな段ボール箱を抱えて私の部屋を訪れたのは雪が深々と降り積もる日のことだった。
もっともここは所謂雪国で、冬の間はずっとそんな調子だと言って良いのだが。
「いいの?こんなにたくさん。スーパーに行ったらめちゃくちゃ高いんで、今年は諦めてたところだったんだよ」
4、5日前に近所へ買い出しに行った時見かけたのは一つ100円以上はする代物で、貧乏学生には手が出ない金額だったのを思い出す。
「あっちの方ではよく採れるので、買ったことはほとんどないくらいなんです。毎年時期になると近所の人からたくさんもらうので。さすがにこれは両親がどこからか買って送ってきたみたいですけど」
他人の部屋で当たり前のように自分のマグカップにお茶を淹れながら千佳は言う。
そういえば、実家はここよりかなり西の方の都道府県なのだと言っていたっけ。
「ありがたいけど、さすがにこれ一箱は多いな。いくら私が人一倍食い意地が張ってると言っても」
「あまね先輩が食べきれない分は私も食べますから大丈夫です。それにこの部屋、出入りする人が多いから。ここに置いておけばすぐ消費できると思ったので」
確かに何故だか、この部屋はやたら人の出入りが激しい。
そうは言っても先述のマグカップにはじまり膝掛けやらなにやら私物置いているのは、千佳をおいて他にはいないのだが。
「いいなぁ。千佳の実家の方は暖かいんだろうなぁ」
「こんなに雪が積もったりはしないですけど、さすがに冬は寒いですよ」
いつものように私の本棚から抜き取った本に目を落としながら彼女は応える。
窓の外は相変わらず雪が降り続いている。
しばらくはこの調子が続くだろう。
私たちがその下の地面の様子を思い出せるのはまだかなり先の話だ。
段ボール箱の中から、今しがたいただいたばかりのその果実をひとつ、手に取ってみる。
それは物質としてはあたたかいはずもない。
しかし、その色はなんとも目にも心にもあたたかく、このみかんがやってきただろう彼女の故郷に私は想いを馳せるのだった。
『みかん』
12/31/2024, 12:08:38 AM