『どうすればいいの?』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
手探りで のたうち回って
這いつくばって 涙が出たって拭う暇もない
そんな感じで生きている
もうちょっと楽に生きたいのになぁ
◇どうすればいいの?◇
「どうすればいいの?」
<あんたなんて産まなきゃよかった。
あんたと出逢わなければよかった。
消えろよ。死ね。>
<友達になってくれてありがとね。
みんな○○ちゃんのこと必要としてるからね。
頑張って生きてね。>
わたし、、どうすればいいの?
ーここにいるよー
触れられそうで触れられない
近づいたと思ったのに近づいていないこの距離に
虚しくなる
君の笑顔は僕に向いているのに、
君の心は僕に向いていない
僕がいるのに
僕がいるのに
君を見ている人はここにいるよ
僕は君の不安を抱きしめたい
君の涙を拭いたい
君の気持ちを理解できる唯一の人になりたいんだ
僕の思いが届く日を願って
今日も君の隣にいるよ
どうすればいいの? って、そんなの俺が聞きたいよ。
どうしたらあなたのこと好きにならずにいられたのだろう。
『どうすればいいの?』
どうすればいいの?
どうすればよかったの?
あの時はそう思ったけど、20年も経てば分かる。
どうしようもなかったよね。
昨日のお題も終わっていないのに
次のお題が
ああ
どうすればいいの
#どうすればいいの
#37
どうすればいいの?
(お題更新のため本稿を下書きとして保管)
2023.11.22 藍
「棺」
ショートショート
テーマ「どうしたらいい?」
私は血を吸って暮らしている。人間の血。
今日もいつものように、人間のふりをして、夜の街を散歩していた。
私は暗くて狭いところが好きだ。そんな場所を求めて街を練り歩く。
その日は教会の近くを通りかかった。
その教会の敷地は広く、周囲は電灯に照らされている。
敷地内の庭に黒色の落ち着いた装飾のされた木製の棺があるのを見て足を止めた。棺は四つあった。どの棺にも蓋には十字架が刻まれている。
近頃葬式があったのだろうか、それともその準備だろうか。私はその棺に少し興味を持った。
中に入って眠りたいと、そう思った。
次の日もその教会の方へ歩いて行き、庭の外から棺を眺めていた。しばらく眺めていると、あるアイディアを思いついた。庭に棺は四つもある、一つなくなったところでバレても大事にはならないだろうし、今夜だけ借りて明日には元の位置に戻しておけば良い。そう思った。
私は好奇心が勝って行動に移った。まず、あたりを見回したが人影はない。電灯であたりがよく見えるので間違いないと思う。逆に言えば私の姿はよく見える。人間に見つかってしまう可能性が高いので、すぐに棺を持って、近くの屋内に入る必要がある。私は棺を担ぎ、少し離れたところにある廃墟の教会にこっそり入り込んだ。窓のない部屋を探していると、地下室への入り口を見つけた。私はラッキーだと思った。地下への階段を降りていき、電気をつけた。その地下室はどうやら教会の備品を置いておく部屋だったようだ。今はもう使われていないだろう。私はそこに棺を移しさっそく中へ入った。
やはり、この木製の棺の中は心地が良かった。今夜はもう眠りについて、明日起きたら元の庭へ戻しに行けば良い。そう思った。だが、問題は今夜の内に起こった。
私がウトウトして眠りに落ちそうにしている時に、天井から足音が聞こえてきた。私の眠気はさっぱり冷め、すぐに棺から出ようと思ったが、どうやら人間は1人ではないらしい。もし地下室へ複数の人間が来たらいくら私でも叶わないだろう。この街では私の噂は少なくない。自警団が結成されているという話も聞いたこともある、中には銀の弾丸を持っている人間もいるだとか。ここは棺の中で、地下室の扉が開かれないことを祈るしかない。
だが、その懸念は現実になった。扉が開いた音がして、階段を降りる足音が近くなってくる。「こんなところに隠れたのか?」「大きな箱を担いでいたらしい」そんなら声も聞こえてくる。もう棺の中で息を潜めるしかない。この人間達は、ここに誰かが入っていくのを見たという近隣の人からの通報を聞いて来たのだろう。私の考えが甘かった。
なにを選択すればいい?
わたしはどうすればいいの?
今日はどうしよう…
▶︎学校を休む
▶︎学校に行く 選択
わたしはどうすればいいの?
新しいクラス親友と離れちゃった…
▶︎新しい友達を作る 選択
▶︎親友のところに遊びに行く
わたしはどうすればいいの?
どうにかグループに参加できたけど…
▶︎なれないノリに無理やりついていってみる 選択
▶︎諦めて仲の良い友達のところにいく
わたしはどうすればいいの?
勉強の会話が苦手だけど…
▶︎参加してみる 選択
▶︎無言で過ごす
わたしはどうすればいいの?
なんか浮いてる気がする
▶︎話題を振ってみる 選択
▶︎他の友達と過ごす
結局何を選んでも苦しい道に進むのはなぜ?
あのときもしも他の選択をしていたら、私は今こんなに苦しんでいなかった??
わたしはどうすればいいの?
どこからやり直せばいい?
▶︎わからない
▶︎わからない
わたしの人生の選択権が、誰かに譲れたらいいのに
プレイヤーは変えられない。
[タイトル: 多世界解釈解釈]
[お題:どうすればいいの]
「美郷が好きなのを選んでいいよ」
父が仕事帰りに買ってきたドーナツは、まだ箱の中に囚われているというのに、私の胸の内はすでに多幸感に満たされていた。
決して裕福ではない慎ましい家庭環境で、およそ三ヶ月に一度あるかないかという贅沢。三人兄妹の五人家族で、その末っ子にあたる私には、最初にドーナツを選ぶ権利が与えられた。
箱の中を除くと、甘い香りが溢れ出す。ドーナツは五種類入ってる。ポン・デ・リング、チョコファッション、エンゼルフレンチ、ダブルチョコレート、そしてピカチュウ。
一人一つだ!
まだ六歳の私にもすぐに分かった。五人家族に、五つのドーナツ。なんてぴったり! 算数は大の得意だ。
ドーナツはどれも蕩けるように甘そうだ。チョコの光沢は煌びやかに輝いている。この時点で、私の選択肢はダブルチョコレートと、エンゼルフレンチに絞られた。
いや、でもと、私のお腹が唸る。記憶を掘り起こしてみれば、ポン・デ・リングを食べたのは随分と前のことで、忘れかけたその味を再確認するのも良いのではないか。あるいは、まだ食べたことのない味に挑戦するのも良い。チョコファッションの味はまだ知らない。
そんな風に唸っていると、台所から顔を出した母が、「美郷はピカチュウよね?」そして、嫌味のない笑顔を浮かべ「ポケモン、好きだったじゃない」
そうだったのか、と私は思う。私はポケモンが好きなのだろうか。
不思議そうな顔をしていると、父は禿げ上がった頭をかきながら、「ああっ、やっぱりそうだったよな。ミスドに寄ったら、コラボしてたから買ってみたんだ」
父の眼差しには期待が見え隠れしている。
喜べ、と言っている、気がする。
「うん、嬉しいよ、パパ」
そう言って、私はピカチュウを選んだ。
「じゃあ、俺はこれ」下の兄である圭吾がポン・デ・リングを選んだ。母が、「将吾にも持っていって!」と言い、子供部屋に向かう圭吾にエンゼルフレンチを持たせた。将吾は高校受験の勉強中で、部屋に缶詰になっている。
父はダブルチョコレートを選んだ。私のチョコ好きは、父の遺伝だろう。母は残ったチョコファッションを頬張る。「うん、美味しい」と言って、手の中のピカチュウを弄ぶ私に笑顔を向ける。
「ほら、早く食べて、歯磨きしなさい」
「うん、分かってるよ、ママ」
私はピカチュウの耳を口に咥えた。そのまま千切って、片耳のないピカチュウを改めて見る。なぜだかグロテスクにおもえないのはどうしてだろう。
まあ、でも、美味しいことに違いはない。そのまま私は、ピカチュウの残りの部分も食べ切った。ピカチュウはとても美味しかった。
×
「お前は数学はいいんだけどなぁ、宮永。大学受験は数学だけじゃ無理なんだよ」
そんなことない、と思いながら私は担任に向けて「はい、頑張ります」と頷いた。
「『頑張ります』か。本当に頑張れよ、もう共通テストまであと半年しかないんだからな」
きっと、担任は発破をかけたつもりなのだろう。その実、二者面談を終えた私の気持ちは深く沈むばかりだ。
私が教室に戻ると、教師もいないのに相変わらず静けさを保っていた。私のクラスは、大学進学を目指す特進クラスで、誰に指示を出されずとも勉強を進んでするような、真面目な人が多いのだ。
退屈だ。
受験のための勉強というのは、なんともまあ退屈なことだろうか。未来への投資である、という理屈はわかる。その重要度も。けれど私は、やっぱりこの人たちの中では浮いていた。未来の自分のために、今の自分を犠牲にするというやり方が、どうにも腑に落ちないのだ。
私は教室を後にした。引き戸が開いて、閉じて、誰も教室に入らないというのは、大変な違和感であったはずだが、誰一人として気にしてはいなかった。
私は一人で図書室に向かった。
この図書室をサボり場として利用する人間が、この学校に二人いる。
一人は私だ。読書好きというわけではないが、数学を解くなら教室よりもここの方が集中できた。
「おや、サボりですか宮永美郷さん」
私が図書室に足を踏み入れると、数学教師の植木先生から声をかけられた。
私は二人目のサボり魔の対面に座りながら、「授業はどうしたんですか?」
「もうカリキュラムの範囲は終えましたからね。今は自習にしてます」植木先生は読んでいた『死に至る病』から顔を上げて、「インプットだけでなく、アウトプットも大切ですから」
「模試の過去問解くだけがアウトプットなんですか?」
私は膨れっ面で言った。とにかく、教師に反抗したい気分だった。
「うーん、アウトプットとは、得た経験を実践に活かすことです。あなたにとっては模試が実践とはいえないかも知れませんが、たいていの受験生にとっては、模試は正しく実践ですよ。勿論、過去問でもね」
植木先生は微笑みを湛えている。子供の嫌味を受け流せるだけの余裕と度量が、私と彼との間にある壁を如実に表していた。
「ふーん」と、素っ気なく返して、私は顔を伏せた。
「嫌なことでもありましたか?」
「嫌なことなんて何もないですよ」
いじめられてはいない。虐待も受けていない。腹が立つような偶発的な不幸にも遭っていない。嫌なことなどあるはずがない。
私は中学校までは成績優秀だった。将吾の高校受験失敗を皮切りに、『受験に家族で挑む!』をスローガンに掲げた我が家は、勉学一色に染まった。将吾は既に専門学校を卒業して就職しており、圭吾は見事に都内の国立大学に進学した。ともすれば、残る受験生は私だけであり、両親の熱はその全てが私に向けられた。
その熱の発生源が愛であることは分かっている。これまでの十七年間を親の愛に生かされている私が、それを跳ね除けるわけにはいかなかった。
「ただ、ちょっと疲れてるんです」
我ながら、いい表現が思いついた。私は疲れている。好きなものを食べ続けるのが、ある時点から苦痛であるように、私は幸福な日々に疲れていた。
すると植木先生は、本を端に置いて言った。
「じゃあ、てきとうにお話でもしましょうか?」
「てきとうに?」
「ええ、全く持っててきとうな、それでいてあなたの好きな数学に関わるお話です」
私はそれを聞いて、むくりと顔を上げた。植木先生の話は面白い。高校生活の中で、唯一数学の点数だけが下がらなかったのは、八割方彼のお陰だろう。数学の授業中だけは、うたた寝すらしたことがない。
「どんなお話なんですか?」
てきとう、でも数学。純粋な論理に固められたあの世界の中で、なおてきとうな話。私の興味を唆るには充分なパンチ力がある。
「並行世界のお話です。でもその前に、少し復習から入りましょう」
並行世界。私がその言葉を反芻するよりも先に、植木先生は、「シュレーディンガーの猫を覚えていますか?」
「シュレーディンガーの猫? ええと、二分の一の確率で毒が出る箱に猫を閉じ込めたとき、その猫が死んでいるか生きているかは、箱を開けて観測するまでは分からない、っていうやつでしたよね」
私は記憶を探りながら答えた。数学の授業で、植木先生自身から教わったものだ。
「そうですね。猫が生きながら死んでいる、あるいは死にながら生きている。そんなバカなことがあるか、というのがシュレーディンガーの主張でした」そして、ややトーンを落として「量子力学を否定したかった、ということです」
量子力学に関しては、私は全く明るくない。ただ少なからず思うのは、見えていないから確定していない、なんていうのはやっぱり可笑しな話だということだ。あまりにも主観的に過ぎる。誰にも見えていないから何も起きていない、なんてことはあり得ない。
猫は死んでいる。
猫は生きている。
答えは二つにひとつだ。
「・・・・・・シュレーディンガーが否定したかったものを、コペンハーゲン解釈と言います。量子力学において、量子的な重ね合わせの状態は観測によって決定する、というものです。箱の中の猫、そのままですね」
植木先生は一つ咳き込んで、「そして、量子力学にはコペンハーゲン解釈以外の解釈もあります。量子の重ね合わせは、観測によって決定するのではなく、可能性の数だけ世界は分岐する、と」
「いわゆる、多世界解釈です」
×
『巨大な木を思い浮かべて下さい』
もはや懐かしい顔を思い出す。
『木は幹と枝に分かれていますが、この場合、太さは関係ありません。猫が死んだ世界が幹、猫が生きている世界が枝です。
この二つの世界が並行して存在しています。この解釈において大事になるのは、観測が必要ない、ということです。そもそも、観測とは? カメラで見ること? 猫が見ること? それとも、人の肉眼に限るのか? コペンハーゲン解釈の常識に反する部分は、たいていがここのせいです。
多世界解釈では、どちらの世界もある、という解釈をします。重ね合わせは存在しない。ただし、そもそも多世界なんて存在するのか? という部分もまた、常識に反していますよね。これもまた、証拠はありません。あくまで解釈でしかないのです』
植木先生がそう言ったところで、授業終了のチャイムが鳴った。早く教室に戻らなければ、担任にサボりがバレてしまう。結局、間に合わなくてしこたま怒られたけれど。
私は、もう少し先があると思っていた。まだオチていない。この話を持ち出すからには、植木先生が私に言いたかった、何かがあるはずだ、と。
けれど彼は、驚くほど呆気なく、『時間だから、また今度ですね』と言った。
仕方がないことだ。私には時間が無かったし、彼も他の教師に見られる訳にはいかない。授業をサボって、女子生徒と密会していた、なんてことは。
『それじゃあ、さよなら』
『またね、せんせ』
それが最後の会話だった。
私の目前で、降りた踏み切りが揺れる。高速で動く電車に押し出された空気が、私にしつこくまとわりつく。
警察は事故と判断した。実際、前日に会っていた私の目にも、彼が自殺をするようには思えなかった。
植木先生は時速百キロほどで高速道路の中央分離帯に突っ込んで死んだ。
「事故・・・・・・事故、か」
踏み切りが上がる。けれど、私は足を踏み出せずにいる。
植木先生は何を伝えたかったのだろう。日々に疲れていた私に、どうしろと言いたかったのだろう。
『あくまで解釈でしかないのです』
あの日、彼はそう言っていた。ならば私もそれに倣おう。恋の終わりと、人生の終わりが重なり合った今こそ、『多世界解釈』を解釈すべきだ。
あるいは、希望を持て、という話かもしれない。
二つの世界がある。大木を思い浮かべる。一つは植木先生が生きている、という。もう一つは、植木先生が死んだ、この世界。
たとえこの世界では死んでいても、別の世界では生きている。だから、悲しみは必要ない、とか。
いや、それではまるで、植木先生が自分の死を予測していたようだ。植木先生は自殺ではなく、間違いなく偶発的な事故だ。
あるいは、てきとうに生きろ、という話しかもしれない。
思えば『てきとう』をやけに強調していた。あらゆる世界が同時に存在しているのだから、何かを選んでも、また別の何かを選んだ自分がいる。それはつまり、どのドーナツを選んでも、本質的に変わりがない、ということだ。
ピカチュウを選んだ私がいるように、ポン・デ・リングを選んだ私がいて、ダブルチョコレートを選んだ私がいる。
受験に失敗した将吾がいて、受験に成功した将吾がいる。
だから、何を選んでもいい。てきとうでいい。どうせ全ての世界があるのだから。
これはあり得そうな解釈だった。
踏み切りが喘鳴をあげる。
涼やかな夏の風が吹いている。
「そう、例えば、私が死んでも──」
蝉がうるさい。
電車が近づく。
「──私は生きている」
私は、一歩足を踏み出した。
×
家に帰った私は、胃に入っていた全てを便器に吐き出した。
酸っぱい匂いが鼻をつき、それがさらに吐き気を刺激する。全身が気怠さに襲われ、トイレの床にそのままへたり込んだ。
私は死ねなかった。
ただ、死ぬのが怖かった。
どうして、あのギリギリになるまで気づけなかったのか不思議なくらいだ。私は確かに、死神をこの目で見た。
そこまで自分を追い詰めて、ようやく納得のいく答えを見つけた。
これだ、絶対にこれだ。私はもう、そう決めた。
即ち、てきとう、ではなく、真剣に生きろ、と。
あなたが生きていることを選んだこの世界は、あなたが死ぬことを選んだ世界の上に成り立っている。
人は生きる度に、人を殺している。
だから真剣に生きなくてはならない。あらゆる屍を踏み越えて、私は生きているのだから。
それを選んだのは自分なのだから。
ピカチュウが嫌だったなら、嫌と言ってポン・デ・リングを取ればよかった。そうしなかったのは私だ。植木先生は死にたくなかったのなら、残業終わりに眠い目をこすりながら運転なんてせず、タクシーでも使えばよかった。
あらゆる選択肢は目の前にある。どうすればいいのか、なんて自分で決めればいい。
私は水で口を濯ぐと、自分の部屋に閉じ籠った。勉強机に座り、カバンから道具を取り出す。
数学、ではない。それは既に必要な量に届いている。
大学受験に真剣に取り組む。心機一転には既に遅いかもしれない。浪人して親に迷惑をかけることになるかもしれない。それでも挑まない訳にはいかない。私の足元には、私の知る限り、二つの死体があるのだから。
英語、国語、物理に世界史。合格点に足りない教科は多くある。
さて、一体どれから始めようか。
それは信頼の証だったのだろう。
必ずなんとかしてくれるという絶対の信頼。
「どうすればいいの?」
それに俺が応えると、アイツは素直に従ってみせた。
どんな指示も命令も必ず完遂して「次は」と問いかける姿は忠実な犬を思わせた。
どれだけの年月そんな日々が続いただろう。
やがて俺は王になった。
変わらずアイツは隣で尋ねる。どうすればいいと。
かつて信頼だったそれは約束となり誓いとなり、終いには脅迫で呪いになった。
かつて同じ家で過ごした家族も、同じ飯を食った仲間も、苦言を呈した部下ももういない。
全てアイツが奪った。俺が奪わせた。
「どうすればいい?」
俺が聞きたい。もう誰にも聞くことはできないけど。だから。
「俺を殺してお前も死んでくれ」
真っ赤な視界に最後に映ったのは、幼い頃以来に見たアイツの天使のような微笑み。そして、
「ありがとう」
「…どうすればいい?」
血を流して目の前に横たわる男は君の婚約者。
修羅場の揉み合いの末の…というわけだ。
「ひとまず救急車だ!早く!」
『死んでる…?息してないよ…』
「じゃあ警察か?とにかく早く!」
『警察が来たら何て言えばいいの!?私やってないからね』
「俺がやったっていうから」
『それも嫌!私たちの関係がバレたらどうすんのよ』
そうか。この女が考えているのは保身だけ。
どうせ俺のこともそのうち飽きるに違いない。
頭に登っていた血も、胸の奥もサーっと冷める感覚がした。
捨てるならいっそ、利用してから。
「お前の親父が持ってる山、立ち入り禁止のところあったよな」
『え?まさか…』
「俺はこいつを殺したことを隠したい、お前は俺が家にいたことを隠したい」
「なら共通する解決策は、これだ」
こいつ自体を隠す。
さあ、自分を守りたい君はどうでるかな。
俺に協力するか、全てを捨てる覚悟を決めるか。
『…どうすればいいの?』
どうしたらいいの?
今私は究極の選択を迫られています。
でも私には選ぶことができません。
誰か助けて―
――――――――――――――――――
先程、私はお腹に強烈な痛みを覚え、近くにあった公園のトイレに駆け込みました。
それが危機的状況の始まりだったのです。
というのも、その個室には紙がありませんでした。
人間の尊厳の危機です。
紙のようなものが入っていないか、カバンを探りますがありません。
解決方法を考えていると、どこからともなく声がしました。
「赤い紙いらんかね。青い紙いらんかね」
なんてことでしょう。
なんと妖怪、赤紙青紙です。
赤い紙と答えると血まみれになって殺され、青い紙と答えると血を抜かれて殺される、恐ろしい妖怪です。
もちろん私には死ぬ予定はありませんので、答えるわけにはいきません。
だからと言って、尊厳の死は避けたいところ。
背に腹は代えられないため、このまま個室の外に出て予備のトイレットペーパーを取りに行くしかありませんでした。
しかしそこでも問題が起こりました。
なんと人が来たのです。
しかもこのトイレは、個室が一つしかないので、他の個室に入るのを待つということができません。
しかも彼女は個室のドアを開けてくれと懇願するほど、危機が差し迫った方です。
紙を持ってきてくれと頼んでも、彼女はそれどころではなく声が届きません。
そして後ろからは、赤紙青紙声が聞こえます。
もはや猶予はありませんでした。
この状況を解決するには、時間を止めて気づかれない内にトイレットペーパーを持って来るしかありません。
しかし私は時を止めることなどできません。
私はパニックでした。
どうしたらいいの?
誰か助けて―
その思いが天に伝わったのか、神が降臨しました。
「あのー。掃除したいんですけど、どういう状況なのかしら、これ。どうしたらいいの?」
清掃員さんでした。
「紙下さい!」
すべてを察した清掃員さんは、紙を投げ入れてくれ、無事個室から脱出することができました。
また清掃員さんに、妖怪がいることを伝えると鮮やかな手際で除霊されました。
さすがはトイレのプロです。
ドアを叩いていた女性も無事に間に合いました。
私は清掃員さんに礼を言い、その場を去りました。
しばらく歩いてから、ずっと清掃員さんのことを考えていました。
清掃員さんの勇姿が頭から離れないのです。
この気持ち、もしかして恋!?
私、どうしたらいいの?
「もぉー!!!!どうすればいいのー!?!?!?!」
研究室に大声が響き渡る。
「シリマセンヨ、ワタシハ、ガクシュウシタコトシカ、シリマセンカラ」
旧式ロボットが博士の問いに答える。
「無慈悲!!無機質!!無のかたまりー!!!」
と威嚇してみても眼球のない目に見立てた黒い丸がこっちを見つめるだけ。
「デ、ドウスルンデスカ?ハカセ」
「どうもこうもないわよぉ。あんたも手伝ってちょうだい。どうにかするわ。」
『どうすればいいの?』
ココロが
疲れちゃった
人がいて
その人を
助けられたら
って
周りの人が
頑張って
頑張って
そのうち
頑張りすぎちゃって
ココロが
疲れちゃった人は
いつの間にか
うんと
元気になって
周りの人は
どんどん
大変になって
どんどん
やつれちゃって
あれ?
なんで、
わたしたち
こんな
頑張ってるんだっけ?
#どうすればいいの?
どうすればいいの?
貴方には好きな人がいる
でも貴方はとても一途なんだよね
その好きな人が私ではないことは分かってる
その状況で私はどうすればいいの
どうすればいいの?
答えはある。
いつだって。
それに納得出来ないとき。
子供の頃は泣いて。
今は塞ぎ込む。
そんな彼は他人に相談されたときに困る。
だから余計に塞ぎ込む。
「距離を置きたい」
そう突然言われたの
自分が思いつく限りの自分が悪かったところを謝ったわ。
まだ一緒にいたかったから。
けど時間がたって思ったこともあるの。
私が悪いところを直してもやってしまったことは覆らない。
私のことが嫌いになりかけてる人に何を言っても「へぇ……そう」くらいにしかならないんじゃないかって。
私の方から手を離して、あの人はあの人の人生、私は私の人生を謳歌したほうがいいんではないかってね。
ねぇ、私はどうすればいい?
【どうすればいいの?】#88
焦ってはならない。
落ち着いて、何も考えない時間を作る。
作れないのならば、今すぐにする。
少しでも良い。
自分の休暇を作ろう。
ぐわり。
不安げに君の瞳が左右に揺れる。
呼吸は乱れ、胸が喘いでいる。
嗚咽が混じった息は聞くに耐えないもの。
「いや……、あ……いや、」
開いて閉じない口の端から、たらりと線が描かれる。
ぶるぶると手を震わせて治まらない様子の君の瞳が揺れながらも私を捉えた。
綺麗な円を縁った瞳孔がその大きさを何度か変える。
「たすっ、助けて、わたしは、ちがう、しかたなく……」
君の声はその瞳と同様に絶え間なく震えていた。
何かを取るように伸ばされた彼女の手はまるで真紅のゴム手袋を着けているかのように塗れていた。
視線を横にずらすと、君の体躯数倍はある肉塊が、同じ色をして転がっていた。
「なんで……なんで、そんな、かお、するの……。」
君は信じられない、とでも言いたいかのようにぐしゃりと顔を歪ませた。
そんなに酷い表情をしていただろうか。
「じゃあ、じゃあ! どうすればいいのよ、どうすればよかったの!?」
手も拭かずに私の胸倉を掴んだ君は力一杯に前後に揺すった。
遠慮もなく、頭を揺すられて、徐々に吐き気が競り上がってくる。
そして再び顔を覆って嗚咽を漏らし始めた君に、私は力なく触れることしかできなかった。
「……ごめん、ごめんなさい。」