ウサギ

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 それは突如。なんの前振りもなく降り注ぐ――
「そーちゃん」
「うん?」
 環は目の前のお酒を仰いでグッと唇を引き締めて、隣に座る恋人をじっと見つめる。
「……結婚、しよ」
 壮五の瞳が大きく揺らぎ、開かれてゆく。離さないその強い視線が先の言葉に真実味を意味しているようにも思える。
「けっ……こん」
「そ。これからもずっと一緒って誓うやつ。形だけでもしたいなーって」
 結婚。考えたことならばごまんとある。だが、口にしたことは無かった。法律上日本では認められていない。旅行も兼ねて海外で……と一人悩んでいたものだ。その事を伝えると環はふわっと笑って顔の前で手を振った。
「そんな大掛かりじゃなくてさ。小さな教会で、神父はももりんに頼むとか」
「も、百さん!?」
「そー。あ、司会がいいかな?Re:valeに司会、ケーキはみっきーといおりんで」
 それから……と指を折って話す環。壮五そんな環に開けた口が塞がらず、ただただ見つめていた。
「そーちゃんっ」
「んっ……」
 開きっぱなしの口を埋めるように環は壮五の唇を奪う。
「俺と結婚、嫌?」
「ちがっ……嫌なわけが無いだろう」
 壮五は少し目線を下げ、左手の薬指に光るリングを見つめる。お互いの瞳の色の宝石が埋め込まれたかけがえのないもの。雪降る夜にふと何気なく入ったお店。壮五の提案により壮五が水色、環が紫と互いの色を交換した。付き合いたての頃の安物の指輪はネックレスにして飾ってある。
「これは、さ、最近、気づいたんだけど」
 環は壮五の左手に自分の左手を重ね、同じようにその手の指輪へと視線を移した。
 壮五は意を決したように指輪に向かって吐き出すように口を開いた。
「僕は自分が思っているよりも。と、とてもっ!」
「め、めんどうな性格で、お酒の力を借りないと甘えることすら出来なくて。さらには、お、思ったことも、すぐに口にできない、ません。結婚のいいところ、どこ」
「いいとこ……。そんなのいっぱいあんじゃん。このかわいい顔も、そのめんどうなせーかくも、ぜんぶ、俺だけのそーちゃん。独り占め」
 勢いよく顔を上げた壮五に口元の端を上げ白いを歯を覗かせた。
「それに」と重ねた手を握るとそのまま言葉を続ける。
「甘えらんなくても、俺が甘えさせるし。きょーせいてきに。……な?俺、メリットだらけじゃん?」
「そう……だね」
 先程までの悩みがすっと出ていく。そうして代わりに一筋温かいものが頬を伝う。一筋、また一筋と溢れ出る雫は止まらない。それを止めようと手でぬぐっても視界はぐにゃりと歪んだまま。
「あ……れ?た、たまき、くん、どうしよう」
 付き合いたての頃に虫除けに買った安物の指輪も、雪降る季節に何気なく入ったお店で見つけた指輪も、今もらったばかりのプロポーズも――
 これ以上の幸せを壮五は知らない。
「あふれて、とまらない」
 どう、すれば、いい?
 そう問いかけるように環を見つめる。
「……決まってる。目が枯れるまで、泣けばいい」
 いつの間にか自分も歪んだ視界。これは嬉し涙。ちっとも悲しくなんてない。大好きな人が幸せいっぱいで涙を流し、それに共鳴するかのように自分の頬にも温かなものが伝う。
「そーちゃん」
「なに?」
「結婚、してくれる?」
「答えなんて……聞かなくてもわかるだろ」
 環は溢れんばかりの笑みを浮かべると、握る手に少し力を込めてから壮五の唇を重ねた。
 二人でたくさんの幸せを積み上げていこう――

いい夫婦の日ということでプロポーズの環壮を。(二次創作です)
「どうすればいいの?」より

11/22/2024, 2:42:42 PM